18 / 77
第五章「さすらい編」
遭遇
しおりを挟む
本当にこの子らは何者なんだ?
俺は岩場を軽々と登っていくリアナとラニを見て、少し唖然としていた。
登山と言う事で、ふたりがついてくるのは正直どうかと思っていた。
しかし今や、俺がリアナとラニについていくような感じだ。
「お兄ちゃ~ん!!早く~!!」
「わ~!!凄く綺麗~!!」
ふたりが感嘆の声を上げている。
元気だな、本当。
俺はひいひいいいながら、カルデラの峰に立った。
これは確かに絶景だな、と思った。
峰の下に見える、美しい湖。
静かな水面は神秘的に輝いている。
霊峰と言われるのも納得だ。
これを見たら信仰心とか関係なく、ここに神がいると信じれるだろう。
とはいえ、今は神ではなく竜にいて欲しいのだか。
俺たちは峰を下り、湖に出た。
急に登りから下りに変わると膝がガクガクする。
帰りが恐ろしい。
回復をかけないと厳しいかもしれない。
湖に出て、とりあえず義父さんの持たせてくれた昼飯を食べた。
食べ終わってからは、ふたりは水辺を走り回って遊んでいる。
パワーが半端ないなと思う。
「お~い!服は濡らすなよ~!!」
素足になって水に入り始めたので、声をかけた。
それにしても来たはいいが、これ、どうやって探すんだ??
湖の広さに途方にくれる。
なんとなく来ればなんとかなると思っていたが、考えが甘かった。
もっとしっかり計画を練るべきだった。
しかもリアナとラニがいるので、ここで数日張り込むとかも出来ない。
とりあえず魔力探査をしてみるかと、俺も靴を脱いで足を水につけた。
冷たい水が火照った足に気持ちよかった。
体を折って手を伸ばし、湖面に触れる。
水の中にすうっと魔力が広がっていく。
何だか自分が、音のない水の中にゆっくり潜っていくような気がした。
「竜を探してるの?」
その声にハッとして目を開けた。
ラニが不思議そうにおかしな格好の俺を覗き込んでいる。
リアナもパシャパシャと水音をたてながらこちらに来た。
なんだろう……ちょっと恥ずかしい……。
大の大人が前屈姿勢で水に手を浸けているのだ。
間抜けな構図だ。
……あれ?
でも俺、竜の話をふたりにしただろうか?
変な格好はさておき、竜を探しているのかと聞かれた事に疑問を覚える。
多分、昨日他の子と遊んでいて、ゲッシーの話を聞いたのだろうと結論付ける。
「……竜を探してるの?」
ラニがもう一度、俺に聞いた。
その言葉は、妙に俺をそわそわさせた。
「あ、うん。そうだよ?」
「そんなことしても見つからないわよ。特にここの竜は無理ね、絶対。」
「何、言ってんだ?リアナ……。」
俺のそわそわを助長する様にリアナが言う。
しかし俺の戸惑いとは裏腹に、リアナとラニはまるで普通の事のように不思議な事を言いはじめた。
「お姉ちゃん、呼んであげようよ?」
「いいけど、ここの竜は呼べるかわからないわよ……。」
「ふたりで呼べば、きっと応えてくれるよ。」
「まぁ、やるだけやって見てもいいけど……。」
俺はリアナとラニが何を言っているかわからなかった。
なのに、さも天気の話をするようにふたりは話している。
今、なんて言った?
竜を呼ぶ??
呆然とふたりを見つめた。
「いいわ、サーク。呼んであげる。」
「ちょっと待っててね、お兄ちゃん。」
「やってみるけど呼べるかわからないから、呼べなくても文句言わないでよ?」
何が起きているかわからず立ち尽くす俺の前で、リアナとラニが歌い出した。
それは声というよりは音であり、歌と言うよりは音楽だった。
前にリリとムクが歌ってくれた事を思い出す。
それに良く似ていた。
ただひとつ違うのは、それに魔力が乗っている。
ハッとした。
彼女は歌が上手かった。
いつも不思議な歌を歌ってくれた。
彼女がいうには、魔力を乗せて歌うと竜を呼べるんだと言っていた。
あの歌声が、今でも耳に残っているよ……。
頭に浮かぶロイさんの話……。
待ってくれ……まさか……!!
その時、辺りに汽笛のような深い振動が起きた。
「応えた!お兄ちゃん!来てくれるよ!」
ラニが振り返り、嬉しそうに笑う。
だが俺はそれどころではない。
何かを肌でビリビリ感じた。
脳に激しい警告が響く。
「リアナ!ラニ!俺の後ろに!早く!!」
俺はこの国で育った。
教会で神を祀る義父さんの子として……。
直感が激しく脳を揺さぶる。
俺は二人を連れて水から上がり、庇うように後ろに隠した。
「座って!!座って頭を下げて!!」
不思議そうな顔をする二人に、俺は慌ててそう告げる、
リアナとラニはよくわからないという顔をしながらも、俺の気迫に押され、言う通りにする。
俺も膝をつき頭を垂れた。
ヤバい……。
これはヤバい……。
緊張で汗が大量に吹き出した。
意思とは関係なく、奥歯がガタガタ鳴った。
誰だよ!
ゲッシーなんて名前つけたの!?
馬鹿なのか!?
……これは竜じゃない。
竜は知らないけれど、確実に言える。
精霊でも、魔物なんかでもない。
これは……神様だ……。
本能がそう言っていた。
すうっと音もなく、目の前に巨大なものが現れたのが、顔をあげなくてもわかった。
辺りを静寂が包み、不思議な風が揺らいでいる。
「お騒がせして申し訳御座いません!!ここに竜がいると聞き訪ねて参りましたが!よもや水神様とは思わず!大変失礼致しました!!お詫びのしようが御座いませんが!どうか!私の命に免じ!!この子らはお許し頂けないでしょうか!?お願い致します!!」
俺はただ必死でそう言った。
絶対的な存在の前に、それしか俺にはできなかった。
……風が揺らいだ。
『……誰かと思えば森の王。お主は何をそんなに構えておるのだ?』
言葉、と言うよりも音に近いそれは、俺の耳にはそう言っているように聞こえた。
森の王??
誰かと勘違いしているのか?
そう言えば以前、リリとムクにも森の主がなんとか言われたことがあった。
一体何なんだろうか?
『どうした?森の王、顔を上げぬか?』
そう言われ、俺はゆっくり顔をあげた。
目の前に、純白に輝く巨大な竜神が、ゆらりと姿を表していた。
俺は岩場を軽々と登っていくリアナとラニを見て、少し唖然としていた。
登山と言う事で、ふたりがついてくるのは正直どうかと思っていた。
しかし今や、俺がリアナとラニについていくような感じだ。
「お兄ちゃ~ん!!早く~!!」
「わ~!!凄く綺麗~!!」
ふたりが感嘆の声を上げている。
元気だな、本当。
俺はひいひいいいながら、カルデラの峰に立った。
これは確かに絶景だな、と思った。
峰の下に見える、美しい湖。
静かな水面は神秘的に輝いている。
霊峰と言われるのも納得だ。
これを見たら信仰心とか関係なく、ここに神がいると信じれるだろう。
とはいえ、今は神ではなく竜にいて欲しいのだか。
俺たちは峰を下り、湖に出た。
急に登りから下りに変わると膝がガクガクする。
帰りが恐ろしい。
回復をかけないと厳しいかもしれない。
湖に出て、とりあえず義父さんの持たせてくれた昼飯を食べた。
食べ終わってからは、ふたりは水辺を走り回って遊んでいる。
パワーが半端ないなと思う。
「お~い!服は濡らすなよ~!!」
素足になって水に入り始めたので、声をかけた。
それにしても来たはいいが、これ、どうやって探すんだ??
湖の広さに途方にくれる。
なんとなく来ればなんとかなると思っていたが、考えが甘かった。
もっとしっかり計画を練るべきだった。
しかもリアナとラニがいるので、ここで数日張り込むとかも出来ない。
とりあえず魔力探査をしてみるかと、俺も靴を脱いで足を水につけた。
冷たい水が火照った足に気持ちよかった。
体を折って手を伸ばし、湖面に触れる。
水の中にすうっと魔力が広がっていく。
何だか自分が、音のない水の中にゆっくり潜っていくような気がした。
「竜を探してるの?」
その声にハッとして目を開けた。
ラニが不思議そうにおかしな格好の俺を覗き込んでいる。
リアナもパシャパシャと水音をたてながらこちらに来た。
なんだろう……ちょっと恥ずかしい……。
大の大人が前屈姿勢で水に手を浸けているのだ。
間抜けな構図だ。
……あれ?
でも俺、竜の話をふたりにしただろうか?
変な格好はさておき、竜を探しているのかと聞かれた事に疑問を覚える。
多分、昨日他の子と遊んでいて、ゲッシーの話を聞いたのだろうと結論付ける。
「……竜を探してるの?」
ラニがもう一度、俺に聞いた。
その言葉は、妙に俺をそわそわさせた。
「あ、うん。そうだよ?」
「そんなことしても見つからないわよ。特にここの竜は無理ね、絶対。」
「何、言ってんだ?リアナ……。」
俺のそわそわを助長する様にリアナが言う。
しかし俺の戸惑いとは裏腹に、リアナとラニはまるで普通の事のように不思議な事を言いはじめた。
「お姉ちゃん、呼んであげようよ?」
「いいけど、ここの竜は呼べるかわからないわよ……。」
「ふたりで呼べば、きっと応えてくれるよ。」
「まぁ、やるだけやって見てもいいけど……。」
俺はリアナとラニが何を言っているかわからなかった。
なのに、さも天気の話をするようにふたりは話している。
今、なんて言った?
竜を呼ぶ??
呆然とふたりを見つめた。
「いいわ、サーク。呼んであげる。」
「ちょっと待っててね、お兄ちゃん。」
「やってみるけど呼べるかわからないから、呼べなくても文句言わないでよ?」
何が起きているかわからず立ち尽くす俺の前で、リアナとラニが歌い出した。
それは声というよりは音であり、歌と言うよりは音楽だった。
前にリリとムクが歌ってくれた事を思い出す。
それに良く似ていた。
ただひとつ違うのは、それに魔力が乗っている。
ハッとした。
彼女は歌が上手かった。
いつも不思議な歌を歌ってくれた。
彼女がいうには、魔力を乗せて歌うと竜を呼べるんだと言っていた。
あの歌声が、今でも耳に残っているよ……。
頭に浮かぶロイさんの話……。
待ってくれ……まさか……!!
その時、辺りに汽笛のような深い振動が起きた。
「応えた!お兄ちゃん!来てくれるよ!」
ラニが振り返り、嬉しそうに笑う。
だが俺はそれどころではない。
何かを肌でビリビリ感じた。
脳に激しい警告が響く。
「リアナ!ラニ!俺の後ろに!早く!!」
俺はこの国で育った。
教会で神を祀る義父さんの子として……。
直感が激しく脳を揺さぶる。
俺は二人を連れて水から上がり、庇うように後ろに隠した。
「座って!!座って頭を下げて!!」
不思議そうな顔をする二人に、俺は慌ててそう告げる、
リアナとラニはよくわからないという顔をしながらも、俺の気迫に押され、言う通りにする。
俺も膝をつき頭を垂れた。
ヤバい……。
これはヤバい……。
緊張で汗が大量に吹き出した。
意思とは関係なく、奥歯がガタガタ鳴った。
誰だよ!
ゲッシーなんて名前つけたの!?
馬鹿なのか!?
……これは竜じゃない。
竜は知らないけれど、確実に言える。
精霊でも、魔物なんかでもない。
これは……神様だ……。
本能がそう言っていた。
すうっと音もなく、目の前に巨大なものが現れたのが、顔をあげなくてもわかった。
辺りを静寂が包み、不思議な風が揺らいでいる。
「お騒がせして申し訳御座いません!!ここに竜がいると聞き訪ねて参りましたが!よもや水神様とは思わず!大変失礼致しました!!お詫びのしようが御座いませんが!どうか!私の命に免じ!!この子らはお許し頂けないでしょうか!?お願い致します!!」
俺はただ必死でそう言った。
絶対的な存在の前に、それしか俺にはできなかった。
……風が揺らいだ。
『……誰かと思えば森の王。お主は何をそんなに構えておるのだ?』
言葉、と言うよりも音に近いそれは、俺の耳にはそう言っているように聞こえた。
森の王??
誰かと勘違いしているのか?
そう言えば以前、リリとムクにも森の主がなんとか言われたことがあった。
一体何なんだろうか?
『どうした?森の王、顔を上げぬか?』
そう言われ、俺はゆっくり顔をあげた。
目の前に、純白に輝く巨大な竜神が、ゆらりと姿を表していた。
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる