欠片の軌跡③〜長い夢

ねぎ(塩ダレ)

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第五章「さすらい編」

遭遇

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本当にこの子らは何者なんだ?

俺は岩場を軽々と登っていくリアナとラニを見て、少し唖然としていた。
登山と言う事で、ふたりがついてくるのは正直どうかと思っていた。
しかし今や、俺がリアナとラニについていくような感じだ。

「お兄ちゃ~ん!!早く~!!」

「わ~!!凄く綺麗~!!」

ふたりが感嘆の声を上げている。
元気だな、本当。
俺はひいひいいいながら、カルデラの峰に立った。
これは確かに絶景だな、と思った。

峰の下に見える、美しい湖。

静かな水面は神秘的に輝いている。
霊峰と言われるのも納得だ。

これを見たら信仰心とか関係なく、ここに神がいると信じれるだろう。
とはいえ、今は神ではなく竜にいて欲しいのだか。

俺たちは峰を下り、湖に出た。
急に登りから下りに変わると膝がガクガクする。
帰りが恐ろしい。
回復をかけないと厳しいかもしれない。

湖に出て、とりあえず義父さんの持たせてくれた昼飯を食べた。
食べ終わってからは、ふたりは水辺を走り回って遊んでいる。
パワーが半端ないなと思う。

「お~い!服は濡らすなよ~!!」

素足になって水に入り始めたので、声をかけた。
それにしても来たはいいが、これ、どうやって探すんだ??
湖の広さに途方にくれる。
なんとなく来ればなんとかなると思っていたが、考えが甘かった。
もっとしっかり計画を練るべきだった。
しかもリアナとラニがいるので、ここで数日張り込むとかも出来ない。

とりあえず魔力探査をしてみるかと、俺も靴を脱いで足を水につけた。
冷たい水が火照った足に気持ちよかった。
体を折って手を伸ばし、湖面に触れる。
水の中にすうっと魔力が広がっていく。
何だか自分が、音のない水の中にゆっくり潜っていくような気がした。


「竜を探してるの?」


その声にハッとして目を開けた。
ラニが不思議そうにおかしな格好の俺を覗き込んでいる。
リアナもパシャパシャと水音をたてながらこちらに来た。
なんだろう……ちょっと恥ずかしい……。
大の大人が前屈姿勢で水に手を浸けているのだ。
間抜けな構図だ。

……あれ?
でも俺、竜の話をふたりにしただろうか?

変な格好はさておき、竜を探しているのかと聞かれた事に疑問を覚える。
多分、昨日他の子と遊んでいて、ゲッシーの話を聞いたのだろうと結論付ける。

「……竜を探してるの?」

ラニがもう一度、俺に聞いた。
その言葉は、妙に俺をそわそわさせた。

「あ、うん。そうだよ?」

「そんなことしても見つからないわよ。特にここの竜は無理ね、絶対。」

「何、言ってんだ?リアナ……。」

俺のそわそわを助長する様にリアナが言う。
しかし俺の戸惑いとは裏腹に、リアナとラニはまるで普通の事のように不思議な事を言いはじめた。

「お姉ちゃん、呼んであげようよ?」

「いいけど、ここの竜は呼べるかわからないわよ……。」

「ふたりで呼べば、きっと応えてくれるよ。」

「まぁ、やるだけやって見てもいいけど……。」

俺はリアナとラニが何を言っているかわからなかった。
なのに、さも天気の話をするようにふたりは話している。

今、なんて言った?
竜を呼ぶ??

呆然とふたりを見つめた。


「いいわ、サーク。呼んであげる。」

「ちょっと待っててね、お兄ちゃん。」

「やってみるけど呼べるかわからないから、呼べなくても文句言わないでよ?」


何が起きているかわからず立ち尽くす俺の前で、リアナとラニが歌い出した。
それは声というよりは音であり、歌と言うよりは音楽だった。

前にリリとムクが歌ってくれた事を思い出す。
それに良く似ていた。

ただひとつ違うのは、それに魔力が乗っている。

ハッとした。

彼女は歌が上手かった。
いつも不思議な歌を歌ってくれた。
彼女がいうには、魔力を乗せて歌うと竜を呼べるんだと言っていた。
あの歌声が、今でも耳に残っているよ……。

頭に浮かぶロイさんの話……。


待ってくれ……まさか……!!


その時、辺りに汽笛のような深い振動が起きた。



「応えた!お兄ちゃん!来てくれるよ!」



ラニが振り返り、嬉しそうに笑う。

だが俺はそれどころではない。

何かを肌でビリビリ感じた。
脳に激しい警告が響く。


「リアナ!ラニ!俺の後ろに!早く!!」


俺はこの国で育った。
教会で神を祀る義父さんの子として……。

直感が激しく脳を揺さぶる。
俺は二人を連れて水から上がり、庇うように後ろに隠した。


「座って!!座って頭を下げて!!」


不思議そうな顔をする二人に、俺は慌ててそう告げる、
リアナとラニはよくわからないという顔をしながらも、俺の気迫に押され、言う通りにする。
俺も膝をつき頭を垂れた。


ヤバい……。

これはヤバい……。


緊張で汗が大量に吹き出した。
意思とは関係なく、奥歯がガタガタ鳴った。


誰だよ!
ゲッシーなんて名前つけたの!?

馬鹿なのか!?


……これは竜じゃない。
竜は知らないけれど、確実に言える。

精霊でも、魔物なんかでもない。



これは……神様だ……。



本能がそう言っていた。

すうっと音もなく、目の前に巨大なものが現れたのが、顔をあげなくてもわかった。

辺りを静寂が包み、不思議な風が揺らいでいる。


「お騒がせして申し訳御座いません!!ここに竜がいると聞き訪ねて参りましたが!よもや水神様とは思わず!大変失礼致しました!!お詫びのしようが御座いませんが!どうか!私の命に免じ!!この子らはお許し頂けないでしょうか!?お願い致します!!」


俺はただ必死でそう言った。
絶対的な存在の前に、それしか俺にはできなかった。

……風が揺らいだ。



『……誰かと思えば森の王。お主は何をそんなに構えておるのだ?』



言葉、と言うよりも音に近いそれは、俺の耳にはそう言っているように聞こえた。

森の王??

誰かと勘違いしているのか?
そう言えば以前、リリとムクにも森の主がなんとか言われたことがあった。

一体何なんだろうか?


『どうした?森の王、顔を上げぬか?』


そう言われ、俺はゆっくり顔をあげた。

目の前に、純白に輝く巨大な竜神が、ゆらりと姿を表していた。
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