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本編
一方その頃……
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「……おおっと……。」
ライルは思わず苦笑いした。
ギルの執事だと言う老紳士にサークの鞄を渡して教室に戻ると、廊下にはレジェンド姫達の騎士が困った様にたむろしている。
耳か早いなぁと思いつつドアを開けると、異様な覇気が充満していた。
全校生徒の憧れ、レジェンド姫達が勢揃いしている。
クラスメイトはそのただらなぬ雰囲気に押され遠巻きにおとなしく固まり、全員が帰ってきたライルをいっせいに振り返った。
その迷子になって雨に打たれた子犬の様な顔に吹き出しそうになる。
「ライル!!どういう事か説明して!!」
だが、可哀想な彼らに声をかける前に、速攻でシルクが詰め寄ってきた。
それをなだめながらとりあえず座らせた。
「……どこまで説明した?」
「一応……俺達が知っている部分は全部……。」
「う~ん。だとしたら俺から話す事も殆どないなぁ。」
「ないなじゃねぇよ。知ってる事を洗いざらい話しやがれ、ライル。」
「うわっ!ヤンキー姫がヤンキー座りしてる!!」
それが面白くて思わずスマホを取り出すと、ふざけんなとブチ切れられた。
その怒号にクラスメイト達が怯えている。
「まあまあ、落ち着けって。」
「落ち着いていられるか!!」
「いや、落ち着いた方がいい。ガスパー。今は状況把握が先だ。」
そんなガスパーを止めたのはセレブ組の姫、リオだ。
だがその様子はいつものふわふわした雰囲気ではない。
冷静かつ鋭く場を収める姿は何か逆らえないものがあった。
「……サークは?サークはどこに?」
そこにいつもとは逆に冷静さをなくし、泣きそうな顔で弱々しい声を上げたのはウィルだった。
そんな彼にシルクが寄り添い、慰めるように抱きしめている。
「サークはギルと一緒にいる。」
「……は?!ストーカーと?!」
「まぁギルが変態ストーカーな事は認めるけど、アイツのアレはサークを想うからこそだ。ちょっと世間一般とはズレてて常識はずれな変態チックさはあれども、純粋にサークを守りたいだけだ。傷付けたいとは思っていない。」
「なんでそんな事言い切れるんだよ!」
「……守りたい訳じゃないのに始発で最寄り駅まで行って、遠くから見守るか?」
「いやそれ、十分変態なんだけど……。」
「ナイフ持ってる相手に素手で迷わず向かっていけるか?」
「……それは…………。」
そこに来て皆、言葉を無くした。
「サークはひとまず安全と見て、まずはどういう事かはっきりさせよう。」
その膠着した状態を動かしたのも、件のセレブ姫だった。
こんな状況でもスイッチが入ったリオは冷静さを失わなかった。
「私達が聞いたのは、放課後、サークがトイレに行った後、誰にも知られずふらりと姿を消したという事だ。間違いないね?」
「……そこは面目なかった。こちらの落ち度だ。」
「そうだな。この時期、姫を一人にするとかありえねぇ。」
「騎士に寄るなと命じてピンで動き回ってるガスパーが言えるセリフじゃない気がするけど。」
「うっせ。俺と違ってサークは危険人物が狙ってる事がわかってただろうが。」
茶々を入れたシルクを睨み、ガスパーが椅子に反対向きに座った。
背もたれに肘をつき、鋭い目つきで場を睨んでいる。
「……あえて騎士見習いにして近くで見張ってたのは悪くない対応だったかもしれない。ただ手の内を見せていたという側面もあったと私は思う。」
「甘かった部分は認める。俺は姫騎士とはいえサークの騎士だ。姫を危険に晒した罰は騎士規定に従って受けるつもりだ。」
「……ライルって、見かけによらず男前だよね~。」
「見かけによらずは酷くないか?!」
シルクのツッコミに思わず笑いが漏れ、少しだけ場が和んだ。
「ともかく、それがエドが呼び出しての事なのか偶然だったのか今の所わからないけれど、あまり使われていない北棟2校舎1階空き教室にサークはエドといたんだね?」
「……ああ。」
「そしてその時、エドはナイフを手にサークを脅していた。そういう認識で良いんだよね?」
「俺の方もそういう認識でいる。事が事だからすぐに学校側に連絡するしかなかったから、あまりこっちも話す時間はなかったし、アイツは俺達には黙秘してたから詳しい事はわからないけれど。」
「黙秘か……。どういう話になってるかわからないな……。」
そこで少しの沈黙が落ちた。
エドは口が上手い。
それでずっと掻い潜って来たのだ。
被害にあったサークはこちらで保護して学校側には引き渡さなかった。
いくら気丈なサークでも、襲われた直後に根掘り葉掘り何度も繰り返し聞かれたら参ってしまうのは目に見えていた。
ライルの読み通り、ギルはサークを保健室に連れて行かずどこかに保護している。
しかし今日はショックが酷かったから帰らせたと伝え学校側も渋々了承してくれたが、明日には登校すれば事情を聞かれるだろう。
仕方のない事とはいえ、それはサークの精神ダメージが大きい。
だがそれをしなければ、エドのいいように捻じ曲げられた話が進んでしまう。
「……問題ない。」
皆が押し黙る中、リオは冷静にそう言った。
その言葉に皆が顔を上げた。
「エドには好きに話させよう。」
「え?!」
「彼の都合のいいように好きなだけ話せばいい。」
「……どういう事だよ?おい?!」
「簡単な事さ。サークが話していないうちに、エドは意気揚々と自分に都合のいい話をするだろう。まるでそれが真実かのようにね。」
リオはにっこり笑った。
しかしその笑顔はとてもじゃないが笑っている印象には見えなかった。
日頃はぽわんとした印象のリオが見せた風格。
それに殆どの皆が、ゾッとして言葉が出なかった。
「……ひっくり返せるんだな?リオ?」
しかしそんなリオに一人、ついていく強者がいた。
ガスパーだ。
王者の風格を漂わすリオの顔を、平然と真正面から見返している。
その顔はまさに「弁護士」さながらだった。
「……え?どういう事??」
シルクがきょとんとして尋ねる。
この言葉を発するのも躊躇う状況で、なんの気なしにいつもと変わらぬ対応をする。
さすがはムードメーカー。
そうやって普段通りの雰囲気を引き戻す。
「……嘘は真実には勝てないって事だよ、シルク。」
そこに少しだけ冷静さを取り戻したウィルが説明を始めた。
「エドが自分の都合のいい事を周りに納得させればさせるほど、それが真実でないと証明された時、エドは失うものが大きいんだ。」
「……あ、なるほど!だから好きにさせとけって事ね!!」
「だが問題はそれが証明できるかだ。違うか?リオ?そこまで言うからには、決定的な証拠を出せるんだよな?!」
ガスパーの鋭い視線にリオはにっこりと笑う。
「私が誰か忘れないで欲しいな?ガスパー?学校って意外と死角が多いからね。管理する方も大変なんだよ。」
「……なるほどな。」
「試験的にだけど、今、常に人の居ないような場所にはそれなりに対策を進めてるんだよ。問題があってから始めたんじゃ叩かれるからね。教室内はともかく、廊下の方は言い逃れはできない筈だよ。」
覇者の余裕を漂わせ、リオは優雅に微笑む。
そこにひょこっとライルが自分のスマホを差し出した。
「だったらこの動画も役に立つかな??」
皆が覗き込む画面。
そこには騒音を聞いて問題の教室に向かうギルとライルの状況記録が映し出されていた。
ギルはすぐ様教室に飛び込んだが、ライルは廊下に落ちていたもう一本のナイフを映像に残しつつ、ハンカチで包んでビニールに入れた。
それをそこに残したまま、急いで教室に向かう。
そしてナイフを手にしたまま、ギルとサークに向かい合うエドの姿がはっきりと映されていた。
その後はポケットにしまわれたのか、映像は残っていなかったが音声は残されていた。
「……冷静だったな、ライル。」
「まぁね。エドの噂は聞いてたから、それなりにな。」
「リオとお前の動画が揃っていれば、証拠としては十分だな。」
「いや、念には念を入れたい。ガスパー、君の力を貸して欲しい。」
しかしセレブ姫のご意向はそれだけでは満足しなかったようだ。
穏やかな笑みとは対象的に、とことんとっちめる気でいるようだ。
その場にいる全員が、その美しき巨人に微かな恐怖心を抱く。
そしてここでもガスパーだけがいつもの調子でため息まじりにそれに対応した。
「……何だよ?」
「証拠は揃っていても、後から証言するサークの立場は弱い事には変わりない。そうなると学校内の問題として有耶無耶になる事が予測できる。」
ガスパーはチラリとリオを見た。
そしてその顔をしっかりと確認してから口を開いた。
「……いいのか?お前はそれで?」
「構わない。むしろいい機会だと私は考えるよ。この学校はそういう事を内輪の問題として有耶無耶に処理はしないって事をハッキリさせる。それは学園の信頼性としていずれ必ず生きる。」
「……だが、アイツはそれを望まないぞ?」
「わかってる。でもその体で臨む。最終的にどうするかはサークに任せるけどね。その姿勢をこの学校、ひいては学園全体に対して示す事に意味があるんだ。」
普段はぽわぽわしていても、その心と身体にはこの学園を統べる血が流れている。
彼についてきた騎士と支援者たちが遠巻きに声ならぬ悲鳴を上げて卒倒する。
中には祈りを捧げているような奴もいて、サークのクラスメイト達はそんな光景に若干引いていた。
「……つまり?どういう事??」
「この件に関して、サークに弁護士をつけるって事だよ、シルク。」
「弁護士?!」
「そう。だからサークは直接、学校側と話さなくて済むと思うよ。」
「そうなの?!」
「まずは弁護士経由で内容証明を出す形になるから。学校側はサークと直接話す事を求めてくるとは思うし、サークの性格からして応じるとは思うけどね。」
「ふ~ん。でも一発先制パンチをカマしてやってからだから、向こうも警戒しながら無遠慮に傷をえぐる様な事はしてきにくいって事だよね?」
「当然その場には弁護士同伴になるだろうから、さらに聞きにくくなると思うよ。」
「そっか~!だとしたら学校側はやり難いねぇ~。……って??あれ??……リオ、それで大丈夫なの??」
一周回って話がはじめに戻り、それに気づいた周りは思わず吹き出した。
リオもくすくす笑いだしてしまい、いつもの柔らかい雰囲気に戻っていた。
「ありがとう、シルク。心配してくれて。でも、いいんだ。むしろこの学校は学校内での行き過ぎた問題に対してきちんと対応するって内外に示す事に繋がるし……何より……私達のサークに手を出した罪はどれほど重いか……教えてあげないと……。」
明るく笑っていた筈のリオがダークサイドに落ちる。
それにギョッとし、シルクはウィルに抱きついた。
ウィルはふふっと笑うと、なだめる様に背中を撫でてあげた。
そこにいつの間にか席を離れ、電話をかけていたガスパーが戻ってくる。
「……とりあえず、ちょうど良さそうな奴を出してくれるとよ。」
「こっちも報告。ギルが自分の傷を見てもらう様に見せかけて、サークを医者に診断させた。傷なんかの写真付きの診断書がすぐに出せるってさ。」
「ならすぐ出させろ。場所はとこだ?!それを受け取りついでにウチの弁護士を向かわせる。」
「了解。そっちの弁護士の連絡先教えて。ギルに連絡させる。」
「それがいいな。サークが話せる状況なら軽く話して、さっさと手続き始めた方がいい。」
あれよあれよと話が進んでいくのを、クラスメイト達は唖然と見つめている。
サークを見失って、そしてサークが襲われたと知った時はどうしようかと思ったが、自分たちがアワアワしている必要は1ミリもない事がわかった。
「…………何か、出る幕ないな、俺ら。」
「だな……。」
ホッとした気持ちはあれども何だか虚しい。
クラスメイトとして彼の身近にいるのは自分達なのに、仕方のない事だけれども、こういういざという時に何もできないというのはやはり寂しい。
「……そうでもないさ。」
そんな彼らの輪の中に入り、ライルはぽんぽんと肩を叩いた。
困惑気味なクラスメイト達。
それにライルはにっこり笑った。
「俺達には俺達にしかできない事があるんだよ。」
「何だよ?俺達にしかできない事って??」
「変わらないって事さ。」
「変わらない??」
ライルの言葉にクラスメイト達は顔を見合わせる。
自分達にしかできない事とは何なのだろう?
そう思った。
「……サークはこれからもここに、この教室に、俺達のクラスに登校してくるんだ。」
「だな??」
「サークが気持ちよく、これからもいつも通りに過ごす為にはどうするべきだと思うんだ?お前ら?」
「……あっ。」
そう言われ、気づいた。
そして各々顔を見合わせ、強く頷く。
「俺らはこの教室で、一番サークと長く過ごしてきた。これからも卒業式まで、他の奴らよりずっと長く一緒に過ごすんだ。」
「……ああ、そうだな。」
「だから、いつも通りに出迎える。」
「でもっていつも通りに接する。」
「いつも通りに過ごす。」
「何も変わらない。」
「俺らとサークは何も変わらない。」
「……ある意味、俺達が一番重要な位置にいると思わないか??」
「だな。」
「そういう事だな。」
「バレンタイン合戦もあるしな!!」
「あはは!そうそう!ああ見えてうちのクラスの「姫」だからな、サークは!!」
そう言って思わず笑い合う。
自分たちの色を取り戻した彼らを見て、ライルは安心したように微笑んだのだった。
ライルは思わず苦笑いした。
ギルの執事だと言う老紳士にサークの鞄を渡して教室に戻ると、廊下にはレジェンド姫達の騎士が困った様にたむろしている。
耳か早いなぁと思いつつドアを開けると、異様な覇気が充満していた。
全校生徒の憧れ、レジェンド姫達が勢揃いしている。
クラスメイトはそのただらなぬ雰囲気に押され遠巻きにおとなしく固まり、全員が帰ってきたライルをいっせいに振り返った。
その迷子になって雨に打たれた子犬の様な顔に吹き出しそうになる。
「ライル!!どういう事か説明して!!」
だが、可哀想な彼らに声をかける前に、速攻でシルクが詰め寄ってきた。
それをなだめながらとりあえず座らせた。
「……どこまで説明した?」
「一応……俺達が知っている部分は全部……。」
「う~ん。だとしたら俺から話す事も殆どないなぁ。」
「ないなじゃねぇよ。知ってる事を洗いざらい話しやがれ、ライル。」
「うわっ!ヤンキー姫がヤンキー座りしてる!!」
それが面白くて思わずスマホを取り出すと、ふざけんなとブチ切れられた。
その怒号にクラスメイト達が怯えている。
「まあまあ、落ち着けって。」
「落ち着いていられるか!!」
「いや、落ち着いた方がいい。ガスパー。今は状況把握が先だ。」
そんなガスパーを止めたのはセレブ組の姫、リオだ。
だがその様子はいつものふわふわした雰囲気ではない。
冷静かつ鋭く場を収める姿は何か逆らえないものがあった。
「……サークは?サークはどこに?」
そこにいつもとは逆に冷静さをなくし、泣きそうな顔で弱々しい声を上げたのはウィルだった。
そんな彼にシルクが寄り添い、慰めるように抱きしめている。
「サークはギルと一緒にいる。」
「……は?!ストーカーと?!」
「まぁギルが変態ストーカーな事は認めるけど、アイツのアレはサークを想うからこそだ。ちょっと世間一般とはズレてて常識はずれな変態チックさはあれども、純粋にサークを守りたいだけだ。傷付けたいとは思っていない。」
「なんでそんな事言い切れるんだよ!」
「……守りたい訳じゃないのに始発で最寄り駅まで行って、遠くから見守るか?」
「いやそれ、十分変態なんだけど……。」
「ナイフ持ってる相手に素手で迷わず向かっていけるか?」
「……それは…………。」
そこに来て皆、言葉を無くした。
「サークはひとまず安全と見て、まずはどういう事かはっきりさせよう。」
その膠着した状態を動かしたのも、件のセレブ姫だった。
こんな状況でもスイッチが入ったリオは冷静さを失わなかった。
「私達が聞いたのは、放課後、サークがトイレに行った後、誰にも知られずふらりと姿を消したという事だ。間違いないね?」
「……そこは面目なかった。こちらの落ち度だ。」
「そうだな。この時期、姫を一人にするとかありえねぇ。」
「騎士に寄るなと命じてピンで動き回ってるガスパーが言えるセリフじゃない気がするけど。」
「うっせ。俺と違ってサークは危険人物が狙ってる事がわかってただろうが。」
茶々を入れたシルクを睨み、ガスパーが椅子に反対向きに座った。
背もたれに肘をつき、鋭い目つきで場を睨んでいる。
「……あえて騎士見習いにして近くで見張ってたのは悪くない対応だったかもしれない。ただ手の内を見せていたという側面もあったと私は思う。」
「甘かった部分は認める。俺は姫騎士とはいえサークの騎士だ。姫を危険に晒した罰は騎士規定に従って受けるつもりだ。」
「……ライルって、見かけによらず男前だよね~。」
「見かけによらずは酷くないか?!」
シルクのツッコミに思わず笑いが漏れ、少しだけ場が和んだ。
「ともかく、それがエドが呼び出しての事なのか偶然だったのか今の所わからないけれど、あまり使われていない北棟2校舎1階空き教室にサークはエドといたんだね?」
「……ああ。」
「そしてその時、エドはナイフを手にサークを脅していた。そういう認識で良いんだよね?」
「俺の方もそういう認識でいる。事が事だからすぐに学校側に連絡するしかなかったから、あまりこっちも話す時間はなかったし、アイツは俺達には黙秘してたから詳しい事はわからないけれど。」
「黙秘か……。どういう話になってるかわからないな……。」
そこで少しの沈黙が落ちた。
エドは口が上手い。
それでずっと掻い潜って来たのだ。
被害にあったサークはこちらで保護して学校側には引き渡さなかった。
いくら気丈なサークでも、襲われた直後に根掘り葉掘り何度も繰り返し聞かれたら参ってしまうのは目に見えていた。
ライルの読み通り、ギルはサークを保健室に連れて行かずどこかに保護している。
しかし今日はショックが酷かったから帰らせたと伝え学校側も渋々了承してくれたが、明日には登校すれば事情を聞かれるだろう。
仕方のない事とはいえ、それはサークの精神ダメージが大きい。
だがそれをしなければ、エドのいいように捻じ曲げられた話が進んでしまう。
「……問題ない。」
皆が押し黙る中、リオは冷静にそう言った。
その言葉に皆が顔を上げた。
「エドには好きに話させよう。」
「え?!」
「彼の都合のいいように好きなだけ話せばいい。」
「……どういう事だよ?おい?!」
「簡単な事さ。サークが話していないうちに、エドは意気揚々と自分に都合のいい話をするだろう。まるでそれが真実かのようにね。」
リオはにっこり笑った。
しかしその笑顔はとてもじゃないが笑っている印象には見えなかった。
日頃はぽわんとした印象のリオが見せた風格。
それに殆どの皆が、ゾッとして言葉が出なかった。
「……ひっくり返せるんだな?リオ?」
しかしそんなリオに一人、ついていく強者がいた。
ガスパーだ。
王者の風格を漂わすリオの顔を、平然と真正面から見返している。
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「……え?どういう事??」
シルクがきょとんとして尋ねる。
この言葉を発するのも躊躇う状況で、なんの気なしにいつもと変わらぬ対応をする。
さすがはムードメーカー。
そうやって普段通りの雰囲気を引き戻す。
「……嘘は真実には勝てないって事だよ、シルク。」
そこに少しだけ冷静さを取り戻したウィルが説明を始めた。
「エドが自分の都合のいい事を周りに納得させればさせるほど、それが真実でないと証明された時、エドは失うものが大きいんだ。」
「……あ、なるほど!だから好きにさせとけって事ね!!」
「だが問題はそれが証明できるかだ。違うか?リオ?そこまで言うからには、決定的な証拠を出せるんだよな?!」
ガスパーの鋭い視線にリオはにっこりと笑う。
「私が誰か忘れないで欲しいな?ガスパー?学校って意外と死角が多いからね。管理する方も大変なんだよ。」
「……なるほどな。」
「試験的にだけど、今、常に人の居ないような場所にはそれなりに対策を進めてるんだよ。問題があってから始めたんじゃ叩かれるからね。教室内はともかく、廊下の方は言い逃れはできない筈だよ。」
覇者の余裕を漂わせ、リオは優雅に微笑む。
そこにひょこっとライルが自分のスマホを差し出した。
「だったらこの動画も役に立つかな??」
皆が覗き込む画面。
そこには騒音を聞いて問題の教室に向かうギルとライルの状況記録が映し出されていた。
ギルはすぐ様教室に飛び込んだが、ライルは廊下に落ちていたもう一本のナイフを映像に残しつつ、ハンカチで包んでビニールに入れた。
それをそこに残したまま、急いで教室に向かう。
そしてナイフを手にしたまま、ギルとサークに向かい合うエドの姿がはっきりと映されていた。
その後はポケットにしまわれたのか、映像は残っていなかったが音声は残されていた。
「……冷静だったな、ライル。」
「まぁね。エドの噂は聞いてたから、それなりにな。」
「リオとお前の動画が揃っていれば、証拠としては十分だな。」
「いや、念には念を入れたい。ガスパー、君の力を貸して欲しい。」
しかしセレブ姫のご意向はそれだけでは満足しなかったようだ。
穏やかな笑みとは対象的に、とことんとっちめる気でいるようだ。
その場にいる全員が、その美しき巨人に微かな恐怖心を抱く。
そしてここでもガスパーだけがいつもの調子でため息まじりにそれに対応した。
「……何だよ?」
「証拠は揃っていても、後から証言するサークの立場は弱い事には変わりない。そうなると学校内の問題として有耶無耶になる事が予測できる。」
ガスパーはチラリとリオを見た。
そしてその顔をしっかりと確認してから口を開いた。
「……いいのか?お前はそれで?」
「構わない。むしろいい機会だと私は考えるよ。この学校はそういう事を内輪の問題として有耶無耶に処理はしないって事をハッキリさせる。それは学園の信頼性としていずれ必ず生きる。」
「……だが、アイツはそれを望まないぞ?」
「わかってる。でもその体で臨む。最終的にどうするかはサークに任せるけどね。その姿勢をこの学校、ひいては学園全体に対して示す事に意味があるんだ。」
普段はぽわぽわしていても、その心と身体にはこの学園を統べる血が流れている。
彼についてきた騎士と支援者たちが遠巻きに声ならぬ悲鳴を上げて卒倒する。
中には祈りを捧げているような奴もいて、サークのクラスメイト達はそんな光景に若干引いていた。
「……つまり?どういう事??」
「この件に関して、サークに弁護士をつけるって事だよ、シルク。」
「弁護士?!」
「そう。だからサークは直接、学校側と話さなくて済むと思うよ。」
「そうなの?!」
「まずは弁護士経由で内容証明を出す形になるから。学校側はサークと直接話す事を求めてくるとは思うし、サークの性格からして応じるとは思うけどね。」
「ふ~ん。でも一発先制パンチをカマしてやってからだから、向こうも警戒しながら無遠慮に傷をえぐる様な事はしてきにくいって事だよね?」
「当然その場には弁護士同伴になるだろうから、さらに聞きにくくなると思うよ。」
「そっか~!だとしたら学校側はやり難いねぇ~。……って??あれ??……リオ、それで大丈夫なの??」
一周回って話がはじめに戻り、それに気づいた周りは思わず吹き出した。
リオもくすくす笑いだしてしまい、いつもの柔らかい雰囲気に戻っていた。
「ありがとう、シルク。心配してくれて。でも、いいんだ。むしろこの学校は学校内での行き過ぎた問題に対してきちんと対応するって内外に示す事に繋がるし……何より……私達のサークに手を出した罪はどれほど重いか……教えてあげないと……。」
明るく笑っていた筈のリオがダークサイドに落ちる。
それにギョッとし、シルクはウィルに抱きついた。
ウィルはふふっと笑うと、なだめる様に背中を撫でてあげた。
そこにいつの間にか席を離れ、電話をかけていたガスパーが戻ってくる。
「……とりあえず、ちょうど良さそうな奴を出してくれるとよ。」
「こっちも報告。ギルが自分の傷を見てもらう様に見せかけて、サークを医者に診断させた。傷なんかの写真付きの診断書がすぐに出せるってさ。」
「ならすぐ出させろ。場所はとこだ?!それを受け取りついでにウチの弁護士を向かわせる。」
「了解。そっちの弁護士の連絡先教えて。ギルに連絡させる。」
「それがいいな。サークが話せる状況なら軽く話して、さっさと手続き始めた方がいい。」
あれよあれよと話が進んでいくのを、クラスメイト達は唖然と見つめている。
サークを見失って、そしてサークが襲われたと知った時はどうしようかと思ったが、自分たちがアワアワしている必要は1ミリもない事がわかった。
「…………何か、出る幕ないな、俺ら。」
「だな……。」
ホッとした気持ちはあれども何だか虚しい。
クラスメイトとして彼の身近にいるのは自分達なのに、仕方のない事だけれども、こういういざという時に何もできないというのはやはり寂しい。
「……そうでもないさ。」
そんな彼らの輪の中に入り、ライルはぽんぽんと肩を叩いた。
困惑気味なクラスメイト達。
それにライルはにっこり笑った。
「俺達には俺達にしかできない事があるんだよ。」
「何だよ?俺達にしかできない事って??」
「変わらないって事さ。」
「変わらない??」
ライルの言葉にクラスメイト達は顔を見合わせる。
自分達にしかできない事とは何なのだろう?
そう思った。
「……サークはこれからもここに、この教室に、俺達のクラスに登校してくるんだ。」
「だな??」
「サークが気持ちよく、これからもいつも通りに過ごす為にはどうするべきだと思うんだ?お前ら?」
「……あっ。」
そう言われ、気づいた。
そして各々顔を見合わせ、強く頷く。
「俺らはこの教室で、一番サークと長く過ごしてきた。これからも卒業式まで、他の奴らよりずっと長く一緒に過ごすんだ。」
「……ああ、そうだな。」
「だから、いつも通りに出迎える。」
「でもっていつも通りに接する。」
「いつも通りに過ごす。」
「何も変わらない。」
「俺らとサークは何も変わらない。」
「……ある意味、俺達が一番重要な位置にいると思わないか??」
「だな。」
「そういう事だな。」
「バレンタイン合戦もあるしな!!」
「あはは!そうそう!ああ見えてうちのクラスの「姫」だからな、サークは!!」
そう言って思わず笑い合う。
自分たちの色を取り戻した彼らを見て、ライルは安心したように微笑んだのだった。
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※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
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