6 / 17
秋桜
しおりを挟む
嵐の夜の出来事は頭から離れなかった。新学期初めての今日あの夜のことを一真に話してみようと決心していた。一真に話すかどうか僕はずいぶん悩んだ。あの夜の事は出来れば、なかったことにしたかった。少年の苦悩に満ちた顔は僕によく似ていたし、サスペンス映画に出てくるような黒ずくめの男達、どう猛な顔つきの犬たちが僕の生活圏にいたと思いたくなかった。ただ、あれは夢だったんだと自分をだますことはできなかった。
屋上では秋桜がそよ風に揺れていた。9月になっても日差しはまだ強く時には汗ばむこともあったが、屋上は心地よい秋の気配がしていた。
僕は美由紀の事も気になっていたし、あかりは一真と話したがっていた。けれど、僕は半ば強引に一真と2人で話があると彼を小川の近くまで引っぱってきた。2人は少し小高くなった芝生の上に座った。
「新学期早々、どうしたんだ。」
一真は心配そうに僕をのぞき込んだ。
「どうしても聞いてもらいたいことがあるんだ。」
一真は、時折うなずきながら、僕の話を真剣に聞いてくれた。
「うん、大変だったな。他に何か気になることあるか。なんでも。些細な事でもいいんだ。」
「おかしな話だろう。ほんとに聞いてくれてありがとう。気になることと云えば、実はもう一つあったな。」
僕はさくらと3階に行った時の事を話した。あのロビーは心地よかったから、その後一真たちも誘って行こうと思っていた。ところが次に登校してすぐ全校生徒が集められ、寮生以外は3階に立ち寄らないように申し渡されたのだ。理由は病院も3階にあってトラブルが起こった場合両親が責任を取らなければならないからと僕らは言い渡された。
だから、その後3階に行くことはなかった。
病気になった時もたいていはオンライン診療で治療もロボットが派遣されてやってくれるから、病院に行く必要はほとんどなかった。病院に行くのは派遣のロボットだけではできない重大な病気の場合だけだった。僕は一度骨折したことがあったが、ロボットにギプスをつけてもらって治療した。完治までオンライン診療を3回受けただけだった。
病院に行くのは医療技術を使っても若さと美貌を保ちたい人々か命にかかわるような重い病気にかかった人ぐらいだった。
おそらく、僕が病院に行くのは一生に1度、たぶん死ぬときくらいに違いない。だから、必要もないのに3階に行ってはいけないというのもうなづけた。
ただ、あの時のクロークの3人あわてた様子や支配人の鋭い目つきが気になっていた。
「それまで寮生に会いに来た生徒がいなかったのかな。確かに不思議な空間の様な気がするな。」
「ああ、言葉は丁寧だったが、支配人の目つきは気になったな。それに、クロークの男のメンテナンス中だってどういう意味だろう。」
「ちょっと考えてみるよ。僕もずっと気になっていることがあるんだ。」
屋上では秋桜がそよ風に揺れていた。9月になっても日差しはまだ強く時には汗ばむこともあったが、屋上は心地よい秋の気配がしていた。
僕は美由紀の事も気になっていたし、あかりは一真と話したがっていた。けれど、僕は半ば強引に一真と2人で話があると彼を小川の近くまで引っぱってきた。2人は少し小高くなった芝生の上に座った。
「新学期早々、どうしたんだ。」
一真は心配そうに僕をのぞき込んだ。
「どうしても聞いてもらいたいことがあるんだ。」
一真は、時折うなずきながら、僕の話を真剣に聞いてくれた。
「うん、大変だったな。他に何か気になることあるか。なんでも。些細な事でもいいんだ。」
「おかしな話だろう。ほんとに聞いてくれてありがとう。気になることと云えば、実はもう一つあったな。」
僕はさくらと3階に行った時の事を話した。あのロビーは心地よかったから、その後一真たちも誘って行こうと思っていた。ところが次に登校してすぐ全校生徒が集められ、寮生以外は3階に立ち寄らないように申し渡されたのだ。理由は病院も3階にあってトラブルが起こった場合両親が責任を取らなければならないからと僕らは言い渡された。
だから、その後3階に行くことはなかった。
病気になった時もたいていはオンライン診療で治療もロボットが派遣されてやってくれるから、病院に行く必要はほとんどなかった。病院に行くのは派遣のロボットだけではできない重大な病気の場合だけだった。僕は一度骨折したことがあったが、ロボットにギプスをつけてもらって治療した。完治までオンライン診療を3回受けただけだった。
病院に行くのは医療技術を使っても若さと美貌を保ちたい人々か命にかかわるような重い病気にかかった人ぐらいだった。
おそらく、僕が病院に行くのは一生に1度、たぶん死ぬときくらいに違いない。だから、必要もないのに3階に行ってはいけないというのもうなづけた。
ただ、あの時のクロークの3人あわてた様子や支配人の鋭い目つきが気になっていた。
「それまで寮生に会いに来た生徒がいなかったのかな。確かに不思議な空間の様な気がするな。」
「ああ、言葉は丁寧だったが、支配人の目つきは気になったな。それに、クロークの男のメンテナンス中だってどういう意味だろう。」
「ちょっと考えてみるよ。僕もずっと気になっていることがあるんだ。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる