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祖母の恋愛
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病床の祖母の下に突然1人の男性が現れた。その人は長男だった父の兄だった。
祖母はわずかに体を起こしてその人の顔を見ながら、「私の事を恨んでいるでしょう」と言いって、謝るように頭を動かした。
その人は祖母の手をとって首を横に振った。それから両手で祖母の手を包むようにして握り締める。2人は涙を流している。父と私は祖母の病室でその光景をただ黙って見つめていた。
それからしばらくして祖母は息を引き取った。その人は葬儀に現れ、自然と身内として受け入れられていた。長男だと思っていた父にとっては兄、私にとっては新しい叔父ができた。
葬儀の終わった後、新しい叔父は私に話しかけてきた。叔父はそのころ、赴任してきた教授に私がどんな学生なのか聞いたという。教授は叔父の妻の妹だった。私は出来の悪い学生と言われなかったかと不安な顔になったに違いない。安心させるように「知っている。小さな人よ」と言われたと微笑みを浮かべた。実母を探し出すのにずいぶん苦労したらしいが、祖母を尋ねるのも随分と勇気が必要だったのだろう。姪っ子の私の評判を聞いてどうやら大丈夫だと勇気を奮い起こして祖母に会いに来たのかもしれない。一人っ子として育てられた叔父は父や伯母、大勢の甥姪の集まった葬儀で穏やかな表情をしていた。
叔父が幼い頃養子に出されたのは祖母の事情によるものだと私は想像している。
私は祖母佳子が情熱的な女性であったのだろうと想像して少しうらやましかった。
明治天皇が崩御された翌年、ようやく東の空が白み始めた頃、佳子と直人はわずかな手荷物をもって始発電車に乗ろうと駅に急いでいた。
東京に行けば幼なじみの栄一が待っているはずだ。2人は彼を頼って駆け落ちしたのだった。
直人は医師になるため医学部に通っていると親を欺いていた。実は幼い頃から好きだった絵の道をあきらめきれず田舎の親を欺いた芸術大学に通っていた。それが親にバレたのだ。 直人の下宿に突然父が従僕のごんぞうとともに現れた。直人が家に連れ戻されてから1ヶ月が経っていた。佳子と直人は許嫁だったが、それも破談になった。
2人が、頼った栄一は世話をする人がいて海軍軍楽隊に所属していた。栄一もまだ若く2人に十分な支援は出来なかったが、2人の為に小さな部屋を借りていた。
直人は家計の為に友人から世話され仕事をこなしながら絵の制作に励んだ。もともと丈夫なたちではなかったから無理が祟ったのだろう。やがて直人は病に倒れた。佳子は長唄や三味線,箏と芸事を習わされていたから、芸子として働き始めた。直人はそれが嫌でたまらなかった。やがて、佳子には子供ができてお座敷に出られなくなった。2人は困窮し、画材を買うのもままならなくなる。頼りにしていた栄一は3月から皇太子のヨーロッパご訪問に随行していた。秋風の吹き始めた頃っだった。ある晩、雨に打たれて帰った直人は熱を出して寝込んでしまう。
9月になって栄一は帰国していた。
栄一の帰国を待っていたように直人の病状は急に悪化した。
今、直人は臨終の床にいる。直人は栄一の手を握ってもうかすみ始めた目で懸命に栄一の顔を見ながら「俺が死んだら、佳子を頼む」と言う。栄一も直人の手を握り返して「わかった。何も心配するな。ゆっくり休んでくれ。」直人は安心した様に微笑んで目を閉じた。ひどくあっけない最期だった。
栄一は何も言わず、佳子を嫁として迎えてくれた。栄一の家族は佳子を嫁にすることに反対した。生まれてきた男の子は養子に出すしかなかった。その時、佳子のお腹には直人の子供がいた。栄一はそのことも当然のように受け入れて生まれてきた女の子を自分の子として育てている。栄一は佳子の為に海軍を退役し宝塚音楽歌劇学校に就職した。栄一は佳子に夫に先立たれる境遇を2度と味わせたくなかった。その後も栄一は佳子にとって栄一はヒーローだった。
祖母はわずかに体を起こしてその人の顔を見ながら、「私の事を恨んでいるでしょう」と言いって、謝るように頭を動かした。
その人は祖母の手をとって首を横に振った。それから両手で祖母の手を包むようにして握り締める。2人は涙を流している。父と私は祖母の病室でその光景をただ黙って見つめていた。
それからしばらくして祖母は息を引き取った。その人は葬儀に現れ、自然と身内として受け入れられていた。長男だと思っていた父にとっては兄、私にとっては新しい叔父ができた。
葬儀の終わった後、新しい叔父は私に話しかけてきた。叔父はそのころ、赴任してきた教授に私がどんな学生なのか聞いたという。教授は叔父の妻の妹だった。私は出来の悪い学生と言われなかったかと不安な顔になったに違いない。安心させるように「知っている。小さな人よ」と言われたと微笑みを浮かべた。実母を探し出すのにずいぶん苦労したらしいが、祖母を尋ねるのも随分と勇気が必要だったのだろう。姪っ子の私の評判を聞いてどうやら大丈夫だと勇気を奮い起こして祖母に会いに来たのかもしれない。一人っ子として育てられた叔父は父や伯母、大勢の甥姪の集まった葬儀で穏やかな表情をしていた。
叔父が幼い頃養子に出されたのは祖母の事情によるものだと私は想像している。
私は祖母佳子が情熱的な女性であったのだろうと想像して少しうらやましかった。
明治天皇が崩御された翌年、ようやく東の空が白み始めた頃、佳子と直人はわずかな手荷物をもって始発電車に乗ろうと駅に急いでいた。
東京に行けば幼なじみの栄一が待っているはずだ。2人は彼を頼って駆け落ちしたのだった。
直人は医師になるため医学部に通っていると親を欺いていた。実は幼い頃から好きだった絵の道をあきらめきれず田舎の親を欺いた芸術大学に通っていた。それが親にバレたのだ。 直人の下宿に突然父が従僕のごんぞうとともに現れた。直人が家に連れ戻されてから1ヶ月が経っていた。佳子と直人は許嫁だったが、それも破談になった。
2人が、頼った栄一は世話をする人がいて海軍軍楽隊に所属していた。栄一もまだ若く2人に十分な支援は出来なかったが、2人の為に小さな部屋を借りていた。
直人は家計の為に友人から世話され仕事をこなしながら絵の制作に励んだ。もともと丈夫なたちではなかったから無理が祟ったのだろう。やがて直人は病に倒れた。佳子は長唄や三味線,箏と芸事を習わされていたから、芸子として働き始めた。直人はそれが嫌でたまらなかった。やがて、佳子には子供ができてお座敷に出られなくなった。2人は困窮し、画材を買うのもままならなくなる。頼りにしていた栄一は3月から皇太子のヨーロッパご訪問に随行していた。秋風の吹き始めた頃っだった。ある晩、雨に打たれて帰った直人は熱を出して寝込んでしまう。
9月になって栄一は帰国していた。
栄一の帰国を待っていたように直人の病状は急に悪化した。
今、直人は臨終の床にいる。直人は栄一の手を握ってもうかすみ始めた目で懸命に栄一の顔を見ながら「俺が死んだら、佳子を頼む」と言う。栄一も直人の手を握り返して「わかった。何も心配するな。ゆっくり休んでくれ。」直人は安心した様に微笑んで目を閉じた。ひどくあっけない最期だった。
栄一は何も言わず、佳子を嫁として迎えてくれた。栄一の家族は佳子を嫁にすることに反対した。生まれてきた男の子は養子に出すしかなかった。その時、佳子のお腹には直人の子供がいた。栄一はそのことも当然のように受け入れて生まれてきた女の子を自分の子として育てている。栄一は佳子の為に海軍を退役し宝塚音楽歌劇学校に就職した。栄一は佳子に夫に先立たれる境遇を2度と味わせたくなかった。その後も栄一は佳子にとって栄一はヒーローだった。
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