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再会
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第一章 再会
もうすぐクリスマスだというのに、茜の心は晴れなかった。
三年付き合った彼氏との関係は冷え切っている。
仕事を理由に約束を何度もすっぽかされ、名ばかりの恋人。
先週、一度だけ別れ話を切り出したが「会って話そう」と返され、情がわずかに残っていた茜は了承した。
けれど、来週のデートで別れるつもりは固まっていた。
――ほんとに、これでいいのかしら。
スマホを握る指先が、じんわり汗ばむ。
金曜の朝。出勤の支度をする気になれず、茜は仮病の連絡を入れて再び布団に潜り込んだ。
目覚めると昼を過ぎている。
気まぐれに身支度をして、夕方から上映されるホラー映画をひとりで観に行くことにした。
その映画は本来、彼と見るはずだったもの。
約束をすっぽかされ続け、今日が最後の上映だった。
映画館へ向かう途中、ふいに背後から声が飛んだ。
「茜お姉ちゃん、こんなところで何してるの?」
驚いて振り向くと、背の高い青年がスーツ姿で立っていた。
人懐っこい笑顔に見覚えがあるような、でも思い出せない。
「僕だよ。中学のとき家庭教師してもらってた圭」
その名を聞いた瞬間、記憶が一気によみがえる。
当時大学四年生だった茜が、小遣い稼ぎで週に数回教えていた少年。
小柄で可愛い印象しかなかった圭が、今はすっかり大人の輪郭を持っている。
「圭くん! すっかり大人になったわね。ごめん、気づかなくて、仕事帰り?」
「まだ学生だよ。インターンの帰り」
圭はポケットから赤い首輪を取り出し、照れたように見せた。
「この前、保健所から犬を引き取ったんだ。買った首輪がちょっと大きくて返品に来たんだけど、レシート忘れちゃって」
冗談めかして「もう一匹大きめの犬を飼おうかな」と笑う。
二人は自然に歩き出し、昔話に花を咲かせた。
受験のころ、圭は一度成績を落としたがすぐに立て直し、志望校に合格した――そんな記憶も懐かしい。
ふと圭が足を止め、こちらを覗き込む。
「ねえ、あの約束、覚えてる?」
胸が一瞬きゅっとなる。
――あの秋の日。
圭が「合格したら付き合って」と笑った顔。
茜は「お酒が飲めるようになったらね」と軽く受け流した。
本気ではないと思った。だがその日から圭は目に見えて頑張り、最後の模試までA判定を取り続けた。
けれど卒業前、茜は就職研修で忙しくなり、ろくに別れの挨拶もできぬまま家庭教師を終えてしまった。
「そんな約束したかしら」
わざと笑ってみせると、圭は少しだけ寂しそうに目を細めた。
「忘れちゃったんだ」
その声は静かで、どこか胸に響く。
「このあとヒマ? こないだ二十歳になったから、茜お姉ちゃんにお酒教えてほしくて」
普段なら年下の誘いなど軽く断る。
けれど、冷え切った恋人関係に女としての自信をなくしていた茜は、心の奥で小さな温もりを感じた。
八歳も年下の男が、自分を憶えていてくれた――その事実が、不思議とうれしかった。
「……うん。少しなら付き合おうかな」
二人はそのまま街へ出て、一軒、二軒と店をはしごした。
気づけば、茜のマンションの前に立っていた。
「うち、近いから。少し休んでいく?」
その言葉を口にした自分に、茜自身が一番驚いていた。
けれど圭は何も言わず、柔らかく笑った。
気づいたときには、茜の部屋のドアが静かに閉まっていた。
もうすぐクリスマスだというのに、茜の心は晴れなかった。
三年付き合った彼氏との関係は冷え切っている。
仕事を理由に約束を何度もすっぽかされ、名ばかりの恋人。
先週、一度だけ別れ話を切り出したが「会って話そう」と返され、情がわずかに残っていた茜は了承した。
けれど、来週のデートで別れるつもりは固まっていた。
――ほんとに、これでいいのかしら。
スマホを握る指先が、じんわり汗ばむ。
金曜の朝。出勤の支度をする気になれず、茜は仮病の連絡を入れて再び布団に潜り込んだ。
目覚めると昼を過ぎている。
気まぐれに身支度をして、夕方から上映されるホラー映画をひとりで観に行くことにした。
その映画は本来、彼と見るはずだったもの。
約束をすっぽかされ続け、今日が最後の上映だった。
映画館へ向かう途中、ふいに背後から声が飛んだ。
「茜お姉ちゃん、こんなところで何してるの?」
驚いて振り向くと、背の高い青年がスーツ姿で立っていた。
人懐っこい笑顔に見覚えがあるような、でも思い出せない。
「僕だよ。中学のとき家庭教師してもらってた圭」
その名を聞いた瞬間、記憶が一気によみがえる。
当時大学四年生だった茜が、小遣い稼ぎで週に数回教えていた少年。
小柄で可愛い印象しかなかった圭が、今はすっかり大人の輪郭を持っている。
「圭くん! すっかり大人になったわね。ごめん、気づかなくて、仕事帰り?」
「まだ学生だよ。インターンの帰り」
圭はポケットから赤い首輪を取り出し、照れたように見せた。
「この前、保健所から犬を引き取ったんだ。買った首輪がちょっと大きくて返品に来たんだけど、レシート忘れちゃって」
冗談めかして「もう一匹大きめの犬を飼おうかな」と笑う。
二人は自然に歩き出し、昔話に花を咲かせた。
受験のころ、圭は一度成績を落としたがすぐに立て直し、志望校に合格した――そんな記憶も懐かしい。
ふと圭が足を止め、こちらを覗き込む。
「ねえ、あの約束、覚えてる?」
胸が一瞬きゅっとなる。
――あの秋の日。
圭が「合格したら付き合って」と笑った顔。
茜は「お酒が飲めるようになったらね」と軽く受け流した。
本気ではないと思った。だがその日から圭は目に見えて頑張り、最後の模試までA判定を取り続けた。
けれど卒業前、茜は就職研修で忙しくなり、ろくに別れの挨拶もできぬまま家庭教師を終えてしまった。
「そんな約束したかしら」
わざと笑ってみせると、圭は少しだけ寂しそうに目を細めた。
「忘れちゃったんだ」
その声は静かで、どこか胸に響く。
「このあとヒマ? こないだ二十歳になったから、茜お姉ちゃんにお酒教えてほしくて」
普段なら年下の誘いなど軽く断る。
けれど、冷え切った恋人関係に女としての自信をなくしていた茜は、心の奥で小さな温もりを感じた。
八歳も年下の男が、自分を憶えていてくれた――その事実が、不思議とうれしかった。
「……うん。少しなら付き合おうかな」
二人はそのまま街へ出て、一軒、二軒と店をはしごした。
気づけば、茜のマンションの前に立っていた。
「うち、近いから。少し休んでいく?」
その言葉を口にした自分に、茜自身が一番驚いていた。
けれど圭は何も言わず、柔らかく笑った。
気づいたときには、茜の部屋のドアが静かに閉まっていた。
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