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彼の話
知らない声
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次に俺が気付いたのは、彼女の居ない世界だった。
「いない、いない、いない、いない、いない・・・彼女が・・・彼女が・・居ない。」
そんなはずは無い。彼女と俺の魂は繋がっている。何度生まれ変わろうとも、同じ世界に産まれるはずなんだ。彼女が同じ世界に居ないなんてありえない。
焦る俺の耳に、多分男の声であろうと思われる、俺を嘲笑う様な呑気な声が聞こえてくる。
「まあまあ落ち着きなよ。叫んでも状況は改善しないよ。」
「お前は誰だ!彼女は何処だ!!」
そんなもの、初対面の人に言ったところで、何が何だか分からないだろう事は分かっている。それでも言わずにはいられなかった。
「ん?あぁ、彼女なら大丈夫だよ。君が心配しなくて済む様に今世は穏やかに過ごせる様に、手配しておいたから。・・・・ほら。」
その言葉と共に、俺を中心にして大地が広がる。
先程まで何も無かった筈の場所が嘘の様に、青々として柔らかな草が生茂る野原が広がった。
そして、そこに彼女がいた。楽しそうに顔を綻ばせ、優しそうな人達と子供達に囲まれて、彼女が笑っていた。
彼女だ。どんな姿でも分かる。彼女は俺の探していた彼女だ。
けれど変だ。彼女が彼女であると頭では理解しているのに足りないと感じる。
「お前、彼女に何をした。」
自分でも信じられないほど、低く、獣の様な声が溢れてくる。
「君、動揺し過ぎだよ、よく見てごらん。コレは単なる映像。彼女が実際に存在するのは、ここでは無い場所だよ。私はただ彼女が穏やかに暮らしている所を見せて、君に安心してもらおうと思っただけだよ。」
「・・・・安心?何の為に?」
わざわざそんな事をする意味が分からない。それなら俺が転生して、この目で確かめれば良いだけの話のはずだ。
「君に、君が産まれた世界に戻ってもらう為だよ。」
産まれた世界?
彼女と出会った世界。俺が俺と認識した、一番古い記憶のある世界の事だろう。何故あんな場所に戻らなければいけない?
あんな忌々しい世界に・・・彼女もいないのに。
「嫌だ。」
「言うと思ったよ。だけど君は神としての力を、魔物なんてモノを生み出す装置に変えてしまった。おかげであの世界は今、滅亡の危機なんだよ。」
「俺には関係ない。」
興味も無い。
「関係ない事も無いんだけどね。このままだと君、彼女が先に死んで、それを追いかけるばかりの人生を何度も味わう事になるけど良いのかな?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。君がこのまま魔物を生み出す装置を放置し続けるなら、これからも彼女と出会えば、直ぐに彼女は殺され、悲しみに暮れた君は自分で命を断ち、彼女を追う事になる。」
「何故だ。」
「君の魂の半分が、最初の世界の人々の思いで出来ているからだよ。最初の世界の人々の悲しみが、君の幸せを遮っている。自分達は苦しいのに、君だけが幸せになるのが許せないとね。」
「俺から彼女を奪っておいてか?自業自得だろう。」
「そうだね。だけどそれは、あの世界の極一部の人達だったよね?他の大勢を巻き込む必要は無かった筈だよ。」
「それは・・・・」
確かに、彼女の死に直接関わった者は極一部だっただろう。けれど、あの時の俺には、それを見極める余裕などなかった。いや、見極める気などなかった。俺にとってあの世界は興味が無いものだった。ただ、どうすればいいかと聞かれたから生きる目的として・・いや、違うな。俺は怒っていたのだろう。だから魔物を生み出す事で自分の怒りを解き放った。そして満足した俺は、その時になって本当にあの世界への興味を完全に無くし、彼女を追った。
離れていく彼女を捕まえなければ、永遠に失ってしまうという恐怖心で一杯になりながら。
「とは言っても私は君の気持ちも分かるし、あの世界での君は、あの世界の人々の思いで作られた神だったのだから、君の行動は責められる事では無いと思っている。君があのような行動をとったのも、彼等が君をそういう者だと作ったからだからね。だけど、このまま一つの世界が滅びるのも忍びない。だから私から提案しよう。君があの世界の魔物を生み出す装置を破壊するなら、来世は彼女と共に幸せに暮らせる未来をあげよう。」
「彼女との・・・・幸せな未来。」
「そうだよ。例えば、親同士が将来『歳の近い異性の子供が出来たら、婚約させよう』と話し合っており、偶々ほぼ同時期に産まれた二人は、産まれてすぐに婚約。なんてシナリオはどうかな?ついでに、地位と財産もほどほどにあり、余計な柵の無い人生なんてどうだろうね?」
「好条件過ぎないか?」
「そうかな?世界一つ救うのと、二人分の人生を整えるのだったら、後者の方が楽なのだから、これくらいの見返りは当然だと思うよ。」
そう言われれば、確かにそうかもしれないとは思う。けれど、この声の主を全面的に信頼して良いのだろうか。
話がうますぎる。だからといって、この話を受けないという選択肢は俺には無かった。
このまま何度も何度も彼女が去って行く姿を見るのは耐えられない。
少しでも、ほんの少しでも、彼女と共に過ごせる可能性があるのなら、やらない手は無い。
「まあ、分かった。やる。」
「それじゃあ、行ってらっしゃい。」
その言葉と同時に、俺は最初の世界に落とされた。
俺が産まれた世界。
彼女と出会った世界。
彼女を喪った世界へと・・・
「いない、いない、いない、いない、いない・・・彼女が・・・彼女が・・居ない。」
そんなはずは無い。彼女と俺の魂は繋がっている。何度生まれ変わろうとも、同じ世界に産まれるはずなんだ。彼女が同じ世界に居ないなんてありえない。
焦る俺の耳に、多分男の声であろうと思われる、俺を嘲笑う様な呑気な声が聞こえてくる。
「まあまあ落ち着きなよ。叫んでも状況は改善しないよ。」
「お前は誰だ!彼女は何処だ!!」
そんなもの、初対面の人に言ったところで、何が何だか分からないだろう事は分かっている。それでも言わずにはいられなかった。
「ん?あぁ、彼女なら大丈夫だよ。君が心配しなくて済む様に今世は穏やかに過ごせる様に、手配しておいたから。・・・・ほら。」
その言葉と共に、俺を中心にして大地が広がる。
先程まで何も無かった筈の場所が嘘の様に、青々として柔らかな草が生茂る野原が広がった。
そして、そこに彼女がいた。楽しそうに顔を綻ばせ、優しそうな人達と子供達に囲まれて、彼女が笑っていた。
彼女だ。どんな姿でも分かる。彼女は俺の探していた彼女だ。
けれど変だ。彼女が彼女であると頭では理解しているのに足りないと感じる。
「お前、彼女に何をした。」
自分でも信じられないほど、低く、獣の様な声が溢れてくる。
「君、動揺し過ぎだよ、よく見てごらん。コレは単なる映像。彼女が実際に存在するのは、ここでは無い場所だよ。私はただ彼女が穏やかに暮らしている所を見せて、君に安心してもらおうと思っただけだよ。」
「・・・・安心?何の為に?」
わざわざそんな事をする意味が分からない。それなら俺が転生して、この目で確かめれば良いだけの話のはずだ。
「君に、君が産まれた世界に戻ってもらう為だよ。」
産まれた世界?
彼女と出会った世界。俺が俺と認識した、一番古い記憶のある世界の事だろう。何故あんな場所に戻らなければいけない?
あんな忌々しい世界に・・・彼女もいないのに。
「嫌だ。」
「言うと思ったよ。だけど君は神としての力を、魔物なんてモノを生み出す装置に変えてしまった。おかげであの世界は今、滅亡の危機なんだよ。」
「俺には関係ない。」
興味も無い。
「関係ない事も無いんだけどね。このままだと君、彼女が先に死んで、それを追いかけるばかりの人生を何度も味わう事になるけど良いのかな?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。君がこのまま魔物を生み出す装置を放置し続けるなら、これからも彼女と出会えば、直ぐに彼女は殺され、悲しみに暮れた君は自分で命を断ち、彼女を追う事になる。」
「何故だ。」
「君の魂の半分が、最初の世界の人々の思いで出来ているからだよ。最初の世界の人々の悲しみが、君の幸せを遮っている。自分達は苦しいのに、君だけが幸せになるのが許せないとね。」
「俺から彼女を奪っておいてか?自業自得だろう。」
「そうだね。だけどそれは、あの世界の極一部の人達だったよね?他の大勢を巻き込む必要は無かった筈だよ。」
「それは・・・・」
確かに、彼女の死に直接関わった者は極一部だっただろう。けれど、あの時の俺には、それを見極める余裕などなかった。いや、見極める気などなかった。俺にとってあの世界は興味が無いものだった。ただ、どうすればいいかと聞かれたから生きる目的として・・いや、違うな。俺は怒っていたのだろう。だから魔物を生み出す事で自分の怒りを解き放った。そして満足した俺は、その時になって本当にあの世界への興味を完全に無くし、彼女を追った。
離れていく彼女を捕まえなければ、永遠に失ってしまうという恐怖心で一杯になりながら。
「とは言っても私は君の気持ちも分かるし、あの世界での君は、あの世界の人々の思いで作られた神だったのだから、君の行動は責められる事では無いと思っている。君があのような行動をとったのも、彼等が君をそういう者だと作ったからだからね。だけど、このまま一つの世界が滅びるのも忍びない。だから私から提案しよう。君があの世界の魔物を生み出す装置を破壊するなら、来世は彼女と共に幸せに暮らせる未来をあげよう。」
「彼女との・・・・幸せな未来。」
「そうだよ。例えば、親同士が将来『歳の近い異性の子供が出来たら、婚約させよう』と話し合っており、偶々ほぼ同時期に産まれた二人は、産まれてすぐに婚約。なんてシナリオはどうかな?ついでに、地位と財産もほどほどにあり、余計な柵の無い人生なんてどうだろうね?」
「好条件過ぎないか?」
「そうかな?世界一つ救うのと、二人分の人生を整えるのだったら、後者の方が楽なのだから、これくらいの見返りは当然だと思うよ。」
そう言われれば、確かにそうかもしれないとは思う。けれど、この声の主を全面的に信頼して良いのだろうか。
話がうますぎる。だからといって、この話を受けないという選択肢は俺には無かった。
このまま何度も何度も彼女が去って行く姿を見るのは耐えられない。
少しでも、ほんの少しでも、彼女と共に過ごせる可能性があるのなら、やらない手は無い。
「まあ、分かった。やる。」
「それじゃあ、行ってらっしゃい。」
その言葉と同時に、俺は最初の世界に落とされた。
俺が産まれた世界。
彼女と出会った世界。
彼女を喪った世界へと・・・
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