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第一章
第31話・公国の…
エリアナとラザールは、舞踏会の会場とは違う宮にある部屋の前に案内された。
「こちらです」
従者がドアをノックする。
内側からドアが開けられ、エリアナははっとする。
「トレバー」
トレバーと呼ばれた初老の男は一礼したまま、エリアナとラザールに入室を促す。
部屋の中には、一人の長身で端正な顔立ちの青年が立っていた。
背丈はラザールより少しだけ低いようだが、姿勢はまっすぐに伸び、ひと目で育ちの良さを感じさせた。
その表情には、柔らかな微笑みが宿り、誰もが自然と心を許してしまいそうな、人当たりの良さを漂わせている。
銀糸を織り交ぜたオフホワイトの正装が彼の銀髪とよく合っている。髪は短か目に整えられ、わずかにくせのある毛先が、自然な動きを生んでいる。
エリアナと目が合うとその真っ青なサファイアブルーの瞳がやさしく細められる。
「久しぶりだね、エリアナ」
その声は柔らかく澄んでいた。
低すぎず、高すぎず、ちょうど心地よい中音域で、自然と耳に届くような声色であった。
「キリル殿下…お久しぶりです」
エリアナがカーテシーをする。
ラザールはエリアナがマールブランシュ公国流のカーテシーをしたことで、殿下と呼ばれた目の前にいる青年がマールブランシュ公国の第三公子のキリルだと確信し、敬意を表す礼をする。
「ラザール・ヴァタイル伯爵閣下、お話するのは初めてですね。キリル・デ・マールブランシュです」
「キリル殿下、お目にかかれて光栄に存じます」
「頭を上げてください。さぁ、こちらにどうぞ。エリアナも」
席を促され、まず、エリアナ、そしてその横にラザールが続いて着席する。
二人の目の前にキリルが座ると、トレバーと呼ばれた男がお茶を出す。
立ち振る舞いからキリル殿下の執事であることが分かる。
「どうぞ。マールブランシュ産の茶葉です」
キリルに続き、エリアナとラザールもお茶を口にする。
エリアナのほっと綻ぶ顔を見て、キリルが言う。
「そのお茶、好きだったよね」
「はい…トレバーが入れるお茶はやはり美味しいですね」
「――では、早速本題に入ろうか。ワイバーンの呪いの解呪方法を探しているということで合っているかな?」
「はい」
「呪いを受けているのは誰?」
「…ラザール様と私です」
「え!?君たち二人なの?」
「…はい」
「――うーん、これは想定外だな…」
「キリル殿下?」
キリルは顎に手をあて考えている。
「あの…」
キリルはまだ何かを考えているようだったが、やがて、右手を上げる。
その手にトレバーが長方形の木箱をのせる。
キリルはその木箱を目の前のローテーブルに置き、結んであった紐を解く。
蓋を開けるとその中には一つの巻物が入っていた。
「ディスペル・スクロールだよ」
エリアナとラザールが驚いて顔を上げ、キリルを見る。
ディスペル・スクロールとは、魔法や呪いを解除する魔道具の一つとされているが、言い伝えの部類で実在していないとされていた。
「まさか…実在していたとは…」
「すごいわ…」
二人はじっと箱の中を見ている。
「これを提供する」
「「!!」」
エリアナとラザールは大いに混乱した。
ディスペル・スクロールが実在していて、公族であるキリルが持っているとすれば、それは間違いなく公国の秘宝として管理されているのものであろう。
それを隣国に持ち込み、差し出してくるとは、一体どういう意図があるのか測りかねているのだ。
返す正しい言葉を見つけられずにいる二人にキリルは言う。
「大丈夫だよ。これは大公の意向だ」
「大公閣下の…」
マールブランシュ公国は、かつて北の帝国の傘下であったが今や独立国家だ。
先代の大公が逝去し、長子のセスが大公となってから閉鎖的だった外交を広げ、国益に繋がる国交を盛んに行っている。
公国を下にみる国もある中、優れた交渉力で双方にとって発展につながる提案をし実現に繋げるため、今や、セスへの謁見を申し込む国が後を絶たない。
「エリアナが困っているならすぐ渡せと言われている」
「でも問題がある」
「問題ですか?」
「ああ、これは一人分だ」
「こちらです」
従者がドアをノックする。
内側からドアが開けられ、エリアナははっとする。
「トレバー」
トレバーと呼ばれた初老の男は一礼したまま、エリアナとラザールに入室を促す。
部屋の中には、一人の長身で端正な顔立ちの青年が立っていた。
背丈はラザールより少しだけ低いようだが、姿勢はまっすぐに伸び、ひと目で育ちの良さを感じさせた。
その表情には、柔らかな微笑みが宿り、誰もが自然と心を許してしまいそうな、人当たりの良さを漂わせている。
銀糸を織り交ぜたオフホワイトの正装が彼の銀髪とよく合っている。髪は短か目に整えられ、わずかにくせのある毛先が、自然な動きを生んでいる。
エリアナと目が合うとその真っ青なサファイアブルーの瞳がやさしく細められる。
「久しぶりだね、エリアナ」
その声は柔らかく澄んでいた。
低すぎず、高すぎず、ちょうど心地よい中音域で、自然と耳に届くような声色であった。
「キリル殿下…お久しぶりです」
エリアナがカーテシーをする。
ラザールはエリアナがマールブランシュ公国流のカーテシーをしたことで、殿下と呼ばれた目の前にいる青年がマールブランシュ公国の第三公子のキリルだと確信し、敬意を表す礼をする。
「ラザール・ヴァタイル伯爵閣下、お話するのは初めてですね。キリル・デ・マールブランシュです」
「キリル殿下、お目にかかれて光栄に存じます」
「頭を上げてください。さぁ、こちらにどうぞ。エリアナも」
席を促され、まず、エリアナ、そしてその横にラザールが続いて着席する。
二人の目の前にキリルが座ると、トレバーと呼ばれた男がお茶を出す。
立ち振る舞いからキリル殿下の執事であることが分かる。
「どうぞ。マールブランシュ産の茶葉です」
キリルに続き、エリアナとラザールもお茶を口にする。
エリアナのほっと綻ぶ顔を見て、キリルが言う。
「そのお茶、好きだったよね」
「はい…トレバーが入れるお茶はやはり美味しいですね」
「――では、早速本題に入ろうか。ワイバーンの呪いの解呪方法を探しているということで合っているかな?」
「はい」
「呪いを受けているのは誰?」
「…ラザール様と私です」
「え!?君たち二人なの?」
「…はい」
「――うーん、これは想定外だな…」
「キリル殿下?」
キリルは顎に手をあて考えている。
「あの…」
キリルはまだ何かを考えているようだったが、やがて、右手を上げる。
その手にトレバーが長方形の木箱をのせる。
キリルはその木箱を目の前のローテーブルに置き、結んであった紐を解く。
蓋を開けるとその中には一つの巻物が入っていた。
「ディスペル・スクロールだよ」
エリアナとラザールが驚いて顔を上げ、キリルを見る。
ディスペル・スクロールとは、魔法や呪いを解除する魔道具の一つとされているが、言い伝えの部類で実在していないとされていた。
「まさか…実在していたとは…」
「すごいわ…」
二人はじっと箱の中を見ている。
「これを提供する」
「「!!」」
エリアナとラザールは大いに混乱した。
ディスペル・スクロールが実在していて、公族であるキリルが持っているとすれば、それは間違いなく公国の秘宝として管理されているのものであろう。
それを隣国に持ち込み、差し出してくるとは、一体どういう意図があるのか測りかねているのだ。
返す正しい言葉を見つけられずにいる二人にキリルは言う。
「大丈夫だよ。これは大公の意向だ」
「大公閣下の…」
マールブランシュ公国は、かつて北の帝国の傘下であったが今や独立国家だ。
先代の大公が逝去し、長子のセスが大公となってから閉鎖的だった外交を広げ、国益に繋がる国交を盛んに行っている。
公国を下にみる国もある中、優れた交渉力で双方にとって発展につながる提案をし実現に繋げるため、今や、セスへの謁見を申し込む国が後を絶たない。
「エリアナが困っているならすぐ渡せと言われている」
「でも問題がある」
「問題ですか?」
「ああ、これは一人分だ」
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