黒炎の騎士団長と社交界知らずの辺境伯令嬢 〜魔物扱いされたのに、団長が甘やかしてきます〜

空色ちどり

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第一章

第32話・ディスペル・スクロール

「一人分…」

エリアナがディスペル・スクロールを一瞥したあと、キリルに問う。
「恐縮ですが、ディスペル・スクロールは一回使用すると消滅という認識で合っておりますか?」

「合ってる。強力な効果があるが、使い切りだ」
「「………」」

一人分しかない、という事実以前にエリアナとラザールはマールブランシュ公国が所有する間違いなく貴重なアイテムをもらい受けても良いものか思案している。

二人の様子を見たキリルは苦笑いをする。
「とにかく、一人分しかないけど、これは貰ってもらえるかな?じゃないと僕が兄上に叱られる」

エリアナはしばらく考え、答えた。
「――ありがとうございます。それでは有難く頂戴いたします」
「うん、よかった」

エリアナは立ち上がってキリルから箱を受け取り、お辞儀をすると、くるっとラザールに向かい、にっこりする。

「では、ラザール様、早速使わせていただきましょう。肩の力を抜いてください」

ラザールは「まてまてまて」とため息をつきながら立ち上がる。

「そんな気はしたが、それをオレに使うつもりなら断固拒否する」
冷ややかな目で見下ろされ、エリアナはウッとなりながらもめげない。

「もともとはラザール様が受けていた呪いですから、ラザール様に使います」

「絶対に嫌だ。使うならおまえに使え」
「嫌です。ラザール様に使わせてください」

「おまえはもともとオレの呪いに巻き込まれただけだ。そしてその状況を作ってしまったことをオレは悔いている」
ラザールは苦痛な表情を浮かべる。

「その上、オレに使うだと?よしてくれ」
「そんな…」

エリアナはラザールをじっと見つめる。
「恨みますよ…。使ってくれないなら私、ラザール様を恨みます」
どこかで聞いたセリフだが、もうラザールは動じない。

「こっちこそ恨むぞ」
「ラザールさま…」

うるうると潤んだ目で見つめられて、ラザールはぐっとくるが、それとこれとは別である。

「いいか、エリアナ。オレはな、おまえのその痛々しい痣を早く消したいんだ。どうかおまえに使ってくれ。頼む」

このやり取りをずっと聞いていたキリルはトレバーに小声で聞く。
「これいつまで続くのかな」
「殿下が間に入るしかないかと」
「うーん」

キリルはエリアナを見て何か思案していた。

「言ってみてもいいかな…」とポツリをつぶやく。

キリルは席を立ち、こほんと咳払いをする。
「お二人とも、少しよろしいでしょうか」

どちらも譲らないまま言い合いをしていたエリアナとラザールがピタリと止まり、キリルを見る。

キリルは苦笑いをし、続ける。
「そのディスペル・スクロールはオリジナルですが、実は複製版が存在しています」

エリアナの少しの変化も見落とさないといったように、キリルがじっとエリアナを見ている。

「エリアナ、単刀直入に言う。そして、その複製版は君にしか効かないはずだ」

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