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ep4
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撮影所の薄暗い通路。雑多な機材の音と、スタッフたちの掛け声が交錯していた。
エキストラとして呼ばれた風太は、案内のADに声をかけられる。
「エキストラの方?」
「はい。僕です。」
「マネージャーの方は?」
風太は一瞬ためらい、かすかに笑って答えた。
「すみません。今日は一人なんです。」
ADは驚いたように眉を上げるが、すぐに淡々とした口調に戻った。
「そうなんですね。こちらどうぞ。」
その時、別のADが大声を張り上げる。
「主演の西条元太さん、入られます!」
スポットライトが差し込むように、空気がざわついた。スーツ姿のマネージャーに付き添われ、元太が堂々と入ってくる。かつて同じエキストラ仲間だったはずの男。その姿に、周囲が一斉に視線を注ぐ。
「見ろよ。アイツ、主演だって。」
隣にいた先輩俳優が小声で吐き捨てるように言った。
「そうですね。」と風太は穏やかに返す。
「お前、悔しくないのかよ。マネージャー、一緒だろ?小林さん、お前の現場には一切ついてきてないじゃないか。」
「まあ……いつものことなんで。」
風太の声は淡々としていた。慣れてしまった痛みは、表情には出ない。
「アイツもこの間まで俺らと一緒にエキストラしてたのにな。」
「そうですよね。風太なんて一時期セット売りされてたのに、こんなに差ができてさ。」
「先輩……」
さすがに言い過ぎだと後輩が口を挟む。
「あ……ご、ごめん。」
先輩は気まずそうに目を逸らした。
「全然大丈夫ですよ。事実なんで。」
風太は静かに笑ってみせる。その笑顔が余計に痛々しかった。
そんな中、もう一人の俳優が口を開いた。
「そういえば……アイツの噂、聞きました?」
「アイツ?」
「元太ですよ。」
「元太がどうしたんだ?」
俳優は声を潜めた。
「あいつが売れた本当の理由です。」
「……本当の理由?」
「この間までエキストラだったのに、急に連ドラの主演なんておかしいと思いませんでしたか?」
「確かに……」
「――あのパーティーですよ。」
その一言に、周囲の空気が重くなる。
「……あのパーティー?」風太は首をかしげた。
「風太、知らないのか?」先輩俳優が目を丸くする。
「はい。」
「うちの事務所の女社長いるだろ?」
「西園寺レミさんですよね。」
「そう。そのレミさんが主催するパーティーがあるんだ。お気に入りの所属タレントだけを招いて……好き放題してるって噂だ。そのパーティーに行った奴は必ず売れるって言われてる。」
言葉を濁しながらも、先輩の目は本気だった。
「俺も一度だけ行ったことがある。でも……二度と行かないって心に誓ったね。」
「なぜです?売れるかもしれないのに?」風太が思わず問い返す。
先輩は顔をしかめ、低く呟いた。
「……まあ、お前も行ってみたらわかるよ。あの女は……恐ろしいんだよ。あの女は。」
その声は震えていた。
風太の胸に、得体の知れない不安がじわじわと広がっていった。
エキストラとして呼ばれた風太は、案内のADに声をかけられる。
「エキストラの方?」
「はい。僕です。」
「マネージャーの方は?」
風太は一瞬ためらい、かすかに笑って答えた。
「すみません。今日は一人なんです。」
ADは驚いたように眉を上げるが、すぐに淡々とした口調に戻った。
「そうなんですね。こちらどうぞ。」
その時、別のADが大声を張り上げる。
「主演の西条元太さん、入られます!」
スポットライトが差し込むように、空気がざわついた。スーツ姿のマネージャーに付き添われ、元太が堂々と入ってくる。かつて同じエキストラ仲間だったはずの男。その姿に、周囲が一斉に視線を注ぐ。
「見ろよ。アイツ、主演だって。」
隣にいた先輩俳優が小声で吐き捨てるように言った。
「そうですね。」と風太は穏やかに返す。
「お前、悔しくないのかよ。マネージャー、一緒だろ?小林さん、お前の現場には一切ついてきてないじゃないか。」
「まあ……いつものことなんで。」
風太の声は淡々としていた。慣れてしまった痛みは、表情には出ない。
「アイツもこの間まで俺らと一緒にエキストラしてたのにな。」
「そうですよね。風太なんて一時期セット売りされてたのに、こんなに差ができてさ。」
「先輩……」
さすがに言い過ぎだと後輩が口を挟む。
「あ……ご、ごめん。」
先輩は気まずそうに目を逸らした。
「全然大丈夫ですよ。事実なんで。」
風太は静かに笑ってみせる。その笑顔が余計に痛々しかった。
そんな中、もう一人の俳優が口を開いた。
「そういえば……アイツの噂、聞きました?」
「アイツ?」
「元太ですよ。」
「元太がどうしたんだ?」
俳優は声を潜めた。
「あいつが売れた本当の理由です。」
「……本当の理由?」
「この間までエキストラだったのに、急に連ドラの主演なんておかしいと思いませんでしたか?」
「確かに……」
「――あのパーティーですよ。」
その一言に、周囲の空気が重くなる。
「……あのパーティー?」風太は首をかしげた。
「風太、知らないのか?」先輩俳優が目を丸くする。
「はい。」
「うちの事務所の女社長いるだろ?」
「西園寺レミさんですよね。」
「そう。そのレミさんが主催するパーティーがあるんだ。お気に入りの所属タレントだけを招いて……好き放題してるって噂だ。そのパーティーに行った奴は必ず売れるって言われてる。」
言葉を濁しながらも、先輩の目は本気だった。
「俺も一度だけ行ったことがある。でも……二度と行かないって心に誓ったね。」
「なぜです?売れるかもしれないのに?」風太が思わず問い返す。
先輩は顔をしかめ、低く呟いた。
「……まあ、お前も行ってみたらわかるよ。あの女は……恐ろしいんだよ。あの女は。」
その声は震えていた。
風太の胸に、得体の知れない不安がじわじわと広がっていった。
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