彼が浮気相手と逮捕されたので復讐することにしました

むつらら

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溢れ出す彼への想い

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そして…
大和はdanger15としてデビューし、一躍トップアイドルに。
新人賞、作詞・作曲家賞まで受賞し、輝かしい未来を歩んでいた。

一方私はというと…
大和がプロデュースを離れて以来ヒット曲に恵まれず、気づけば「旬の過ぎた歌手」と呼ばれるようになっていた。



「先生!私、いつカムバックできますか?」

練習室で声を枯らしながら訴えると、ダンスの先生は慌てて視線を逸らしながら答えた。

「まだ分からないなぁ。社長に聞いてみるね」

「もう最後のカムバックから2年ですよ!」

「そうだっけ?……社長もdanger15で手一杯だしね。今年はガールズグループもデビューするし、その後かな」

「……ガールズグループ?」

ちょうどそのとき、数人の少女が練習室に入ってきた。

「失礼します」

「あら、あなたたち来るの早かったわね。ちょうどよかったわ」
先生が笑顔で振り返る。
「愛ちゃんに挨拶しておきましょう。こちら、来月デビューするLoveuのメンバーよ」

「……え…み、美優?」
目の前に立つ少女の顔を見て、私は思わず声を上げた。

「愛。久しぶり」
美優が少し大人びた笑みを浮かべる。
「私も、とうとうデビューが決まったの」

「お、おめでとう……! 嬉しい」
愛の胸に、懐かしさとともに複雑な感情が押し寄せる。

「やっと愛に追いつけた」
彼女の目が、真っ直ぐに私を射抜いた。
「これからは、先輩後輩としてよろしくね」

「……うん。よろしく」
私は小さく笑みを返した。

――美優は、練習生時代を共に過ごした同志だった。
同じ夢を語り合い、涙を分け合った相手。
あの頃の記憶が、一瞬にして鮮やかによみがえる。

――私は、オーディション番組優勝後、この事務所に入った。
本来なら社内オーディションを受けて合格し、練習生としてスタートするのが普通だ。
けれど私は、特例でその過程を飛ばされ、知名度だけを引っさげてここへ来た。

実力もないのに名前だけは知られている――そんな私を快く思わない練習生も多く、いつの間にか孤立していた。
そんな時、初めて声をかけてくれたのが、彼女だった。

「愛ちゃん? 愛ちゃんだよね?」
明るい声が、冷たい空気を破った。

「うん」
振り返ると、柔らかな笑顔を浮かべた少女が立っていた。

「番組、見てたよ。すごいね。私、ファンになっちゃった」
「ありがとう」
その笑顔に、胸の奥がじんわり温まる。

「これからデビューに向けて一緒に頑張ろうね。何か分からないことがあったら、何でも聞いてね。私、練習生生活一番長いからさ」
「……あ、ありがとう」

「あとさ、みんなもさ」

美優は周囲の練習生に視線を投げた。 

「愛ちゃんと仲良くしなよ。正直、無視とか格好悪いし、嫉妬とかみっともないと思う。愛ちゃんに何か思うことがあるなら、正々堂々と戦いなよ。いつ誰がデビューできるか分からないんだからさ。みんな正々堂々と戦おう」

――カッコいい。そう思った。
私より年下なのに、人としてできている。そう感じた。
そんな嘘のない彼女とは、すぐに仲良くなれた。
心から信用できる友に出会えた――そう思い始めていた頃だった。

「次にデビューする人が決まったよ」
先生の声に、練習室の空気が一瞬張り詰める。
私と美優は目を見合わせ、そっと手を握った。

――先生からは、私と美優を含めた5人でデビューすると聞かされていた。
だから、この5人で夢を叶えるものと信じていた。

「社長と話し合って、この度、愛のソロデビューが決まった。申し訳ないけど、残り4人のデビューはなくなったことになる」

「どういうこと? なんで愛よりも実力のある私たちがデビューできないんですか?」
「本当に。結局、知名度が大事なんですか?」
「もうやってられない」

候補生たちが次々に立ち上がり、練習室を出ていく。
残ったのは、私と美優だけだった。

「……愛、おめでとう」
静かに、美優が言った。

「美優……ご、ごめん」
喉が震える。

「デビューできたのは、愛が頑張ってきたからだよ。心の底からおめでとう」

「美優、ごめん」

「謝らないで。堂々として。私も必ず愛に追いつくから。それまで頑張る。約束ね」 

美優が小指を差し出す。
私も震える指で、その小指に触れた。

――そんな約束を交わしてから5年。
ついに彼女のデビューが決まったのだ。
私のデビューが決まったとき、彼女は心の底からおめでとうと言ってくれた。
私は、彼女のデビューに心の底から笑えているのだろうか。
以前の私だったら、もっと素直に喜べたのだろうか。
だが今の私は、正直複雑な気分だった。

「じゃあ、私そろそろ行きますね」
練習室の空気に耐えきれず、愛は立ち上がった。

「う、うん。またね」先生が戸惑いながら返す。

「では、失礼します」

そんな最低な自分が嫌になり、練習室から逃げるように出た。

私は駆けるように廊下へ飛び出した。胸の奥で、ぐちゃぐちゃに絡まった感情が行き場をなくして暴れている。どうしようもない気持ちを抱えたまま前だけを見て走った。

その瞬間——誰かにぶつかり、手にしていたノートが床に落ちた。

「す、すみません!」

慌てて頭を下げる愛の目の前に立っていたのは、大和だった。

「愛?」

彼は驚いた顔をしながらノートを拾い上げ、そっと差し出す。

「や、やまと…」

名前を口にした途端、堪えていた涙がこぼれそうになる。慌てて袖で目元を拭った。

2年ぶりの彼だった。あの頃はまだ、あどけない隠キャだったのに…。見ないうちに彼は、大勢に囲まれる存在になっていた。私には、もう手が届かないように思えた。

「愛、どうしたの?泣いてるの?」

「な、泣いてないよ。」

「泣いてるじゃん。」

「泣いてないって言ってるでしょ!」

「…なんかあったの?」

「べ、別に何もないよ。大和こそどうしたの?目の下、クマだらけじゃん。」

「…ああ。しばらく寝てなくてさ。」

「え?大丈夫なの?」

「ちょっと作曲作業に行き詰まってて。」

「そ、そうなんだ。大和、忙しそうだもんね。」

大和はふと息をつき、真っ直ぐに彼女を見つめる。

「愛は?最近どう?」

「どうって?」

「元気?…しばらく会ってなかったから、心配してたんだよ。」

その言葉に胸が締め付けられる。愛は視線を逸らした。

「……」

「愛?やっぱりなんかあっただろ?」

「なんで?」

「愛って、元気ないときは目を合わせない癖があるから。」

「…そうだよね。大和はなんでも分かっちゃうんだね、私のこと。」

「何があったんだよ?」

気づけば私は、2年間抱えてきた思いをすべて彼に話していた。誰にも言えなかった心の闇を、こんなにも素直に口にしている自分に驚いた。…ああ、私は彼を、人として、音楽家として信頼しているんだ。初めて、はっきりと気づいてしまった。

話を聞き終えた大和は静かに言った。

「美優も、ついにデビューか。俺も13年かかったけど…美優も同じくらい練習してきたもんな。」

「だよね。すごいよね。」

「それより…愛、2年もカムバックしてなかったんだな。自分のことで精一杯で、全然気づいてなかった。ごめん。」

「いや、大和のせいじゃないよ。」

「UKさんは?曲、書いてくれないの?」

「うん。『君の曲を書いても売れないから』って言われて…」

「なんだよ、それ。愛が悪いんじゃない。愛に合った曲を書けないUKさんが悪いんだ。俺なら——愛に合った曲を書くことができる。愛の声も、愛のメロディーも、多くの人に届けられる。…愛は、愛されるべき人なんだよ。」

事務所の人たちは皆、『君は旬が終わった』『売れない君は終わりだ』と突き放した。言われるたびに、きっとそうなのだと自分を責め続けていた。だけど——彼の一言で、その2年の重荷が溶けて消えた。まるで救われたような気がした。そして気づいたら、私は…

「大和、好き。」

ぽろりとこぼれた言葉に、大和の目が見開かれる。

「え?」

「あ!ごめん!気にしないで!今のは、なかったことにして!」

「いや、無理だよ。」

「ほんとに今日の私はどうかしてる。だから忘れて!」

涙を振り切るように、愛は踵を返し、駆け出した。
大和の手に残されたノートの重みだけが、彼の胸に熱く残っていた。
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