21 / 21
交差する思い
しおりを挟む
レコーディング室の扉を開けると、懐かしい匂いが漂った。機材の冷たい光と、壁一面に貼られた吸音材。愛は思わず目を丸くする。
「うわ……久しぶりだなあ、この部屋。」
「だよな。」大和が笑う。「愛、来るのいつぶりだっけ?」
「三年前かな。大和が曲作ってくれた時。」一瞬ためらってから口にする。「……大和が逮捕される前。あ……ごめん。」
言った瞬間、後悔の色が顔に広がる。だが大和は首を振った。
「いいよ。謝るのは僕の方だから。」
空気が重くなった。互いに言葉を探せず、数秒の沈黙が流れる。
やがて大和が声をかける。
「……歌ってみる?」
「え?」愛が目を瞬かせる。
「僕の曲、聞いてくれたんだよね?」
「……うん。歌ってみようかな。」
大和はそっと歌詞カードを差し出した。愛は受け取り、ブースへ入る。マイクの前に立ち、深呼吸を一つ。音楽が流れ出し、声を乗せる。
——あれ?なんだろう。この感覚……。
胸の奥に広がるのは、不思議な解放感。ステージで歌うときよりものびやかで、心が震えるような響き。
ブース越しに大和の表情が見えた。驚いたように、そして嬉しそうに。
「愛……めっちゃ良いよ。」
マイク越しに聞こえたその言葉に、思わず頬が熱くなる。
「あ、ありがとう。」
レコーディングを終えてブースを出ると、大和がまっすぐに告げた。
「もう一度、愛と一緒に仕事がしたい。この曲で。」
その真剣さに心が揺れた。けれど、すぐに首を横に振る。
「ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。でも……今の私、ヤングさんにすごくよくしてもらってる。だから、彼を裏切ることはできない。ごめん。」
大和はほんの一瞬だけ寂しげな表情を浮かべ、すぐに笑顔を作った。
「そ、そうだよね。」
愛は視線を落としながら、それでも心からの言葉を口にした。
「でも……今日、大和と久しぶりにこうやって歌えて、本当に嬉しかった。ありがとう。」
「こちらこそ。嬉しかったよ。」
その時、愛のスマホが鳴り響いた。画面には「マネージャー」の文字。
「……マネージャーさんからだ。もう行かないと。」
「じゃあな。」
扉を閉めて振り返った時、大和の姿はスタジオの灯りの中に静かに溶けていた。
「うわ……久しぶりだなあ、この部屋。」
「だよな。」大和が笑う。「愛、来るのいつぶりだっけ?」
「三年前かな。大和が曲作ってくれた時。」一瞬ためらってから口にする。「……大和が逮捕される前。あ……ごめん。」
言った瞬間、後悔の色が顔に広がる。だが大和は首を振った。
「いいよ。謝るのは僕の方だから。」
空気が重くなった。互いに言葉を探せず、数秒の沈黙が流れる。
やがて大和が声をかける。
「……歌ってみる?」
「え?」愛が目を瞬かせる。
「僕の曲、聞いてくれたんだよね?」
「……うん。歌ってみようかな。」
大和はそっと歌詞カードを差し出した。愛は受け取り、ブースへ入る。マイクの前に立ち、深呼吸を一つ。音楽が流れ出し、声を乗せる。
——あれ?なんだろう。この感覚……。
胸の奥に広がるのは、不思議な解放感。ステージで歌うときよりものびやかで、心が震えるような響き。
ブース越しに大和の表情が見えた。驚いたように、そして嬉しそうに。
「愛……めっちゃ良いよ。」
マイク越しに聞こえたその言葉に、思わず頬が熱くなる。
「あ、ありがとう。」
レコーディングを終えてブースを出ると、大和がまっすぐに告げた。
「もう一度、愛と一緒に仕事がしたい。この曲で。」
その真剣さに心が揺れた。けれど、すぐに首を横に振る。
「ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。でも……今の私、ヤングさんにすごくよくしてもらってる。だから、彼を裏切ることはできない。ごめん。」
大和はほんの一瞬だけ寂しげな表情を浮かべ、すぐに笑顔を作った。
「そ、そうだよね。」
愛は視線を落としながら、それでも心からの言葉を口にした。
「でも……今日、大和と久しぶりにこうやって歌えて、本当に嬉しかった。ありがとう。」
「こちらこそ。嬉しかったよ。」
その時、愛のスマホが鳴り響いた。画面には「マネージャー」の文字。
「……マネージャーさんからだ。もう行かないと。」
「じゃあな。」
扉を閉めて振り返った時、大和の姿はスタジオの灯りの中に静かに溶けていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
元恋人と、今日から同僚です
紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。
仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。
「今日から、この部署に配属になった」
そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。
かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。
仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。
恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。
仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。
元恋人と同僚になった二人。
仕事から始まる新しい恋の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる