ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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ヤクザ警察24時➁

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 翌朝。私はいつも通り学校に行き、授業を受けた。
 アレクサンダーとの関係を作るきっかけとして、放課後、授業の質問をするが、向こうの方から研究室に来ないかと誘われた。

 何でも、研究に使う魔力が足りないらしく、私の膨大な魔力を必要としているらしい。願ってもない話だが、相手が相手なだけに警戒しないわけにはいかない。


「なんだか緊張しているようだな?」

「はい。まあ、何せ、先生から誘われたのですから」


 研究室まで私を連れ込むと、アレクサンダーは、雑多に散らばる魔方陣の描かれたスクロールを見て、いそいそと片付け始めた。

 他にも研究室の中は沢山の本が出しっぱなしで、床に至っては、大量の埃が床の隅に積もっている。


「すまないな散らかってて。別に取って喰うつもりはない。ただ、これに魔力が欲しいだけだ」

 そう言って、アレクサンダーは、散らかっていたスクロールの中から、随分と大きなスクロールを床に敷く。
 
「かなり大きいようですが、これを使うんですか?」

「何か不満があるのか?」

「いえ、あまりにも規格外のサイズで、それに見たところ、貯蓄される魔力量も普通の量ではなさそうですね」

「君はまだ一年生のはずだが、知識があるようだな」

「ええある程度は。教科書の内容は全て覚えましたから」

 私がそう言うと、アレクサンダー先生はどうにも怪訝そうな顔つきをした。

「そうか。では、試させてくれ。人語を理解する召喚獣の魔法陣において必要なものはなんだ?」

「始点から始まる内角30度の幾何学模様を円の内側に描き、アレクサンダー先生の開発した魔術言語に繋がる魔力経路を作ります。そして、触媒に用いられるのは精液であったりしますが、現在の多くは不浄な水を用います」

「不浄な水とはなんだ?」

「主に腐った池の水など、衛生面に欠けた水です。その多くは肉眼では確認できないほどの小さな生き物が存在するとされ、触媒として生命が使われることがしばしばあります」

「たしかに勉強はしているようだ。先日起こった魔法陣爆発の事故の際に気付いた異変はあったか?」

「そういえば、必要とされる魔力量が大幅に引き上げられていたように感じました。爆発となると、魔力の貯蓄量の限界を超えたことが考えられますが、回路がそのように組まれていたのかは見ていません」

「そうか。爆発の原因となると、魔力量だけが問題となるわけではない。自然界から発せられる、魔力を分散させる力も原因となる。しかし、あれは私の監督ミスだ。すまなかったな」

「いえ、幸いにも大した負傷者はでなかったようなので」

「そうか。ありがとう。しかし、入学したてで大した知識だ。ぜひとも助手に欲しいくらいだ」

「お褒めにあずかり光栄です」

「では、これから先も私の研究に協力してくれないだろうか? 無論、報酬は出そう。実験に協力してもらえるたびに金3枚は出す」

「金3枚ですか!?」

 金1枚となると、私とアデ先生を含めた生活費のだいたい1ヶ月分となる。
 それが3枚ともなれば、当然3ヶ月分だ。
 今でも金のある私だが、金なんて、あればあるだけ嬉しいに決まってる。


「不服か? しかし、少ないと問題だな」

「いえ、そんな大金をもらえるとは思っていなくて」

「なら、報酬は十分だな。協力してくれるか」

「ええ、構いませんとも」

「ところで、親睦を深めることも兼ねて、夜、食事などはどうだろうか?」

「ありがたいお言葉です。ぜひともお受けさせてください」

「そんなに堅苦しくしなくとも良い。職業柄、生徒の粗相には慣れているからな」

「それはなんとも居心地が良いものです」

「では先に、敷いたスクロールに魔力を流してくれ」

「分かりました」

 そう口ではアレクサンダーの相手をしつつ、私の目はしっかりと違う場所に向けられていた。

 床と本棚の間に、引っ掻いたような傷を見つける。
 そうして、私は本棚の裏に隠しているものがあると推測していた。

 

 ……。しかし、突然、気になって仕方がないのだが……、どうにもアレクサンダーの雰囲気が違う……。

 少し目を離した隙にアレクサンダーの様子が変わっているのだ。
 普段の授業の時と違って、今は少し目が怠そうな様子だし、体も痩せていた。服を着こんでいるのに、体の大きさも今は殆ど目立たない。着やせするにしたって異常なほどに筋力が落ちているようだ。
 魔法を使っていた?


 普段のアレクサンダーをスポーツマンと例えるなら、今のアレクサンダーはインドア派の血色の悪い吸血鬼といった様子だ。


 そのことについて尋ねると、アレクサンダーは良く分からないといった様子で話を終わらせてしまう。

 これ以上聞くにしても怪しまれるだろう。今は我慢をするしかない。





 魔力を流しながら他愛もない世間話をしつつ、アレクサンダーを探るが、大したことはまるで聞き出せない。


 そうして夜も深くなり、今日の作業を終えて食事に行くと、連れていかれた先は普通の大衆食堂だった。
 この店ではアレクサンダーの故郷の料理を出すらしい。

 少し周り騒がしく、居酒屋などでは良く見る光景があった。

 何でも頼めとアレクサンダーに言われるが、限度というものはある。それに、メニューを見たところでどんな料理なのかさえも分からない。仕方なく見知っている料理を頼もうとするが、アレクサンダーが私の分まで勝手に注文するものだから困ってしまった。

 しかし、出されたものを食べないというのも失礼にあたるだろう。

 出された豆料理をつまむと、あまりの辛さに気管が刺激され咳き込んでしまった。


「どうだ? 美味しいか」

「ええ……。とても美味しいです。先生の故郷ではこんな美味しい料理が出るのですね」


 アレクサンダーの嬉々とした表情を受けて、私は思わず嘘を言ってしまう。
 
 しかし、当然美味しいわけがないのだ。今にも口から火が噴き出そうなほどに辛くて、味わう余裕なんてない。

 必死に辛い豆を一粒一粒フォークで掬って口に入れ、余裕そうな顔をして水をちびちびと飲み干す。

 喰いきったが最後、胃から込み上げてきたものが、辛さを残して食道を焼き続けた。

 私はあまりの辛さにテーブルに突っ伏す。

 体中から汗が出て、今にも死にそうだ。

 そうした中、アレクサンダーが辛い豆に手をつける。
 しかし、一粒入れてすぐに、口から吐き出した。

「こんなの辛くて食えるか」

 そう言ってアレクサンダーはフォークを下ろした。

 その言葉を聞いた瞬間、私は思いっきりテーブルを叩いた。

 アレクサンダーが何事かと聞いてくるが、少し咳き込んでしまったと誤魔化して私はトイレに向かった。

 私はトイレに籠ると一人で涙を流した。

 辛さのせいかお尻が痛い……。本当に死ぬほど痛い……。

 地獄のような時間を過ごしてトイレから戻ると、既にかなりの時間が過ぎていた。食べる時間もなく私は店を出て行く。

 大した会話もできず、ろくに情報を得ることもできなかったし、腹の中に何も入ってやしない。

 
 今日の一日を話すと、アデ先生が慰めてくれた。


 

 
 
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