ヤクザ警察アーシャちゃん 異世界に転生したらやりたい放題

竹丈岳

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戦車完成 驚き! 驚愕! 人間どもを踏みつけろアーシャちゃん!

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 一晩のうちにエンジンの術式を完成させた私は、翌朝試運転を行うことにした。
 武装を積んでいない、装甲のみの状態で、およそ、時速60キロほどをだす。
 実際の時速は分からないので、およそでしかないのだが、魔力の消費効率を改良をしていけば、さらに速度を上げられ、泥沼に対してもある程度は有効に働けるだろう。

 乗せる武装を考えたところ、やはり、残弾数も気にしておきたい。
 威力を優先するか、弾数を優先するか、副武装もなければ肉迫してくる敵を退けないだろう。

「歩兵との戦闘を想定するのであれば、やはり榴弾砲が良い。だが、しかし、そもそもこの兵器の運用方法が未だに決まっていない。当初は兵士に防御能力を付与するための計画が、今や攻撃的な性格を持ち始めている。この兵器をどのように運用するつもりだ? アーシャ?」

「なに、現段階では、ただの防御機能ですよ。しかし、この兵器を量産することができれば、凄まじい戦果を上げるような気がしますね」

 アダムスが私の傍にコーヒーを置いてくれた。
 熱々の湯気の立った淹れたてのコーヒーを、私はありがとうと言って受け取り、一口すする。

「ところで、私の補佐にならないか? 長官と軍事顧問を兼任してもらえれば、待遇は良くできる。三食三日の昼寝付きで、毎日職場まで送迎しよう。家も買ってあげたいんだがどうだろうか?」

「すまないが、軍事に興味はない。そもそも、戦争自体が私はやりたくないんだ。死ぬのも殺すもごめんだ」

「だったら、今晩の食事を一緒にどうだろうか?」

「そうか。私を口説いているのか。残念ながら私には付き合っている人がいる。その人のことは裏切れないんだ。すまない」

 アデ先生のことを考えると、裏切れなくて、不思議と性欲が引っ込む。

「残念だ。それなら仕事の話をしよう」

「そうしよう」

 アダムスが、傍にあった軍帽を深く被り、表情を隠した。

 タンクの運用自体は兵士に防御能力を付与するという目的に基づき、装甲をメインに強化をしていくことにした。
 主砲は速度を落とさない限界の大きさの榴弾砲をのせるが……。

「短小だな」

 と私が。

「人間相手には効果的な攻撃が期待できる臼砲だ。目標に当てやすくするには放物線を描かなければならない。塹壕に隠れた敵を相手にするのならなおさらだ」

 とアダムスが。

 短く太く、まるで、臼のような砲は、私の美学からはかけ離れている。
 そうして、私の目がアダムスの股間に行ってしまう。

 短くとも好きな相手であれば、問題は無いのだが、大きくそそり立つ砲身の方が絶対に素敵だ。上向きであればなおさらなのだが、エイジャックスのことも思い出して、心が苦しくなる。

「しかし、広範囲に泥沼に足をとられた場合はどうする? 履帯を広く取っているとはいえ、簡単に沈むぞ」

「そのことについてだが、私に考えがある。また参考にしたいんだが、演習をみせてもらえないだろうか? アダムス少佐殿」

「分かった」

 アダムスは寡黙で事務的な男だ。筋肉質な体の張った大胸筋と、整った横顔に、思わず私は涎を飲み込む。そして、そのたびにアデ先生のことを思い出して考えを振り払う。

 次の日、演習を見に行くと、主な攻撃は歩兵による重火器と、後方の榴弾、上空から地上攻撃を行う航空部隊がメインだと分かった。アダムスの得意とする分野は、塹壕戦を中心とした戦いだ。

 騎馬隊が未だに幅を利かす、第一次世界大戦未満のあまりに発達していない戦いなのだが、それでも私のロマンに触れる。

 唯一評価できる点といえば、航空部隊か。
 飛行魔術で体を浮かし、地上を攻撃している。
 目標に対して強烈な爆発魔法を放ち、焼き払うことで最も大きな戦果を上げている。
 あの、ガーランドのような銃で、38cmロケット臼砲以上の火力を上げているな。あんな火力に対して私のタンクが敵うはずもない。

 一般的な大きさの家の模造が、一瞬で吹き飛んでいく。

 やはり機動戦だ。航空攻撃によって決定打を決められる前に決着をつけるべきだと私の中でさらに確信に変わる。
 兵站を破壊し、敵の前線維持を困難にさせる、電撃戦を基にした戦いだ。

 戦力を集中し、敵の中枢を叩く。航空攻撃を阻止するためには、やはり、航空基地を攻撃すべきだろう。

「あの、航空隊が使っている装備について教えてくれないか?」

「武器はゲーウェヴアー98」

「使っている弾薬は?」

「M/88 IS弾に爆発魔法の術式を組み込んだものだ」

「M/88 IS弾だと!?」

「なにか問題でも?」

「いや、何でもない」

 私は声を大きくし、慌てて態勢を取り繕う。

 しかし、嫌な予感がする。装備の名前といい、弾薬の規格といい、私の知っているものばかりだ。この世界には、私以外に地球を知っている奴がいる。しかも、そいつは、軍事知識に対しても深いようだ。

「その銃はいったいどこで開発されたんだ?」

「ペイロード産の銃だ。奴らは次々に新兵器を開発して、今や超大国マクロンと戦おうとしている強大な国だ。我が国で兵器開発を行うよりも買った方が正直なところよっぽど性能が良い。悔しいことだがな」

「つまり、ナチスドイツのペイロード。アメリカ合衆国のマクロン。南のソ連。私たちはさながら挟まれたポーランドか」

「なんの比喩だ? それは?」

 アダムスは、またしてもなんとことか分からないといった様子で、私を見つめてくる。
 私としては聞き流してくれた方が良かったのだが、アダムスは未だに私に興味があるようだ。

「すまない。ちょっとした例えだよ。それよりも、私の頼んだタンクの開発はどんな調子だ?」

「あまりうまくいかないな」

「ならば、この際、防御機能は最小限にとどめ、攻撃に集中するのはどうだ?」

「しかし、それでは、航空攻撃に対して無力な我が国はペイロードと戦えば一瞬で倒されてしまう。装甲は必要だ」

「やはり、難しいか。なら、なおさら航空隊を維持できるだけの工業力と人的資源が必要だな」

 アダムスが防御機能に特化したタンクを開発するなか、私は機動力と火力、防御力のバランスの良いタンクを開発していく。
 敵に肉迫し、素早く地上の歩兵を倒せるように、小口径の多連装砲を乗せる。歩兵の装備に耐えられるほどの防御力を備えさせ、あとは機動力に特化させる。

 より、機動戦に適した形にするように、そして、敵にタンクが出現してきた時に、装備のアップグレードができるように砲塔のリングを大きめにとる。

 おそらくだが、あのペイロードには私以外にも転生者がいる。どんなことを考えているのかは分からないが、おそらく戦争は避けられないだろう。


 私はタンクの装甲に最後の溶接を加える。

 演習当日、アダムス率いる軍と、白髭率いる戦力とのフラッグ線が始まった。

 敵の陣地のフラッグを奪えばそこで終了というルールだ。

 アダムスが歩兵たちに指示を与える中、その中でも私は少し変わったことをする。

 全ての各兵科の中から少しづつ戦力を抽出して一部隊にまとめ上げる。

「何をしているんだ?」

 と、アダムスが険しい顔でそう聞いてくる。

「諸兵科連合を組んでいます。敵の戦線突破には非常に有効なものとなるでしょう」

「しかし、兵站はどうする? こうも兵科がバラバラだと手違いやらで必要な物資が手に入れられなくなるぞ」

「その点はご心配なく。私が管理をします」

「そうか。ところでタンクに腰を掛けている姿は女性ながらに様になっているな」

「でしょう? 生まれもった美しさは使わないだけ損ですからね。全くつまらない世の中だ」

 ラッパの音と共に開戦の合図がなされ、歩兵たちが一斉にシャベルで塹壕を掘る。その間も強烈な爆発の音が響き、お互いの砲兵を狙って攻撃をしている。

 全ての弾はペイント弾なのだが、当たれば相当痛いはずだ。
 タンクに乗っている私だけはマシだろうな。

 本来、私の乗るタンクは3人用なのだが、乗員との連絡が面倒でこうしている。外に身を乗り出せないのが不便だが、空爆から身を守るためには仕方がない。

 私は前線から下がり、歩兵たちに攻撃の指示をする。

 迫撃砲が前線の一点を攻撃し、重機関銃が、敵の移動を妨害する。今も、タンクの装甲の表面をペイント弾が汚している。

 敵も、一段階目の塹壕を完成させようとしているが、その前に蹴りを付けようと私のタンクも砲撃を開始する。

 私の作り上げた戦車は、当時、最強だったドイツの5号戦車というものをモデルにして作り上げている。

 十分な装甲に傾斜を加え、実質的な装甲を2倍近くにすることで、更に正面から受ける弾を弾きやすくしている。

 戦車上部のハッチを開け、歩兵たちに突撃をするように指示をする。事前に打ち合わせをしていたように、陣地の奥深くに進んでいくように、敵への攻撃よりも、前線へ踏み込むことを目的とさせる。

 さて、脆くなった敵の前線の一部にようやく穴が開いてきた。
 こちらの犠牲も多いが、敵の戦線の一部が崩壊した。

 敵の航空部隊も本気を出してきたようだが、私は十分に対策してきた。

 時速80kmほどあろう最高速度で泥沼を突破し、味方に守られながら陣地へと侵入する。
 
 速度を保ったまま、敵陣地の砲兵たちにスラローム射撃を行う。

 銃弾の多さから、撃ちながらの修正が簡単で、砲兵たちを一気に片づけていくことができた。

 そのまま突破すれば、すぐに敵陣地のフラッグだ。

 航空部隊が、私に一点に集中砲火を始め、蛇行する私のタンクが少しづつよれてくる。

「今だ! 撃て!」

 私の後方に続くタンクが一斉に上面部分のダミーを解除する。

 中から表れたのは3.7 cm FlaK 43。航空部隊を殺す、最大で最強の高射砲だ。

 戦車とは、なにも一般の人間が想像する一種類だけのものを指すわけではない。

 戦車のみとの戦闘を想定した駆逐戦車。敵陣地の突破を目的とした、破壊用の突撃砲。大砲を乗せることで機動力をもたせた自走砲。そして、戦車の機動力に追従できるように作成された対空戦車。

 突撃砲や自走砲を作っている余裕がなかったのだが、それは、この対空戦車のためだ。

 私たちを狙おうとする航空部隊は密集した陣形を作っている。それもそのはず、フラッグ目前まで迫った私たちを優先的に倒そうとしているからだ。普段は当たるはずもない対空砲弾でさえも、これだけ密集していれば勝手に当たってくれる。

 14台の対空戦車の砲が火を噴き、航空部隊に壊滅的なダメージを与えていく。散発的に発生する音が、まるで、マシンガンのように発射間隔を詰めていく。

 思わぬ奇襲を受け、敵の航空部隊が散り散りになって逃げていく。
 そこを、味方の航空部隊が追撃し、壊滅まで追い込む。

 勝利とは何か? それは、目標を達成することにある。どんなに犠牲を払ってでも、目標が達成されることこそに意味がある。

 戦車から降りた私はその手にフラッグを握る。それと共に、終了の煙幕が上がり、ラッパが吹かれた。

 見てみると、私の戦車にはペイントの一つすらもついていなかった。どうにも、殆ど弾いていて、それが音としてタンクの内部に伝わっていただけのようだ。
 ダミーの防御術式が剥がされればそれで終わりだったはずなのだが、こうも防御機能が役目を果たさなかったとなると、笑いしか起きなかった。
 
 



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