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清掃員エイジャックス
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とうとう副校長にまでなった私だが、肝心の仕事は面倒くさく、アデ先生に全部丸投げしてしまっている。
周一のデートとの引き換えだが、そうして仕事に追われずに校内を見回ることができているから、私にとっても悪い話ではない。
まあ、仕事をしてるっぽく見せて、紅茶やお菓子をたらふく食べたりしているのが真実なのだが。食べ過ぎでお腹を壊してトイレに行くついでに学校内を見回る。
今日は珍しくエイジャックスを見かけた。
今日も変わらず儚げでカッコいいが、清掃員の格好をしている。
「エイジャックス。こんなところで何をしてるんだ?」
「見て分からないのか? トイレ清掃だよ」
「大変だな」
汗を袖で拭う時の、前髪を持ち上げる姿はきゅんとくるポイントの一つだ。
屈んで床を拭いていたが、私を見るとエイジャックスはすぐに立ち上がって顔を近づけてきた。
私は思わず、エイジャックスのことを意識してしまう。
「まさか、お前が副校長になるなんてな」
「お前ではなく、副校長と呼べ。ばかたれ」
「はいはい。まあ、一つお願いがあるんだが、女子たちが今までやっていたことを急に放棄しだして、男もやらないしで、いつも俺がトイレ掃除をしている。どうにかできないか?」
「ほお。女子共も調子づいてきたか。これは調整が、いや、教育が必要だな。ところでトイレ掃除だが。私も手伝うよ」
「アーシャさんが!?」
エイジャックスが驚いたように私をまじまじと見る。
「だから副校長と呼べ。それになんだ? 私がしてはいけないのか?」
「だって、副校長がする身分じゃないだろ」
狼狽えるエイジャックスの若さを、つい可愛く思う。
ぽんぽんと頭を叩くと、エイジャックスはそんな私を不思議そうに見上げるばかり。
まだ、身長が足りないせいか、エイジャックスは16だというのに余計に幼く見える。
「いいか? 何をするにしても身分なんてあるものか。気に入らなければ社会なんて支えなくたっていいんだ。一生金持ちのケツを拭かなくたって、困るのは金持ちの奴らだ。だが、率先してお前は掃除をしてるんだ。他と違って流石だよ」
「やめてくださいよ俺なんかに……。俺はこういう仕事が似合っているんです……」
すると、エイジャックスがずいぶんとしおらしくなった。
いきなり……、照れてるのか?
「モップを貸してみろ。私の腕前を見せてやるさ」
水を流し、モップでこすって汚れを浮かせていく。
簡単には取れないような汚れは、モップを踏んづけて削り取る。
臭いというものは、汚れが残っているから漂うのだ。
裏までちゃんと拭いてやれば臭いもなくなる。
エイジャックスはどうにも自己評価が低いようだ。
掃除に対しても一生懸命力を込めて拭いているところを見ると、私もエイジャックスの悩みかなんかも、拭いとってやりたくなってくる。
「さて、このへんで良いだろう。掃除は終わりだ。ところで、話は変わるが、私は今、彼女候補が二人いる。君も試しに私と付き合ってみないか?」
「そんなの良くありませんよ……。他の人だって何も言わないけどきっと嫌だって思っているはずです……」
「君は良い子だな。そんなところが私は好きなんだ。君のことを大切に思っている。だから、困ったことがあったら何でも私に言いなさい。できるだけのことはしよう」
「まあ、ありがとうございます」
エイジャックスは困ったように笑う。
「さて、掃除が終わったし、食事にでも行くか。君も来なさい」
「うえ? まだこれから授業が」
「そんなもの、私が教えてやる」
―――――――――
吊るされたオレンジ色に光るランプに照らされた室内は、少しばかり影を落としている。
少々お高いレストランのテーブルを囲うのは、私と親愛なる者たちだけ。辺りに客の気配などない。
マーラも子供だし、はしゃいで周りの目を気にするくらいなら、こうして広い場所をとった方が何倍も良いと思ったのだ。
今もマーラは走り回っていている。
マーラは落ち着きがないので、これはもう年のせいなのだから仕方がないが、躾のために私が注意をすると、一瞬だけ止まって、気づいたらまた走り出してしまう。
私はこの度に頭を抱える。
エイジャックスは椅子に座ったまま固くなっている。アデ先生がいるとは思わなかったらしく、視線を落としたまま、顔を少し紅潮させている。
そんなところが可愛くて、私はいつのまにかエイジャックスの顔をじっと見つめるのだ。
マーラを叱り、椅子に座らせ、料理が出てくるのを待たせる。
普段は酒を飲む私だが、エイジャックスがいる手前、馬鹿なことはしたくないので今回は控えることにした。
「コース料理は用意したが、何でも好きなものを頼んでくれ。国民に示すためにも私はここではパンと水しか食べれないがね」
「別に人目なんて気にしなくてもここでは俺たちしかいませんよ?」
「エイジャックス。それはどうだろうか? 人の目とは至る所にあるのだ。今もこうして私は命を狙われているかもしれない」
「そんな大げさな」
実のところ、こうして私たちが会話をしている間にも、外では、私の召喚獣である武者が戦っている。
私の地位を疎んだ奴らが、刺客を向けてきているのだが、その度に返り討ちにしているといった具合で、ここ何週間は似たようなことが起きている。
一羽の鳥が私の肩に止まって、今も戦況を報告してくれる。
どうにもアンデット系の召喚獣を多用しているようだ。
アンデット系の召喚獣の特徴としては不死性がある。日に焼かれれば死んでしまうが、それまでは決して倒すことができない。召喚者が見つけられなければ今日はここで一日を明かすようだろう。
私も早く帰りたいので、自ら出向く。
「少し席を外させてもらうよ」
敵のアンデットの一体をフクロウに変え、周囲を探索させる。
……、見つけた。
遥か遠くから双眼鏡を持って、こちらを観察している。
背後に回した武者の気配にも気づいていないようだ。
武者が召喚者を気絶させる。
尋問は後にしておくことにして、私の周りの人間たちの安全も強化しておく必要がある。
そろそろ、主犯である白髭を倒さなくてはな。
周一のデートとの引き換えだが、そうして仕事に追われずに校内を見回ることができているから、私にとっても悪い話ではない。
まあ、仕事をしてるっぽく見せて、紅茶やお菓子をたらふく食べたりしているのが真実なのだが。食べ過ぎでお腹を壊してトイレに行くついでに学校内を見回る。
今日は珍しくエイジャックスを見かけた。
今日も変わらず儚げでカッコいいが、清掃員の格好をしている。
「エイジャックス。こんなところで何をしてるんだ?」
「見て分からないのか? トイレ清掃だよ」
「大変だな」
汗を袖で拭う時の、前髪を持ち上げる姿はきゅんとくるポイントの一つだ。
屈んで床を拭いていたが、私を見るとエイジャックスはすぐに立ち上がって顔を近づけてきた。
私は思わず、エイジャックスのことを意識してしまう。
「まさか、お前が副校長になるなんてな」
「お前ではなく、副校長と呼べ。ばかたれ」
「はいはい。まあ、一つお願いがあるんだが、女子たちが今までやっていたことを急に放棄しだして、男もやらないしで、いつも俺がトイレ掃除をしている。どうにかできないか?」
「ほお。女子共も調子づいてきたか。これは調整が、いや、教育が必要だな。ところでトイレ掃除だが。私も手伝うよ」
「アーシャさんが!?」
エイジャックスが驚いたように私をまじまじと見る。
「だから副校長と呼べ。それになんだ? 私がしてはいけないのか?」
「だって、副校長がする身分じゃないだろ」
狼狽えるエイジャックスの若さを、つい可愛く思う。
ぽんぽんと頭を叩くと、エイジャックスはそんな私を不思議そうに見上げるばかり。
まだ、身長が足りないせいか、エイジャックスは16だというのに余計に幼く見える。
「いいか? 何をするにしても身分なんてあるものか。気に入らなければ社会なんて支えなくたっていいんだ。一生金持ちのケツを拭かなくたって、困るのは金持ちの奴らだ。だが、率先してお前は掃除をしてるんだ。他と違って流石だよ」
「やめてくださいよ俺なんかに……。俺はこういう仕事が似合っているんです……」
すると、エイジャックスがずいぶんとしおらしくなった。
いきなり……、照れてるのか?
「モップを貸してみろ。私の腕前を見せてやるさ」
水を流し、モップでこすって汚れを浮かせていく。
簡単には取れないような汚れは、モップを踏んづけて削り取る。
臭いというものは、汚れが残っているから漂うのだ。
裏までちゃんと拭いてやれば臭いもなくなる。
エイジャックスはどうにも自己評価が低いようだ。
掃除に対しても一生懸命力を込めて拭いているところを見ると、私もエイジャックスの悩みかなんかも、拭いとってやりたくなってくる。
「さて、このへんで良いだろう。掃除は終わりだ。ところで、話は変わるが、私は今、彼女候補が二人いる。君も試しに私と付き合ってみないか?」
「そんなの良くありませんよ……。他の人だって何も言わないけどきっと嫌だって思っているはずです……」
「君は良い子だな。そんなところが私は好きなんだ。君のことを大切に思っている。だから、困ったことがあったら何でも私に言いなさい。できるだけのことはしよう」
「まあ、ありがとうございます」
エイジャックスは困ったように笑う。
「さて、掃除が終わったし、食事にでも行くか。君も来なさい」
「うえ? まだこれから授業が」
「そんなもの、私が教えてやる」
―――――――――
吊るされたオレンジ色に光るランプに照らされた室内は、少しばかり影を落としている。
少々お高いレストランのテーブルを囲うのは、私と親愛なる者たちだけ。辺りに客の気配などない。
マーラも子供だし、はしゃいで周りの目を気にするくらいなら、こうして広い場所をとった方が何倍も良いと思ったのだ。
今もマーラは走り回っていている。
マーラは落ち着きがないので、これはもう年のせいなのだから仕方がないが、躾のために私が注意をすると、一瞬だけ止まって、気づいたらまた走り出してしまう。
私はこの度に頭を抱える。
エイジャックスは椅子に座ったまま固くなっている。アデ先生がいるとは思わなかったらしく、視線を落としたまま、顔を少し紅潮させている。
そんなところが可愛くて、私はいつのまにかエイジャックスの顔をじっと見つめるのだ。
マーラを叱り、椅子に座らせ、料理が出てくるのを待たせる。
普段は酒を飲む私だが、エイジャックスがいる手前、馬鹿なことはしたくないので今回は控えることにした。
「コース料理は用意したが、何でも好きなものを頼んでくれ。国民に示すためにも私はここではパンと水しか食べれないがね」
「別に人目なんて気にしなくてもここでは俺たちしかいませんよ?」
「エイジャックス。それはどうだろうか? 人の目とは至る所にあるのだ。今もこうして私は命を狙われているかもしれない」
「そんな大げさな」
実のところ、こうして私たちが会話をしている間にも、外では、私の召喚獣である武者が戦っている。
私の地位を疎んだ奴らが、刺客を向けてきているのだが、その度に返り討ちにしているといった具合で、ここ何週間は似たようなことが起きている。
一羽の鳥が私の肩に止まって、今も戦況を報告してくれる。
どうにもアンデット系の召喚獣を多用しているようだ。
アンデット系の召喚獣の特徴としては不死性がある。日に焼かれれば死んでしまうが、それまでは決して倒すことができない。召喚者が見つけられなければ今日はここで一日を明かすようだろう。
私も早く帰りたいので、自ら出向く。
「少し席を外させてもらうよ」
敵のアンデットの一体をフクロウに変え、周囲を探索させる。
……、見つけた。
遥か遠くから双眼鏡を持って、こちらを観察している。
背後に回した武者の気配にも気づいていないようだ。
武者が召喚者を気絶させる。
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