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水神との取引
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アーサーの人格を戻させている間も、サドが悪さをしないように注意深く監視をしていく。
だが、頭を弄られて苦しむアーサーの姿は、とても正視できるものではない。思わず胃の内容物を吐き出しそうになる。
「さて、これで、神経の縫合は終わりだ。人格は戻せたが、記憶を完全に取り戻すには残りの脳を神から取り返す必要がある」
「それで、終わりじゃないぞ。まだ次がある」
なんの理由があるわけではないが、私はサドを蹴り上げ、次の被験者を治させる。
蹴られたサドは、恨めしそうな目をして私を睨んできたが、私はそんなサドをさらに蹴りつけて従順になるよう躾けていく。
アーサーのことはというと、まだ、頭が痛むようで、完全に調子が戻ったようではないようだ。
「アーシャさん。ありがとうございます。おかげで自由になれました」
「無理をするな。今は私が周りを見ておく。だが、調子が戻ったら私の家族を守るように努めてくれ。私はとてもじゃないが、本格的に戦って相手を刺激したくはない。私は家族さえ無事でいてくれればいい。私が戦うのは最後の最後だ」
「えっと……。分かりました。あの、僕の仲間は無事ですか?」
「さあな。今はお前たちの国は私の武者たちが占拠している。抵抗してきた奴は全員鳥になったはずだが、殺してはいないはずだ」
「とにかくすぐに水神様のところにいきましょう。このことを報告する必要があります……」
そう言ってアーサーは立ち上がろうとするが、よろめいて地面に倒れた。
「それは体力的なものか? それとも脳が足りないせいか?」
「たぶん、両方です……」
「仕方ない。私もついていく」
「お手数をおかけします……」
アーサーを武者に担がせ、城の大広間まで連れて行く。そこにある魔法陣からどこかへと転送されるが、
「一面真っ白だな」
「水神様の好みですから」
転送された先は、どこかの施設の中のようだが、一面が大理石で、どことなくギリシャ神話の中にいるようだった。
特に流線形の柱が特徴的で、それが、ここを、神殿らしくしているのかもしれない。
アーサーに指示をされながら進み、その先の大きな扉を開くと、玉座のような大きな荘厳な装飾の施されたソファに寝そべった女性らしき姿を見つけた。
「ノックもなしか」
「すみません。急いでいたもので。国が、既に侵略を受けていました」
「やはりか」
立ち上がる水神らしき女性は、着ている白いローブをはだけさせてアーサーに寄る。
なんとも年の若い胸の大きな女性だ。
「して、その女性は?」
「この人はアーシャと言います。僕を助けてくれました」
「そうか。実に美しい顔立ちだが、あまりにも妙だ。それほど美しい顔立ちがいるはずもない。姿を見せよ」
水神が指をふると、どこからともなく空間に術式が発動し、私の姿が解かれる。
幼い姿の私が露わになり、水神が頬を染める。
「おお。可愛いな。それが主の正体か。どうじゃ? 私の妾になっては?」
「水神様。今はそれどころではありません。神やその使徒たちがこの場所に手を出せないので人間を使って国に浸透していたのです。僕は脳を弄られて自由を失っていました」
「そうか。早い反撃だったな。ならば、早いところ奴らを攻め落とさなくてはな。だが、まだ時間はかかるぞ」
「分かっています。ですが、それとは別に、このアーシャさんの家族を神の攻撃から守っていただけないでしょうか?」
「ふむ。私の国に滞在している限りは神も直接手を出すことはできないが、それとは別のことか?」
そこに私が話に入る。
「ここにいる限りは、同時に私の家族も狙われているようなものです。ですが、私も狙われている以上、ここから出ることもできません。神から身を隠したり防御であったり、つまるところ、神に対するあらゆる対抗手段を得たいのです」
「すぐに答えは出せない。主が信頼できる相手とも限らんからな」
水神はしばらく考えた様子だ。
「であれば、取引をしましょう。こちらが差し出せるものと、そちらが差し出せるものを一つ。どうやらそちらは何か時間がかかるものを作るのに困っている様子。欲しいものなどはありませんか?」
「そういう話であれば魔力だな。それと材料。ここでは産出されないものが多くてな。取って来てくれるか?」
「はい。構いませんよ。ですが、それは私には危険な旅となるでしょう。少なくとも、非力な私でも神の追跡から逃れる術はいただきたいものです」
「であれば、気配遮断の魔術を教えよう。周りの視覚や聴覚を操り自身の姿を消すことができる。これならば逃げることも隠れることも簡単であろう」
「私は既に姿を透明にする魔術は修得しているので、何か他のものをいただけませんか?」
「姿を透明にしたくらいでは追跡は躱せんよ」
「そうですか、。分かりました。では、欲しい材料とは?」
「ここにリストを記しておいた」
水神がどこからともなくリストを召喚し、私に見せる。
リストがあまりにも長くて床に垂れままの状態だ。
ゆうに10メートルはある。
「これを集めるのは私一人では大変ですね」
「おや、始める前から根を上げるか」
「いえ。違いますよ。効率の良い方法を思いついたというだけですから」
だが、頭を弄られて苦しむアーサーの姿は、とても正視できるものではない。思わず胃の内容物を吐き出しそうになる。
「さて、これで、神経の縫合は終わりだ。人格は戻せたが、記憶を完全に取り戻すには残りの脳を神から取り返す必要がある」
「それで、終わりじゃないぞ。まだ次がある」
なんの理由があるわけではないが、私はサドを蹴り上げ、次の被験者を治させる。
蹴られたサドは、恨めしそうな目をして私を睨んできたが、私はそんなサドをさらに蹴りつけて従順になるよう躾けていく。
アーサーのことはというと、まだ、頭が痛むようで、完全に調子が戻ったようではないようだ。
「アーシャさん。ありがとうございます。おかげで自由になれました」
「無理をするな。今は私が周りを見ておく。だが、調子が戻ったら私の家族を守るように努めてくれ。私はとてもじゃないが、本格的に戦って相手を刺激したくはない。私は家族さえ無事でいてくれればいい。私が戦うのは最後の最後だ」
「えっと……。分かりました。あの、僕の仲間は無事ですか?」
「さあな。今はお前たちの国は私の武者たちが占拠している。抵抗してきた奴は全員鳥になったはずだが、殺してはいないはずだ」
「とにかくすぐに水神様のところにいきましょう。このことを報告する必要があります……」
そう言ってアーサーは立ち上がろうとするが、よろめいて地面に倒れた。
「それは体力的なものか? それとも脳が足りないせいか?」
「たぶん、両方です……」
「仕方ない。私もついていく」
「お手数をおかけします……」
アーサーを武者に担がせ、城の大広間まで連れて行く。そこにある魔法陣からどこかへと転送されるが、
「一面真っ白だな」
「水神様の好みですから」
転送された先は、どこかの施設の中のようだが、一面が大理石で、どことなくギリシャ神話の中にいるようだった。
特に流線形の柱が特徴的で、それが、ここを、神殿らしくしているのかもしれない。
アーサーに指示をされながら進み、その先の大きな扉を開くと、玉座のような大きな荘厳な装飾の施されたソファに寝そべった女性らしき姿を見つけた。
「ノックもなしか」
「すみません。急いでいたもので。国が、既に侵略を受けていました」
「やはりか」
立ち上がる水神らしき女性は、着ている白いローブをはだけさせてアーサーに寄る。
なんとも年の若い胸の大きな女性だ。
「して、その女性は?」
「この人はアーシャと言います。僕を助けてくれました」
「そうか。実に美しい顔立ちだが、あまりにも妙だ。それほど美しい顔立ちがいるはずもない。姿を見せよ」
水神が指をふると、どこからともなく空間に術式が発動し、私の姿が解かれる。
幼い姿の私が露わになり、水神が頬を染める。
「おお。可愛いな。それが主の正体か。どうじゃ? 私の妾になっては?」
「水神様。今はそれどころではありません。神やその使徒たちがこの場所に手を出せないので人間を使って国に浸透していたのです。僕は脳を弄られて自由を失っていました」
「そうか。早い反撃だったな。ならば、早いところ奴らを攻め落とさなくてはな。だが、まだ時間はかかるぞ」
「分かっています。ですが、それとは別に、このアーシャさんの家族を神の攻撃から守っていただけないでしょうか?」
「ふむ。私の国に滞在している限りは神も直接手を出すことはできないが、それとは別のことか?」
そこに私が話に入る。
「ここにいる限りは、同時に私の家族も狙われているようなものです。ですが、私も狙われている以上、ここから出ることもできません。神から身を隠したり防御であったり、つまるところ、神に対するあらゆる対抗手段を得たいのです」
「すぐに答えは出せない。主が信頼できる相手とも限らんからな」
水神はしばらく考えた様子だ。
「であれば、取引をしましょう。こちらが差し出せるものと、そちらが差し出せるものを一つ。どうやらそちらは何か時間がかかるものを作るのに困っている様子。欲しいものなどはありませんか?」
「そういう話であれば魔力だな。それと材料。ここでは産出されないものが多くてな。取って来てくれるか?」
「はい。構いませんよ。ですが、それは私には危険な旅となるでしょう。少なくとも、非力な私でも神の追跡から逃れる術はいただきたいものです」
「であれば、気配遮断の魔術を教えよう。周りの視覚や聴覚を操り自身の姿を消すことができる。これならば逃げることも隠れることも簡単であろう」
「私は既に姿を透明にする魔術は修得しているので、何か他のものをいただけませんか?」
「姿を透明にしたくらいでは追跡は躱せんよ」
「そうですか、。分かりました。では、欲しい材料とは?」
「ここにリストを記しておいた」
水神がどこからともなくリストを召喚し、私に見せる。
リストがあまりにも長くて床に垂れままの状態だ。
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