奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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 「どうしたんだ?」

 小丘しょうきゅうから子ども達の遊ぶ声を聞きながら見ていると、隣に玲於れおがやって来た。

 「ん? 別に何もないよ」

 空杜くうとが真横をポンポンと叩くと、玲於もあぐらをかいて座る。

 「俺が来た時より、だいぶ寂しくなったな。誰かさんの頑張りのおかげで」
 「俺の力、すごいでしょ?」
 「ああ、まさかこんなに早く全員の里親を見つけるとは思わなかったよ」
 「全員じゃないだろ?」

 隣を見ると、玲於は気まずそうに視線を逸らす。

 「いい加減、相手の希望を教えてくれよ」
 「だから、俺は空杜の傍に居たいって言ってんじゃん」
 「無理」

 拗ねたように見つめられても困惑する。俺だって、せっかく距離が縮まったばかりなのに、離れたくない。もっと一緒に居たい。家族だけでなく、初めてノア以外に出来た友達でもあるのに――。

 「一緒にいようよ」
 「だから、無理だって」
 「無理じゃない」
 「無理!」

 声を荒げられ、空杜はハッとして辺りを見回す。まだここにいる子ども達が、驚いたように視線を向けていた。空杜は両手を合わせ、小さく「ごめんね」と会釈する。視線は散り散りになったが、胸のもやもやは消えない。

 「…なんでそんなに否定すんだよ」

 どこか怒りを含む声。

 「逆に聞きたい。なんでそこまで一緒に居ようとするわけ?」
 「そりゃ、空杜が好きだからだろ」
 「俺も玲於が好きだよ。でも、離れることは出来る」

 空杜は逃げるようにその場を去ろうとした。しかし腕が後ろに引かれ、止められる。

 「最後に聞く。俺の側にいてくれ」
 「…二日以内に希望を教えて。じゃないと、俺が勝手に決めるからね」

 振り払って走る空杜。部屋に飛び込み、扉を閉め、鍵をかけて座り込む。

 本当は怖い。前世のように一人になることが。名前を共有し、繋がりを作っても、孤独は消えない。

 例え牢屋行きにならずとも、生きられないだろう。裏切りを両親が知れば、きっと命はない。それに、誰も巻き込みたくない。

 「…地獄行きだよな」

 死後の世界があるなら、そこしか行き場はないと胸が痛む。

 幼い頃、助けを求める子ども達を何度も見捨てた罪。奴隷商人への報復も、自らの手で行ってきた罪。殺人は犯していないが、身体の一部を切り落とすこともあった――偽装マントを纏い、誰にも気づかれぬように。

 …なんで、こんな家業の息子として転生したんだろう。

 「………助けて…」

 その呟きは、闇の中に消えた。

 ⸻

 深夜、玲於はそっと部屋を抜け、防衛壁の側へ向かう。三日に一度、部下から報告を受けるためだ。

 右手を擦り、痛みに眉をしかめる。空杜に振り払われた手の痛みもあったが、それより胸に走る鈍い痛みが心を支配する。

 「何でだよ…」

 傍に置かれるはずだったのに拒まれた。今日、友人としてなのか恋愛感情なのか分からないが、彼から「好き」という言葉をもらったにも関わらず――。

 玲於は、一目惚れだった。空杜の顔を見た瞬間、全身に衝撃が走った。透明感ある白い肌、大きな瞳、中性的な顔立ち。優しく清潔感のある雰囲気――その全てに惹かれた。

 初対面の日、転ばないよう支えたときに見せた笑顔は無邪気で、愛らしく、心を奪われた。

 奴隷として連れて来られた自分にも、優しく接してくれた。容姿だけでなく内面にも魅力を感じた。つまり、空杜の全てが好きなのだ。

 友人として好かれている自信はあった。だから、里親の希望を聞かれた時、「側にいたい」と答えた――だが、毎回断られたのだ。

 ⸻

 遠くの人影に視線を向け、歩みを早める。見覚えのあるシルエットが膝をつき、頭を下げて待っている。

 目の前に立つと、玲於は低く威厳ある声で告げた。

 「顔を上げろ」
 「はい、失礼致します」

 顔を上げた者の頬には剣で斬られた傷がある。

 「調査の結果は?」
 「はい。現当主以外は黒。敵国に子ども達を奴隷として売ったのはここの者です。数十年に渡り多額の資金と交換していました。下級者を脅し、武器を作らせ横流しも。脱税の形跡もあります。現当主は子どもの代わりに資金を渡していたそうです。子どもを奴隷として扱う痕跡はありませんが、過去に売った貴族や野党には報復していたことが判明しました」

 耳を疑う言葉。

 「最後のはどういうことだ?」
 「顔を隠せるマントを着用し、人気のない場所で報復。騎士に密告することもありますが、現当主も手を染めることが少なくありません。家業破産、名誉暴落、身体の一部切断もあったようです」

 信じられない。玲於が知る彼は、力はあっても手を汚さぬ人物だった。

 だが、報復で奴隷を売る輩は怯え減っていった。動機は理解できた。

 「だからか…」

 傍に置かない理由が腑に落ちた。自分を巻き込みたくなかったのだ。裏切り者として両親や敵国だけでなく、報復相手からも狙われる。誰も近づけられない。

 本人から聞いたわけではないが、二週間観察して確信していた。

 玲於は妖しい笑みを浮かべ、指示を待つ男に告げた。

 「明日の朝、7時に決行する」
 「はっ!」

 玲於は命じると、歩みを翻し、心に余裕を感じた。

 「空杜、逃がさないよ」

 元々逃す気はなかったが、今回の件で無理にでも連れて行く決意を固めた。守るためなら、誘拐でも何でも――そう、玲於は心に誓った。

 そして翌朝、作戦は実行されたのだった。
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