奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

28

俺は、ただいま壁ドンをされている。しかも、あのブレアンにだ。

いや、何で?俺はただ城の中を散策していただけなのに…。彼女とばったり会った瞬間、無理矢理、部屋の中に連れて行かれた。女性に手をあげるわけにも行かないので、ただ黙って部屋の中に入ると顔の横に両手を叩きつけられた。

「…あの、何でしょうか?」

彼女はキッと睨んでくる。

「貴方のせいで陛下の敵が増えてしまったじゃない!」
「敵、ですか?」

眉間に皺を寄せると、ブレアンは呆れたように両手を離して天井に向ける。

「ええ、ただでさえ、前皇帝を殺して批判を買っているのに、敵国の騎士を連れてくるなんて……」

そんなこと言われても正直困る。

俺だって、来なくても済んだなら来たくなかったのに…

「敵って誰でしょうか?」
「前皇帝の支持者。」

ブレアンは付いてくるように指示すると、部屋の中央に置かれたソファーに座った。どうやら、この部屋は彼女が滞在する場所のようだった。

「お願いだから、陛下の邪魔になるようなことはしないで。」
「する気はありませんよ。」
「そう。なら、今後とも一切しないで。」

ブレアンは手をヒラヒラと振って、帰るように促してくる。だが、俺は動こうとしなかった。

「何故、敵を殺さないのですか?」

彼女は顔を顰めた。でも、俺もこの言葉が出てきたことに驚いた。

「いえ、違います。何故、追放しないのですか?邪魔ならその方が早いでしょう。」
「出来ないのよ。それに、陛下は優しいの。」
「優しい?」

ブレアンは悲しそうに笑う。

「ええ。陛下が前皇帝を殺したのだってラドリエン帝国のためだって有名ですもの。」
「教えて頂けますか?あと、俺のことは警戒しなくても大丈夫ですよ。なんだかんだ言って陛下のことは好きなんで。」

少しの間沈默が包むが、彼女は姿勢を崩して微笑む。

「そうね。貴方は信頼されているのが分かるわ。それに、貴方だって同じ被害者だものね……」

彼女はそれからこの帝国で起こったことを教えてくれた。

♦︎ 

ラドリエン帝国。この帝国の皇帝は軍事力を発展させ、力による権力を何代にも渡り、重視してきた。そして、数世代前の皇帝が更なる力が欲しいという欲をかき、ある禁忌を犯した。彼は、悪魔を召喚したのだ。それから、この帝国は壊れ始めた。

皇帝は国民達を実験に悪魔の研究を始めた。悪魔は乗り気だった。彼にとっては人間の欲望や悲しみ、不幸などが甘美になるからだ。それから、悪魔は何世代の皇帝とも契約をし続けた。もちろん、前皇帝も権威を継ぐ際にしたそうだ。

ただ、前皇帝は他の者とは違った。彼はこれまでの中で1番欲深い人間で残忍だった。彼は自分の家族さえも実験道具として扱ったのだ。

悪魔は喜んだ。これまでとは違い自身の欲望だけを満たそうと動く者に出会えたのだから。だから、気が良くなった悪魔は前皇帝の願いを叶えようとした。

『悪魔の王の血が欲しい。』
『よかろう。お前は俺を特に楽しませてくれたからな。俺は死ぬだろうが、王の血はくれてやろう。』

そうして、悪魔は王の血を皇帝に渡した。王相手に傷付けることも逃げ切ることさえも奇跡なのだが、それをこの悪魔はやり切ったのだ。だが、王にやられた傷によって悪魔は消滅をした。

皇帝は悩んだ。あの悪魔が持ってきた血は2人分ほどしかなかったからだ。皇帝は試しに2番目に優秀な息子に血を打った。彼は、血が中に入った瞬間苦しみ出してそのまま亡くなってしまったそうだ。

実の弟で誰よりも可愛がっていた存在を突然奪われた兄は悲しんだ。何事もやる気が起きなくて、部屋に引きこもり続けたそうだ。

それから、10年経った頃。皇帝になるための勉強をしない息子に痺れを切らした父親は彼を外に放り出した。丁度、奴隷商に新たな人員を送り込もうとしていたので都合も良かったのだろう。そこで、人を従える力などを学べばいいと考えたそうだ。

それから1年後、息子は突然帰ってきた。皇帝は驚いたがようやく跡を継ぐ気になったので喜んだそうだ。だから、皇帝となるための知識を叩き込んだ。そして、何も教えることがなくなった瞬間、息子は父親を殺した。それが今の皇帝、イーサン・ラドリエンだ。

♦︎

「陛下は、罪を問うための偽の事実すら作らないのです。前皇帝の支持者も悪魔の血を入れられた被害者であるため、同情されているのでしょう。外に出た時に、我ら人魔の扱いも見たのだと思います。だから、人間しかいない外の国に追放せずにいるのです。」
「なら、何故牢獄に入れないのですか?」
「彼らはこれまで通り力で他国を押さえつけていこうと考えているだけで何も手は汚していません。自分の意に削ぐわないからと言って、罪もない人を牢獄に入れるのは独裁者の始まりです。陛下はそんな帝国を変えるために、即位されたのですから……」

やはり、人を引っ張るのは想像も出来ないほど大変なことなのだろうと、改めて感じた。俺は説明をしてくれた彼女にお礼の言葉を述べると、部屋から出た。

そして、そのまま稽古場に向かうために歩いた。何故か、心の中はざわざわと落ち着かない。ここ最近、何かがおかしいのだ。

ブレアンの言葉を思い出す。彼女はイーサンが優しいから何もしないと言った。でも、彼の求める国民の幸せを願う帝国を作りたいなら、彼らは邪魔な考えの持ち主だ。

「………殺しちゃえばいいのに。」

先程とは違い、しっくりときたこの感情に気付くとまた胸が苦しくなった。そして、この時瞳の色が濃くなっていたことにさえも気付かなかった。

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