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奴隷商人と皇太子
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空杜が眠りに付き数分が経った頃、彼の目が再び開いた。でも、その瞳は見慣れた色ではなかった。不気味なのに神秘的な印象をもたらす紫色に変わっていたのだ。
『ふむ。』
彼はベッドから身体を起こすと左右の手を握り締めて動作の確認をしていた。いつもの可愛らしさを含んだ表情ではなく、冷たい雰囲気を纏わせている。
「…君が悪魔の王か?」
『ああ、お前が玲於か。』
「その名前は空杜しか呼ばないで欲しいな。」
組んでいた腕を解いて、壁から背を離す。月明かりによって照らされた部屋は明るくも暗闇に包まれているともいえない。
『この身体は空杜のだがな。まあ、俺が人の名前など呼ぶことはないからいいさ。』
空杜の身体に乗り移った王はベッドから降りると俺の横を通り過ぎて歩き出す。まるでこれまでもこの身体で生活をしてきたというような流暢な動作に複雑な思いが心を支配する。
彼らしくない堂々とした振る舞いで大好きな彼の面影を薄れさせていく。それが自分の心をざわめかせ、彼が本当に自分の元に戻ってきてくれるのか不安になる。
『お前も分かりやすいな。』
こちらに視線を向けて不敵に笑う王。
そして、瞬きをした瞬間に目の前に姿を現して、俺の顎を掴んでくる。グイッと引っ張られると同時に目の前に紫色の瞳が細められる。
『そんなに俺が不快か?』
「当たり前だろ。早く、空杜を返せ。」
『ははっ、俺を恐れないのか。面白いな。』
白い歯を見せて愉快そうに喉を鳴らす。
そして、片手を頭の後ろに持ってくると力強い手に力によって引っ張られる。突然のことで抵抗が出来なかった。唇には柔らかい感触がしており、思わず固まってしまう。
空杜ではない。でも、身体は彼のもので突き返すことが出来なかった。
ピリッとした痛みを唇に感じると王がようやく距離を置いた。指で拭ってみると血が微かに付いており、やはり噛まれたのだと理解した。
『複雑そうな顔だな。』
「これが、空杜なら世界一嬉しい出来事になったんですけどね。」
『俺に反感するのはオマエとコイツくらいだな。』
「さすが俺の愛する人だ。」
皮肉を込めた言葉にニッコリとした笑みで返してやると、王は両手を上げて呆れたように首を振る。
彼は俺の反応にも慣れてきたのか背中を向けてじっと窓から見える外の風景に視線を向け始めた。ようやく彼の視線から外れたことで、強張っていた体の力が抜ける。
正直、この場に立っていることがしんどかった。彼が醸し出す独特なオーラに心は落ち着かず、地面に体をひれ伏せたい感覚に駆られる。
これまでも名高る者達にあってきたが、これほど高貴で恐怖を感じるものを味わったことはない。
『ほお…まさか、これほど俺の眷属の血が広まっているとはな。』
「回収できそうか?」
『それは問題ない。まあ、何回かに分けて奪う必要はありそうだな。一度に力を奪うとコイツの意識が戻らんことになる。』
意外だった…。まさか、本当に空杜を返してくれる意志を持っているとは思ってもみなかった。
『オマエ、そんなに感情豊かで皇帝としてやっていけるのか?』
「心外だな。これでも空杜以外にはポーカーフェイスで有名なんだけど。」
『俺はコイツではないと言うくせに態度は変えんのか。』
「その姿を見ると勝手に気が抜けるんだよ…」
『ほー、案外可愛らしい一面があるのだな。褒美としてキスをしてもいいぞ?』
「はあ?!」
『どうした?俺が許可してるんだぞ?』
「結構です!俺は別に空杜の容姿だけに惹かれた男ではないんです!」
瞳の色以外、一緒だからと言ってこうも性格が似つかないと、別人に見えてきてしまう。まるで双子の片割れみたいだ。
『まあ、いいさ。それよりも早くここの主を連れて来い。』
偉そうにソファーに座ると片手を振って催促をしてくる。その姿に溜め息が漏れるが不満は押し殺して、イーサンを呼びに向かった。
イーサンだけでなく、ベルク、ブレアン、ノア、そして父と母、空杜の幼馴染であるノアまでもが悪魔の王がいる部屋に連いてきた。
『ふむ。』
彼はベッドから身体を起こすと左右の手を握り締めて動作の確認をしていた。いつもの可愛らしさを含んだ表情ではなく、冷たい雰囲気を纏わせている。
「…君が悪魔の王か?」
『ああ、お前が玲於か。』
「その名前は空杜しか呼ばないで欲しいな。」
組んでいた腕を解いて、壁から背を離す。月明かりによって照らされた部屋は明るくも暗闇に包まれているともいえない。
『この身体は空杜のだがな。まあ、俺が人の名前など呼ぶことはないからいいさ。』
空杜の身体に乗り移った王はベッドから降りると俺の横を通り過ぎて歩き出す。まるでこれまでもこの身体で生活をしてきたというような流暢な動作に複雑な思いが心を支配する。
彼らしくない堂々とした振る舞いで大好きな彼の面影を薄れさせていく。それが自分の心をざわめかせ、彼が本当に自分の元に戻ってきてくれるのか不安になる。
『お前も分かりやすいな。』
こちらに視線を向けて不敵に笑う王。
そして、瞬きをした瞬間に目の前に姿を現して、俺の顎を掴んでくる。グイッと引っ張られると同時に目の前に紫色の瞳が細められる。
『そんなに俺が不快か?』
「当たり前だろ。早く、空杜を返せ。」
『ははっ、俺を恐れないのか。面白いな。』
白い歯を見せて愉快そうに喉を鳴らす。
そして、片手を頭の後ろに持ってくると力強い手に力によって引っ張られる。突然のことで抵抗が出来なかった。唇には柔らかい感触がしており、思わず固まってしまう。
空杜ではない。でも、身体は彼のもので突き返すことが出来なかった。
ピリッとした痛みを唇に感じると王がようやく距離を置いた。指で拭ってみると血が微かに付いており、やはり噛まれたのだと理解した。
『複雑そうな顔だな。』
「これが、空杜なら世界一嬉しい出来事になったんですけどね。」
『俺に反感するのはオマエとコイツくらいだな。』
「さすが俺の愛する人だ。」
皮肉を込めた言葉にニッコリとした笑みで返してやると、王は両手を上げて呆れたように首を振る。
彼は俺の反応にも慣れてきたのか背中を向けてじっと窓から見える外の風景に視線を向け始めた。ようやく彼の視線から外れたことで、強張っていた体の力が抜ける。
正直、この場に立っていることがしんどかった。彼が醸し出す独特なオーラに心は落ち着かず、地面に体をひれ伏せたい感覚に駆られる。
これまでも名高る者達にあってきたが、これほど高貴で恐怖を感じるものを味わったことはない。
『ほお…まさか、これほど俺の眷属の血が広まっているとはな。』
「回収できそうか?」
『それは問題ない。まあ、何回かに分けて奪う必要はありそうだな。一度に力を奪うとコイツの意識が戻らんことになる。』
意外だった…。まさか、本当に空杜を返してくれる意志を持っているとは思ってもみなかった。
『オマエ、そんなに感情豊かで皇帝としてやっていけるのか?』
「心外だな。これでも空杜以外にはポーカーフェイスで有名なんだけど。」
『俺はコイツではないと言うくせに態度は変えんのか。』
「その姿を見ると勝手に気が抜けるんだよ…」
『ほー、案外可愛らしい一面があるのだな。褒美としてキスをしてもいいぞ?』
「はあ?!」
『どうした?俺が許可してるんだぞ?』
「結構です!俺は別に空杜の容姿だけに惹かれた男ではないんです!」
瞳の色以外、一緒だからと言ってこうも性格が似つかないと、別人に見えてきてしまう。まるで双子の片割れみたいだ。
『まあ、いいさ。それよりも早くここの主を連れて来い。』
偉そうにソファーに座ると片手を振って催促をしてくる。その姿に溜め息が漏れるが不満は押し殺して、イーサンを呼びに向かった。
イーサンだけでなく、ベルク、ブレアン、ノア、そして父と母、空杜の幼馴染であるノアまでもが悪魔の王がいる部屋に連いてきた。
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