奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される

葉空

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奴隷商人と皇太子

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それから2日が経った。

上空には王が飛んでおり、残りの人魔の力を回収している。その姿は悪魔の王と言われて当然だというものが滲み出ている。

じっとその姿を見守っていると、全ての力を回収した王が舞い降りてきた。目の前にある窓から部屋の中に入ってくると、不思議なことに何も恐怖を感じなかった。

『オマエは本当に逃げないのだな。他の者はとっくに恐怖から震え上がり限界を迎えておるのに。』
「空杜を、1人にはしたくないからね。」

そう言うと、王は目を細める。

『バカだな。』
「バカだからな。」

王は翼を消すと窓際に座った。なんだがいつもと違う雰囲気を出しており、不思議に思う。

『俺はな、力を奪うと同時にその者達の記憶も共有されるんだ。その場合は記憶を奪うわけではないから負の力は貰えんがな。』
「…何か感化されたのか?」
『どうだろうな。…人のために動き、自分を犠牲にする姿は不思議で仕方がない。自ら不幸の道に進むとは理解が出来ない。』

当の本人も気持ちの整理に追いついていないようだ。流石の始祖でもこれほどの力を奪うのは初めてであるため、混乱しているのかもしれない。

『なあ、1つゲームをしてやろうか?』
「ゲーム?」
『ああ、コイツの今世の記憶を消すか消さないかを賭けてな。』
「どうすればいい?!」

食い気味に近付くとカイロは妖艶な笑みを浮かべる。

『俺はコイツから出て、魔界に戻る。オマエがコイツ中に入って1日以内に呼び起こせたなら記憶は消さないでいてやる。普通なら5日程度寝た状態でいるだろうからな。』
「分かった。」
『即答か。オマエもコイツの中で漂うことになり、意識が身体に戻らんかもしれんのに。』

王は地面に足をつけて、ベッドがある方に足を向ける。

「別に良いさ。空杜にとって、今世の記憶は確かに辛いものもあるだろうが、忘れたくもない記憶もあるはずだ。」

『やはり、人間は馬鹿だな。でも、退屈しなくて面白い。』

王はベッドに座ると、ニヤリと笑う、

『ゲームは冗談だ。』
「はあ?!」
『それじゃーな。』

慌てて駆け寄るが、既に空杜の身体から感じた嫌な感覚は消え失せていた。王が空杜の中から消えたことが分かったが、心の中は不快な感情が残っていた。

せっかく、記憶を奪われずに済むと思ったのに…

そっと頬を撫でると少し冷たかった。俺は空杜の身体を持ち上げると一緒に布団の中に入った。空杜の身体を温めるために力無い身体を抱き寄せて足を絡ませた。

不安で仕方がなかった。突然、わけの分からない事態に巻き込まれ、淡々と進んでいく時間が怖かった。今でも何故、こうなったのかよく分かっていない。

「空杜…アリマ…、ソラ…ルーカス……」

全ての名前を持つ彼は人形のようにまるで動かない。ただ心臓の音だけが安心をくれる。

いつも自分に安らぎや胸の高鳴りをくれる彼に会いたい。可愛らしい笑顔を見せて欲しいし、少し生意気な態度を見せて欲しい。

「ルーカス。」

愛しい者の名前を呼んでも返信がない。それが酷く心を揺さぶった。何気に王であろうが、空杜が動いている姿に安心していたのだと思い知る。

「っ、早く戻ってこい。」

そう切なる願いがどんどん膨れて苦しくなる。手に込めた力も次第に強くなり、彼との隙間を埋めていく。

「ルーカスっ…」
「……っ…」

…確かに声が微かに聞こえた気がした。

驚いて顔を覗き込むが、彼の顔は変わらず目を瞑っていた。それがまた心を落胆させていく。目を開けない彼を見ているのが辛くて、彼の顔を肩に埋めるように引き寄せると、1つ大きく呼吸をした。

王は5日は眠ったままだと言っていた。起きることを確証されたのは有難いが、記憶のない彼がどのように変わってしまうのか分からなくて、少し怖かった。

せっかく、結婚できると思ったのに……

そう考えると、胸が重くなる。もちろん、空杜が生きていることは何よりも嬉しい。でも、1つ叶うとまた新たな願望が芽生えてしまうのだ。

「っ、苦し…」
「え?!」

考え込んでいるとくぐもった声がまた聞こえた。今度は確実に。

慌てて腕を緩めてやると、黒い瞳をした空杜がいた。紅い瞳でも、青い瞳でも、紫の瞳でもない。これか彼の本来の色なのかとじっと見つめてしまう。

「っ、何?」

意識がはっきりしてない様子のまま眉を寄せ、少し不快そうな表情に胸が痛む。でも、それ以上に自分の姿を映し出してくれる彼が嬉しかった。

「おかえり。」

そう溢すと、彼は驚いたような目を見開く。

この驚きはどっちなのだろうか…知らない相手がいることに驚いているのか、それとも俺のことがわかって驚いているのか…。

心臓がうるさいくらいに高鳴っているが、空杜を混乱させないために平静を装っていると、そっと頬に片手を伸ばされた。

「夢、じゃない?」

空杜はそう呟くと今度は両手を首に回して力一杯に抱き締めて来る。それに驚いて固まってしまう。

だって、これはまるで…

「玲於っ…」

「記憶、があるのか?」

肩が濡れるのを感じながら、首が静かに縦に振られる。その瞬間、我慢していた糸が切れたように自分よりも小さな身体を抱き締めた。記憶がなければ混乱すると思い、いろいろと我慢していたのだ。

「玲於、泣かないで…」

泣かないで…?そう言われて初めて自分が泣いていたことに気付いた。

「っ、それならルーカスもだろ?」

「俺は…っ、いいの!」

「なら、俺も許せ。」

背中を撫でる手が気持ち良くて、嬉しくて、また勝手に涙が伝っていく。

ようやく会いたかった彼に会えた。その安堵感やこれまでの心細さが途切れたことで感情のコントロールが出来なかった。

おかえり、その言葉を彼に伝えられたことがただ嬉しかった。
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