動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅

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 この世界に来て数日経ったが、俺は何不自由なく暮らせていた。

 神様が付けた特典の一つだろうか。
 森の中での生活は不便なく過ごせた。
 これまでキャンプさえしたことがないが、外で生活する基礎知識のようなものは頭に入っていたのだ。
 ちなみに建築知識や料理の知識といった様々なものも叩き込まれてたりする。

 だから、今もお腹が空いて腹の足しになりそうなものを森の中で集めている途中だった。

「ん?」

 俺は背後を見た。
 ここから100mほど離れた所から嫌な気配がしたからだ。
 落ち着かない気配。
 ルカにはその気配が何を意味するのか分かっていた。

 ルカは手にしていた果物を地面に落とすと走り出した。
 息を切らしながらも、どんどん近付いて来る気配に気持ちは揺さぶられる。

「ーっ、いた!」

 気配の中心には冷や汗を流す1人の青年が肩を押さえながら、木にもたれていた。
 彼の片腕は無く、青年の血でそこら中が赤く染まっていた。
 出血多量だったが、まだ息があることを視認したルカは彼の傍に座り込み、治療を開始した。
 彼が押さえる箇所の上に、両手をかざすと直ちに魔法をかける。

「ヒール」

 その瞬間、ルカの両手からは淡い黄色の光が溢れ出す。
 温かい光が彼の傷口に集まり輝き出すと、次第に光が伸びていき腕の形を作る。
 次第に光は消え、かわりに彼の肌色の腕が現れる。

「ーーっ…」

 ゆっくりと開かれた瞼の下には獣人の特徴である黄色の瞳が姿を現した。
 彼は自分の腕を見ると眼を見開き、次に視線をこちらに向けてきた。

「大丈夫でしょうか?」

 腕の状態を確認したいが、残念ながら触れないため本人に聞くしかない。
 だが、自分の注意を無駄にするように、狼の耳を付けた獣人は腕を掴んできた。

「お前、何をした?」

 咄嗟のことで反応できなかった。
 慌てて手を離そうとするが、彼の力が強く上手くいかない。

「…っ、すみません、手を離して頂けないでしょうか?」

 そう口にしたルカの願いとは虚しく彼は警戒したように手に力を込めてきた。

 掴まれた箇所は赤くなり蕁麻疹がどんどん酷くなっていく。
 それを見てルカは本格的に焦りが生じた。
 まさかここまでアレルギーが酷いとは思わなかったのだ。

 段々と視界がぼやけ、耳も聞き取れなくなっていく。
 体にも力が入りにくくなり、ついに意識が朦朧とし始めてしまった。
 もう自分でもどうしようも出来ないレベルに達したルカの身体は前に倒れた。

 重力に従うように地面に向かっていく身体。
 衝撃に備える手段もなく、気持ちだけ身構えたが、ルカの想像していた痛みはやってこなかった。
 ルカの身体は逞しい腕によって支えられていたからだ。

 ぼやける視界の中、必死に眼を凝らすと翡翠色の瞳と目があった。
 生まれて初めて見る色に胸が高鳴る。
 その瞳をもっと見ていたいのに、意思とは反対に瞼は下がり出す。

「ーすみま、せん…」

 何とか声を発したがそこで、ルカの意識は途絶えた。

 ♦︎

 血の匂いが鼻に届いたため、急いでそこに向かったら既に治療を終えたらしい場面に辿り着いた。
 まさか、自分以外に治療を行える者が存在するとは思てもみなかった。
 しかも、その者は獣の耳が生えていなかった。

 警戒により気配を消して彼らに近付いていくと、耳のない男の様子がおかしいことに気付く。
 どこか震えており、身体は少しふらついている。
 訝しげに見ていると、彼の身体が前に倒れたので慌てて腕をのばした。

 視線が合うと彼は驚いたように瞳を少し開かせたが、すぐに気を失ってしまった。
 彼の身体を抱き寄せて見ると、赤い斑点のようなものが腕を中心に浮かび上がっている。

 俺は視線を目の前の男に向ける。
 すると、狼の獣人は身体を大きく震わせ、両手を地面につけて頭を下げてきた。

「竜神様!」

「畏まらなくて大丈夫だ」

 そう口にすると彼は戸惑いながらも、顔を上げる。

「この者は誰だ?」

「……俺にもよく分かりません。ただ、俺の片腕は獣に噛みちぎられて、先程まで意識が混濁するほどの重傷でした。でも、急に痛みが消えて目を覚ましたら治っていたのです。それで、その男が目の前にいました。」

 腕が治った?それは誠に信じられないことだった。
 俺の回復効果がある血をあげても、腕が治ることはない。
 ただ、欠けたものはそのままで治るだけだ。

 でも、目の前の男の服は肩を獣に噛まれたように千切れ、血液が付着していた。
 それに、目の前の獣人が嘘を付いているようにはとても思えなかった。

「……なるほどな」

 腕の中で気を失っている男を横に抱え直して持ち上げると、驚くほど軽かった。
 病気を患っているのかと心配になるレベルで、思わず眉間に皺が寄ってしまう。

「ーあの、…いえ、やっぱり何もないです。」

 思い出したかのように声上げた獣人だっが、恐縮によってか言葉を取り下げた。

「何だ?何でも良いから言ってみなさい。」

 獣人は手の中にいる男をチラリと見ると口を開いた。

「もしかしたら、その者が〈女神〉と呼ばれる者かもしれません。」

「女神?」

「はい。近頃、軽傷から重体となった森の獣人達が、何者かによって無償で治療され完治していることが噂になり始めているのです。その者のことを女神と呼ばれてて」

「確かに、それは女神」

 力なく倒れるこの男の正体が気になったが、今は彼を早く休ませる場所に連れて行かなければならないと思った。
 このまま獣人から話を聞くよりは、当事者の方が詳しい話も聞けるだろうし。

 俺は身体を翻すとこの者の匂いを頼りに足を進めた。
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