動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

（5）

「痛い…母さん、痛いよ！」

「っ…街に帰るまで頑張って！そしたら、すぐに治療して貰えるから！」

「痛い！足が痛い！」

鹿人の親子が崖の麓で泣き叫んでいる。小鹿が崖を下る際に着地を失敗したことで、足が曲がるはずのない方向に向いている。

それによって、小鹿は泣き出し、母親はパニックに陥りながらも必死に宥めている。

「っ、もう嫌だ、痛………くない？」

「え？」

母親が背後を見ると、小鹿は瞬きを繰り返しながら足を見る。母親も辿るように見ると、驚いた声を漏らした。

「え、何で？」

小鹿を地面にそっと下ろして身体を確認すると、まるで何ともないように歩き出す。2人は何が起きたのか、分からなかった。でも、最近噂になっている者のお陰だろうと思い、何度もお礼の言葉を口にした。

ルカはそれを少し離れた所で見て、そっと微笑んだ。2人には自分の姿が見えていない。まず、今の自分に気付ける者は極わずかだろう。効果時間は短いがそういう魔法を使った。

親子の姿を見ながらルカは、良かったと思うと同時に羨ましいと思った。

血の繋がり。決して切れることが出来ない繋がり。

ルカは2人から顔を背けるように足を進めた。

そして、最近住処として使っている洞窟の中に入ると、魔法を解く。

「お帰り。」

「ただいま。」

じっとこちらを見つめる２つの目は白く光っている。その瞳に近付くごとに周囲は明るくなり出す。

「おいで。」

両手を広げられてそこに倒れ込むように身体を倒すと筋肉質な腕が抱きとめてくれる。

「また、無理したのか。」

「してない…」

「なら、今日は何人治療してきたんだよ。」

コウモリの獣人は溜息を吐くと首にルカの片腕を回すと、支えて歩き出す。彼はこの洞窟で倒れているのを見つけて、治療した。

俺たちは互いの名前を知らない。自己紹介をすることもなく、一緒にいる。だから、それぞれ自分があだ名をつけて呼んでいる。

「何で毎日そんな無茶するんだ。治療を行うとクロにダメージがいくだろ。」

「そんなん、助けたいからに決まってんじゃん。」

「たくっ、お前はもっと愛想良く返事が出来ないのかよ。絶対、笑った方が可愛いだろ。」

「コウも笑わないじゃん。」

身体を横たえると、一気に眠くなる。コウの温もりが離れると、身体を丸めて蹲る。それにコウは溜息を吐くとルカの身体を抱き締めて背中を撫でてやると、力を抜いたように眠り出す。


♦︎


眠る姿は起きている時と違って、あどけなく見える。

黒い髪に黒い瞳。それを持つ者を初めて見たが、それよりもクロの無表情でいる姿が印象に残った。

でも、俺と同じく何もかもどうでも良いと思えている所に自分と酷似しているように見えた。

俺はコウモリのはぐれ者だ。他の者と違い、容姿が暗い色ではなく明るい茶色に金髪が混ざっているというだけで、仲間外れにされた。

隠れ住んで生活するコウモリ人なのに、俺の存在は目立って邪魔だったのだろう。それも、一人で生活していても実感した。

でも、クロの方が自分のことがどうでも良いと割り切っているように感じ、彼に興味を抱いたのだ。

ルカは俺を治したらすぐにどこかに行こうとしていたが、俺が引き止めた。

彼と過ごしていると、次第にクロが抱える寂しさを垣間見えるようになった。それなのに、その思いを無理矢理押し込めるように過ごす。

以前、寂しさを紛らわせることをしたら、クロの無表情は崩れるかと興味が湧いて、抱き締めたことがある。結果は変わらなかった。

でも、こちらに身体を預けてきた姿が、甘えているように見えた。クロが背中に手を回してきたことや求めてきたことはない。でも、誰かの温もりを求めていることは分かっていた。

俺は、クロの表情が変わるのを見てみたい。それはただの興味心で、特別な思いはない。それはお互い様なので、こうやって一緒に過ごせているのかもしれない。