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紅色の散歩
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雨が降ってきた。さっきはよく晴れていて絶好の散歩日和だったのに。しかし、気にするほどの雨でもないため気に留めることはなく歩き続ける。
こうして、どこは行くとも決めずにふらふらすることが私の趣味だ。いやなことがあったときや、気が重い時はふらっと外へ出ては、のんびり歩く。
一度、何も考えずに突き進んでいたら、日が暮れて身動きが取れなくなってしまったときがあった。その時は確か、何とか自力で帰った気がする。確か、このあたりで迷子になったはずだ。懐かしい。迷子になってしばらくは、ここらに来るのが少し怖くて避けていた。
髪にあたる雨が少し冷たくなってきた。少し冷たい雨が気持ちいい。迷子になったときは恐ろしいとしか感じなかったが、よくよく見てみると、とてもきれいな街並みだ。古風で暖かみがある。観光地にもなりそうなくらいだが、なぜ人がいないのだろう。民家のはずなのに、全く人の気配がない。こうなると異世界に来てしまったかのような不思議な気分になる。ウキウキする。これは、日が暮れるまでに帰れないかもしれない。
きれいな街並みを眺めていると、ふと一本の道が目に入った。特に、特別な違いがあるというわけではないが、周りから少し浮いているというか。なにか、惹かれるもののある道だ。これは、いくしかない。もうそのころには、日が暮れるという心配を忘れていた。
薄暗くて不気味な雰囲気な道だが。不思議と怖くはなかった。むしろ、来るべくしてきたといわれても信じてしまうくらいに、居心地が良かった。道に居心地も何もないような気もするが、ずっとここにいたい。歩いていたい。そんな気持ちに襲われる。足取りが軽い。
しばらくすると、何だかいい匂いがしてきた。甘い匂いだ。ときおり、ふわっと香ってくる花のような香り。どこから来ているのだろう。この香りは何なのだろう。花の蜜のようだというのに、食欲が湧いてくる。この香りのもとを食みたい。食むとどんな味がするだろう。唾液をごくりと飲む。
徐々に匂いが鮮明になっていくうちに、私は走り始めていた。頭の中には、私の中をこの香りで満たしたい。この花なら、私を満たしてくれる。それしか考えられなかった。
真っ赤な塀が見えた。いや、違う。真っ赤なのは塀じゃない。薔薇だ。街並みにそぐわない、洋風の塀にびっしり薔薇が咲いている。教会だろうか。
深紅の薔薇が、先程の雨に濡れて妖艶に輝いている。美味しそうだ。そのときは、正常な判断ができていなかったのかもしれない。けれど、そのときはこの薔薇が食べたくて、食べたくて仕方がなかったのだ。薔薇についた雫が霙のように光っている。においもムッとするほどに強い。口に入れたら、どんな味がするのだろう。きっとむせ返るように甘いはずだ。私は、欲望のままに薔薇を手に取り、手の中にある薔薇を眺めた。
そして、一息に食べた。
想像していたよりもずっと強い、甘い匂いが鼻を通り脳まで駆け抜ける。私の中のすべてが、喜んでいるのを感じた。勇気を出して、口の中の薔薇を咀嚼する。噛むたびに、その見た目からは信じられないくらいの量の蜜がのどを伝う。もうすこし、味わってから飲みたいのだが、とんでもない量の蜜で飲み込まざるを得ない。甘い。甘い。けれど、何かが足りない。もっと、もっとまだ足りない。薔薇の花びらが口の中で融けてひろがっていく。体のすべてで薔薇を味わっていた。
気が付くと口の中のものはなくなっていた。だが、脳にはあの薔薇のとろけるような味がまだ残っている。そうして、しばらく余韻を味わっていた。そして、ふと雨がやんでいることに気が付いた。そこで意識が途切れた。
気が付くと私は道で倒れていた。そういえば今は、何時なんだろう。かなり時間がたったような気がしていたが、空は青空のままだ。あの薔薇は、夢だったのだろうか。だとしたら、不思議な体験をしたものだ。
なんだか、頭がとてもスッキリしていた。
おしまい
こうして、どこは行くとも決めずにふらふらすることが私の趣味だ。いやなことがあったときや、気が重い時はふらっと外へ出ては、のんびり歩く。
一度、何も考えずに突き進んでいたら、日が暮れて身動きが取れなくなってしまったときがあった。その時は確か、何とか自力で帰った気がする。確か、このあたりで迷子になったはずだ。懐かしい。迷子になってしばらくは、ここらに来るのが少し怖くて避けていた。
髪にあたる雨が少し冷たくなってきた。少し冷たい雨が気持ちいい。迷子になったときは恐ろしいとしか感じなかったが、よくよく見てみると、とてもきれいな街並みだ。古風で暖かみがある。観光地にもなりそうなくらいだが、なぜ人がいないのだろう。民家のはずなのに、全く人の気配がない。こうなると異世界に来てしまったかのような不思議な気分になる。ウキウキする。これは、日が暮れるまでに帰れないかもしれない。
きれいな街並みを眺めていると、ふと一本の道が目に入った。特に、特別な違いがあるというわけではないが、周りから少し浮いているというか。なにか、惹かれるもののある道だ。これは、いくしかない。もうそのころには、日が暮れるという心配を忘れていた。
薄暗くて不気味な雰囲気な道だが。不思議と怖くはなかった。むしろ、来るべくしてきたといわれても信じてしまうくらいに、居心地が良かった。道に居心地も何もないような気もするが、ずっとここにいたい。歩いていたい。そんな気持ちに襲われる。足取りが軽い。
しばらくすると、何だかいい匂いがしてきた。甘い匂いだ。ときおり、ふわっと香ってくる花のような香り。どこから来ているのだろう。この香りは何なのだろう。花の蜜のようだというのに、食欲が湧いてくる。この香りのもとを食みたい。食むとどんな味がするだろう。唾液をごくりと飲む。
徐々に匂いが鮮明になっていくうちに、私は走り始めていた。頭の中には、私の中をこの香りで満たしたい。この花なら、私を満たしてくれる。それしか考えられなかった。
真っ赤な塀が見えた。いや、違う。真っ赤なのは塀じゃない。薔薇だ。街並みにそぐわない、洋風の塀にびっしり薔薇が咲いている。教会だろうか。
深紅の薔薇が、先程の雨に濡れて妖艶に輝いている。美味しそうだ。そのときは、正常な判断ができていなかったのかもしれない。けれど、そのときはこの薔薇が食べたくて、食べたくて仕方がなかったのだ。薔薇についた雫が霙のように光っている。においもムッとするほどに強い。口に入れたら、どんな味がするのだろう。きっとむせ返るように甘いはずだ。私は、欲望のままに薔薇を手に取り、手の中にある薔薇を眺めた。
そして、一息に食べた。
想像していたよりもずっと強い、甘い匂いが鼻を通り脳まで駆け抜ける。私の中のすべてが、喜んでいるのを感じた。勇気を出して、口の中の薔薇を咀嚼する。噛むたびに、その見た目からは信じられないくらいの量の蜜がのどを伝う。もうすこし、味わってから飲みたいのだが、とんでもない量の蜜で飲み込まざるを得ない。甘い。甘い。けれど、何かが足りない。もっと、もっとまだ足りない。薔薇の花びらが口の中で融けてひろがっていく。体のすべてで薔薇を味わっていた。
気が付くと口の中のものはなくなっていた。だが、脳にはあの薔薇のとろけるような味がまだ残っている。そうして、しばらく余韻を味わっていた。そして、ふと雨がやんでいることに気が付いた。そこで意識が途切れた。
気が付くと私は道で倒れていた。そういえば今は、何時なんだろう。かなり時間がたったような気がしていたが、空は青空のままだ。あの薔薇は、夢だったのだろうか。だとしたら、不思議な体験をしたものだ。
なんだか、頭がとてもスッキリしていた。
おしまい
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