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24、王宮図書室
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(最近、アレクの様子がおかしい)
妙に避けられている気がする。相変わらず一緒に授業を受けているが、それ以外の時間だと妙によそよそしくて、ぎこちない。かと思えば、こちらにじっと視線を送ってきたりと、しかし視線が合えば慌てて外されてしまう。
(わたし、何かしたかな)
思えば、あの川の一件から様子がおかしい。
クリスティーナが首を捻っている同じ頃、アレクシスもまた悩んでいた。
(俺は一体、どうしてしまったんだ!?)
長年一緒にいたクリスティーナのことが気になって仕方ない。近付いてくると、妙にどきどきするし、こんな自分に戸惑いを感じるのに、無意識にその姿を追ってしまう。あの透けるような青い目と視線が会えば、鼓動が跳ねるのをやめられない。
(この感情は一体なんなんだ!?)
今まで感じたことがない思いを誰に相談すれば良いか、頭の中は色々な人物が浮かぶが、どれも適切とは思えない。ずっと一緒にいた相手に急に違う感情を抱くことはあるのだろうか。長年、一緒にいた影響だろうか。あんまり近くにいると、友情が何か別の何かに変化してしまうのだろうか。しかし、家族に対するものとは違う。
ひとり悶々としていると、向こうから問題のクリスティーナがやってくる。アレクシスの顔を見て、口元を綻ばせる。それだけで心臓がうるさく跳ね、脈が速くなるのを感じる。
(だめだ、そんな風に見るな。どう反応したらいいかわからなくなる)
その時、不意に閃いたものがあった。
「アレク、何してるの?」
「あ、ああ、今からちょっと行こうと思ったところがあって」
「どこに行くの?」
「ちょっと調べ物があって、図書室に」
この王宮には何百年にも渡って、膨大な知識を蓄えてきた巨大な図書室がある。
「調べ物? じゃあわたしも手伝うよ。ふたりでやったほうが早く見つかるよね」
親切心をこめた提案に、アレクシスは慌てて首を降った。
「いや、いい! 俺の個人的な調べ物に、クリスの時間を使わせるのも悪いし、俺、ひとりで調べられるから」
「でも――」
クリスティーナは言い募ろうとした。
「――本当にいいから。それじゃあ」
断ち切るように言い捨て、アレクシスが去っていく。その後ろ姿を見送り、クリスティーナは寂しく思った。
(やっぱり、避けられてる)
一方、クリスティーナと別れたアレクシスはほっと息を吐いた。
(危なかった。まさか調べ物の内容がこの感情に関することだとは言えないし)
アレクシスはそのまま、図書室へと向かう。いくつかの角を折り、普段ほとんど人影が見えない廊下を進んでいく。その先に年月の経った趣のある扉が見えた。図書室の入り口だ。
室と謳っていても、その広さは広大だ。壁一面に本棚が置かれ、百以上もある背の高い本棚が等間隔に置かれている。アレクシスは何十とある本棚を横切って、奥に向かった。
その奥には王太子にしか許されていない、特別な一角がある。歴代の王太子によって集められた蔵書が並んでいるのだ。
アレクシスはそこに立ち入ると、本の背表紙を眺めていった。
ここに来た理由は、自分と同じような立場に立つ――つまりずっと従者をそばにおいていた王太子なら、今の自分と同じような感情を抱いたケースがあってもおかしくないと思ったからだ。この感情を紐解く書籍の一冊でもないかと、本の背表紙を目でたどっていく。
(旅行記、航海術、軍記、金糸雀の育て方、駄目だ、全然見当たらない)
果ては薔薇の栽培方法などもある。確か二代前の王太子がザヴィヤから婚約者を迎えた時、生国を離れた王太子妃を慰めるため、薔薇が特産品のザヴィヤからわざわざ苗を取り寄せ、手ずから育て、花を贈ったという逸話を聞いたことがある。その薔薇は今も王宮の庭の一角で咲いているらしい。
アレクシスは首を降った。
王太子として必要な学問以外は王太子たちの趣味がちぐはぐに並んでいるだけで、目当てのものはない。
誰も今まで、アレクシスのように悩んだことがないのだろうか。
アレクシスは王太子専用の一角を出た。ほかを見て回る。人心掌握術や、交渉術はおいてあっても、ほかの心理に関することはない。それもそうだろう。政治に関わる廷臣たちも利用するのだ。ほとんどは実務向きで経済や法律、歴史に関することだ。ため息を吐いて、図書室を出ようとした。
ふと、入り口付近にあった本棚が目に入った。そこは歴代の王女たちが好んで読む童話や恋愛小説の棚だった。
堅苦しい本の背表紙ばかり睨んでいたアレクシスは、急にそこだけ和やかな雰囲気になった本棚に笑ってしまった。
(エレノーラも今は、ここの本に無中だな)
今年、十一歳になった妹を思い出し、思いつきで一冊を手にとる。
表紙にはきらびやかな服装をした王子と、質素なドレスを身に纏った令嬢が描かれている。どうやら身分差を書いた恋愛小説のようだ。
アレクシスは鼻で笑った。今の自分には到底、関係ないものだと悟り、本棚に戻す。
アレクシスは足早にそこから去っていった。
妙に避けられている気がする。相変わらず一緒に授業を受けているが、それ以外の時間だと妙によそよそしくて、ぎこちない。かと思えば、こちらにじっと視線を送ってきたりと、しかし視線が合えば慌てて外されてしまう。
(わたし、何かしたかな)
思えば、あの川の一件から様子がおかしい。
クリスティーナが首を捻っている同じ頃、アレクシスもまた悩んでいた。
(俺は一体、どうしてしまったんだ!?)
長年一緒にいたクリスティーナのことが気になって仕方ない。近付いてくると、妙にどきどきするし、こんな自分に戸惑いを感じるのに、無意識にその姿を追ってしまう。あの透けるような青い目と視線が会えば、鼓動が跳ねるのをやめられない。
(この感情は一体なんなんだ!?)
今まで感じたことがない思いを誰に相談すれば良いか、頭の中は色々な人物が浮かぶが、どれも適切とは思えない。ずっと一緒にいた相手に急に違う感情を抱くことはあるのだろうか。長年、一緒にいた影響だろうか。あんまり近くにいると、友情が何か別の何かに変化してしまうのだろうか。しかし、家族に対するものとは違う。
ひとり悶々としていると、向こうから問題のクリスティーナがやってくる。アレクシスの顔を見て、口元を綻ばせる。それだけで心臓がうるさく跳ね、脈が速くなるのを感じる。
(だめだ、そんな風に見るな。どう反応したらいいかわからなくなる)
その時、不意に閃いたものがあった。
「アレク、何してるの?」
「あ、ああ、今からちょっと行こうと思ったところがあって」
「どこに行くの?」
「ちょっと調べ物があって、図書室に」
この王宮には何百年にも渡って、膨大な知識を蓄えてきた巨大な図書室がある。
「調べ物? じゃあわたしも手伝うよ。ふたりでやったほうが早く見つかるよね」
親切心をこめた提案に、アレクシスは慌てて首を降った。
「いや、いい! 俺の個人的な調べ物に、クリスの時間を使わせるのも悪いし、俺、ひとりで調べられるから」
「でも――」
クリスティーナは言い募ろうとした。
「――本当にいいから。それじゃあ」
断ち切るように言い捨て、アレクシスが去っていく。その後ろ姿を見送り、クリスティーナは寂しく思った。
(やっぱり、避けられてる)
一方、クリスティーナと別れたアレクシスはほっと息を吐いた。
(危なかった。まさか調べ物の内容がこの感情に関することだとは言えないし)
アレクシスはそのまま、図書室へと向かう。いくつかの角を折り、普段ほとんど人影が見えない廊下を進んでいく。その先に年月の経った趣のある扉が見えた。図書室の入り口だ。
室と謳っていても、その広さは広大だ。壁一面に本棚が置かれ、百以上もある背の高い本棚が等間隔に置かれている。アレクシスは何十とある本棚を横切って、奥に向かった。
その奥には王太子にしか許されていない、特別な一角がある。歴代の王太子によって集められた蔵書が並んでいるのだ。
アレクシスはそこに立ち入ると、本の背表紙を眺めていった。
ここに来た理由は、自分と同じような立場に立つ――つまりずっと従者をそばにおいていた王太子なら、今の自分と同じような感情を抱いたケースがあってもおかしくないと思ったからだ。この感情を紐解く書籍の一冊でもないかと、本の背表紙を目でたどっていく。
(旅行記、航海術、軍記、金糸雀の育て方、駄目だ、全然見当たらない)
果ては薔薇の栽培方法などもある。確か二代前の王太子がザヴィヤから婚約者を迎えた時、生国を離れた王太子妃を慰めるため、薔薇が特産品のザヴィヤからわざわざ苗を取り寄せ、手ずから育て、花を贈ったという逸話を聞いたことがある。その薔薇は今も王宮の庭の一角で咲いているらしい。
アレクシスは首を降った。
王太子として必要な学問以外は王太子たちの趣味がちぐはぐに並んでいるだけで、目当てのものはない。
誰も今まで、アレクシスのように悩んだことがないのだろうか。
アレクシスは王太子専用の一角を出た。ほかを見て回る。人心掌握術や、交渉術はおいてあっても、ほかの心理に関することはない。それもそうだろう。政治に関わる廷臣たちも利用するのだ。ほとんどは実務向きで経済や法律、歴史に関することだ。ため息を吐いて、図書室を出ようとした。
ふと、入り口付近にあった本棚が目に入った。そこは歴代の王女たちが好んで読む童話や恋愛小説の棚だった。
堅苦しい本の背表紙ばかり睨んでいたアレクシスは、急にそこだけ和やかな雰囲気になった本棚に笑ってしまった。
(エレノーラも今は、ここの本に無中だな)
今年、十一歳になった妹を思い出し、思いつきで一冊を手にとる。
表紙にはきらびやかな服装をした王子と、質素なドレスを身に纏った令嬢が描かれている。どうやら身分差を書いた恋愛小説のようだ。
アレクシスは鼻で笑った。今の自分には到底、関係ないものだと悟り、本棚に戻す。
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