王太子は幼馴染み従者に恋をする∼薄幸男装少女は一途に溺愛される∼

四つ葉菫

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84、領地に向けて

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 翌朝、母親のお古のドレスを身にまとったクリスティーナを前に、ペギーが不満気に口を開く。



「バイロン様ももう少し早くお知らせしてくれれば、クリスティーナ様のためのドレスをご用意できたのに」



「仕方ないよ。バイロン兄様はわたしが従者をやってたなんて知らないんだから。まさか、ドレスの一着も持ってないなんて、思いもよらないだろうし」



 クリスティーナは鏡の中の自分を眺める。

 緑色の柔らかいモスリンのドレスはふんわりとスカートの部分が広がっている。

 装飾は前身頃の釦だけの、とても控えめなものだ。若い令嬢が着るには、少し野暮ったいが仕方ない。着れるだけ御の字だろう。

 昨日家に着いた時は、もうお店は開いていない状態であったし、今日はお店に行って選んでいる余裕もない。



「せっかくの喜ばしい日だというのに――」



「わたしはこれだけあれば、充分だよ」



 クリスティーナは首元に手をやる。

 ニ連の真珠のネックレスが、柔らかい光沢を帯びて、クリスティーナの首元を飾っている。



「亡き奥様のものですね。それだけは何年経っても、お美しいですね」



「うん」



(きっと、お母様が見守ってくれる)



 そう思えば、この先何が待ち受けていても辛くはないように思えた。

 ペギー、ロバート、ネイシーに見守られながら、クリスティーナはバイロンとともに馬車に乗り込んだ。



「道中、お気をつけて」



「ああ、おまえたちも家のことを頼む」



「かしこまりました」



「クリスティーナ様、お見合い無事に終わりますよう祈っております」



「わたしも、今日はずっと祈っております」



「ありがとう、ペギー、ネイシー」



 扉が閉まると、馭者の合図で馬が動き出した。

 もう二度と目にすることがないかもしれない王都の町並みを眺めていれば、見覚えのある光景が視界に映った。



(いつだったか、アレクに手を繋がれて走った道――)



 じっと眺めていれば、幼かった自分とアレクシスが駆けていくのが見えそうで、クリスティーナは窓の後ろを振り返った。

 ふたりの小さな背中が王宮に向かって駆けていく。

 それとは反対に、馬車はどんどん走り、遠ざかっていく。

 小さくなっていくふたりの幻と、窓に写った自分の寂しげな表情が重なって、クリスティーナは振り払うように首を振った。 

 窓から視線を外し、クリスティーナは目を伏せた。
 
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