婚約者の隣にいるのは初恋の人でした

四つ葉菫

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「どういうことだっ!!」

「ひいっ。そんなお綺麗な顔で怒ると、本当怖いんでやめてください」

 隣国から戻ったシーグルドが縮こまる。

「私に文句を言ったって、事実は変わらないんですから」

「ジャスミンが婚約してるだと? 私との約束を忘れてしまったのか」

 片手を頭に突っ込み、部屋の中で行ったり来たりする。
 ああ、そんな。このためだけにここまで頑張ってきたのに。
 血の気が音を立てて引いていくようだ。

「あの、お返事は頂けませんでしたが、これを代わりに渡されました」

 シーグルドが恐る恐る差し出して来たものを、奪うように手を取る。

「これは……」

 そこにあるものを食い入るように見つめる。

「女性が男性に贈るものにしては、ちょっと筋違いなんじゃないかなと思ったんですけどね……。それに持ち歩いて、使っていたようですし、殿下には不似合いですよね」

 まるで自分が悪いかのように、シーグルドが言い訳めいて、頭をかく。

「婚約者は?」

「は?」

「婚約者は誰だと聞いている」

「ジャスミン様はそこまでは仰られなかったんですが――」 
  
「まさか、そのままのこのこ帰ってきたんじゃないだろうな」

 お前はそこまで無能だったのかと、地の底を這うような声を出せば、シーグルドが慌てて首を振った。

「調べてきましたよ! 一体何年、殿下の従者をしてるとおもってるんですかっ」

「で?」

 先を促せば、「全く褒め言葉のひとつも言いやしない」とぶつくさ言っている。

「で?」

 もう一度、笑顔で促せば、ぶるぶると震えだす。

「その青筋浮かべながら、笑うのやめてください。悪寒がしてきますから。ああっ! 言いますよ、言います。――第二王子のイグナシオ・ジャンメール殿下ですっ」

「イグナシオ?」 

 幼い頃、尻もちをついた人間に対して何の感慨も浮かばない表情で見てきた少年を思い出す。
 あの頃に関しての出来事は、もうどうでも良い。
 しかし、そんな男がジャスミンの婚約者になったことが気になった。

「どうしてだ? ジャスミンが望んだのか?」

「さあ。調べればわかることとは思いますが」

「調べてくれ。どういった経緯で。それからふたりの今の仲も詳しく」

「はっ」

 シーグルドが勤勉な部下の顔になって部屋を出ていく。間諜に指令を出しにいったのだろう。
 私はひとり部屋の中で溜め息を吐いて、目を瞑った。
 ジャスミンが本心からイグナシオを好いて、幸せなら潔く身を引くしかない。
 けれど、そうじゃないなら――。
 私は渡されたものに視線を落とす。
 これを見る限り、その可能性は限りなく薄かった。



 
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