婚約者の隣にいるのは初恋の人でした

四つ葉菫

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 そして私は学園に入学した。
 背に腹をかえられなかった私はシーグルドの提案を受け入れた。
 編入するにあたり、『レヒーナ・エンゲルス』という名前を名乗ることにしたが、もちろん偽名である。真実性をもたせるため『エンゲルス』は母の実家の家名をお借りしたが。
 女装した私の姿を見て、シーグルドがほうっと溜め息を吐いた。

「美しいですね。いいですか、殿下。学園にいる間はあなたはどこからどう見ても『女性』なんですから、男性が側に寄ってきても、間違っても手は出さないでくださいよ」

「お前は私をなんだと思ってるんだ」

「前お忍びで城下に下りた際、男装した女性に間違われてナンパしてきたふたりを半殺しにした件をお忘れですかっ?」

「あのときは破落戸ごろつきが絡んできたんだ。誤解するな」

 涼しい顔で返せば、シーグルドが「とにかく頼みますよ。ここは自国じゃないんですから、後始末にも困るんですからね」と溜め息を吐いたあとぶつくさ言われた。
 国一番の美姫と謳われた母に似た私は度々女性だと間違われるが、自分から進んでこんな恥ずかしい格好をしたことはない。しかし、全てはジャスミンのためだと思えば耐えられる。
 陛下には、王太子として発表する前の半年間だけ、国を離れられなくなる前に隣国に遊学したいと真剣な面持ちでお願いしたら、あっさり承諾された。 
 多分日頃の行いと、我がままなんて言ったことがないせいだろう。
 学園に入学すれば、何もかもとんとん拍子でうまくいった。
 イグナシオは簡単に引っかかった。追いかけ回してくるのを、すげなく――半分は演技で、あとの半分は本心で、――返せば、より夢中になる気配を感じた。
 今までの女性たちが簡単に靡き過ぎたんだろう。
 私みたいな身持ちの固い女性は新鮮で、真剣に向き直る心境の変化が訪れたに違いない。
 それにしても男に追いかけ回されるなんて、本当気持ち悪いな。
 その真逆に、ジャスミンは本当天使みたいに可愛い。相変わらずの艶々の黒髪に――ああ、あれに指を通してみたい――食べたくなるくらいの可愛いほっぺ――すりすりと頬ずりしたい――。それからふっくらした唇に――柔らかさを想像するだけで鼓動がはやる――ぱっちりした大きな瞳――私だけを映してほしい――。 
 本当に天使が地上に降り立ったら、あんな姿かたちをしてるんじゃないだろうか。
 この学園に編入して初めて姿を見たときは喜びで胸が震えたものだ。
 私がほかの生徒と話しているとき彼女が近くを通り過ぎれば、全神経が彼女に集中した。
 側に寄りたい。話しかけたい。微笑まれたい。
 でも、彼女を遠くで見るしかなくて。
 王子の婚約者とライバル令嬢が一緒にいたらおかしいし、計画がうまくいかなくなる。
 彼女を幾度も見ているうちに、彼女の顔から生来の明るさがないことに気付いた。
 子供の時はあんなに無邪気に笑っていたのに。
 彼女の横顔に寂しさを見つけるたび、彼女の元来の明るさをあの馬鹿王子が奪っていったのかと思うと、殺意が数え切れないくらい湧いた。

 もう少しだから。
 もう少しだけ待っていて。
 そしたら君を世界一幸せにしてあげる。




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