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「ファリーダ・ペリドット、ピースキーパー2! 行きます!」
ピースキーパー2はカタパルトから射ち出て、大空に舞う。
フライトユニットを噴かすと同時に、クレイショットガンを撃った。
装填した電撃弾が、眼前に迫ったジューゲルに命中し、スパークと共に電装系を破壊する。
敵機が墜ちた先に、狙いの航空母艦が小さく見えた。
ピースキーパー2が空母へと一直線に向かおうとすると、別の敵機が現れた。
「高度を下げろ!」
アトギソン機から声がして、ピースキーパー2は翼を下に向ける。
自機の両隣から、アトギソンのジューゲルとバッド=リーのズワルトが前衛に出た。
味方二機が敵機を挟撃し撃墜せしめた。
空母への道筋に敵が展開してゆく。
ピースキーパー2はそのまま下から敵部隊の死角へ回り込もうとする。
またセンサーが敵の攻撃を検知した。
とっさに腕を構えて防御姿勢を取ると、敵の放ったエネルギー弾がはじけて逸れた。
ガードを解かぬまま、腕の陰から銃を構え、撃つ。
敵機は弾を避け、マチェット片手に急接近してくる。
ピースキーパー2はショットガンから刺又に持ち替え、応戦した。相手はズワルト、力負けはまずしない。
二機がぶつかり合い、ピースキーパー2が押す。
が、ズワルトは刃を滑らせて懐に潜り込んできた。
敵の蹴りが迫る。
ピースキーパー2はフライトユニットを逆噴射させ、その威力を削ぎながら間合いを取った。
頭上で刺又を一回転させ、叩きつける。
打撃は肩口に命中し、片腕を破壊すると同時に銃を手落とさせた。
それを見とめ、ピースキーパー2は離脱する。一体をずっと相手取っている暇は無い。
味方巡洋艦の脇をすり抜けながら、対艦攻撃をしようとしている敵機を撥ねた。
するとタイダリアスから通信が入る。
「主砲を斉射します! 巻き込みに気をつけてください!」
セェンの言葉と、モニター上に現れた弾道情報に従い、ピースキーパー2は安全な位置へと移動する。
タイダリアスと、バリグザー級の主砲が一斉に轟いた。
だが直後、敵の戦艦群も撃ち返してくる。
それぞれの敵機を大勢巻き込みながら、砲撃が正面衝突した。
相殺されたエネルギー弾が衝撃波となって、航空機とライドール隊を動揺させる。
衝突を避けた砲撃は空を切って減衰してゆくか、狙い通り艦体に命中した。
前後でいくつかの爆発が起こり、味方の船が一隻やられる。
ファリーダは思わず振り向いた。被弾したのは、よりにもよって民間船だった。
けれど煙の中から、ライドールたちと脱出艇が飛び立つのが見えてすこし安堵する。
振り返るや否や、敵機の放った弾が迫ってきた。
驚きながらもガードは間に合い、ダメージはシールドが欠ける程度に留まった。
よそ見しちゃダメだ、とファリーダは自身を戒め、クレイショットガンを構える。
急加速して、敵機の弾幕をくぐり抜け、すれ違いざまに蹴りを放った。
蹴りをシールドで防がせ、その縁から銃撃を行う。
電撃弾が頭部にクリーンヒットした。
ピースキーパー2は敵機とその盾を足場代わりにジャンプし、シフリン機と合流する。
二機は敵巡洋艦の上に足をつけた。
CIWSがこちらを捕捉し、射撃を始めようとする。
ピースキーパー2とシフリン機は左右に散って走り出した。
機関砲が掃射を行い、二機も撃ち返す。
こちらを狙える機関砲を破壊し、シフリン機が主砲塔の上に陣取り、艦橋に攻撃を繰り出した。
その時、
「ちょうど近くを通る! 乗りな!」
ナイトフェザーから通信を受けた。
ファリーダは応答する。
「わかった! けど大丈夫? ライドクランプじゃないんでしょ?」
「ライドクランプはね、このブースタークランプから派生したのサ!」
「それなら――」
ピースキーパー2は巡洋艦から飛び降り、やって来たナイトフェザーの上にライドする。
一瞬、機体は大きく沈み込んだが、
「上等!」
オリヴィンの掛け声と共に高く舞った。
「このまま予定通り、空母を無力化するよ!」
「ガーネットタロンとエメラルドラインは?」
「もうすぐあっちの空母を射程に捉える。キミは電撃弾でエレベーターを――」
オリヴィンが言っている途中で、急に真横から敵反応が出た。
ジューゲルがピースキーパー2を蹴飛ばし、盾を粉砕する。
この拍子にクレイショットガンを落としてしまった。
「ファリーダ!」
「わたしは大丈夫! オリヴィンは――ナイトフェザーはそのまま空母に向かって!」
「……わかった、死なないでよ!」
ナイトフェザーの軌跡の後ろで、ピースキーパー2は刺又を手にする。
が、続けて被弾してしまった。
銃撃が機体の額と肩口、脛を叩き、ファリーダは歯を食いしばる。
ダメージアラートが響いたが、深刻な被害はまだない。
ピースキーパー2は回避行動を取りつつ己の間合いに入ろうとした。
敵機の、武器を持たない側に回り込むが、ジューゲルのほうが速い。
銃剣で刺又を撥ね上げられ、続けて胴に蹴りを受ける。
一気に下へ飛ばされたピースキーパー2だが、その機体を僚機が受け止めてくれた。
「あ――ありがとうございます」
ファリーダは言って、僚機がビンシーであることを見とめる。
ビンシーは頷き、クレイショットガンを乱射してジューゲルを牽制した。
ピースキーパー2は真下に来た船の甲板に降り立ち、体勢を整え直す。
すると正規軍のズワルトが三機、降りてきた。いずれも左肩の装甲に<302>のマーキングがある。
敵機が撃ってきた。
ピースキーパー2は姿勢を低めて弾を躱しつつ、接近して刺又を振り上げる。
ズワルトは飛び退こうとしたが、刺又はライフルをはじき飛ばした。
他の二機の銃撃を背面装甲でやり過ごしつつ、ピースキーパー2は眼前の一機に追撃を喰らわせる。
撃破を確認すると、宙に舞っていたライフルをキャッチし、残り二機に撃った。
放った弾が二機目の両脚を穿ち、倒す。
三機目はフライトユニットを噴かして間合いを取ろうとしていた。
ピースキーパー2は敵機の翼を撃ち抜き、墜とす。
第三〇二基地所属のズワルトは顔面を船体の角にぶつけ、海原へ転げていった。
息つく暇もなく、前方にジューゲルが降り立ってくる。
ジューゲルは倒れたズワルトを蹴飛ばし、マチェットを構えた。
ファリーダはその行動にイラつきを覚える。
ピースキーパー2の手が弾切れのライフルを投げ捨て、刺又を握った。
両者は同時に駆け出し、ピースキーパー2が先に間合いに入る。
刺又で敵機の首元を突き、跳んで押し込む。
ジューゲルは背を甲板に打って仰向けとなった。
ピースキーパー2はそのまま相手を踏みつける。
ここで、ファリーダは違和感を覚えた。あっけなさすぎる。
そう思うや否や、視界全体に影が落ちた。
やはり囮だった。
ピースキーパー2は振り返り、上空のジューゲルを仰ぐ。
敵機はこちらの射程距離外からバズーカを構えていた。
けれど、シフリン機の助太刀で事なきを得る。
ロンガーロールで胴を真っ二つにされたジューゲルは、バズーカを手落として爆発した。
改めてピースキーパー2は甲板上のジューゲルに攻撃を喰らわせる。
頭部を思い切り踏みつけ、全てのメインセンサーを粉砕した。
シフリン機が降りてくる。
「ありがとうございます」ファリーダは言った。「助かりました」
「それはこの船のみんなもさ」
そう言って、シフリンのズワルトが船首側を指差す。
ハッチからブリッジクルーが上半身を出していた。彼人はロケットランチャーを持っていたが、どうやら使わせずに済んだらしい。
クルーが敬礼する。
「……ペレグリオン号でも、こうやってみんなを護ってたんだろ?」
と言われて、彼女は今さら気づいた。
この船は、ペレグリオン号と同型の船だ。
なぜか、目頭が熱くなる。
「さあ」と、シフリン機が敵機の落としたバズーカを差し出す。「空母は頼むよ」
「――はい!」
ピースキーパー2はバズーカを受け取り、シフリン機と貨客船に敬礼を返して飛び立った。
敵の弾幕をすり抜けながら、一旦タイダリアスの近くを通る。
艦尾を望む位置に至ったところで、タイダリアスはまた主砲を発射した。
光の砲弾は真正面にいるベルシェゴルに命中しいくつかの火柱を上げさせたが、それが致命傷を与えた気配は無い。
ベルシェゴルが撃ち返してきて、タイダリアスも被弾した。
不動と思われていた巨体が爆炎に揺らぎ黒い煙を吐く。
続けて、どこかで誘爆したのか、第二主砲が基部から破裂して傾いた。
そこに、対艦装備のガルヒルとライドールたちが群がってくる。
アトギソン機とバッド=リー機が翻り、他の仲間たちと共に迎撃に回った。
バッド=リー機のガトリングライフルが目前に迫ったガルヒルを一気に複数撃墜するも、反対方向からゲヴェルトとジューゲルがバズーカを放ち、またタイダリアスの装甲を穿った。
ファリーダは一瞬、タイダリアスの護衛に回ろうか迷う。が、空母をどうにかしないと敵機の猛攻を削ぐことは困難だ。
ピースキーパー2にも、マチェット装備のズワルトが組み付いて、ロックアップしてくる。
相手の攻撃は封じたがこちらもうかつに動けない。
通信で指示を仰ごうとしたその時だった。
白と紺に彩られたライドール部隊が飛んできて、敵機隊に向かって短機関銃を発砲する。
ライドールたちは皆、赤色回転灯を装備していた。
かれらからオープン回線で通信が入る。
「こちらエリア・ドリ警察ライドール隊! 現時刻を以てタイダリアスの指揮下に入ります!」
続けて別方面から、同じく赤色回転灯を備えた赤いライドール隊が現れた。
そのライドール隊は二手に分かれ、一方は斧や解体工具を武器代わりに、敵部隊を攻撃する。
もう一方は、タイダリアスや被弾して炎上する味方の艦船に放水して消火活動を行った。
かれらも通信してくる。
「エリア・マス消防隊ライドールチーム! 助太刀いたします!」
それから続々と、他のエリアからの救援が現れた。
皆、今までタイダリアスが復興支援に赴いたエリアの人々である。
そして、視界の端にライムグリーンの機影が踊った。
次の瞬間、敵のズワルトが巨大なドリルで貫かれる。
ファリーダは見た。
エリア・マスのリヴァケープだった。
「あなたは――!」
「恩返しに来たぜェ!」
失われた右腕にドリルを装備したリヴァケープは、ピースキーパー2の横につく。
ファリーダは彼に言った。
「あの空母を無力化します! 援護してください!」
「了解!」
ピースキーパー2とリヴァケープは真っ直ぐに飛び、迫り来る敵機を蹴散らした。
リヴァケープのドリルがまた敵を貫き、回転の勢いが機体を破砕する。
破片と火花の雨の向こうに、見慣れたディープパープルのガルヒルが見えた。
「ナイトフェザー! 追いついたよ!」
ピースキーパー2は空母を直下に捉える。
空母のCIWSがこちらをロックオンしてきた。
が、ピースキーパー2は撃たれる前に急降下する。追ってきた敵はリヴァケープに任せ、バズーカを構えた。
弾幕を紙一重で掻い潜り、撃つ。
エネルギー弾は舷側エレベーターに直撃し、周囲の構造ごと吹き飛ばした。
その流れでピースキーパーは飛行甲板に転がり込む。
機関砲の攻撃が機体の脚を掠めるが、ナイトフェザーが砲塔を撃ち壊してくれる。
ここでガーネットタロンとエメラルドラインから通信が入った。
「空母の無力化に成功!」
「そちらへ向かう!」
それを聞いて、ピースキーパー2は空母の艦橋前へと駆け出す。
バズーカの砲口を艦橋真正面に向け、ファリーダは外部スピーカーとオープン通信で叫んだ。
「降参してください!」
けれど案の定、呼びかけは無視された。
破壊したエレベーターを内側から破り、艦載ライドールたちが這い上がってくる。
ピースキーパー2がそちらを向いた瞬間、赤と緑の閃光が突き抜けた。
敵機が爆散し、ガーネットタロンとエメラルドラインが到達する。
二機はピースキーパー2の左右に立ち、背中合わせになって武器を構えた。
そして、艦尾に回り込んだナイトフェザーがスラスター目掛けて砲撃を繰り出す。
空母のスラスターが撃ち抜かれ、爆発して推進力を失った。
「要塞戦艦を――」
ファリーダが言いかけると、タイダリアスの砲声が響く。
放たれた一撃は、ベルシェゴルの裂けた装甲からバイタルパートを射抜いた。
要塞戦艦は内部から爆発を起こし、業火に包まれて海へと墜ちてゆく。
決着の瞬間であった。
戦場から熱が引いてゆく感じがして、ピースキーパー2は西の空を見る。
「あとはガヴォートだね……」
ガーネットタロンからキータサの声がした。
「たのむよ、ラジービ」
◇
ヴィマーセ・ショーケウはシールドで上体をカバーし、クレイショットガンを撃ちながら走り出した。
ゼノフォースはサイドステップで粘着弾を躱しつつ、こちらの本体にダメージを与えようと立ち回り、跳躍した。
頭上から攻める気だ。
ヴィマーセ・ショーケウはスライディングして弾を避けつつ、撃ち返す。
だがゼノフォースはこちらの弾を的確に、迅速に撃ち落とし、フライトユニットの翼を展開した。
そして推力に重力を乗せた蹴りを繰り出してくる。
ヴィマーセ・ショーケウもパワーズウイングの噴射で脚を振り上げ、蹴りで蹴りを受け止めた。
ぶつかりあった衝撃が空気を震わせ、地面の砂礫を舞い散らせる。
ゼノフォースがまた銃口を向けてきた。
ヴィマーセ・ショーケウはクレイショットガンを薙いで照準を逸らす。
銃身の衝突に合わせてゼノフォースは着地し、ヴィマーセ・ショーケウも起き上がった。
次の瞬間、掌底が視界の端に迫ってきた。
クレイショットガンを手放し、敵の掌底を受け止める。
ヴィマーセ・ショーケウもゼノフォースの胴に手を突っ込ませたが、やはり防がれた。
金属と、人工筋肉の軋む音が耳の奥底まで刺激してくる。
するとガヴォートが言った。
「強化しているのか」
「当然だ」ラジービは答える。「この機体は、わたしの怒りとあの子の無念だけを宿しているわけじゃない」
「フン、ならば――」
ゼノフォースの膂力がヴィマーセ・ショーケウの両腕を撥ね上げ、
「私のほうがはるかに上だ!」
ヴィマーセ・ショーケウの胴にタックルを食らわせてきた。
ラジービはシートに背を叩きつける。
次の攻撃が来る前にヴィマーセ・ショーケウは身を屈め、クレイショットガンを拾いながら回り込んだ。
ゼノフォースは射撃で追ってくる。
「いいかラジービよ! この機体にも私の憤怒と、ダヴィフニス准将やキサマらに殺された仲間たちの無念が宿っている! それに比べれば――」
ライフルにアドオンしたグレネードランチャーが放たれた。
ヴィマーセ・ショーケウはシールドを構え、防御姿勢を取る。
「きさまらの想いなどたかが知れている!」
グレネードが炸裂し、視界に爆炎が広がった。
機体も圧されるが、致命打は盾で防げた。
攻撃よりも癪に障ったのは――、
「たかがだと……!?」
ヴィマーセ・ショーケウは大地を蹴り、パワーズウイングでブーストする。
ゼノフォースの目前まで急接近し、銃床で殴りかかった。
「リーユイが……あの子たちがどれだけ苦しんだかわかって言ってるのか!?」
「人の生に苦しみはつきものだ! それを国のせいにした者どもなど!」
銃床での殴打を、ゼノフォースは受け流し撃ち返す。
至近距離での射撃だったが、ヴィマーセ・ショーケウは寸でのところで弾丸を滑らせた。
エネルギー弾が虚空に散る。
「人を――弱い者を護ってこその国だろう!」
ヴィマーセ・ショーケウも撃ち返した。
「オマエが護りたかった人たちに栄養失調で病気になった者はいるか!? いつ滑落するかもわからない山の上の廃船で、怯えながら生活していた子どもたちはいるのか!? 助けを求めても無視されて――暴力に訴えるしかなくなった人たちがいるというのか!? どうなんだ!」
ゼノフォースは粘着弾を盾で受け止め、
「いなければなんだというのだ!? きさまはそんなことを理由に! 裕福な者への暴虐を許容するというのか!」
そのままシールドバッシュを繰り出してきた。
ヴィマーセ・ショーケウも盾を持ち上げ、激突させる。
両機の足が岩を砕き、地面にめり込んだ。
「許容する気などない! だがそれ以上にな! オマエらのように弱者を踏みにじるやつらなどなおさら許してたまるものかよ!」
「弱者だと? 甘えているだけだろう! 平和な国に生かしてもらっておいて――」
ゼノフォースが銃をマウントし、こちらの腰部を掴んできた。
「厚かましく文句をつけるな!」
ガヴォートの怒号と共に、ヴィマーセ・ショーケウは投げられた。
機体が激しい勢いで横に回転し、硬い地面に打ち据えられる。
舞い散る砂塵の向こうで、ゼノフォースのシルエットがまたライフルを手にした。
「人権だの尊厳だのとぬかす前に、役に立つ人間になるべきだ……違うか?」
「わたしはそう思わん」
ラジービは答え、クレイショットガンの弾倉をパージする。
電撃弾を装填した弾倉に換えながら、パワーズウイングで突撃した。
「役に立つか否かを、誰が決める!? オマエは自分が役立たずだと切り捨てられたら抗わず受け容れるのか!?」
「あり得ん仮定の話をするな!」
クレイショットガンの電撃弾がゼノフォースのライフルに直撃し、内部から破壊せしめた。
だがゼノフォースは銃を逆に持ち、離脱しようとするこちら目掛けてフルスイングする。
ヴィマーセ・ショーケウは躱しきれず、クレイショットガンを破壊された。
銃身の根本からへし折れて破片を散らすショットガンの裏側から、ゼノフォースが二挺目のライフルを構える。
銃撃をシールドで受け流し、刀を握る。
ヴィマーセ・ショーケウの袈裟斬りがゼノフォースのライフルに着いた銃剣を叩き、射線を落とさせた。
続けてライフルを蹴飛ばし、ゼノフォースの手からはじき飛ばす。
ゼノフォースは背後の剣に手を伸ばしながら、左の掌底でこちらを突いてきた。
ヴィマーセ・ショーケウは一旦退き、また突進する。
二機の刃が斬り結んだ。
幾度となく刃をぶつけ合う最中で、ガヴォートが言う。
「いいかラジービ! これだけは勘違いするな! 我々とて好きこのんでコブナスの民を助けなかったわけではない!」
「詭弁はやめろ! 助けない言い訳ばかり賢しらに!」
「違う!」
ヴィマーセ・ショーケウの斜めからの斬撃を、ゼノフォースがはじいた。
そこから流れるように刺突を繰り出してくる。
胴をひねって串刺しを避けたが、腹部の外装に刃が滑りエンジンの一部が露出した。
ヴィマーセ・ショーケウは刀の柄を振り下ろし、打撃を当てようとする。
しかしゼノフォースは肘打ちで直撃を妨げた。
そのパワーは相当なもので、ヴィマーセ・ショーケウの手から刀が滑って舞い落ちる。
またガヴォートが言った。
「そもそも我々ときさまらの理想は同じのはずだ! 私もまた、このコブナスから――この世界から不当な差別や意味無き格差、不要な貧困を失くし、価値ある人間の幸福を願っている!」
彼の言を聞いて、ラジービは音が出るほど歯を食いしばる。
「わたしたちの理想が、オマエらと同じだと?」
目が血走り、衝動的にフェイスガードを剥がした。
「ふざけるな! 何もかも違う! その余計な副詞を外せ!」
ヴィマーセ・ショーケウは対戦艦ライフルに手をかけ、マウントを外すと同時に畳んでいたプレートバレルを展開した。
ゼノフォースは焦ったように剣を捨て、両手で対戦艦ライフルを掴む。
ヴィマーセ・ショーケウも奪われまいとパワーを上げるが、まもなく対戦艦ライフルはゼノフォースに奪われ、海へと投げ飛ばされた。
が、ヴィマーセ・ショーケウは右手を振りかざし、ゼノフォースの顔面に掌底を喰らわせる。
渾身の一撃。クリーンヒットだった。
ゼノフォースのフェイスカバーが砕け散り、カメラアイが露出する。
大きく傾き、そのままゼノフォースは倒れ込むかに見えた。
が、相手は脚を振り上げ、蹴りを放つ。
ヴィマーセ・ショーケウは防御を行うが、蹴りを受けた瞬間に盾は限界を迎え砕け散った。
左腕全部が震えて軋み、コクピット内でもダメージアラートが鳴る。
そのまま後ろに飛ばされ、足を着いた途端にヴィマーセ・ショーケウはバランスを崩して仰向けに倒れた。
一方でゼノフォースも、苦し紛れの蹴撃だったらしく、そのまま傾いて地面に突っ伏す。
二機は共に横たわったままもがき、再度立ち上がろうとする。
ヴィマーセ・ショーケウの右手側には、はじかれた刀が突き立っていた。ラジービはそれに気づくと、柄へと腕を伸ばす。指が鍔際にかかって、刀を杖代わりに機体を起こした。
ゼノフォースはこちらよりわずかに立ち直りが早かったらしく、もう片膝で立っていた。
「この私相手に、ここまで粘るとはな……」
ガヴォートの声がすると、ゼノフォースの膝が逆方向に曲がり始めた。
上半身が前傾になり大腿部の装甲が展開したところで、ガクンと動きが止まる。
ゼノフォースは掌底を受けて歪んだ下半分のフェイスガードを手ずから引き剥がし、冷却機構を強引に露出させた。
変形が続行し、腕が伸びたところでヴィマーセ・ショーケウも両脚で立ち上がり構え直す。
ゼノフォースがその長い腕で剣を掴むと同時に、突っ込んできた。
呼応するようにヴィマーセ・ショーケウも走り出す。
また、剣戟が繰り広がった。
両機の刃が交差し、力の限り叩きつけ合う。
ヴィマーセ・ショーケウの次の一撃は空振りだった。
その隙にゼノフォースが斬撃を放つ。
これを避けたつもりだった。が、動きが小さすぎて胸元が斬り裂かれた。
ラジービの斜め前で火花が飛んだ。しかしまだモニターは生きている。
ヴィマーセ・ショーケウは踏み込んで刀を薙ぐ。
その一閃がゼノフォースの肩アーマーを斬り飛ばした。
返す太刀で胴を両断しようとするも、ゼノフォースはヴィマーセ・ショーケウの右側に回り込んで、背後を取ってきた。
一瞬対応が遅れて、ヴィマーセ・ショーケウは左袈裟斬りを喰らう。
パワーズウイングの、右の増槽がやられた。
裂け目から燃料を吹き出し、コクピット内でも燃料計が一気に半分を切る。
ラジービの心に焦りが生じて、ヴィマーセ・ショーケウは破れかぶれのストンピングで、ゼノフォースの剣をへし折った。
僥倖だった。
が、次の攻撃を行う前に、ゼノフォースの喉輪攻めを喰らう。
機体を通じて、ガヴォートの雄叫びが聞こえたと思うと、ヴィマーセ・ショーケウは砲丸さながらに投げ飛ばされていた。
ラジービに高Gがかかり、海へと落下する。
海を割る勢いの飛沫を撒き上げ、ヴィマーセ・ショーケウは全身を沈める。
けれどそこは比較的浅瀬で、片膝を立てれば上半身は海面を抜けてくれた。
ここでラジービは対戦艦ライフルが、波間からわずかに姿を覗かせていることに気づく。
ゼノフォースはこちらに向き直り、疾走の構えをしていた。進行方向にはアサルトライフルが落ちている。
互いに残った武器は前方の一つだけだ。
二機は一拍の間を置いて、同時に飛び出した。
ゼノフォースは脚力と伸長した腕でライフルを掴み、ヴィマーセ・ショーケウはパワーズウイングの全力で海を飛ぶ。
左腕を伸ばし、対戦艦ライフルのキャリングハンドルをキャッチした。
武器を海中から引き上げると、ゼノフォースの銃撃が始まる。
ヴィマーセ・ショーケウが構えている間に相手の弾は左腕を射抜き、胸の装甲を貫いて頭部のガードフレームを折損させた。
被弾はコクピットの中にまで被害を与え、ラジービは飛んだ破片で額を切られる。
けれど、こちらも発射準備ができた。
ラジービの咆哮と共に、対戦艦ライフルから光がほとばしる。
そして光の柱が、飛び立とうとしているゼノフォースの両脚と翼を消し飛ばした。
疾走の勢いを止められなくなったゼノフォースは、顔面から地面に激突し、そこからバウンドしてまた宙を舞う。
衝撃が首と胴を分かち、頭部は天を仰ぐように転がった。
胴体は手をついて止まろうとしたが、その瞬間肩からはじけてうつ伏せに落ちる。
ゼノフォースは、もはや見る影もなくなってしまった。
ヴィマーセ・ショーケウのカメラ越しに、肩で息をするラジービは決闘の結末を見る。
彼は深呼吸をして、目を伏せた。
◇
ナグリコフ中将は、沈みゆくベルシェゴル、警報の鳴り止まぬ艦内をよろよろと進んでいた。手には拳銃が握られている。
発射管制室の近くまで至ると、そこからクルーが現れた。
「閣下、一番から二十二番……全発射管の準備が完了しました」
「ごくろう。では速やかに退艦したまえ……」
「はい。ですが、今さらミサイルを撃ってどう――」
「逆賊どもに一泡吹かせてやるのだ!」
ナグリコフは怒鳴った。
「このベルシェゴルが……<切り札>の一発も撃たずに沈むなど……対賊隊のメンツが丸潰れではないか……!」
「しかし……」
「さっさと逃げろ! きさまも死にたくはないだろう!」
クルーは彼に気圧されたのか、小さく唸ってから去っていった。
「ガヴォート少佐さえいてくれれば……」
その言葉を背に、ミサイル発射管制室へ至ると、ナグリコフは室内に固定された二つの金庫を撃ち壊す。
一つめの金庫には発射管制コンソールに挿し込む鍵、二つめには<切り札>を発射するためのトリガーが保管されていた。
ナグリコフはコンソールに鍵を挿し、最終安全装置を解除する。
そして、幽かな笑みと共にトリガーを引いた。
◇
「ベルシェゴルから高エネルギー反応! 数は二十二です!」
ファリーダは、タイダリアスからの報告に耳を疑った。
着艦したばかりのピースキーパー2を舷側に移動させ、ベルシェゴルが沈んだ箇所を覗き込む。
次の瞬間、泡と煙の柱を突き破って弾道ミサイルが飛び出した。
その弾体には、放射能のハザードシンボルが見える。
「核ミサイルか!」
オリヴィンが言った。
「まさかわたしたちごと――」
「いや、この距離だと安全装置が働いてる!」
「じゃあどこに?!」
動揺していると、ガーネットタロンとエメラルドラインがフライトユニットを噴射し、ミサイルに向かう。
至近距離まで近づき、アサルトライフルで二発のミサイルを破壊した。
「撃ち落とすぞ!」アトギソン機も再び空に舞う。「核兵器を炸裂させるな!」
バッド=リー機、シフリン機が後に続き、ピースキーパー2もナイトフェザーにライドした。
その横でリヴァケープが一発のミサイルに張り付き、ドリルで穴を開ける。
挙動が乱れたミサイルは別のミサイルにぶつかって墜落した。
タイダリアスや僚艦、対空攻撃ができる機体は皆、総出でミサイルを撃ち落とそうと弾幕を張る。
敵の残存勢力は妨害してこなかったが、戦闘の消耗が災いし、掃射は長く持たなかった。
ピースキーパー2がナイトフェザーと共に二十一発目を撃破したところで、彼女らも限界に達する。
最後の一発は、天高く昇って西の空へと消えていった。
◇
突如、ラジービの端末に通信が入る。電話通信だ。
彼がそれに応答すると、スピーカーからアトギソンの声がした。
「ラジービ! ゼノフォースは!?」
「撃破しました」
「対戦艦ライフルはフルパワーで撃てるか?!」
「撃てますが、いったい何が――」
「ベルシェゴルが核ミサイルを発射した! ほとんど撃ち落としたが一発だけそっちに向かってる!」
「なんですって!?」
「データを送るから、オマエのほうで撃ち落としてくれ!」
「了解!」
通話が終わるや否や、端末が核ミサイルの軌道予測データを受信する。
ヴィマーセ・ショーケウは、それに従って撃墜地点に歩き出した。
数歩踏み込んだところで、被弾した左腕が脱落し機体も傾く。
しかしすぐ持ち直して、射撃位置に着いた。
海から上がり、岩の地面を両脚でしっかりと踏みしめる。
天を仰ぐと、ミサイルの軌跡が見えた。
ヴィマーセ・ショーケウは右腕を天に突き伸ばし、最大出力の対戦艦ライフルを構える。
そして、ロックオンと共に撃った。
閃光と共にビームが空へ伸び、雲を蒸発させると――核ミサイルを消し飛ばした。
夕焼け空から、エネルギー反応が失せたのを見て、ラジービは成功を確信する。
やがてヴィマーセ・ショーケウは片膝をつき、うなだれて休止状態に入った。もう燃料も残り少ない。
「……ありがとう」ラジービは、物言わぬ戦友に向けて言った。「迎えが来るのを待とう。一緒に――」
だがその時、ゼノフォースの残骸で何かが動くのを視界の端に捉えた。
ガヴォートである。ロングマガジンを挿した機関拳銃片手にコクピットから這い出て、こちらへ歩いてくる。
おぼつかない足取りで、特製のパイロットスーツもヘルメットも破損していた。バイザー越しに流血まで確認できるが、彼の碧眼は闘志で燃えたままだ。
ガヴォートは叫ぶ。
「降りてこいラジービ! まだ勝負はついていないぞ!」
「ガヴォート……おまえは――」
ラジービは一瞬、無視して機内にこもっていようかとも思った。
けれど、その選択は気が引けた。
彼はホルスターから拳銃を抜き、グリップを強く握りしめる。
ハッチを開くや否や、ガヴォートは撃ってきた。
慌ててラジービはコクピット内に引っ込んだ。
ガヴォートは銃撃を止め、確実に弾が中たる位置へと移動している。
どうする? とラジービは額に汗を流す。
ハッチを閉じるにしても、降りるにしても余裕が無さすぎる。
いっそのことライドールで――。
思考を巡らせていると、東から風を切る音が聞こえてきた。
ラジービとガヴォートがそちらに気を取られた次の瞬間、
「銃を捨てておとなしくしろ!」
アトギソンの声と共にエアクラフトグレーのジューゲルが現れた。
続けてピースキーパー2がヴィマーセ・ショーケウの横に降り立ち、護るように寄り添う。
すこし遅れて、タイダリアスの艦隊がやって来た。
ガヴォートのほうを見ると、彼は銃を捨て、片膝をつき……うなだれていた。
対賊隊との戦いが終わり、コブナスは本当の意味での新しい始まりを迎える。
最初のうちは混乱があった。今も新政府の是非が方々で問われている。
けれど、ラジービはどういうわけか、なんとかなるだろうと楽観的だった。
初めての心持ちであった。
彼は自宅に帰ってきて、一通の招待状が来ているのに気づく。
ファリーダ・ペリドットとオリヴィン・ライトの結婚式……その招待状だった。
ラジービは微笑み、<出席>の欄にチェックを入れると、リーユイの靴の傍に置いて忘れないようにする。
それからシーブルーのエレキギターを構え、メトロノームの音を響かせて運指練習を始めた。
了
ピースキーパー2はカタパルトから射ち出て、大空に舞う。
フライトユニットを噴かすと同時に、クレイショットガンを撃った。
装填した電撃弾が、眼前に迫ったジューゲルに命中し、スパークと共に電装系を破壊する。
敵機が墜ちた先に、狙いの航空母艦が小さく見えた。
ピースキーパー2が空母へと一直線に向かおうとすると、別の敵機が現れた。
「高度を下げろ!」
アトギソン機から声がして、ピースキーパー2は翼を下に向ける。
自機の両隣から、アトギソンのジューゲルとバッド=リーのズワルトが前衛に出た。
味方二機が敵機を挟撃し撃墜せしめた。
空母への道筋に敵が展開してゆく。
ピースキーパー2はそのまま下から敵部隊の死角へ回り込もうとする。
またセンサーが敵の攻撃を検知した。
とっさに腕を構えて防御姿勢を取ると、敵の放ったエネルギー弾がはじけて逸れた。
ガードを解かぬまま、腕の陰から銃を構え、撃つ。
敵機は弾を避け、マチェット片手に急接近してくる。
ピースキーパー2はショットガンから刺又に持ち替え、応戦した。相手はズワルト、力負けはまずしない。
二機がぶつかり合い、ピースキーパー2が押す。
が、ズワルトは刃を滑らせて懐に潜り込んできた。
敵の蹴りが迫る。
ピースキーパー2はフライトユニットを逆噴射させ、その威力を削ぎながら間合いを取った。
頭上で刺又を一回転させ、叩きつける。
打撃は肩口に命中し、片腕を破壊すると同時に銃を手落とさせた。
それを見とめ、ピースキーパー2は離脱する。一体をずっと相手取っている暇は無い。
味方巡洋艦の脇をすり抜けながら、対艦攻撃をしようとしている敵機を撥ねた。
するとタイダリアスから通信が入る。
「主砲を斉射します! 巻き込みに気をつけてください!」
セェンの言葉と、モニター上に現れた弾道情報に従い、ピースキーパー2は安全な位置へと移動する。
タイダリアスと、バリグザー級の主砲が一斉に轟いた。
だが直後、敵の戦艦群も撃ち返してくる。
それぞれの敵機を大勢巻き込みながら、砲撃が正面衝突した。
相殺されたエネルギー弾が衝撃波となって、航空機とライドール隊を動揺させる。
衝突を避けた砲撃は空を切って減衰してゆくか、狙い通り艦体に命中した。
前後でいくつかの爆発が起こり、味方の船が一隻やられる。
ファリーダは思わず振り向いた。被弾したのは、よりにもよって民間船だった。
けれど煙の中から、ライドールたちと脱出艇が飛び立つのが見えてすこし安堵する。
振り返るや否や、敵機の放った弾が迫ってきた。
驚きながらもガードは間に合い、ダメージはシールドが欠ける程度に留まった。
よそ見しちゃダメだ、とファリーダは自身を戒め、クレイショットガンを構える。
急加速して、敵機の弾幕をくぐり抜け、すれ違いざまに蹴りを放った。
蹴りをシールドで防がせ、その縁から銃撃を行う。
電撃弾が頭部にクリーンヒットした。
ピースキーパー2は敵機とその盾を足場代わりにジャンプし、シフリン機と合流する。
二機は敵巡洋艦の上に足をつけた。
CIWSがこちらを捕捉し、射撃を始めようとする。
ピースキーパー2とシフリン機は左右に散って走り出した。
機関砲が掃射を行い、二機も撃ち返す。
こちらを狙える機関砲を破壊し、シフリン機が主砲塔の上に陣取り、艦橋に攻撃を繰り出した。
その時、
「ちょうど近くを通る! 乗りな!」
ナイトフェザーから通信を受けた。
ファリーダは応答する。
「わかった! けど大丈夫? ライドクランプじゃないんでしょ?」
「ライドクランプはね、このブースタークランプから派生したのサ!」
「それなら――」
ピースキーパー2は巡洋艦から飛び降り、やって来たナイトフェザーの上にライドする。
一瞬、機体は大きく沈み込んだが、
「上等!」
オリヴィンの掛け声と共に高く舞った。
「このまま予定通り、空母を無力化するよ!」
「ガーネットタロンとエメラルドラインは?」
「もうすぐあっちの空母を射程に捉える。キミは電撃弾でエレベーターを――」
オリヴィンが言っている途中で、急に真横から敵反応が出た。
ジューゲルがピースキーパー2を蹴飛ばし、盾を粉砕する。
この拍子にクレイショットガンを落としてしまった。
「ファリーダ!」
「わたしは大丈夫! オリヴィンは――ナイトフェザーはそのまま空母に向かって!」
「……わかった、死なないでよ!」
ナイトフェザーの軌跡の後ろで、ピースキーパー2は刺又を手にする。
が、続けて被弾してしまった。
銃撃が機体の額と肩口、脛を叩き、ファリーダは歯を食いしばる。
ダメージアラートが響いたが、深刻な被害はまだない。
ピースキーパー2は回避行動を取りつつ己の間合いに入ろうとした。
敵機の、武器を持たない側に回り込むが、ジューゲルのほうが速い。
銃剣で刺又を撥ね上げられ、続けて胴に蹴りを受ける。
一気に下へ飛ばされたピースキーパー2だが、その機体を僚機が受け止めてくれた。
「あ――ありがとうございます」
ファリーダは言って、僚機がビンシーであることを見とめる。
ビンシーは頷き、クレイショットガンを乱射してジューゲルを牽制した。
ピースキーパー2は真下に来た船の甲板に降り立ち、体勢を整え直す。
すると正規軍のズワルトが三機、降りてきた。いずれも左肩の装甲に<302>のマーキングがある。
敵機が撃ってきた。
ピースキーパー2は姿勢を低めて弾を躱しつつ、接近して刺又を振り上げる。
ズワルトは飛び退こうとしたが、刺又はライフルをはじき飛ばした。
他の二機の銃撃を背面装甲でやり過ごしつつ、ピースキーパー2は眼前の一機に追撃を喰らわせる。
撃破を確認すると、宙に舞っていたライフルをキャッチし、残り二機に撃った。
放った弾が二機目の両脚を穿ち、倒す。
三機目はフライトユニットを噴かして間合いを取ろうとしていた。
ピースキーパー2は敵機の翼を撃ち抜き、墜とす。
第三〇二基地所属のズワルトは顔面を船体の角にぶつけ、海原へ転げていった。
息つく暇もなく、前方にジューゲルが降り立ってくる。
ジューゲルは倒れたズワルトを蹴飛ばし、マチェットを構えた。
ファリーダはその行動にイラつきを覚える。
ピースキーパー2の手が弾切れのライフルを投げ捨て、刺又を握った。
両者は同時に駆け出し、ピースキーパー2が先に間合いに入る。
刺又で敵機の首元を突き、跳んで押し込む。
ジューゲルは背を甲板に打って仰向けとなった。
ピースキーパー2はそのまま相手を踏みつける。
ここで、ファリーダは違和感を覚えた。あっけなさすぎる。
そう思うや否や、視界全体に影が落ちた。
やはり囮だった。
ピースキーパー2は振り返り、上空のジューゲルを仰ぐ。
敵機はこちらの射程距離外からバズーカを構えていた。
けれど、シフリン機の助太刀で事なきを得る。
ロンガーロールで胴を真っ二つにされたジューゲルは、バズーカを手落として爆発した。
改めてピースキーパー2は甲板上のジューゲルに攻撃を喰らわせる。
頭部を思い切り踏みつけ、全てのメインセンサーを粉砕した。
シフリン機が降りてくる。
「ありがとうございます」ファリーダは言った。「助かりました」
「それはこの船のみんなもさ」
そう言って、シフリンのズワルトが船首側を指差す。
ハッチからブリッジクルーが上半身を出していた。彼人はロケットランチャーを持っていたが、どうやら使わせずに済んだらしい。
クルーが敬礼する。
「……ペレグリオン号でも、こうやってみんなを護ってたんだろ?」
と言われて、彼女は今さら気づいた。
この船は、ペレグリオン号と同型の船だ。
なぜか、目頭が熱くなる。
「さあ」と、シフリン機が敵機の落としたバズーカを差し出す。「空母は頼むよ」
「――はい!」
ピースキーパー2はバズーカを受け取り、シフリン機と貨客船に敬礼を返して飛び立った。
敵の弾幕をすり抜けながら、一旦タイダリアスの近くを通る。
艦尾を望む位置に至ったところで、タイダリアスはまた主砲を発射した。
光の砲弾は真正面にいるベルシェゴルに命中しいくつかの火柱を上げさせたが、それが致命傷を与えた気配は無い。
ベルシェゴルが撃ち返してきて、タイダリアスも被弾した。
不動と思われていた巨体が爆炎に揺らぎ黒い煙を吐く。
続けて、どこかで誘爆したのか、第二主砲が基部から破裂して傾いた。
そこに、対艦装備のガルヒルとライドールたちが群がってくる。
アトギソン機とバッド=リー機が翻り、他の仲間たちと共に迎撃に回った。
バッド=リー機のガトリングライフルが目前に迫ったガルヒルを一気に複数撃墜するも、反対方向からゲヴェルトとジューゲルがバズーカを放ち、またタイダリアスの装甲を穿った。
ファリーダは一瞬、タイダリアスの護衛に回ろうか迷う。が、空母をどうにかしないと敵機の猛攻を削ぐことは困難だ。
ピースキーパー2にも、マチェット装備のズワルトが組み付いて、ロックアップしてくる。
相手の攻撃は封じたがこちらもうかつに動けない。
通信で指示を仰ごうとしたその時だった。
白と紺に彩られたライドール部隊が飛んできて、敵機隊に向かって短機関銃を発砲する。
ライドールたちは皆、赤色回転灯を装備していた。
かれらからオープン回線で通信が入る。
「こちらエリア・ドリ警察ライドール隊! 現時刻を以てタイダリアスの指揮下に入ります!」
続けて別方面から、同じく赤色回転灯を備えた赤いライドール隊が現れた。
そのライドール隊は二手に分かれ、一方は斧や解体工具を武器代わりに、敵部隊を攻撃する。
もう一方は、タイダリアスや被弾して炎上する味方の艦船に放水して消火活動を行った。
かれらも通信してくる。
「エリア・マス消防隊ライドールチーム! 助太刀いたします!」
それから続々と、他のエリアからの救援が現れた。
皆、今までタイダリアスが復興支援に赴いたエリアの人々である。
そして、視界の端にライムグリーンの機影が踊った。
次の瞬間、敵のズワルトが巨大なドリルで貫かれる。
ファリーダは見た。
エリア・マスのリヴァケープだった。
「あなたは――!」
「恩返しに来たぜェ!」
失われた右腕にドリルを装備したリヴァケープは、ピースキーパー2の横につく。
ファリーダは彼に言った。
「あの空母を無力化します! 援護してください!」
「了解!」
ピースキーパー2とリヴァケープは真っ直ぐに飛び、迫り来る敵機を蹴散らした。
リヴァケープのドリルがまた敵を貫き、回転の勢いが機体を破砕する。
破片と火花の雨の向こうに、見慣れたディープパープルのガルヒルが見えた。
「ナイトフェザー! 追いついたよ!」
ピースキーパー2は空母を直下に捉える。
空母のCIWSがこちらをロックオンしてきた。
が、ピースキーパー2は撃たれる前に急降下する。追ってきた敵はリヴァケープに任せ、バズーカを構えた。
弾幕を紙一重で掻い潜り、撃つ。
エネルギー弾は舷側エレベーターに直撃し、周囲の構造ごと吹き飛ばした。
その流れでピースキーパーは飛行甲板に転がり込む。
機関砲の攻撃が機体の脚を掠めるが、ナイトフェザーが砲塔を撃ち壊してくれる。
ここでガーネットタロンとエメラルドラインから通信が入った。
「空母の無力化に成功!」
「そちらへ向かう!」
それを聞いて、ピースキーパー2は空母の艦橋前へと駆け出す。
バズーカの砲口を艦橋真正面に向け、ファリーダは外部スピーカーとオープン通信で叫んだ。
「降参してください!」
けれど案の定、呼びかけは無視された。
破壊したエレベーターを内側から破り、艦載ライドールたちが這い上がってくる。
ピースキーパー2がそちらを向いた瞬間、赤と緑の閃光が突き抜けた。
敵機が爆散し、ガーネットタロンとエメラルドラインが到達する。
二機はピースキーパー2の左右に立ち、背中合わせになって武器を構えた。
そして、艦尾に回り込んだナイトフェザーがスラスター目掛けて砲撃を繰り出す。
空母のスラスターが撃ち抜かれ、爆発して推進力を失った。
「要塞戦艦を――」
ファリーダが言いかけると、タイダリアスの砲声が響く。
放たれた一撃は、ベルシェゴルの裂けた装甲からバイタルパートを射抜いた。
要塞戦艦は内部から爆発を起こし、業火に包まれて海へと墜ちてゆく。
決着の瞬間であった。
戦場から熱が引いてゆく感じがして、ピースキーパー2は西の空を見る。
「あとはガヴォートだね……」
ガーネットタロンからキータサの声がした。
「たのむよ、ラジービ」
◇
ヴィマーセ・ショーケウはシールドで上体をカバーし、クレイショットガンを撃ちながら走り出した。
ゼノフォースはサイドステップで粘着弾を躱しつつ、こちらの本体にダメージを与えようと立ち回り、跳躍した。
頭上から攻める気だ。
ヴィマーセ・ショーケウはスライディングして弾を避けつつ、撃ち返す。
だがゼノフォースはこちらの弾を的確に、迅速に撃ち落とし、フライトユニットの翼を展開した。
そして推力に重力を乗せた蹴りを繰り出してくる。
ヴィマーセ・ショーケウもパワーズウイングの噴射で脚を振り上げ、蹴りで蹴りを受け止めた。
ぶつかりあった衝撃が空気を震わせ、地面の砂礫を舞い散らせる。
ゼノフォースがまた銃口を向けてきた。
ヴィマーセ・ショーケウはクレイショットガンを薙いで照準を逸らす。
銃身の衝突に合わせてゼノフォースは着地し、ヴィマーセ・ショーケウも起き上がった。
次の瞬間、掌底が視界の端に迫ってきた。
クレイショットガンを手放し、敵の掌底を受け止める。
ヴィマーセ・ショーケウもゼノフォースの胴に手を突っ込ませたが、やはり防がれた。
金属と、人工筋肉の軋む音が耳の奥底まで刺激してくる。
するとガヴォートが言った。
「強化しているのか」
「当然だ」ラジービは答える。「この機体は、わたしの怒りとあの子の無念だけを宿しているわけじゃない」
「フン、ならば――」
ゼノフォースの膂力がヴィマーセ・ショーケウの両腕を撥ね上げ、
「私のほうがはるかに上だ!」
ヴィマーセ・ショーケウの胴にタックルを食らわせてきた。
ラジービはシートに背を叩きつける。
次の攻撃が来る前にヴィマーセ・ショーケウは身を屈め、クレイショットガンを拾いながら回り込んだ。
ゼノフォースは射撃で追ってくる。
「いいかラジービよ! この機体にも私の憤怒と、ダヴィフニス准将やキサマらに殺された仲間たちの無念が宿っている! それに比べれば――」
ライフルにアドオンしたグレネードランチャーが放たれた。
ヴィマーセ・ショーケウはシールドを構え、防御姿勢を取る。
「きさまらの想いなどたかが知れている!」
グレネードが炸裂し、視界に爆炎が広がった。
機体も圧されるが、致命打は盾で防げた。
攻撃よりも癪に障ったのは――、
「たかがだと……!?」
ヴィマーセ・ショーケウは大地を蹴り、パワーズウイングでブーストする。
ゼノフォースの目前まで急接近し、銃床で殴りかかった。
「リーユイが……あの子たちがどれだけ苦しんだかわかって言ってるのか!?」
「人の生に苦しみはつきものだ! それを国のせいにした者どもなど!」
銃床での殴打を、ゼノフォースは受け流し撃ち返す。
至近距離での射撃だったが、ヴィマーセ・ショーケウは寸でのところで弾丸を滑らせた。
エネルギー弾が虚空に散る。
「人を――弱い者を護ってこその国だろう!」
ヴィマーセ・ショーケウも撃ち返した。
「オマエが護りたかった人たちに栄養失調で病気になった者はいるか!? いつ滑落するかもわからない山の上の廃船で、怯えながら生活していた子どもたちはいるのか!? 助けを求めても無視されて――暴力に訴えるしかなくなった人たちがいるというのか!? どうなんだ!」
ゼノフォースは粘着弾を盾で受け止め、
「いなければなんだというのだ!? きさまはそんなことを理由に! 裕福な者への暴虐を許容するというのか!」
そのままシールドバッシュを繰り出してきた。
ヴィマーセ・ショーケウも盾を持ち上げ、激突させる。
両機の足が岩を砕き、地面にめり込んだ。
「許容する気などない! だがそれ以上にな! オマエらのように弱者を踏みにじるやつらなどなおさら許してたまるものかよ!」
「弱者だと? 甘えているだけだろう! 平和な国に生かしてもらっておいて――」
ゼノフォースが銃をマウントし、こちらの腰部を掴んできた。
「厚かましく文句をつけるな!」
ガヴォートの怒号と共に、ヴィマーセ・ショーケウは投げられた。
機体が激しい勢いで横に回転し、硬い地面に打ち据えられる。
舞い散る砂塵の向こうで、ゼノフォースのシルエットがまたライフルを手にした。
「人権だの尊厳だのとぬかす前に、役に立つ人間になるべきだ……違うか?」
「わたしはそう思わん」
ラジービは答え、クレイショットガンの弾倉をパージする。
電撃弾を装填した弾倉に換えながら、パワーズウイングで突撃した。
「役に立つか否かを、誰が決める!? オマエは自分が役立たずだと切り捨てられたら抗わず受け容れるのか!?」
「あり得ん仮定の話をするな!」
クレイショットガンの電撃弾がゼノフォースのライフルに直撃し、内部から破壊せしめた。
だがゼノフォースは銃を逆に持ち、離脱しようとするこちら目掛けてフルスイングする。
ヴィマーセ・ショーケウは躱しきれず、クレイショットガンを破壊された。
銃身の根本からへし折れて破片を散らすショットガンの裏側から、ゼノフォースが二挺目のライフルを構える。
銃撃をシールドで受け流し、刀を握る。
ヴィマーセ・ショーケウの袈裟斬りがゼノフォースのライフルに着いた銃剣を叩き、射線を落とさせた。
続けてライフルを蹴飛ばし、ゼノフォースの手からはじき飛ばす。
ゼノフォースは背後の剣に手を伸ばしながら、左の掌底でこちらを突いてきた。
ヴィマーセ・ショーケウは一旦退き、また突進する。
二機の刃が斬り結んだ。
幾度となく刃をぶつけ合う最中で、ガヴォートが言う。
「いいかラジービ! これだけは勘違いするな! 我々とて好きこのんでコブナスの民を助けなかったわけではない!」
「詭弁はやめろ! 助けない言い訳ばかり賢しらに!」
「違う!」
ヴィマーセ・ショーケウの斜めからの斬撃を、ゼノフォースがはじいた。
そこから流れるように刺突を繰り出してくる。
胴をひねって串刺しを避けたが、腹部の外装に刃が滑りエンジンの一部が露出した。
ヴィマーセ・ショーケウは刀の柄を振り下ろし、打撃を当てようとする。
しかしゼノフォースは肘打ちで直撃を妨げた。
そのパワーは相当なもので、ヴィマーセ・ショーケウの手から刀が滑って舞い落ちる。
またガヴォートが言った。
「そもそも我々ときさまらの理想は同じのはずだ! 私もまた、このコブナスから――この世界から不当な差別や意味無き格差、不要な貧困を失くし、価値ある人間の幸福を願っている!」
彼の言を聞いて、ラジービは音が出るほど歯を食いしばる。
「わたしたちの理想が、オマエらと同じだと?」
目が血走り、衝動的にフェイスガードを剥がした。
「ふざけるな! 何もかも違う! その余計な副詞を外せ!」
ヴィマーセ・ショーケウは対戦艦ライフルに手をかけ、マウントを外すと同時に畳んでいたプレートバレルを展開した。
ゼノフォースは焦ったように剣を捨て、両手で対戦艦ライフルを掴む。
ヴィマーセ・ショーケウも奪われまいとパワーを上げるが、まもなく対戦艦ライフルはゼノフォースに奪われ、海へと投げ飛ばされた。
が、ヴィマーセ・ショーケウは右手を振りかざし、ゼノフォースの顔面に掌底を喰らわせる。
渾身の一撃。クリーンヒットだった。
ゼノフォースのフェイスカバーが砕け散り、カメラアイが露出する。
大きく傾き、そのままゼノフォースは倒れ込むかに見えた。
が、相手は脚を振り上げ、蹴りを放つ。
ヴィマーセ・ショーケウは防御を行うが、蹴りを受けた瞬間に盾は限界を迎え砕け散った。
左腕全部が震えて軋み、コクピット内でもダメージアラートが鳴る。
そのまま後ろに飛ばされ、足を着いた途端にヴィマーセ・ショーケウはバランスを崩して仰向けに倒れた。
一方でゼノフォースも、苦し紛れの蹴撃だったらしく、そのまま傾いて地面に突っ伏す。
二機は共に横たわったままもがき、再度立ち上がろうとする。
ヴィマーセ・ショーケウの右手側には、はじかれた刀が突き立っていた。ラジービはそれに気づくと、柄へと腕を伸ばす。指が鍔際にかかって、刀を杖代わりに機体を起こした。
ゼノフォースはこちらよりわずかに立ち直りが早かったらしく、もう片膝で立っていた。
「この私相手に、ここまで粘るとはな……」
ガヴォートの声がすると、ゼノフォースの膝が逆方向に曲がり始めた。
上半身が前傾になり大腿部の装甲が展開したところで、ガクンと動きが止まる。
ゼノフォースは掌底を受けて歪んだ下半分のフェイスガードを手ずから引き剥がし、冷却機構を強引に露出させた。
変形が続行し、腕が伸びたところでヴィマーセ・ショーケウも両脚で立ち上がり構え直す。
ゼノフォースがその長い腕で剣を掴むと同時に、突っ込んできた。
呼応するようにヴィマーセ・ショーケウも走り出す。
また、剣戟が繰り広がった。
両機の刃が交差し、力の限り叩きつけ合う。
ヴィマーセ・ショーケウの次の一撃は空振りだった。
その隙にゼノフォースが斬撃を放つ。
これを避けたつもりだった。が、動きが小さすぎて胸元が斬り裂かれた。
ラジービの斜め前で火花が飛んだ。しかしまだモニターは生きている。
ヴィマーセ・ショーケウは踏み込んで刀を薙ぐ。
その一閃がゼノフォースの肩アーマーを斬り飛ばした。
返す太刀で胴を両断しようとするも、ゼノフォースはヴィマーセ・ショーケウの右側に回り込んで、背後を取ってきた。
一瞬対応が遅れて、ヴィマーセ・ショーケウは左袈裟斬りを喰らう。
パワーズウイングの、右の増槽がやられた。
裂け目から燃料を吹き出し、コクピット内でも燃料計が一気に半分を切る。
ラジービの心に焦りが生じて、ヴィマーセ・ショーケウは破れかぶれのストンピングで、ゼノフォースの剣をへし折った。
僥倖だった。
が、次の攻撃を行う前に、ゼノフォースの喉輪攻めを喰らう。
機体を通じて、ガヴォートの雄叫びが聞こえたと思うと、ヴィマーセ・ショーケウは砲丸さながらに投げ飛ばされていた。
ラジービに高Gがかかり、海へと落下する。
海を割る勢いの飛沫を撒き上げ、ヴィマーセ・ショーケウは全身を沈める。
けれどそこは比較的浅瀬で、片膝を立てれば上半身は海面を抜けてくれた。
ここでラジービは対戦艦ライフルが、波間からわずかに姿を覗かせていることに気づく。
ゼノフォースはこちらに向き直り、疾走の構えをしていた。進行方向にはアサルトライフルが落ちている。
互いに残った武器は前方の一つだけだ。
二機は一拍の間を置いて、同時に飛び出した。
ゼノフォースは脚力と伸長した腕でライフルを掴み、ヴィマーセ・ショーケウはパワーズウイングの全力で海を飛ぶ。
左腕を伸ばし、対戦艦ライフルのキャリングハンドルをキャッチした。
武器を海中から引き上げると、ゼノフォースの銃撃が始まる。
ヴィマーセ・ショーケウが構えている間に相手の弾は左腕を射抜き、胸の装甲を貫いて頭部のガードフレームを折損させた。
被弾はコクピットの中にまで被害を与え、ラジービは飛んだ破片で額を切られる。
けれど、こちらも発射準備ができた。
ラジービの咆哮と共に、対戦艦ライフルから光がほとばしる。
そして光の柱が、飛び立とうとしているゼノフォースの両脚と翼を消し飛ばした。
疾走の勢いを止められなくなったゼノフォースは、顔面から地面に激突し、そこからバウンドしてまた宙を舞う。
衝撃が首と胴を分かち、頭部は天を仰ぐように転がった。
胴体は手をついて止まろうとしたが、その瞬間肩からはじけてうつ伏せに落ちる。
ゼノフォースは、もはや見る影もなくなってしまった。
ヴィマーセ・ショーケウのカメラ越しに、肩で息をするラジービは決闘の結末を見る。
彼は深呼吸をして、目を伏せた。
◇
ナグリコフ中将は、沈みゆくベルシェゴル、警報の鳴り止まぬ艦内をよろよろと進んでいた。手には拳銃が握られている。
発射管制室の近くまで至ると、そこからクルーが現れた。
「閣下、一番から二十二番……全発射管の準備が完了しました」
「ごくろう。では速やかに退艦したまえ……」
「はい。ですが、今さらミサイルを撃ってどう――」
「逆賊どもに一泡吹かせてやるのだ!」
ナグリコフは怒鳴った。
「このベルシェゴルが……<切り札>の一発も撃たずに沈むなど……対賊隊のメンツが丸潰れではないか……!」
「しかし……」
「さっさと逃げろ! きさまも死にたくはないだろう!」
クルーは彼に気圧されたのか、小さく唸ってから去っていった。
「ガヴォート少佐さえいてくれれば……」
その言葉を背に、ミサイル発射管制室へ至ると、ナグリコフは室内に固定された二つの金庫を撃ち壊す。
一つめの金庫には発射管制コンソールに挿し込む鍵、二つめには<切り札>を発射するためのトリガーが保管されていた。
ナグリコフはコンソールに鍵を挿し、最終安全装置を解除する。
そして、幽かな笑みと共にトリガーを引いた。
◇
「ベルシェゴルから高エネルギー反応! 数は二十二です!」
ファリーダは、タイダリアスからの報告に耳を疑った。
着艦したばかりのピースキーパー2を舷側に移動させ、ベルシェゴルが沈んだ箇所を覗き込む。
次の瞬間、泡と煙の柱を突き破って弾道ミサイルが飛び出した。
その弾体には、放射能のハザードシンボルが見える。
「核ミサイルか!」
オリヴィンが言った。
「まさかわたしたちごと――」
「いや、この距離だと安全装置が働いてる!」
「じゃあどこに?!」
動揺していると、ガーネットタロンとエメラルドラインがフライトユニットを噴射し、ミサイルに向かう。
至近距離まで近づき、アサルトライフルで二発のミサイルを破壊した。
「撃ち落とすぞ!」アトギソン機も再び空に舞う。「核兵器を炸裂させるな!」
バッド=リー機、シフリン機が後に続き、ピースキーパー2もナイトフェザーにライドした。
その横でリヴァケープが一発のミサイルに張り付き、ドリルで穴を開ける。
挙動が乱れたミサイルは別のミサイルにぶつかって墜落した。
タイダリアスや僚艦、対空攻撃ができる機体は皆、総出でミサイルを撃ち落とそうと弾幕を張る。
敵の残存勢力は妨害してこなかったが、戦闘の消耗が災いし、掃射は長く持たなかった。
ピースキーパー2がナイトフェザーと共に二十一発目を撃破したところで、彼女らも限界に達する。
最後の一発は、天高く昇って西の空へと消えていった。
◇
突如、ラジービの端末に通信が入る。電話通信だ。
彼がそれに応答すると、スピーカーからアトギソンの声がした。
「ラジービ! ゼノフォースは!?」
「撃破しました」
「対戦艦ライフルはフルパワーで撃てるか?!」
「撃てますが、いったい何が――」
「ベルシェゴルが核ミサイルを発射した! ほとんど撃ち落としたが一発だけそっちに向かってる!」
「なんですって!?」
「データを送るから、オマエのほうで撃ち落としてくれ!」
「了解!」
通話が終わるや否や、端末が核ミサイルの軌道予測データを受信する。
ヴィマーセ・ショーケウは、それに従って撃墜地点に歩き出した。
数歩踏み込んだところで、被弾した左腕が脱落し機体も傾く。
しかしすぐ持ち直して、射撃位置に着いた。
海から上がり、岩の地面を両脚でしっかりと踏みしめる。
天を仰ぐと、ミサイルの軌跡が見えた。
ヴィマーセ・ショーケウは右腕を天に突き伸ばし、最大出力の対戦艦ライフルを構える。
そして、ロックオンと共に撃った。
閃光と共にビームが空へ伸び、雲を蒸発させると――核ミサイルを消し飛ばした。
夕焼け空から、エネルギー反応が失せたのを見て、ラジービは成功を確信する。
やがてヴィマーセ・ショーケウは片膝をつき、うなだれて休止状態に入った。もう燃料も残り少ない。
「……ありがとう」ラジービは、物言わぬ戦友に向けて言った。「迎えが来るのを待とう。一緒に――」
だがその時、ゼノフォースの残骸で何かが動くのを視界の端に捉えた。
ガヴォートである。ロングマガジンを挿した機関拳銃片手にコクピットから這い出て、こちらへ歩いてくる。
おぼつかない足取りで、特製のパイロットスーツもヘルメットも破損していた。バイザー越しに流血まで確認できるが、彼の碧眼は闘志で燃えたままだ。
ガヴォートは叫ぶ。
「降りてこいラジービ! まだ勝負はついていないぞ!」
「ガヴォート……おまえは――」
ラジービは一瞬、無視して機内にこもっていようかとも思った。
けれど、その選択は気が引けた。
彼はホルスターから拳銃を抜き、グリップを強く握りしめる。
ハッチを開くや否や、ガヴォートは撃ってきた。
慌ててラジービはコクピット内に引っ込んだ。
ガヴォートは銃撃を止め、確実に弾が中たる位置へと移動している。
どうする? とラジービは額に汗を流す。
ハッチを閉じるにしても、降りるにしても余裕が無さすぎる。
いっそのことライドールで――。
思考を巡らせていると、東から風を切る音が聞こえてきた。
ラジービとガヴォートがそちらに気を取られた次の瞬間、
「銃を捨てておとなしくしろ!」
アトギソンの声と共にエアクラフトグレーのジューゲルが現れた。
続けてピースキーパー2がヴィマーセ・ショーケウの横に降り立ち、護るように寄り添う。
すこし遅れて、タイダリアスの艦隊がやって来た。
ガヴォートのほうを見ると、彼は銃を捨て、片膝をつき……うなだれていた。
対賊隊との戦いが終わり、コブナスは本当の意味での新しい始まりを迎える。
最初のうちは混乱があった。今も新政府の是非が方々で問われている。
けれど、ラジービはどういうわけか、なんとかなるだろうと楽観的だった。
初めての心持ちであった。
彼は自宅に帰ってきて、一通の招待状が来ているのに気づく。
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ラジービは微笑み、<出席>の欄にチェックを入れると、リーユイの靴の傍に置いて忘れないようにする。
それからシーブルーのエレキギターを構え、メトロノームの音を響かせて運指練習を始めた。
了
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