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第007話 クーナの成長

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 クーナを召喚してから1週間が経過した。
 その間に戦闘を行ったのは2日だけである。討伐した敵はFランク15体とEランク5体のみ。後はまったりほのぼのと、その日その日を過ごしていた。そして今日もまったりデーを満喫する予定。

 だったのだが……。

「すっかり忘れていたぜ」

 酒場で朝食を済ませている時に思い出した。
 対面で大量のたこ焼きを頬張るクーナが「ほへ?」と固まる。
 可愛い獣の耳は、ピーンッと立ってこちらを向いていた。
 何を話しても聞き逃さないぞ、という熱い意志を感じる。

「SPだよ、SP。サモンポイント」

 俺のユニークスキル【超級召喚】の仕様にあるポイントのことだ。
 これは俺やクーナがモンスターを倒すことによって貯まる。
 ポイントの用途は新たなモンスターの召喚だ。
 クーナとの日々が楽しいあまり、すっかり失念していた。

「わわっ、クーナにお友達が増えるなの?」
「もしかするとそうなるかもしれないぜー!」

 俺は食事の手を休めてSPを調べることにした。
 2体目の召喚に必要なSPは50万。対して俺のSPは――。

===============
【名 前】タケル
【種 族】人間
【ランク】F
【S P】65
===============

 なんてこった、65ポイントしか貯まっていない。

「すまん……お友達はもうしばらくかかりそうだ……」

 クーナが「ガーンッ」と大げさにしょげる。
 俺にしても、65ポイントしかない衝撃は相当だった。

「俺達が倒したのはFが15体にEが5体。で、ポイントは65ポイント。十中八九、Fランクは1ポイントでEランクが10ポイントだな。つまり、新たなお友達を召喚するには、Eランクの敵を――」

 計算の苦手な俺でも即座に答えが分かる。
 ドヤ顔で暗算結果を言おうとする俺を、クーナが遮った。

「つまり30万体を倒すなの!」

 したり顔で独自の計算結果を言うクーナ。
 どこをどう計算したらその数字になるのかは不明だ。
 しかしながら、彼女の表情は自信に満ちていた。

「そんなに倒さなくていいよ。5万体で十分だから」
「わわっ、なんだか思っていたよりも少ないなの!」

 たしかに30万から5万に減ったと思えば大幅減だ。
 しかし、今のペースで5万体は絶望的である。
 未来永劫かかってもおかしくない数だ。

「新たなお友達を作るには、死線をくぐるしかねぇなぁ」
「クーナに任せてなの!」
「任せてはいるけど、まずはレベルが上がらないとな……」

 情報収集の結果、Sランクのモンスターは成長率が凄いと分かった。
 要するに、レベルアップが上がるとステータスが跳ね上がるわけだ。
 しかしながら、いつになればレベルが上がるのか分からない。
 クーナのレベルは依然として1である。

「クーナは新しい友達が欲しいのか?」

 たこ焼きをフーフーした後、クーナは笑顔で断言した。

「欲しいなの! 賑やかなほうが楽しいなの!」
「そうか。ならば今日はレベル上げでも頑張りますか」
「頑張りますなの! で、おとーさんに撫で撫でしてもらう!」
「おうおう、期待しているよ」

 ――というわけで、本日はまったりデーではなくなった。

 ◇

 食事を終えた俺達は、<ゴブリンマウンテン>にやってきた。
 その名の通り多数のゴブリンが棲息している山だ。
 ゴブリンのランクは様々。下はFで上はCだ。
 山を登っていくほどに強くなると言われている。

「さてレベル1のクーナがどこまで通用するか見物だな」
「おとーさん任せて! クーナ、いっぱいいっぱい頑張るから!」
「おうおう。頑張った後は撫で撫でだろ?」
「うん! お願いなの!」

 なぜか頭を向けてくるクーナ。
 何も始まる前から撫で撫での要求である。
 可愛らしい耳を触りたいから撫でようか悩んだ。
 しかし、甘やかしてはいけないと思いとどまる。

「頑張ったらな」
「ぶぅー! おとーさんのいじわる!」
「まだ頑張ってないからな」

 クーナが「いいもん!」と開き直る。
 それから両手を地面に付けて戦闘態勢に入った。

「これでいつでもギャンッて出来るなの!」
「おうおう、頼もしいな。いつもそうしてくれ」

 ダンジョンでは常に戦闘態勢のほうが有りがたい。
 いつもはやれ手を繋げと五月蠅いからな。
 今日はクーナも本気の中の本気ということだろう。

「よーし、出発だ」
「しゅっぱーつ!」

 俺達は<ゴブリンマウンテン>を登り始めた。

 山はそれほど険しくない。
 道幅も広く、非常に登りやすい。砂利道が足を刺激して痛いけれど、あえて気にするほどでもないくらいだ。その反面、気温の低さが肌にくる。凍える程に寒くはないけれど、「厚着をすればよかった」と悔いるくらいには寒い。

「ゴッブゥ!」
「ゴブブーン」

 テクテク進んでいるとモンスターが現れた。
 クーナと同等の背丈をした緑色の小物“ゴブリン”だ。
 見た感じこれといった特徴が無い。Fランクだな。

「2体を同時に相手取れるのか?」
「おとーさんがたくさん撫で撫でしてくれるなら!」
「勝ったら撫で撫でしてやるぞ」
「なら大丈夫なの!」

 そう言うと、クーナは駆けだした。
 横並びのゴブリンの片割れをタックルする。
 ゴブリンは「ゴブーン」と情けない声を出して吹き飛んだ。

「ゴブちゃん、覚悟なの!」
「ゴブッ!?」

 クーナの狙いはタックルしなかった方だ。
 すかさず身体を90度回転させ、隣のゴブに襲い掛かる。
 鉤爪をニョキッと出して、お得意のギャンッ! が炸裂だ。

「ゴブ!? ゴブブゥ!」

 顔面を引っ掻かれたゴブリンが発狂する。
 顔を押さえながら、右に左にとのたうち回った。

「やれクーナ! トドメだ!」
「任せて! おとーさん!」

 クーナは容赦なく鉤爪でゴブリンを仕留めた。
 それから、体勢を立て直した残りの1体の処理にかかる。

「Fランクは種類に問わず余裕だな」

 クーナの戦闘ぶりを見て呟く。
 敵ゴブリンに何もさせずに圧倒していた。
 四肢を駆使して縦横無尽に動き、隙を突いて攻撃する。
 ゴブリンの身体に無数の深手が増えていく。

「ゴ……ゴブ……」

 いよいよゴブリンが動けなくなった。
 全身から血を流して、クラクラしている。
 もはや放置していても出血多量で死にそうだ。

「おとーさん!」

 クーナが合図してくる。
 意味は「倒すから見ておけ」だ。
 俺は「見ているよ」と頷いた。

「シュババッの……ギャーンッ!」
「ゴブーン……」バタッ。

 2体目のゴブリンも灰と化した。
 その瞬間――。

「わわっ!?」
「クーナ!?」

 クーナの身体を光が包んだ。
 2人で驚いている間に光が消える。

 事態が理解出来ずに困惑する俺。
 一方、クーナには何事か分かったようだ。
 彼女は満面な笑みを浮かべ、声を弾ませて言った。

「おとーさん! クーナ、レベル上がった!」

 ついにクーナのレベルが2になったのだ。
 俺は思わず「うおおおおおお!」と叫ぶのであった。
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