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004 C級魔犬ケルベロス

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 ルイゼが受注したのは、C級のPTクエストだった。

 クエストには、個人とPTの2種類が存在する。
 個人はソロを前提とし、PTはパーティーを前提としたもの。
 当然ながらPTクエストの方が難しくて、報酬も個人クエストの倍以上だ。

 今回の討伐対象は、三つ首の大型魔犬“ケルベロス”。
 棲息しているのは〈ウズルベルト大空洞〉と呼ばれるダンジョン。
 分岐点が無数に存在するが、警戒していれば迷わない。
 洞窟とは思えぬ広大さと、炎天下のような熱さが特徴的な場所だ。

「ロイドって強さはどのくらいなの?」
「ステータスのことならオールSだよ」
「へっ? どういうこと?」
「全項目がSなんだ。あらゆる能力、あらゆる適性がS」
「……ここは冗談じゃなくて真面目に答える場面だよ?」
「真面目に答えているのだが? なんだったら今度測定する?」
「いや、もうじき分かるから気にしないよ」
「ケルベロス程度で分かるかなぁ。瞬殺だと思うけど」
「あはは、ほんと吹かすねー! こんな自信家見たことないよ」

 ダンジョンの中を歩きながら話す。
 他のモンスターは一切棲息していない。
 ダンジョン全体がケルベロスのテリトリーだからだ。

「それにしても熱いね、ここ」

 ルイゼが熱そうに服の襟元をばたつかせる。
 指で摘まんでパタパタして、微かな風を顔に飛ばす。

 ルイゼの服は、汗を十二分に吸収している。
 摘ままずにいると、服が下着に張り付いてしまう。
 おかげで、服の上から下着が透けていた。

「って、どうしてロイドは涼しげなのよ?」

 恨めしげに見てくる。
 涼しげもなにも、実際に涼しくしていた。

「俺は魔法を使っているからね」

 常に快適な環境に身を置くのは勇者の基本だ。
 だから、体の周囲には薄い魔法の膜が張ってある。
 それの効果により、周囲が極寒でも極暑でも変わらない。

「そんな魔法を使えるなら私にもかけてよー!」
「魔力がもったいないなぁ」
「えー! ケチ! いいじゃん!」
「やれやれ」

 仕方ないから魔法を掛けてやった。
 ルイゼの全身を白色の淡い光が覆う。

「うわぁー、凄く快適! 熱すぎず寒すぎない!」
「それが〈エアコンディショナー〉の効果だからな」
「へぇ、そういう魔法名なんだ。初めて聞くけど、自作の魔法?」
「そうだよ」
「流石は自称オールS! 魔法が得意なんだねー!」
「特筆するほど得意ってわけでもないけど」
「またまたー! 謙遜しちゃって! 自作出来るって相当じゃん!」

 魔法の自作は難しい。
 魔法系の適性が少なくともA級は必要といわれている。

「大魔導士様は他にどんな魔法が使えるの?」
「大魔導士様って……俺のこと?」
「他に誰が居るのよー! 2人きりなのに!」

 大魔導士なんて初めて云われたよ。
 勇者PTにはあらゆる魔法の“神”が居たからね。

「どんな魔法でも使えるよ」
「曖昧ー! じゃあ、得意な分野と苦手な分野は?」
「そういうのも特にないかな。満遍なく何でもこなせるよ」

 オールSだからそういうものだ。
 勇者PTでも何でも屋として立ち回っていた。
 適当に職種を当てはめるなら、さしずめ“万能職”だ。
 もっとも、実際は“器用貧乏”でPTをクビになったのだが。

「ロイドって、お金を稼いでどうしたいの?」
「店を開こうと思っているんだ」
「へぇー、どういう店?」
「何でも屋っていう、文字通り何でも依頼を受ける店」
「薬草採取してーとか、剣を修理してーとか、何でもいいの?」
「そうそう、何でもいい。そういう店を開く予定」
「本当に何でも出来るんだ!?」
「一般的にプロフェッショナルと呼ばれるレベルのことならね」

 それにしても、ルイゼは色々と訊いてくる。
 敵が出なくて退屈なのもあるだろうが、それを抜きにしても口数が多い。
 俺はどちらかといえば寡黙な人間なので、これほど話すのは久々のことだ。

「ところで、ルイゼは普段からソロなの?」

 今度はこちらから訊いてみる。
 ルイゼが大きく頷いた。

「PTを組むことは滅多にないねー! ソロの方が気楽だし!」
「なのに今回はPTを組んでくれたのか」
「変な人で面白そうだったからね。実際、話せば話すほど面白いし!」
「面白い要素は特にないと――」
「ワォオオオオオオオオオオオオオン!」

 話している最中にケルベロスが現れた。
 横の大穴から凄まじい勢いで飛び出してきたのだ。

「話している最中だぞ」グサッ。

 だから手刀に魔法の刃を纏わせて斬り伏せた。
 巨大な胴体が、真ん中の頭から左右にパカッと割れる。
 ケルベロスは即死だった。

「えっ」

 ルイゼは驚いていた。
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