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003 2対400の戦争
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ゴブちゃん曰く、相当な数の敵がこの山に迫っているらしい。
「思ったより早いな」
攻めてきたのは、オシアナスの兵士か冒険者だろう。
先程のカモを倒してから、まだ一時間しか経っていない。
これだけ速いとは……魔法を使いやがったな。
「やっぱ、ゴールドランクは伊達じゃないな」
「ゴールドランク? それは何なのですか?」
キュウが訊いてくる。
まだ余裕もあるし、俺は丁寧に説明した。
「ゴールドランクとは、冒険者の階級のことだよ。全部で四段階あって、高い方が強い。ゴールドランクは、上から二番目だね。冒険者が何かとか、そういう細かいことについては、省略するぜ」
ブロンズ、シルバー、ゴールド、レジェンド。
冒険者の階級を下から並べると、こうなる。
ブロンズは、冒険者になりたての初心者だ。
シルバーが中堅どころで、最も人口が多い。
そこから頭一つ抜けたベテランが、ゴールドだ。
ゴールドまでの強さは、一〇倍が基本と云われている。
つまり、シルバーは、ブロンズの一〇倍強いわけだ。
同様に、ゴールドも、シルバーの一〇倍強いことになる。
もちろん、これは大体の目安であって、絶対ではない。
ゴールドでも弱かったり、ブロンズでも強い奴は居る。
レジェンドは、ゴールドを超越した強さで、比較にならない。
最低でも、ゴールド一〇〇〇人に相当する強さと云われている。
その為、一つの国に一人居るか居ないかの存在だ。
文字通り、伝説級である。
「で、キュウとエルザを箱に詰めて運んでいた奴は、ゴールド相当な強さだったわけだ。実際の階級は不明だけどな」
「よく分かったなのです。ありがとうなのです」
俺は身体をくるりと翻し、洞穴から出た。
そして、目を瞑り、精神を集中させる。
「西から三〇〇、東からも一〇〇近づいているな」
「む、東にも居るゴブ?」
「気づかなかったのか。そっちが奴らの本命だぞ」
敵の気配は、西と東の二方向にある。
西は、シルバーランクの雑魚が三〇〇人だ。
統率感のない気配から、冒険者だと分かる。
国に仕える兵士なら、もっと息が合っているものだ。
一方、東の一〇〇人はゴールドランクだ。
こちらも冒険者だが、なかなかの手練れ揃いである。
「相当気合が入っている。よほど取り返したいみたいだな」
キュウとエルザが、ブルブルと震える。
怖くて仕方がないのだろう。無理はない。
「リュート、どうするゴブか?」
「俺は東、ゴブちゃんは西でいい?」
「分かったゴブ! 装置は使ってもいいゴブ?」
「いいよ。俺は他のアイテムでやりくりするから」
「ありがとうゴブ!」
サクサクと話がまとまる。
そんな時、リザさんが戻ってきた。
「リュート、東からすんげぇ数が攻めてきたぞ」
「だな。俺が対処するから、リザさんの隊は、二人を守ってくれ」
「チッ、仕方ねぇな」
リザさんは薙刀を地面に捨てると、その場で屈んだ。
「エルザ、俺に負ぶされ」
「は、はい、分かりました」
言われた通り、エルザがリザさんに負ぶさる。
続いて、リザさんはキュウの名を呼んだ。
「キュウは俺の肩に座っていろ」
「はいなのです」
これまた指示通りに動く。
キュウは、リザさんの右肩にちょこんと座った。
「俺に子守をさせるとは、ふざけた男だぜ、リュート」
「そうは言いつつ、戦わなくてホッとしているだろ」
「バッ、バカ野郎! そ、そんなことねぇよ!」
リザさんが慌てふためく。
そう、彼は戦闘が苦手なのだ。
威圧的な見かけとは、裏腹である。
「では、張り切っていこう」
「ゴブーッ!」
こうして、二対四〇〇の戦争が幕を開けた。
◇
戦闘は二箇所で行われる。
山の西側と東側だ。
まずは西側、シルバーランク三〇〇人との戦い。
こちらは、ゴブちゃんが一人で行う。
「ワクワクするゴブ、ワクワクするゴブ」
ゴブちゃんは、中腹にある洞穴で身を潜めていた。
手には、魔力妨害装置を握りしめている。
「もう少しゴブ!」
精神を集中させ、ジッと待つ。
近づくにつれて、敵の動きが遅くなる。
こちらの攻撃を、警戒しているからだ。
「早く来るゴブ……!」
それでも、ゴブちゃんは焦らない。
気配を絶ち、戦闘内容をイメージする。
イメトレ回数が一〇〇を超えた時――。
「戦闘開始ゴブ!」
敵が射程圏に入った。
ゴブちゃんは、迷うことなく、魔力妨害装置を発動させる。
魔法の使えないゴブちゃんにとって、得しかないアイテムだ。
「ゴブーッ!」
装置が発動するなり、ゴブちゃんは動いた。
洞穴から飛び出し、一直線に対象を目指す。
「キ、キングゴブリンだーッ!」
ゴブちゃんを視認した敵が、声を上げる。
当初の想定通り、シルバークラスの冒険者三〇〇人。
だが、彼らが逃げることはなかった。
「えっ……」
「話にならないゴブ!」
気づいた頃には、死んでいたからだ。
一瞬で、三〇〇人の冒険者が全滅する。
全員の首が、胴体から離れていた。
西側の戦闘時間――約三秒。
電光石火の決着だった。
◇
その頃、俺とリザさんは山頂に居た。
リザさんが担いでいるので、キュウとエルザも一緒だ。
「リザさん達はここで待機だ」
「仕方ねぇ」
山頂から、東を見下ろす。
遠くには、海が広がっている。
海の上に、巨大な石橋が架けられていた。
石橋が続く先に、孤島がある。
その孤島に建つのが、この国の首都だ。
名前は『レイングラド』。
難攻不落と名高い、巨大な城郭都市だ。
「さて、敵は……」
視線を足元に近づけ、感覚を研ぎ澄ます。
一瞬で、忍び寄る一〇〇人の位置を特定した。
一本しかない山道を通り、こちらを目指している。
悲しいことに、彼らは油断していた。
魔法で姿を消しているから、バレるはずがない。
――と、思っているのだろう。
俺はまだしも、リザさんにすら気づかれているのに。
「生け捕りが条件じゃなかったら、まだ分からなかったのにな」
敵の勝利条件は、キュウとエルザの生け捕りだ。
もしも皆殺しが条件なら、遠くから山に攻撃している。
そうしないあたり、生け捕りが条件なのは間違いない。
あまりにも、こちらに有利な条件だ。
キュウ達がこちら側に居る限り、戦場はこちらが指定できる。
この時点で、俺の勝率は一〇〇パーセントで固定されていた。
「キュウ、エルザ」
俺は、リザさんに背を向けたまま、二人の名を呼ぶ。
二人の「はい」という声が、背中に返ってきた。
「この世で最も愚かなことは何か知っているか?」
「分からないなのです」
「分かりません」
「それは、山で待ち構える山賊に戦闘を挑むことさ」
俺はマジックバッグを漁り、アイテムを取り出した。
取り出したのは、三種類の種だ。
一見すると、ヒマワリの種に見える。
だが、これらもれっきとしたアイテムだ。
色は、青、赤、灰の三色。
「まずは、こいつだ!」
俺は青色の種を下に叩きつけた。
種がパカッと割れ、割れ目から水が溢れだす。
水は瞬く間に勢いを増し、東の山道へ流れ込んだ。
これは、C級アイテムの『ザーザーツナミ』だ。
叩きつけることで、津波を発生させる使い捨てアイテム。
この津波に対する、相手の防衛手段は察しがつく。
火で蒸発させるか、氷で凍らせるかだ。
選ぶのは、まず間違いなく前者だろう。
凍らせると、進行の妨げになるからだ。
それを見越して使うのが、二つ目のアイテム。
「そいや!」
俺は灰色の種を、湧き上がる水に叩きつけた。
すると、たちまち、水の性質が変わっていく。
ただの水から、にゅるにゅるした滑る液体に大変身。
D級アイテム『ツルツルオイル』だ。
水の性質を変える使い捨てのアイテム。
「な、なんだ、津波が迫ってくるぞ!」
「バレていたのか……ッ!」
「ええい、迎撃だ!」
津波を確認すると、相手が迎撃態勢に出た。
先程まで何もなかった山道に、一〇〇人の姿が現れる。
ゴールドランクなだけあり、年季の入った野郎共が目立つ。
「炎の壁を張れ!」
「おう!」
冒険者達が、魔法を使い、炎の壁を作る。
それにより、津波を打ち消そうという考えだ。
だが、それは大失敗である。
「こ、これはただの水じゃないぞ!」
にゅるにゅるの津波が、たちまち、炎の津波に変わる。
そう、ツルツルオイルの混ざった水は、引火物になるのだ。
ひとたび火が付けば、ドカンと弾ける。
「ウギャアアアアアアアアアアア!」
一瞬にして、冒険者が炎に包まれる。
しかし、彼らはゴールドランクの強者だ。
火に焼かれたくらいで、死にはしない。
「防壁を張れ!」
「回復をしろ!」
防御魔法で防壁を張り、回復魔法で傷を癒す。
あっという間に、立て直しを完了させる。
しかし、当然ながら、それもお見通しだ。
「こ、今度は岩だーッ!」
冒険者達に、巨大な岩が襲い掛かる。
D級アイテム『コロコロメテオ』。
赤色の種がこいつだ。
叩きつけると、巨大な岩になる。
俺はこれを、全部で一〇個使った。
「迎撃だ! 迎撃しろ!」
落石は、魔法の防壁では防げない。
だから、対処するには、迎撃する必要がある。
具体的には、攻撃魔法を使い、岩を粉砕するのだ。
冒険者達は、慌てて次の魔法に切り替えた。
なかなか大変そうにしている。
平坦な道と違い、普段の調子は出ないのだろう。
「よし、岩を砕いたぞ!」
それでも、冒険者達は、どうにか対処する。
魔力妨害装置があれば、これで全滅していたのに。
だが、何の問題もない。
「いくぞ! オラァ!」
大声で叫びながら、俺は一人で突っ込んでいく。
俺の武器は素手だ。
剣や弓といった武器は持っていない。
オマケに、防具も纏っていなかった。
避けるので、そんなものは要らないのだ。
あえていえば、ペラペラの服こそ、俺の防具である。
「来るぞ!」
「あれが噂の山賊か!」
「なんだあいつ、素手じゃねぇか!」
魔法が使えることで、冒険者達はイケイケだ。
攻撃を凌ぎきったこともあり、自信に満ちている。
「この程度の小細工、取るに足ら――グハッ!」
「な、なんだ!?」
冒険者達が俺を迎撃しようとしたその時。
「どけぃ、雑魚共!」
背後から、一体のモンスターが現れた。
上半身が筋肉質なイケメンだ。
男のくせに長ったらしい紫の髪は、後ろで束ねてある。
最大の特徴が、馬の下半身だ。
上半身は人間で、下半身は漆黒の馬。
右手に持った槍を振り回し、何者よりも速く駆け抜ける。
彼こそ、俺の仲間で、ケンタウロスの『ケンタ君』だ。
ケンタ君は、A級アイテム『ケンタウロスの笛』で召喚できる。
ゴールドランク冒険者三〇人相当の強さを誇る剛の者だ。
我が軍の中では、ゴブちゃんの次に強い。
「ケンタウロスだ! ケンタウロスが現れたぞ!」
「後ろだ! 迎撃しろ!」
冒険者達が、一斉に振り返る。
統率された兵士と違い、ひどい動きだ。
いかにゴールドランクといえど、所詮は寄せ集め。
「ケンタ君に夢中で、俺のことを忘れているんじゃねぇ!」
俺は一気に距離を詰め、殴りかかった。
一人、また一人と、一撃で倒していく。
同じように、ケンタ君も大暴れだ。
「前と後ろ、どっちの相手をすれば――ウギャア!」
怒涛の挟撃により、一気に勝負が決まった。
ゴールドランク一〇〇人が、あっけなく全滅したのだ。
こうして、東西の冒険者が無事に壊滅。
一切の被害を出すことなく、俺達は勝利した。
「思ったより早いな」
攻めてきたのは、オシアナスの兵士か冒険者だろう。
先程のカモを倒してから、まだ一時間しか経っていない。
これだけ速いとは……魔法を使いやがったな。
「やっぱ、ゴールドランクは伊達じゃないな」
「ゴールドランク? それは何なのですか?」
キュウが訊いてくる。
まだ余裕もあるし、俺は丁寧に説明した。
「ゴールドランクとは、冒険者の階級のことだよ。全部で四段階あって、高い方が強い。ゴールドランクは、上から二番目だね。冒険者が何かとか、そういう細かいことについては、省略するぜ」
ブロンズ、シルバー、ゴールド、レジェンド。
冒険者の階級を下から並べると、こうなる。
ブロンズは、冒険者になりたての初心者だ。
シルバーが中堅どころで、最も人口が多い。
そこから頭一つ抜けたベテランが、ゴールドだ。
ゴールドまでの強さは、一〇倍が基本と云われている。
つまり、シルバーは、ブロンズの一〇倍強いわけだ。
同様に、ゴールドも、シルバーの一〇倍強いことになる。
もちろん、これは大体の目安であって、絶対ではない。
ゴールドでも弱かったり、ブロンズでも強い奴は居る。
レジェンドは、ゴールドを超越した強さで、比較にならない。
最低でも、ゴールド一〇〇〇人に相当する強さと云われている。
その為、一つの国に一人居るか居ないかの存在だ。
文字通り、伝説級である。
「で、キュウとエルザを箱に詰めて運んでいた奴は、ゴールド相当な強さだったわけだ。実際の階級は不明だけどな」
「よく分かったなのです。ありがとうなのです」
俺は身体をくるりと翻し、洞穴から出た。
そして、目を瞑り、精神を集中させる。
「西から三〇〇、東からも一〇〇近づいているな」
「む、東にも居るゴブ?」
「気づかなかったのか。そっちが奴らの本命だぞ」
敵の気配は、西と東の二方向にある。
西は、シルバーランクの雑魚が三〇〇人だ。
統率感のない気配から、冒険者だと分かる。
国に仕える兵士なら、もっと息が合っているものだ。
一方、東の一〇〇人はゴールドランクだ。
こちらも冒険者だが、なかなかの手練れ揃いである。
「相当気合が入っている。よほど取り返したいみたいだな」
キュウとエルザが、ブルブルと震える。
怖くて仕方がないのだろう。無理はない。
「リュート、どうするゴブか?」
「俺は東、ゴブちゃんは西でいい?」
「分かったゴブ! 装置は使ってもいいゴブ?」
「いいよ。俺は他のアイテムでやりくりするから」
「ありがとうゴブ!」
サクサクと話がまとまる。
そんな時、リザさんが戻ってきた。
「リュート、東からすんげぇ数が攻めてきたぞ」
「だな。俺が対処するから、リザさんの隊は、二人を守ってくれ」
「チッ、仕方ねぇな」
リザさんは薙刀を地面に捨てると、その場で屈んだ。
「エルザ、俺に負ぶされ」
「は、はい、分かりました」
言われた通り、エルザがリザさんに負ぶさる。
続いて、リザさんはキュウの名を呼んだ。
「キュウは俺の肩に座っていろ」
「はいなのです」
これまた指示通りに動く。
キュウは、リザさんの右肩にちょこんと座った。
「俺に子守をさせるとは、ふざけた男だぜ、リュート」
「そうは言いつつ、戦わなくてホッとしているだろ」
「バッ、バカ野郎! そ、そんなことねぇよ!」
リザさんが慌てふためく。
そう、彼は戦闘が苦手なのだ。
威圧的な見かけとは、裏腹である。
「では、張り切っていこう」
「ゴブーッ!」
こうして、二対四〇〇の戦争が幕を開けた。
◇
戦闘は二箇所で行われる。
山の西側と東側だ。
まずは西側、シルバーランク三〇〇人との戦い。
こちらは、ゴブちゃんが一人で行う。
「ワクワクするゴブ、ワクワクするゴブ」
ゴブちゃんは、中腹にある洞穴で身を潜めていた。
手には、魔力妨害装置を握りしめている。
「もう少しゴブ!」
精神を集中させ、ジッと待つ。
近づくにつれて、敵の動きが遅くなる。
こちらの攻撃を、警戒しているからだ。
「早く来るゴブ……!」
それでも、ゴブちゃんは焦らない。
気配を絶ち、戦闘内容をイメージする。
イメトレ回数が一〇〇を超えた時――。
「戦闘開始ゴブ!」
敵が射程圏に入った。
ゴブちゃんは、迷うことなく、魔力妨害装置を発動させる。
魔法の使えないゴブちゃんにとって、得しかないアイテムだ。
「ゴブーッ!」
装置が発動するなり、ゴブちゃんは動いた。
洞穴から飛び出し、一直線に対象を目指す。
「キ、キングゴブリンだーッ!」
ゴブちゃんを視認した敵が、声を上げる。
当初の想定通り、シルバークラスの冒険者三〇〇人。
だが、彼らが逃げることはなかった。
「えっ……」
「話にならないゴブ!」
気づいた頃には、死んでいたからだ。
一瞬で、三〇〇人の冒険者が全滅する。
全員の首が、胴体から離れていた。
西側の戦闘時間――約三秒。
電光石火の決着だった。
◇
その頃、俺とリザさんは山頂に居た。
リザさんが担いでいるので、キュウとエルザも一緒だ。
「リザさん達はここで待機だ」
「仕方ねぇ」
山頂から、東を見下ろす。
遠くには、海が広がっている。
海の上に、巨大な石橋が架けられていた。
石橋が続く先に、孤島がある。
その孤島に建つのが、この国の首都だ。
名前は『レイングラド』。
難攻不落と名高い、巨大な城郭都市だ。
「さて、敵は……」
視線を足元に近づけ、感覚を研ぎ澄ます。
一瞬で、忍び寄る一〇〇人の位置を特定した。
一本しかない山道を通り、こちらを目指している。
悲しいことに、彼らは油断していた。
魔法で姿を消しているから、バレるはずがない。
――と、思っているのだろう。
俺はまだしも、リザさんにすら気づかれているのに。
「生け捕りが条件じゃなかったら、まだ分からなかったのにな」
敵の勝利条件は、キュウとエルザの生け捕りだ。
もしも皆殺しが条件なら、遠くから山に攻撃している。
そうしないあたり、生け捕りが条件なのは間違いない。
あまりにも、こちらに有利な条件だ。
キュウ達がこちら側に居る限り、戦場はこちらが指定できる。
この時点で、俺の勝率は一〇〇パーセントで固定されていた。
「キュウ、エルザ」
俺は、リザさんに背を向けたまま、二人の名を呼ぶ。
二人の「はい」という声が、背中に返ってきた。
「この世で最も愚かなことは何か知っているか?」
「分からないなのです」
「分かりません」
「それは、山で待ち構える山賊に戦闘を挑むことさ」
俺はマジックバッグを漁り、アイテムを取り出した。
取り出したのは、三種類の種だ。
一見すると、ヒマワリの種に見える。
だが、これらもれっきとしたアイテムだ。
色は、青、赤、灰の三色。
「まずは、こいつだ!」
俺は青色の種を下に叩きつけた。
種がパカッと割れ、割れ目から水が溢れだす。
水は瞬く間に勢いを増し、東の山道へ流れ込んだ。
これは、C級アイテムの『ザーザーツナミ』だ。
叩きつけることで、津波を発生させる使い捨てアイテム。
この津波に対する、相手の防衛手段は察しがつく。
火で蒸発させるか、氷で凍らせるかだ。
選ぶのは、まず間違いなく前者だろう。
凍らせると、進行の妨げになるからだ。
それを見越して使うのが、二つ目のアイテム。
「そいや!」
俺は灰色の種を、湧き上がる水に叩きつけた。
すると、たちまち、水の性質が変わっていく。
ただの水から、にゅるにゅるした滑る液体に大変身。
D級アイテム『ツルツルオイル』だ。
水の性質を変える使い捨てのアイテム。
「な、なんだ、津波が迫ってくるぞ!」
「バレていたのか……ッ!」
「ええい、迎撃だ!」
津波を確認すると、相手が迎撃態勢に出た。
先程まで何もなかった山道に、一〇〇人の姿が現れる。
ゴールドランクなだけあり、年季の入った野郎共が目立つ。
「炎の壁を張れ!」
「おう!」
冒険者達が、魔法を使い、炎の壁を作る。
それにより、津波を打ち消そうという考えだ。
だが、それは大失敗である。
「こ、これはただの水じゃないぞ!」
にゅるにゅるの津波が、たちまち、炎の津波に変わる。
そう、ツルツルオイルの混ざった水は、引火物になるのだ。
ひとたび火が付けば、ドカンと弾ける。
「ウギャアアアアアアアアアアア!」
一瞬にして、冒険者が炎に包まれる。
しかし、彼らはゴールドランクの強者だ。
火に焼かれたくらいで、死にはしない。
「防壁を張れ!」
「回復をしろ!」
防御魔法で防壁を張り、回復魔法で傷を癒す。
あっという間に、立て直しを完了させる。
しかし、当然ながら、それもお見通しだ。
「こ、今度は岩だーッ!」
冒険者達に、巨大な岩が襲い掛かる。
D級アイテム『コロコロメテオ』。
赤色の種がこいつだ。
叩きつけると、巨大な岩になる。
俺はこれを、全部で一〇個使った。
「迎撃だ! 迎撃しろ!」
落石は、魔法の防壁では防げない。
だから、対処するには、迎撃する必要がある。
具体的には、攻撃魔法を使い、岩を粉砕するのだ。
冒険者達は、慌てて次の魔法に切り替えた。
なかなか大変そうにしている。
平坦な道と違い、普段の調子は出ないのだろう。
「よし、岩を砕いたぞ!」
それでも、冒険者達は、どうにか対処する。
魔力妨害装置があれば、これで全滅していたのに。
だが、何の問題もない。
「いくぞ! オラァ!」
大声で叫びながら、俺は一人で突っ込んでいく。
俺の武器は素手だ。
剣や弓といった武器は持っていない。
オマケに、防具も纏っていなかった。
避けるので、そんなものは要らないのだ。
あえていえば、ペラペラの服こそ、俺の防具である。
「来るぞ!」
「あれが噂の山賊か!」
「なんだあいつ、素手じゃねぇか!」
魔法が使えることで、冒険者達はイケイケだ。
攻撃を凌ぎきったこともあり、自信に満ちている。
「この程度の小細工、取るに足ら――グハッ!」
「な、なんだ!?」
冒険者達が俺を迎撃しようとしたその時。
「どけぃ、雑魚共!」
背後から、一体のモンスターが現れた。
上半身が筋肉質なイケメンだ。
男のくせに長ったらしい紫の髪は、後ろで束ねてある。
最大の特徴が、馬の下半身だ。
上半身は人間で、下半身は漆黒の馬。
右手に持った槍を振り回し、何者よりも速く駆け抜ける。
彼こそ、俺の仲間で、ケンタウロスの『ケンタ君』だ。
ケンタ君は、A級アイテム『ケンタウロスの笛』で召喚できる。
ゴールドランク冒険者三〇人相当の強さを誇る剛の者だ。
我が軍の中では、ゴブちゃんの次に強い。
「ケンタウロスだ! ケンタウロスが現れたぞ!」
「後ろだ! 迎撃しろ!」
冒険者達が、一斉に振り返る。
統率された兵士と違い、ひどい動きだ。
いかにゴールドランクといえど、所詮は寄せ集め。
「ケンタ君に夢中で、俺のことを忘れているんじゃねぇ!」
俺は一気に距離を詰め、殴りかかった。
一人、また一人と、一撃で倒していく。
同じように、ケンタ君も大暴れだ。
「前と後ろ、どっちの相手をすれば――ウギャア!」
怒涛の挟撃により、一気に勝負が決まった。
ゴールドランク一〇〇人が、あっけなく全滅したのだ。
こうして、東西の冒険者が無事に壊滅。
一切の被害を出すことなく、俺達は勝利した。
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