アイテム使いの最強山賊

たまゆら

文字の大きさ
上 下
14 / 14

014 風雲急

しおりを挟む
 頭であるバッテロを倒せば、騒動は落ち着く。
 キュウとエルザの秘密は、その後で探っていけばいい。

 ――深夜。

「それじゃ、カタに嵌めてくるぜ」
「ゴブも戦いたかったゴブ……」
「ごめんね」
「許すゴブ! その分ここで暴れるゴブ!」
「おうおう」

 ゴブちゃんの話が終わると、ケンタ君に言った。

「二人の護衛、よろしく頼むぜ」
「任せるでござる! 拙者、命に代えても守るでござる!」
「うむ、信頼しているよ」

 次に、リザさんへ視線を移す。

「リザさん、万が一の時は――」
「わぁってるよ、アイテムだろ?」
「そうだ。惜しみなく使ってね」
「ふん」

 リザさんは弱いが、問題はない。
 アイテムがある上に、今回はケンタ君も居る。

「そして、キュウとエルザ」
「はいなのです!」
「は、はい!」

 最後は、この二人だ。

「半日ほどで戻るから、我慢しろよ」
「は、はいなのです……」
「絶対、絶対戻ってきてくださいよ!」
「楽な戦いだ、絶対に戻るよ」

 二人は、目に見えて寂しそうだ。
 同行したくて仕方ないのだろう。
 だが、二人を同行させることは出来ない。
 電光石火の奇襲をするには、邪魔なのだ。

「それじゃ、行ってくるぜ!」

 皆に挨拶をすませた俺は、直ちに駆け出した。

 俺の作戦は、バッテロの殺害だ。
 親玉さえ死ねば、このゴタゴタも終わる。
 まぁ、後任の領主なりが絡んでくる可能性は否めない。
 ただ、もしそうなるにしても、しばらくは安寧の時が来る。

 一方、仲間達の作戦は防衛だ。
 ゴブちゃんは、相変わらず皆殺しコース。
 左手で魔力妨害装置を抱え、東西南北を大爆走。
 残りのメンバーは、アジトでお留守番だ。
 入口をリザさんが守り、中はケンタ君が担当する。
 また、ケンタ君には『どこでもテレパス』を渡した。
 これにより、ゴブちゃんとの遠隔通話が可能だ。
 有事の際は、ゴブちゃんも直ちに戻ってくる。
 まさに盤石の布陣だ。

「たしかこの角度だな」

 オシアナスは、デビル山脈の北西にある。
 かなり遠くて、早馬でも一日はかかるだろう。

 だが、それは早馬での距離だ。
 早馬の三倍速で走る俺なら、更に早く着く。
 しかも、俺は馬と違い、道にこだわりがない。
 舗装されていなかろうと、問題ないのだ。

 故に、直線距離を突き進む。
 草原から森、果てには川までお構いなし。
 多少の谷は跳び越える。

 この調子なら、あと――。

「おや、なんだ?」

 気分よく森を駆け抜けていると、明かりが目についた。
 目を凝らすまでもなく、何者かがキャンプしている。
 まぁ、何者なのかは分かっている。
 こんな場所に居るのは――盗賊だ。
 数は六人で、こちらには気づいていない。

「雑魚だし、大して時間はかからないだろう」

 そう思い、彼らの宝箱を奪うことにした。
 いつもなら警告から入る場面だが、今は違う。

「な、なんだ、このガキ!」
「うわ、うわあああああ!」
「速すぎ――ゴホッ!」

 問答無用で、皆殺し。
 六人の首を、手刀で刎ね飛ばした。
 さらに、置かれている宝箱に手を伸ばす。
 鍵を確認することなく、鍵穴を破壊した。

 バタッ、と音がする。
 盗賊達の胴体が、地面に崩落したのだ。
 その後、首が地面に落下し、転がった。

「やっぱゴミしかねぇな」

 その頃、俺は宝箱を漁っていた。
 中には大量のアイテムが入っている。
 が、B級以上のアイテムは一つもなかった。

「ふん」

 今は急いでいるので、いちいち詰めてられない。
 仕方がないので、中身を回収せずにその場を去った。

 気を取り直して、目的地に向かう。
 まだまだ遠くて、前には木々しか見えない。

「あれだな」

 そんな状態も、じきに終わった。
 森を抜け、草原に着いたのだ。
 前方には、立派な石の城壁が見える。
 あれが『城郭都市オシアナス』だ。

「あそこにするか」

 俺の視線が、オシアナスから右に逸れる。
 止まったのは、都市から五〇〇メートルの距離だ。
 そこに、バッテロ殺害の為だけに用意されたかのような、丘がある。

「うむ、いい感じだ」

 丘の頂に到着した。
 見渡しは最高、文句なしの及第点である。

「さて、やるか」

 今回、俺がオシアナスに入ることはない。
 当然だ。単騎で都市に突っ込むのは愚か者である。
 それに、俺の目標はバッテロだけだ。

「さてさて、お目当てのブツは――あったぞ」

 マジックバッグを漁り、二つのアイテムを取り出した。

 その内の一つ『ほいほいミエール』を手に取る。
 こいつは、一見するとただの単眼鏡だ。
 しかし、B級アイテムなだけあり、極めて優れている。
 なんと、三キロ先を目の前のように見られるのだ。
 もちろん、遠望の距離を調節することは可能。
 だが、それだけではB級に相応しくない。
 こいつには、もう一つ機能があるのだ。

「お、いたな、あれだ」

 それが、透視である。
 両手で持つと、施設の中を覗けるのだ。
 重厚な壁があろうと、関係ない。

 これにより、バッテロらしき男を発見した。
 オシアナスの真ん中に、巨大な城がそびえている。
 そこに奴は居た。
 最上階の謁見の間にて、玉座に座っているのだ。
 それに座ることが許されるのは、領主だけ。
 つまり、奴こそ領主のバッテロに他ならないのだ。

「あとは殺すだけだな」

 俺は単眼鏡を置き、もう一つのアイテムを手に取った。
 S級アイテム『照射型魔力銃』だ。
 漆黒のフォルムをした、両手持ちの――『兵器』である。

 兵器とは、魔力を弾丸に変えて発射するものだ。
 兵器により発射された弾丸には、魔力の匂いがない。
 故に、大量の魔力を消費する攻撃も、無臭で可能なのだ。

 その反面、兵器には使用回数の制限がある。
 多くは二回か三回で、中には一回でオシャカになる物も。
 ちなみに、照射型魔力銃の制限回数は三回だ。

「初めての兵器だ、緊張するな」

 色々なアイテムを使う俺だが、兵器を使うのは初めてだ。
 稀少すぎる上に、そもそも使う機会がなかった。
 それをついに、使用する。
 見掛け倒しのザコアイテムじゃないことを祈って――。

「いくぜ」

 銃を両手で持ち、照準を城の最上階に向ける。
 深呼吸を一つすると、引き金を全力で引いた。

 ピユウウウウウウウウウウウン!

 その瞬間、銃口から光線が発射された。
 糸のように細い赤色の線が、銃から伸びる。
 これが、照射型魔力銃の弾丸だ。

 この弾丸は、いかなる物質をも豆腐のように切り裂く。
 まさに、魔力のカッターである。
 最長射程は二キロで、最長照射時間は十秒。
 つまり、十秒以内にどうにかしなければならない。
 しかし、これなら、十秒はむしろ長いといえた。

「オラァアアアアアアアアア!」

 俺は銃身を小刻みに動かし、照射を操る。
 右から左に、スッパリと城の最上階を切り裂いた。
 バッテロの居る最上階だけが、百メートル下に落下する。
 だが、ただでは落とさない。
 あらんかぎりに銃を動かし、みじん切りにする。
 細かく、細かく、何度も何度も切り裂く。

「これでよし」

 確かな手ごたえを感じ、照射を終える。
 ほいほいミエールによる確認も怠らない。

「よし、死んでいるぞ」

 腹から上下に二分されたバッテロの死体が見えた。
 その周囲に、大量の兵士が駆け寄ってきている。
 彼らの反応からするに、やはりあれがバッテロだ。

「兵器の前じゃ、人間などあっけないものだな」

 やはり、兵器の威力は凄まじい。
 俺の攻撃手段の中でも、最強クラスだ。
 恐ろしいのは、兵器を使えば誰でもこの攻撃力が手に入ること。
 俺にとって最強クラスなら、他の奴にはぶっちぎりの最強だ。
 それほどまでに絶大な攻撃力である。

「さて、帰るか」

 一仕事終えたし、さっさと戻ろう。
 ここ数日のことを思って感慨に浸ることもなく、俺は帰路に就いた。

 ◇

 アジトに到着した時には、早朝になっていた。
 にもかかわらず、仲間は誰も寝ていない。
 モンスター達は当然として、キュウとエルフも起きている。

「ゴブーッ! おかえりゴブーッ!」
「殿ォォオオオ!」
「ふん、生きていやがったか」
「おかえりなさいなのです、リュート様!」
「リュート様、おかえりなさいませ!」

 皆が口々に歓迎してくれる。
 俺は「ただいま」と答え、アジトに入った。

「きっちりとカタに嵌めてやったゴブ?」
「もちろん! 照射型魔力銃で切り裂いたぜ!」
「おお、兵器を使ったゴブか! 容赦ないゴブ!」

 ゴブちゃんと談笑に耽る。
 そんな時「ウッ!」とエルザが声を漏らした。
 目をキュッと閉じ、苦しそうに頭を押さえている。

「どうしたゴブ!?」
「頭が痛いのか?」
「い、いえ、兵器と聞いて、なんだか……」
「もしかして、記憶が蘇ったのか?」
「……いえ、何も思い出せませんでした」

 エルザが「ふぅ」と息を吐き、表情を改めた。
 痛みは去ったようで、ケロっとしている。
 もしかして、兵器が記憶に絡んでいるのか。
 バッテロの執着ぶりを見るとありえなくもない。
 だが、現時点で断定するのは早計過ぎるだろう。

「リュートが戻ったし、ゴブは狩りに行ってくるゴブ!」
「ゴブ殿、拙者もお供するでござるよ!」
「ゴブーッ! ゴブブのブー!」

 歓喜の声を上げながら、二人はアジトから出て行った。
 バッテロが死んでも、あと数日は冒険者の攻撃が続く。
 クエストボードの更新には、多少の時間がかかるからだ。
 それでも、二・三日で穏やかになるだろう。

「リュート、ここで住むなら一度帰してくれ」

 リザさんが言ってくる。
 俺は「分かった」と答え、リザード隊の笛を取り出した。
 そして、一言礼を言ってから、笛を二度叩き、リザさん達を消す。

 笛で召喚されるモンスターは、消えている間、別の場所に居る。
 俺達でいうところの『故郷』にあたる場所だ。
 もちろん、モンスターにとっては、そちらの方が快適である。
 だから、用がない時は、極力帰してもらいたがるのだ。
 もっとも、中にはケンタ君のような例外も居るのだが。

「さて、俺達は寝るか」
「はいなのです」
「リュート様、先程は驚かせてしまいすみません」
「頭痛の件か? 気にするな、行くぞ」
「はい!」

 俺はキュウを右肩に乗せ、ベッドに向かった。
 なぜか、エルザが俺の左腕に抱き着いている。
 おかげで、俺の肘がエルザの大きな胸に当たっていた。
 特に嫌な気はしないので、あえて指摘はしない。

「はぁー疲れた!」

 ベッドに着くと、いの一番に服を脱いだ。
 全裸になると、これまた最速のベッドイン。

「やっぱ我が家のベッドは最高だぜ!」

 五メートル四方の巨大ベッド。
 大きいだけではなく、品質も一級品だ。
 宿屋のベッドとは、快適度が段違いである。

「リュート様、おやすみなのです!」

 続いて、キュウが全裸になった。
 九本の尻尾をゆらゆらさせ、四つん這いで移動する。
 枕元へ行くのに掛布団の上を横断するのは、相変わらずだ。

「おう、おやすみ、キュウ」

 キュウは寝るとき、身体をクルリと丸める。
 だから、そうなる前に、俺は頭を撫でてあげた。
 クシャクシャ撫でる俺の手が、頭から生える狐の耳に当たる。
 その度に、キュウの耳はピクピクと震えた。

「く、くすぐったい、なのです……」
「あぁ、耳に触れたら駄目なのか、すまんな」
「大丈夫なのです。お気持ちありがとうございましたなのです」
「おうよ、ゆっくり寝てくれ」
「はいなのです!」

 キュウは、嬉しそうに俺の首筋を舐めだした。
 そのまま、ゆっくりと身体を動かしていく。
 首筋から、耳に着た後、頬で動きを止めた。

「改めて、おやすみなさいなのです」
「おう、おやすみ」

 キュウはニコッと微笑み、眠りに就いた。
 枕の手前で、クルリと身体を丸める。
 それから数秒後には、寝息が聞こえた。

「次は私ですね」

 足元から声がする。
 視線を下に向けると、全裸のエルザが居た。
 掛布団の上で四つん這いになり、こちらに近づいてくる。
 いつもより艶めかしい上に、獣のような雰囲気が漂っていた。
 キュウと同じような動きだが、迫力が段違いだ。
 背丈がキュウの四倍もあるのだから、当然である。

「動かないでくださいね」
「な、何をするつもりだ」

 俺とエルザの顔が、じわじわ、じわじわと縮まる。
 ついに、俺達の顔は、互いの息遣いが分かる距離まで近づいた。

「ご褒美の件、覚えていますか?」
「あ、あぁ、覚えているよ」

 エルザが訊いてくる。
 俺が頷くと、エルザは――。

「今、ご褒美の権利を行使します」

 と言った。
 意味が理解できず、首を傾げる。

「寝るまでの間、私の好きにさせてください」
「それが、エルザの求むご褒美の内容か?」
「はい」
「いいけど、具体的には何をするつもりだ?」
「たとえば――」

 エルザが、左右の手を俺の頬に添えた。
 そして、有無を言わさず、唇を重ねてくる。
 驚くのも束の間、今度は、舌を口にねじ込まれた。
 俺の口内で、互いの舌がねっとりと絡み合う。
 いつもは、寝る前に俺がやっていることだ。

「こういうことなどです」

 キスを終えた後、エルザが言った。
 唾液が糸を引き、たらりと下に垂れる。

 突然の出来事に、驚愕してきょとんとする俺。
 そんな俺を気にすることなく、エルザが言い放つ。

「これからすることは、私がリュート様にしてほしいことです」
「俺が、エルザに?」
「そうです。出来れば、明日以降、ずっと」
「楽なものなら、別にかまわないよ」
「わかりました。では、始めますね――」

 エルザは、掛布団の縁をめくり、ベッドに入る。
 そして――。


 気が付くと、俺は尽き果てていた。


「なるほど、これがエルザの求むことだったのか」
「明日からは、リュート様が、エルザにしてください」
「やれやれ、疲れるけど仕方ねぇな」

 広げた俺の腕に頭を乗せ、エルザが眠る。
 幸せそうな笑みを、口元に浮かべながら。

 俺もまた、最高の気分に浸っていた。
 バッテロに報復した後だから、余計に気分がいい。


 ――この時は、まだ知らなかった。
 キュウとエルザをめぐる騒動が、終わっていなかったことを。
 むしろ、今回の一件は始まりの狼煙に過ぎなかった……。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...