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020 魅力的な提案
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ついにやってきた、『マグボトル』の発売日。
第二の柱であり、俺を新次元へ押し上げるキラーアイテム。
この日に備え、ここ数日はチラシの内容も変更した。
「新商品の内容、冗談じゃなくてマジっすか!?」
「そんな夢の商品、マジで作ることが可能なんすか!?」
このような反応を、既に何件も頂いている。
発売前の手応えは最高だ。
「さぁ、今日も張り切っていこう」
「おーなの♪」
一階には、特大のハイテーブルを設置した。
商品を置く為の物だ。
そこに、剃刀セットとマグボトルが並んでいる。
各二〇個、ずらりと横一列に並ぶ姿は壮観だ。
準備万端。あとは客が来るのを待つのみ。
俺の店は、開店時間を定めている。
昼過ぎ、リアルでいえば十三時に該当する時間だ。
それより早くに来ても、売ることはない。
また、開店時間より前に並ぶことも禁止している。
だから、客が来るのは開店時間を過ぎてからだ。
「忙しいと思うけど、今日もよろしく頼むよ、マリカ」
「任せろ、マスター」
販売はマリカの担当だ。
閉店までの四時間、ノンストップで接客を続ける。
彼女の仕事は、客から代金を受け取ることだ。
商品を渡すのは、召喚している骸骨戦士の役目である。
「無事に売れますでしょうか?」
リーネが訊いてくる。
俺は自信たっぷりに「売れる」と断言した。
「最高の品質だしな、売れない方がおかしいさ」
商品が届いたのは昨日だ。
一本を試しに使ってみたが、期待通りの性能だった。
見た目も、電話で聞いてイメージした通り。
シンプルなダークブラウンで、性別を問わない。
「おとーさん、お客さんが来たなの!」
ネネイが前方を指す。
遠目に客が見えた。
一気に五〇人くらいが近づいてくる。
皆、例外なく特大のリュックを背負っていた。
商品を詰める為の物だ。
競馬よりも激しい、商人達のデッドヒート。
しかし、一着はあの中に居ない。
一番先に到着するのは――。
「マグボトルなる新商品を五〇〇個と、いつものを三五〇個頼む」
「二八億五〇〇〇万ゴールドになります」
「うむ」
忍び装束を纏ったポニーテールの女だ。
髪と服は、どちらも紫色で統一されている。
一番のお得意様にして、毎回一番乗りの客だ。
固有スキルを使い、どこからともなく現れる。
そして、商品を買い終えるなり、スッと姿を消す。
「紫のお姉ちゃん、いらっしゃいませなの!」
ネネイがにこやかに頭をペコリ。
しかし、女は無反応だ。見向きもしない。
このやり取りも毎度のこと。
最初は呆気にとられたが、今では気にならなかった。
無視されたネネイでさえ、気にしていない。
この女の名は不明。
ネネイが訊いたけど、名乗らなかったのだ。
分かっているのは、別の大陸から来ているということだけ。
ネネイはこの女を「紫のお姉ちゃん」と呼んでいる。
一方、俺は「女忍者」と勝手に名付けていた。
女忍者は、ネネイを無視し、視線を俺に移す。
「マグボトルの使い方は?」
「チラシに書いてあるけど、実際に見せて説明しよう」
俺は商品の一つを手に取り、蓋を開けた。
中を見せ、「ここに飲み物を入れる」と説明。
その後、蓋を閉めた。
「保冷・保温性能を求めるなら、蓋はしっかり閉めるように」
「承知した。では荷物を運ばせてもらう」
「ああ、分かった」
支払いを済ませると、女忍者は二階へ移動した。
購入した分を、固有スキルで運ぶ為だ。
二階への侵入は原則禁止だが、女忍者だけは例外で許可している。
購入個数が多すぎるからだ。
大量購入に加え、一階まで商品を運ぶ必要もない。
こちらとしては、本当にありがたい存在だ。
女忍者は、自身の固有スキルについて語らない。
だが、大体の効果は察しがつく。
任意の場所へ瞬間移動するスキルだ。
制限は俺の『世界転移』と似ているに違いない。
なぜなら、荷物を一度に運びきれないからだ。
正確には、手に持っている分しか運べていない。
「さて、ここからが本番だぜ」
女忍者が二階へ上がった頃、一階には大量の客が押し寄せていた。
あっという間に長蛇の列が出来上がる。
模造品が猛威を振るう前と同レベルの賑わい方だ。
「マグボトルってやつを二〇個!」
「俺は剃刀を二〇! マグボトルを三〇!」
「こっちはマグボトルを六〇だ!」
マグボトルがバカ売れだ。
一つ五〇〇万という高価格でも、飛ぶように売れていく。
「きた! きたきた! きたぁ!」
冒険者カードを見て、ハイテンションになる俺。
資金力ランキングが、一気に駆け上がっていく。
七七七一位からスタートし、開店から五分で七五一〇位に。
その後も止まらず進んでいき、自己最高の六六七三位になる。
七〇〇〇位の壁を、あっさりと突破したのだ!
しかし、そこからすぐに駆け上がらなくなった。
順位が落ち着いたのは、マグボトルが売り切れたからだ。
今日の在庫は、剃刀セット一九〇〇個に、マグボトル五〇〇〇個。
それでも、マグボトルの方が早く売り切れた。
「マグボトルを買いに来た!」
「すみません、既に売り切れました」
「はぁ!? まだ開店してそんなに経ってないだろ!」
「そうですが、本日の販売は終了しました」
「くそぉー! 仕方ねぇ、代わりに剃刀を二〇頼む」
「ありがとうございます、二〇〇〇万ゴールドになります」
マグボトルを買えなかった客が、代わりに剃刀セットを買う。
同じような売れ方が、その後もしばしば続いた。
それにより、剃刀セットの売れ行きも好調である。
マグボトルが完売したのは、開店から二〇分後のことだ。
この調子なら、仕入れる数を倍増しても問題ないだろう。
この家の二階には、まだまだ余裕がある。
「凄い売れ行きですね。流石です、ユートさん」
「おとーさんは天才なの!」
マグボトルがないことを嘆く客を眺めながら、二人が褒めてくる。
俺はそれらの言葉を、「ありがとう」と素直に受け取った。
マグボトル商売における今後の問題は、模造品だ。
しかし、この点は割と楽観的に見ている。
模造品を作る技術があるなら、もっと前に水筒を作っていただろう。
これまで誰も水筒を作らなかったのは、作れないからだ。
簡単に似せられる剃刀の模造品とはワケが違う。
作らないのではなく、作れない。
ネックになっているのは、おそらく蓋の構造だろう。
回して開閉する蓋を、エストラの人間は作ることが出来ないのだ。
その証拠に、エストラには同じ構造の物が一つもない。
だから、仮に模造品が出回ったとしても、蓋はガバガバだろう。
まともに閉めることは出来ず、使い物にならない。
冒険者が求めているのは、激しく動いてもこぼれないものだ。
外見だけ似せても、こちらのシェアを奪うには至らない。
「これからは、資金力ランキングをガンガン駆け上がっていくぜ」
「いくぜなの!」
文句なしの出だしに大満足した俺は、三階へ向かった。
ネネイとリーネも続こうとする。
だが、俺はその動きに待ったをかけた。
「二人はマリカのサポートを頼む」
「はいなの♪」
「ユートさんは何をされるのですか?」
「俺はリアルに戻って電話してくるよ」
電話の相手は、いつもの取引相手だ。
用件は当然、マグボトルの仕入れる数を増やすこと。
俺は既に、先の次元を見据えていた。
◇
翌日。
マグボトルを売り出してから二日目の今日。
俺達は、朝から大忙しだった。
全員総出で、マグボトルの箱を開けている。
いつも骸骨戦士が行っている作業だ。
「だぁー! めんどくせぇ!」
箱を開け、地面に敷いたチラシの上にマグボトルを立てる。
その間、骸骨戦士は剃刀セットの準備に励んでいた。
「単調な作業は、精神的に苦痛ですね」
「リーネに賛成だ。マスター、私は疲れた」
「マリカは接客があるし、休んでくれていいよ」
「断る」
今日はより多くのマグボトルを売ることに決めた。
二階に積まれているマグボトルの数は一万五〇〇〇個。
俺はそれを、今日中に全て売り切るつもりだ。
昨日の売れ行きを見る限り、おそらく完売するだろう。
問題なのは、それだけの数を売れる状態にすることだ。
全てのマグボトルを開封していくのは、骨が折れる。
「ぽこーんなの!」
ネネイが上機嫌でマグボトルを立てていく。
この中で、開封作業を楽しんでいるのはネネイだけだ。
入れ替わりたいくらいに羨ましい。
「あー、もうだめ!」
数十箱を開封したところで、俺は断念した。
面倒過ぎる。こんな作業はやってられない。
「すみません、私も限界です」
「同じく」
俺の放棄を皮切りに、リーネとマリカも投げた。
「そもそも、なんで開封作業をしていたんだっけ」
悟りの境地に達した俺は、考えを巡らせる。
この狂った作業をすることになった経緯は何か。
……思い出したぞ。
パッケージが変に思われそう、と懸念したからだ。
だから、剃刀は箱から出し、クリームはラベルを剥がした。
マグボトルを箱から出すのもその為だ。
「でも、この調子だといずれ……」
今は骸骨戦士の作業が間に合っているからいい。
しかし、今後仕入れる数を増やしていくと、途端に厳しくなる。
開店時間までに、必要個数の商品を用意できなくなるのだ。
「開封しないで売ればよくありませんか?」
リーネが提案してくる。
たしかにそれでもいい気がしてきた。
でもやっぱり、パッケージの文字を読まれるのは不安だ。
成分表や使用材料は、エストラの住民が知らないものばかり。
などといいつつも――。
「そうだな、開封しないで売ろう」
面倒さには勝てなかった。
意味不明な成分や材料が使われていても問題ないだろう。
そう思えるだけの実績はある。
「明日からはそれでいいとして、今日はどうしますか?」
リーネが既に開封した商品を指す。
俺は「気にしないでいいさ」と軽く答える。
「未開封の商品と開封済みの商品、どちらも今日中に売ろう」
「それだと、箱について質問されませんか?」
「されるだろうけど、その時は適当に流せばいい」
「流石です、ユートさん」
こうして、面倒な開封作業はなくすことにした。
このことが何かしらの問題に繋がらないことを祈って――。
「ぽこーんなの! ぽこーんなの!」
「ネネイ、もういいぞ。作業は終了だ」
俺が声をかけると、ネネイは手を止めてこちらを見てきた。
眉間にほんのり皺が寄っている。
これはやや不機嫌な時のサインだ。
不機嫌度なるものがあれば、三〇パーセントといったところ。
「どうしてなの?」
「未開封のまま売ることにしたからな」
「ネネイ、もっとぽこーんしたかったなの」
「なら、飽きるまでしてくれていいぞ。今日で最後だし」
「やったぁ! ありがとーなの! ぽこーんなの!」
ネネイの不機嫌度が無に帰す。
嬉しそうに『ぽこーん』を再開した。
――それから三時間。
時刻は十三時の五分前。
昼食を終えた俺達は、昨日と同じように客を待っていた。
今日もきっと女忍者が一番だ。
初めて来た時から、彼女は常に一番乗りである。
しかも、来なかった日がない。
休みの日だろうと、決まった時間に来るのだ。
まるでロボットのように、正確で狂いがない。
「もうすぐ紫のお姉ちゃんが来るなの!」
「ネネイは紫のお姉ちゃんが好きなのか?」
「大好きなの!」
一度も返事されたことないのにか、と俺は苦笑い。
普通の人間なら、嫌いにこそなれ好きにはならないぞ。
「だって、紫のお姉ちゃんはカッコイイなの!」
「それは分からなくもないな」
「それに、いつもたくさん買っていってくれるなの!」
「はっはっは、ネネイは商売人だなー」
愛想が悪くても、上客だから大好き。
そんなの、普通の五歳児なら至らない思考だ。
俺は声を上げて笑いながら、ネネイの頭を優しく撫でた。
「えへへなの♪ おとーさんが一番大好きなの!」
ネネイがニコニコ顔で抱き着いてくる。
垣間見える逞しい商魂に、万人を癒す最強の笑顔。
この子が成長したら、とんでもない商人になりそうだ。
「今日は激しい一日になるぞ」
「任せろ、マスター。全部捌いてみせる」
すまし顔でドンッと胸を張るマリカ。
そんな彼女に、リーネが小さく拍手する。
「マリカさんはいつも頼もしいですね」
「俺達四人の中で、一番の働き者だよな」
雑談していると、女忍者が現れた。
今日も当たり前のように一番乗り。
突然の出現は、何度経験しても驚く。
「紫のお姉ちゃん、いらっしゃいませなのー♪」
笑顔で頭をペコリと下げるネネイ。
もちろん、女忍者は反応しない。
まるで見向きもせず、マリカに言う。
「マグボトルを二五〇〇個頼む。いつものは要らない」
「ひゃ、一二五億ゴールドになりますが、よろしいですか?」
さすがのマリカも、思わず言葉を詰まらせた。
一つ五〇〇万のマグボトルを二五〇〇個。
これまでの規模を遥かに上回る超ド級の注文だ。
「問題ない。もっと用意できるなら、あるだけ買おう」
マリカは何も答えずに俺を見てきた。
残りの分も売っていいのか、と目で尋ねてくる。
同じように、女忍者も俺を見た。
こちらの目は「早く答えろ」と言っている。
「数は一万五〇〇〇個あるが、売れるのは五〇〇〇個までだ」
「どうしてだ?」
「他の客にも売りたいからだ」
「そうか、なら五〇〇〇でいい」
「すまんな」
こうして、女忍者は、二五〇億分のマグボトルを購入した。
「では商品を運ばせてもらう」
「ああ。でもその前に、一ついいか」
「なんだ?」
「これからはそっちで開封してもらいたいんだ」
「開封?」
「実物を見せて説明しよう」
「分かった」
「皆、一階は頼んだ」
「頼まれたなの♪」
俺は女忍者を連れ、二階へ移動した。
二階には、開封済みの商品と未開封の商品がある。
未開封の商品は、全て段ボールの中に入っていた。
「今日は骸骨が作業をしていないのだな」
「ああ、奴らの作業こそが開封だからな」
女忍者は開店早々にくる。
彼女が来る時間帯は、まだ骸骨の開封作業が終わっていない。
進捗率は八割・九割といったところで、黙々と開封している段階。
「骸骨がしていた作業を、こちらでしろということか」
「そうしないと、これ以上のペースで供給するのが厳しくてな」
「しばし待て、主に確認してくる」
俺は「え?」と驚いた。
てっきり、女忍者が商人だと思っていたからだ。
「主って、あんたは雇われているのか?」
「そうだ。それが取引に支障をきたすのか?」
「いや、そんなことはないよ」
女忍者は「そうか」と答え、姿を消した。
戻ってきたのは、それから数分後のことだ。
「問題ない、開封はこちらで行う」
「そう言ってもらえて助かったよ」
「あと、主から文を預かってきた」
「文?」
女忍者は「うむ」と答え、懐から紙を取り出した。
小さく折りたたまれている。サイズはおそらくA4あたりか。
読んだら知らせろと言い残し、女忍者は商品の運搬を開始した。
「この齢になって、初めて手紙をもらうとはな」
ふっと笑い、渡された紙に目を落とす。
==========
はじめまして、ユートさん。
私はクラリヴァ大陸で商売をしているラモーンと申します。
いつも斬新で便利な商品を提供していただきありがとうございます。
おかげさまで、こちらの商売は繁盛の一途を辿っています。
さて本題ですが、別の大陸で商売をする気はありませんか?
ユートさんが消費者へ直接的に販売しないことは知っています。
ただそれは、我々に物を売る為の策だと考えています。
そこで、この度の提案をさせていただきました。
詳細は以下の通りです。
表向きは私の名義で、店を開きます。
ただ、売上は二人で分けます。
場所の確保や店員の配置、それに商品の輸送、等々。
あらゆる雑務は、全てこちらで責任をもって行います。
こちらは、その為のノウハウを持ち合わせています。
ユートさんの作業は、ただ商品を流して頂くだけです。
その点だけを保証していただければ、問題ありません。
また、開いた店の販売価格を決める権利は、ユートさんに委譲します。
取り分ですが、六対四でいかがでしょうか。
ユートさんが六で、私が四です。
店を展開する準備は既に出来ています。
ですから、契約後、直ちに始めることが可能です。
互いにとって良い提案だと思いますが、いかがでしょうか。
返答はミズキに伝えてください。
どうぞよろしくお願いします。
==========
俺は手紙を二度読み返し「なるほど」と呟いた。
要するに、『共同経営』のお誘いである。
手紙の主『ラモーン』の言う通り、悪くない話だ。
この話に乗れば、どちらも効率よく稼げる。
どちらかといえば、俺にとって都合の良い話である。
値段の決定権がこちらにあるからだ。
それにより、周囲の露店と同じ価格を維持できる。
これは大きな要素だ。
値段の決定権がなければ、俺の顧客を駆逐されかねない。
元が取れないレベルの激安価格で販売されたらおしまいなのだ。
そういった心配がない点は、非常に大きい。
こちらからすると、純粋に新たな収益源が増える話だ。
ラモーンにとっても、これはお得な話だ。
四割の取り分でも、転売するより効率が良いからだ。
たとえば、剃刀セットは一つ一五〇万が相場である。
転売の場合、買値が一〇〇万だから、一五〇で売ると取り分は五〇だ。
しかし共同経営の場合、一五〇の四割、つまり六〇が取り分になる。
取り分は共同経営の方が多いのだ。
ただ、ラモーンにとって、これはデメリットでもある。
俺から仕入れた時よりも相場が遥かに上だと、逆に損をするからだ。
剃刀セットでいえば、模造品が出回る前の相場は二〇〇万だった。
この条件だと、共同経営より転売の方が儲かる。
転売の場合、二〇〇で売れば、差し引きで一〇〇の利益だ。
一方、共同経営だと、二〇〇の四割で八〇が取り分となる。
それでも共同経営を提供してきたのは、需給を考慮してのことだろう。
需要がある程度一服すると、価格は低下していく。
これは避けられないことだ。
そして、そういう状況の方が期間としては長い。
ラモーンとしては、初期ブーストよりも、末永く儲けたいわけだ。
二五〇億を軽々出せるだけのことはあり、頭が切れる。
ラモーン名義の経営なら、何の問題もない。
もちろん顧客にとって快くはない話だが、それだけだ。
相場と同じ価格で販売していれば、発覚しても角が立つことはあるまい。
気分を害されようが、儲かる話には飛びつくのが商人だ。
魅力的な商品を提供している限り、顧客は消えない。
そこに好きや嫌いは関係ないはずだ。
ラモーンの提案を何度も検討する。
その結果、何の問題もないと判断した。
両者に得のあるナイスな提案だ。
「返事は決まったか?」
運搬作業を終えた女忍者が尋ねてくる。
「返事はミズキにとのことだけど、あんたのことか?」
「そうだ。で、返事は?」
俺にとって魅力的な提案だ。
もちろん、ラモーンにとっても。
「すまんな、この話を受けることは出来ない」
それでも、俺の答えは却下だ。
第二の柱であり、俺を新次元へ押し上げるキラーアイテム。
この日に備え、ここ数日はチラシの内容も変更した。
「新商品の内容、冗談じゃなくてマジっすか!?」
「そんな夢の商品、マジで作ることが可能なんすか!?」
このような反応を、既に何件も頂いている。
発売前の手応えは最高だ。
「さぁ、今日も張り切っていこう」
「おーなの♪」
一階には、特大のハイテーブルを設置した。
商品を置く為の物だ。
そこに、剃刀セットとマグボトルが並んでいる。
各二〇個、ずらりと横一列に並ぶ姿は壮観だ。
準備万端。あとは客が来るのを待つのみ。
俺の店は、開店時間を定めている。
昼過ぎ、リアルでいえば十三時に該当する時間だ。
それより早くに来ても、売ることはない。
また、開店時間より前に並ぶことも禁止している。
だから、客が来るのは開店時間を過ぎてからだ。
「忙しいと思うけど、今日もよろしく頼むよ、マリカ」
「任せろ、マスター」
販売はマリカの担当だ。
閉店までの四時間、ノンストップで接客を続ける。
彼女の仕事は、客から代金を受け取ることだ。
商品を渡すのは、召喚している骸骨戦士の役目である。
「無事に売れますでしょうか?」
リーネが訊いてくる。
俺は自信たっぷりに「売れる」と断言した。
「最高の品質だしな、売れない方がおかしいさ」
商品が届いたのは昨日だ。
一本を試しに使ってみたが、期待通りの性能だった。
見た目も、電話で聞いてイメージした通り。
シンプルなダークブラウンで、性別を問わない。
「おとーさん、お客さんが来たなの!」
ネネイが前方を指す。
遠目に客が見えた。
一気に五〇人くらいが近づいてくる。
皆、例外なく特大のリュックを背負っていた。
商品を詰める為の物だ。
競馬よりも激しい、商人達のデッドヒート。
しかし、一着はあの中に居ない。
一番先に到着するのは――。
「マグボトルなる新商品を五〇〇個と、いつものを三五〇個頼む」
「二八億五〇〇〇万ゴールドになります」
「うむ」
忍び装束を纏ったポニーテールの女だ。
髪と服は、どちらも紫色で統一されている。
一番のお得意様にして、毎回一番乗りの客だ。
固有スキルを使い、どこからともなく現れる。
そして、商品を買い終えるなり、スッと姿を消す。
「紫のお姉ちゃん、いらっしゃいませなの!」
ネネイがにこやかに頭をペコリ。
しかし、女は無反応だ。見向きもしない。
このやり取りも毎度のこと。
最初は呆気にとられたが、今では気にならなかった。
無視されたネネイでさえ、気にしていない。
この女の名は不明。
ネネイが訊いたけど、名乗らなかったのだ。
分かっているのは、別の大陸から来ているということだけ。
ネネイはこの女を「紫のお姉ちゃん」と呼んでいる。
一方、俺は「女忍者」と勝手に名付けていた。
女忍者は、ネネイを無視し、視線を俺に移す。
「マグボトルの使い方は?」
「チラシに書いてあるけど、実際に見せて説明しよう」
俺は商品の一つを手に取り、蓋を開けた。
中を見せ、「ここに飲み物を入れる」と説明。
その後、蓋を閉めた。
「保冷・保温性能を求めるなら、蓋はしっかり閉めるように」
「承知した。では荷物を運ばせてもらう」
「ああ、分かった」
支払いを済ませると、女忍者は二階へ移動した。
購入した分を、固有スキルで運ぶ為だ。
二階への侵入は原則禁止だが、女忍者だけは例外で許可している。
購入個数が多すぎるからだ。
大量購入に加え、一階まで商品を運ぶ必要もない。
こちらとしては、本当にありがたい存在だ。
女忍者は、自身の固有スキルについて語らない。
だが、大体の効果は察しがつく。
任意の場所へ瞬間移動するスキルだ。
制限は俺の『世界転移』と似ているに違いない。
なぜなら、荷物を一度に運びきれないからだ。
正確には、手に持っている分しか運べていない。
「さて、ここからが本番だぜ」
女忍者が二階へ上がった頃、一階には大量の客が押し寄せていた。
あっという間に長蛇の列が出来上がる。
模造品が猛威を振るう前と同レベルの賑わい方だ。
「マグボトルってやつを二〇個!」
「俺は剃刀を二〇! マグボトルを三〇!」
「こっちはマグボトルを六〇だ!」
マグボトルがバカ売れだ。
一つ五〇〇万という高価格でも、飛ぶように売れていく。
「きた! きたきた! きたぁ!」
冒険者カードを見て、ハイテンションになる俺。
資金力ランキングが、一気に駆け上がっていく。
七七七一位からスタートし、開店から五分で七五一〇位に。
その後も止まらず進んでいき、自己最高の六六七三位になる。
七〇〇〇位の壁を、あっさりと突破したのだ!
しかし、そこからすぐに駆け上がらなくなった。
順位が落ち着いたのは、マグボトルが売り切れたからだ。
今日の在庫は、剃刀セット一九〇〇個に、マグボトル五〇〇〇個。
それでも、マグボトルの方が早く売り切れた。
「マグボトルを買いに来た!」
「すみません、既に売り切れました」
「はぁ!? まだ開店してそんなに経ってないだろ!」
「そうですが、本日の販売は終了しました」
「くそぉー! 仕方ねぇ、代わりに剃刀を二〇頼む」
「ありがとうございます、二〇〇〇万ゴールドになります」
マグボトルを買えなかった客が、代わりに剃刀セットを買う。
同じような売れ方が、その後もしばしば続いた。
それにより、剃刀セットの売れ行きも好調である。
マグボトルが完売したのは、開店から二〇分後のことだ。
この調子なら、仕入れる数を倍増しても問題ないだろう。
この家の二階には、まだまだ余裕がある。
「凄い売れ行きですね。流石です、ユートさん」
「おとーさんは天才なの!」
マグボトルがないことを嘆く客を眺めながら、二人が褒めてくる。
俺はそれらの言葉を、「ありがとう」と素直に受け取った。
マグボトル商売における今後の問題は、模造品だ。
しかし、この点は割と楽観的に見ている。
模造品を作る技術があるなら、もっと前に水筒を作っていただろう。
これまで誰も水筒を作らなかったのは、作れないからだ。
簡単に似せられる剃刀の模造品とはワケが違う。
作らないのではなく、作れない。
ネックになっているのは、おそらく蓋の構造だろう。
回して開閉する蓋を、エストラの人間は作ることが出来ないのだ。
その証拠に、エストラには同じ構造の物が一つもない。
だから、仮に模造品が出回ったとしても、蓋はガバガバだろう。
まともに閉めることは出来ず、使い物にならない。
冒険者が求めているのは、激しく動いてもこぼれないものだ。
外見だけ似せても、こちらのシェアを奪うには至らない。
「これからは、資金力ランキングをガンガン駆け上がっていくぜ」
「いくぜなの!」
文句なしの出だしに大満足した俺は、三階へ向かった。
ネネイとリーネも続こうとする。
だが、俺はその動きに待ったをかけた。
「二人はマリカのサポートを頼む」
「はいなの♪」
「ユートさんは何をされるのですか?」
「俺はリアルに戻って電話してくるよ」
電話の相手は、いつもの取引相手だ。
用件は当然、マグボトルの仕入れる数を増やすこと。
俺は既に、先の次元を見据えていた。
◇
翌日。
マグボトルを売り出してから二日目の今日。
俺達は、朝から大忙しだった。
全員総出で、マグボトルの箱を開けている。
いつも骸骨戦士が行っている作業だ。
「だぁー! めんどくせぇ!」
箱を開け、地面に敷いたチラシの上にマグボトルを立てる。
その間、骸骨戦士は剃刀セットの準備に励んでいた。
「単調な作業は、精神的に苦痛ですね」
「リーネに賛成だ。マスター、私は疲れた」
「マリカは接客があるし、休んでくれていいよ」
「断る」
今日はより多くのマグボトルを売ることに決めた。
二階に積まれているマグボトルの数は一万五〇〇〇個。
俺はそれを、今日中に全て売り切るつもりだ。
昨日の売れ行きを見る限り、おそらく完売するだろう。
問題なのは、それだけの数を売れる状態にすることだ。
全てのマグボトルを開封していくのは、骨が折れる。
「ぽこーんなの!」
ネネイが上機嫌でマグボトルを立てていく。
この中で、開封作業を楽しんでいるのはネネイだけだ。
入れ替わりたいくらいに羨ましい。
「あー、もうだめ!」
数十箱を開封したところで、俺は断念した。
面倒過ぎる。こんな作業はやってられない。
「すみません、私も限界です」
「同じく」
俺の放棄を皮切りに、リーネとマリカも投げた。
「そもそも、なんで開封作業をしていたんだっけ」
悟りの境地に達した俺は、考えを巡らせる。
この狂った作業をすることになった経緯は何か。
……思い出したぞ。
パッケージが変に思われそう、と懸念したからだ。
だから、剃刀は箱から出し、クリームはラベルを剥がした。
マグボトルを箱から出すのもその為だ。
「でも、この調子だといずれ……」
今は骸骨戦士の作業が間に合っているからいい。
しかし、今後仕入れる数を増やしていくと、途端に厳しくなる。
開店時間までに、必要個数の商品を用意できなくなるのだ。
「開封しないで売ればよくありませんか?」
リーネが提案してくる。
たしかにそれでもいい気がしてきた。
でもやっぱり、パッケージの文字を読まれるのは不安だ。
成分表や使用材料は、エストラの住民が知らないものばかり。
などといいつつも――。
「そうだな、開封しないで売ろう」
面倒さには勝てなかった。
意味不明な成分や材料が使われていても問題ないだろう。
そう思えるだけの実績はある。
「明日からはそれでいいとして、今日はどうしますか?」
リーネが既に開封した商品を指す。
俺は「気にしないでいいさ」と軽く答える。
「未開封の商品と開封済みの商品、どちらも今日中に売ろう」
「それだと、箱について質問されませんか?」
「されるだろうけど、その時は適当に流せばいい」
「流石です、ユートさん」
こうして、面倒な開封作業はなくすことにした。
このことが何かしらの問題に繋がらないことを祈って――。
「ぽこーんなの! ぽこーんなの!」
「ネネイ、もういいぞ。作業は終了だ」
俺が声をかけると、ネネイは手を止めてこちらを見てきた。
眉間にほんのり皺が寄っている。
これはやや不機嫌な時のサインだ。
不機嫌度なるものがあれば、三〇パーセントといったところ。
「どうしてなの?」
「未開封のまま売ることにしたからな」
「ネネイ、もっとぽこーんしたかったなの」
「なら、飽きるまでしてくれていいぞ。今日で最後だし」
「やったぁ! ありがとーなの! ぽこーんなの!」
ネネイの不機嫌度が無に帰す。
嬉しそうに『ぽこーん』を再開した。
――それから三時間。
時刻は十三時の五分前。
昼食を終えた俺達は、昨日と同じように客を待っていた。
今日もきっと女忍者が一番だ。
初めて来た時から、彼女は常に一番乗りである。
しかも、来なかった日がない。
休みの日だろうと、決まった時間に来るのだ。
まるでロボットのように、正確で狂いがない。
「もうすぐ紫のお姉ちゃんが来るなの!」
「ネネイは紫のお姉ちゃんが好きなのか?」
「大好きなの!」
一度も返事されたことないのにか、と俺は苦笑い。
普通の人間なら、嫌いにこそなれ好きにはならないぞ。
「だって、紫のお姉ちゃんはカッコイイなの!」
「それは分からなくもないな」
「それに、いつもたくさん買っていってくれるなの!」
「はっはっは、ネネイは商売人だなー」
愛想が悪くても、上客だから大好き。
そんなの、普通の五歳児なら至らない思考だ。
俺は声を上げて笑いながら、ネネイの頭を優しく撫でた。
「えへへなの♪ おとーさんが一番大好きなの!」
ネネイがニコニコ顔で抱き着いてくる。
垣間見える逞しい商魂に、万人を癒す最強の笑顔。
この子が成長したら、とんでもない商人になりそうだ。
「今日は激しい一日になるぞ」
「任せろ、マスター。全部捌いてみせる」
すまし顔でドンッと胸を張るマリカ。
そんな彼女に、リーネが小さく拍手する。
「マリカさんはいつも頼もしいですね」
「俺達四人の中で、一番の働き者だよな」
雑談していると、女忍者が現れた。
今日も当たり前のように一番乗り。
突然の出現は、何度経験しても驚く。
「紫のお姉ちゃん、いらっしゃいませなのー♪」
笑顔で頭をペコリと下げるネネイ。
もちろん、女忍者は反応しない。
まるで見向きもせず、マリカに言う。
「マグボトルを二五〇〇個頼む。いつものは要らない」
「ひゃ、一二五億ゴールドになりますが、よろしいですか?」
さすがのマリカも、思わず言葉を詰まらせた。
一つ五〇〇万のマグボトルを二五〇〇個。
これまでの規模を遥かに上回る超ド級の注文だ。
「問題ない。もっと用意できるなら、あるだけ買おう」
マリカは何も答えずに俺を見てきた。
残りの分も売っていいのか、と目で尋ねてくる。
同じように、女忍者も俺を見た。
こちらの目は「早く答えろ」と言っている。
「数は一万五〇〇〇個あるが、売れるのは五〇〇〇個までだ」
「どうしてだ?」
「他の客にも売りたいからだ」
「そうか、なら五〇〇〇でいい」
「すまんな」
こうして、女忍者は、二五〇億分のマグボトルを購入した。
「では商品を運ばせてもらう」
「ああ。でもその前に、一ついいか」
「なんだ?」
「これからはそっちで開封してもらいたいんだ」
「開封?」
「実物を見せて説明しよう」
「分かった」
「皆、一階は頼んだ」
「頼まれたなの♪」
俺は女忍者を連れ、二階へ移動した。
二階には、開封済みの商品と未開封の商品がある。
未開封の商品は、全て段ボールの中に入っていた。
「今日は骸骨が作業をしていないのだな」
「ああ、奴らの作業こそが開封だからな」
女忍者は開店早々にくる。
彼女が来る時間帯は、まだ骸骨の開封作業が終わっていない。
進捗率は八割・九割といったところで、黙々と開封している段階。
「骸骨がしていた作業を、こちらでしろということか」
「そうしないと、これ以上のペースで供給するのが厳しくてな」
「しばし待て、主に確認してくる」
俺は「え?」と驚いた。
てっきり、女忍者が商人だと思っていたからだ。
「主って、あんたは雇われているのか?」
「そうだ。それが取引に支障をきたすのか?」
「いや、そんなことはないよ」
女忍者は「そうか」と答え、姿を消した。
戻ってきたのは、それから数分後のことだ。
「問題ない、開封はこちらで行う」
「そう言ってもらえて助かったよ」
「あと、主から文を預かってきた」
「文?」
女忍者は「うむ」と答え、懐から紙を取り出した。
小さく折りたたまれている。サイズはおそらくA4あたりか。
読んだら知らせろと言い残し、女忍者は商品の運搬を開始した。
「この齢になって、初めて手紙をもらうとはな」
ふっと笑い、渡された紙に目を落とす。
==========
はじめまして、ユートさん。
私はクラリヴァ大陸で商売をしているラモーンと申します。
いつも斬新で便利な商品を提供していただきありがとうございます。
おかげさまで、こちらの商売は繁盛の一途を辿っています。
さて本題ですが、別の大陸で商売をする気はありませんか?
ユートさんが消費者へ直接的に販売しないことは知っています。
ただそれは、我々に物を売る為の策だと考えています。
そこで、この度の提案をさせていただきました。
詳細は以下の通りです。
表向きは私の名義で、店を開きます。
ただ、売上は二人で分けます。
場所の確保や店員の配置、それに商品の輸送、等々。
あらゆる雑務は、全てこちらで責任をもって行います。
こちらは、その為のノウハウを持ち合わせています。
ユートさんの作業は、ただ商品を流して頂くだけです。
その点だけを保証していただければ、問題ありません。
また、開いた店の販売価格を決める権利は、ユートさんに委譲します。
取り分ですが、六対四でいかがでしょうか。
ユートさんが六で、私が四です。
店を展開する準備は既に出来ています。
ですから、契約後、直ちに始めることが可能です。
互いにとって良い提案だと思いますが、いかがでしょうか。
返答はミズキに伝えてください。
どうぞよろしくお願いします。
==========
俺は手紙を二度読み返し「なるほど」と呟いた。
要するに、『共同経営』のお誘いである。
手紙の主『ラモーン』の言う通り、悪くない話だ。
この話に乗れば、どちらも効率よく稼げる。
どちらかといえば、俺にとって都合の良い話である。
値段の決定権がこちらにあるからだ。
それにより、周囲の露店と同じ価格を維持できる。
これは大きな要素だ。
値段の決定権がなければ、俺の顧客を駆逐されかねない。
元が取れないレベルの激安価格で販売されたらおしまいなのだ。
そういった心配がない点は、非常に大きい。
こちらからすると、純粋に新たな収益源が増える話だ。
ラモーンにとっても、これはお得な話だ。
四割の取り分でも、転売するより効率が良いからだ。
たとえば、剃刀セットは一つ一五〇万が相場である。
転売の場合、買値が一〇〇万だから、一五〇で売ると取り分は五〇だ。
しかし共同経営の場合、一五〇の四割、つまり六〇が取り分になる。
取り分は共同経営の方が多いのだ。
ただ、ラモーンにとって、これはデメリットでもある。
俺から仕入れた時よりも相場が遥かに上だと、逆に損をするからだ。
剃刀セットでいえば、模造品が出回る前の相場は二〇〇万だった。
この条件だと、共同経営より転売の方が儲かる。
転売の場合、二〇〇で売れば、差し引きで一〇〇の利益だ。
一方、共同経営だと、二〇〇の四割で八〇が取り分となる。
それでも共同経営を提供してきたのは、需給を考慮してのことだろう。
需要がある程度一服すると、価格は低下していく。
これは避けられないことだ。
そして、そういう状況の方が期間としては長い。
ラモーンとしては、初期ブーストよりも、末永く儲けたいわけだ。
二五〇億を軽々出せるだけのことはあり、頭が切れる。
ラモーン名義の経営なら、何の問題もない。
もちろん顧客にとって快くはない話だが、それだけだ。
相場と同じ価格で販売していれば、発覚しても角が立つことはあるまい。
気分を害されようが、儲かる話には飛びつくのが商人だ。
魅力的な商品を提供している限り、顧客は消えない。
そこに好きや嫌いは関係ないはずだ。
ラモーンの提案を何度も検討する。
その結果、何の問題もないと判断した。
両者に得のあるナイスな提案だ。
「返事は決まったか?」
運搬作業を終えた女忍者が尋ねてくる。
「返事はミズキにとのことだけど、あんたのことか?」
「そうだ。で、返事は?」
俺にとって魅力的な提案だ。
もちろん、ラモーンにとっても。
「すまんな、この話を受けることは出来ない」
それでも、俺の答えは却下だ。
応援ありがとうございます!
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