1 / 1
スカイサンクチュアリ
しおりを挟む
「さあ吐け! スカイサンクチュアリの場所を!」
おぞましく黒い岩肌に鮮血がポタポタと垂れる。血の海が俺の足元まで広がるのは時間の問題。さっきまで威勢よく吠えていた『魔王』が子犬のように蹲り、苦しそうにしている様はこの長い旅の一区切りを終えるに相応しかった。
「ハハハ、言うようになったなあ小僧。……ガハッ」
息をするのも辛そうな魔王は血の塊を吐き、頭を垂れるように俯いた。俺の何倍もの大きさの頭頂部がよく見える。……こいつには、本当はもっと苦しんでから死んでもらいたい。
リマジハ村という緑豊かな村はこいつに焼き尽くされた。四季折々で様々な農作物が取れ、人々は何不自由なく暮らしていた。なのにこいつが、一瞬で奪い去った。土地も、人も。……俺の妹も。
俺はたまたまこいつが襲来した日に別の村で野菜を売っていた。帰ってきた時には黒焦げの、何も無い土地とゾンビのように倒れる人々がいた。
俺は必死で妹を探した。……だけどバラバラの家の前にあったのは黒焦げで跡形もない瓦礫と、焼死体。もう妹の影すら無かった。
俺は悲しみに明け暮れた。村ごと焼き尽くされ、辛うじて生き残った人も重症で長くは生きられない。そんな時に包帯でぐるぐる巻きにされた村長が俺に言ったのだ。
「スカイサンクチュアリを探せ。場所は魔王が知っている」
スカイサンクチュアリと呼ばれる空中庭園は、嘘か誠か天国に近い場所なのだという。そこで妹を見つけ出し、現世の土地に戻ることが出来たなら、また妹と一緒に生きていけると。
俺は信じる気にはなれなかった。だけどこのまま何もせず、抜け殻になって死んでいくよりはそのスカイサンクチュアリを探して死ぬほうがマシだ。俺は旅に出た。魔王を探し、様々な土地を駆け巡り、強くなっていったのだ。
そしてこの憎き魔王と対峙し、心臓に一刺しをしたところ。
「おい! 早く言え! どこなんだ!」
こいつが息絶える前に聞き出さなくては、今までの苦労が水の泡となる。魔王は鋭い牙の間から血を吐きながら笑っている。
「……この野郎! 何がおかしいんだ!」
腹が立って右足を聖剣でぶっ刺す。グワアア、と咆哮しながら悲痛な叫びをあげた。肩で息をする魔王はしばらくして口を開いた。
「……小僧、村で暮らしていた時空を見たことがあるか」
突拍子のない言葉に一瞬理解が遅れる。
「あるさ。それがなんだ」
「もっともっと、上を見たことがあるか」
魔王は先程よりも強い語尾で言った。
「もっと上? どういうことだ」
魔王の言葉の真意が分からず、俺は聞いた。魔王はまた笑いだした。
「在るんだよ、そこに」
「……は?」
魔王は笑いをやめ、最期の力を振り絞って目を見開いた。
「スカイサンクチュアリは、お前が生まれた時からずっと、お前の上にずっと在ったんだよ」
おぞましく黒い岩肌に鮮血がポタポタと垂れる。血の海が俺の足元まで広がるのは時間の問題。さっきまで威勢よく吠えていた『魔王』が子犬のように蹲り、苦しそうにしている様はこの長い旅の一区切りを終えるに相応しかった。
「ハハハ、言うようになったなあ小僧。……ガハッ」
息をするのも辛そうな魔王は血の塊を吐き、頭を垂れるように俯いた。俺の何倍もの大きさの頭頂部がよく見える。……こいつには、本当はもっと苦しんでから死んでもらいたい。
リマジハ村という緑豊かな村はこいつに焼き尽くされた。四季折々で様々な農作物が取れ、人々は何不自由なく暮らしていた。なのにこいつが、一瞬で奪い去った。土地も、人も。……俺の妹も。
俺はたまたまこいつが襲来した日に別の村で野菜を売っていた。帰ってきた時には黒焦げの、何も無い土地とゾンビのように倒れる人々がいた。
俺は必死で妹を探した。……だけどバラバラの家の前にあったのは黒焦げで跡形もない瓦礫と、焼死体。もう妹の影すら無かった。
俺は悲しみに明け暮れた。村ごと焼き尽くされ、辛うじて生き残った人も重症で長くは生きられない。そんな時に包帯でぐるぐる巻きにされた村長が俺に言ったのだ。
「スカイサンクチュアリを探せ。場所は魔王が知っている」
スカイサンクチュアリと呼ばれる空中庭園は、嘘か誠か天国に近い場所なのだという。そこで妹を見つけ出し、現世の土地に戻ることが出来たなら、また妹と一緒に生きていけると。
俺は信じる気にはなれなかった。だけどこのまま何もせず、抜け殻になって死んでいくよりはそのスカイサンクチュアリを探して死ぬほうがマシだ。俺は旅に出た。魔王を探し、様々な土地を駆け巡り、強くなっていったのだ。
そしてこの憎き魔王と対峙し、心臓に一刺しをしたところ。
「おい! 早く言え! どこなんだ!」
こいつが息絶える前に聞き出さなくては、今までの苦労が水の泡となる。魔王は鋭い牙の間から血を吐きながら笑っている。
「……この野郎! 何がおかしいんだ!」
腹が立って右足を聖剣でぶっ刺す。グワアア、と咆哮しながら悲痛な叫びをあげた。肩で息をする魔王はしばらくして口を開いた。
「……小僧、村で暮らしていた時空を見たことがあるか」
突拍子のない言葉に一瞬理解が遅れる。
「あるさ。それがなんだ」
「もっともっと、上を見たことがあるか」
魔王は先程よりも強い語尾で言った。
「もっと上? どういうことだ」
魔王の言葉の真意が分からず、俺は聞いた。魔王はまた笑いだした。
「在るんだよ、そこに」
「……は?」
魔王は笑いをやめ、最期の力を振り絞って目を見開いた。
「スカイサンクチュアリは、お前が生まれた時からずっと、お前の上にずっと在ったんだよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる