夜空に瞬く星に向かって

松由 実行

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第三章 Cjumelneer Loreley (キュメルニア・ローレライ)

11. テネシーウィスキー

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■ 3.11.1
 
 往路のソル太陽系からキュメルニアガス星団へのジャンプはたったの二十分だった。カイパーベルト帯とは言え、太陽系外のほとんど星間物質の無い場所で加速することが出来た。ホールドライヴ突入までに十分な加速が出来、光速の10%近くまで速度を乗せてホールイン出来た為だ。
 キュメルニアガス星団外縁からのジャンプでは、プラズマを弾くレジーナのシールドキャパシティの問題で光速の1%すら出すことが出来ない。
 数時間の低速ホールジャンプでキュメルニアガス星団から数百光年先に一度ホールアウトし、そこで十分に加速して再度ホールインして、二十分程度のジャンプでソル太陽系に到着する旅程とした。
 
 機械の駆逐艦を二隻も伴っていきなり太陽系の中心部にホールアウトすることは、地球政府から拒否された。まずは太陽から一光年近く離れたオールト雲外縁に一度ホールアウトし、そこで地球艦隊とランデブーすることになっている。
 
 こんな事を言うのは少し恥ずかしい話なのだが、実は俺は、今では他の種族の国の政府よりも地球政府が一番恐ろしい。自分の生まれ故郷だから、という様な感傷的な理由では無い。
 他の銀河種族達が思っているとおり、確かに地球人は冷酷で且つ容赦なく、徹底的でそしてしつこい。そんな政府だから、地球政府が一番恐ろしい。
 
 例えば、ごく最近関わっていたハフォン人とハフォン政府と比べてみよう。
 ハフォン人は根が真面目であり、さらに彼らの宗教文化的背景があるので、神に対して正直であろうとする。だから彼らは、救いようが無く汚い騙し討ちということをほとんどしない。
 神から任じられた王の名の下に国を治めるので、例え実際は議会政治であったとしても、王の名の下に慈悲と仁徳をもって国民にあたらねばならない。だから、彼らの政治には「超えてはならない最後の一線」というものが存在し、その分だけ国民に優しい。
 
 翻って地球政府はどうか。
 同じような宗教文化的背景を持っている筈なのだが、彼らの利益追求は徹底的且つ継続的だ。地球という名の国家の利益のためなら、何の躊躇いも無く個人の利益や権利は無視される。例えそれが、生存権などのいわゆる基本的人権であっても、だ。
 そこにはハフォン人が守るような「越えられない一線」は存在しない。国家の利益のためなら、あらゆる手段をとるだろうし、目的が達成されるまでその手を緩めることは無い。
 
 例えば俺がなにかお宝を持って逃げたとしよう。
 情報でも、技術でもなんでもいい。そのお宝があれば他の銀河種族に対して例え僅かでも何らかの優位性を持てる、そんなお宝だとする。
 俺はそのお宝を持ってレジーナでトンズラする。キュメルニアガス星団の中でも良いし、天の川銀河の外縁から飛び出したっていい。とにかく追っ手の手の届かないところに逃げて、命と利益の安全を確保しようとする。
 
 ハフォン政府なら、この時点で諦める。ハフォンだけでは無い。他の銀河種族の政府もほぼ同じだろう。
 お宝を持ち逃げされたのは腹立たしい損失だが、すでに人の手の届かない遠くに行ってしまった。自分達の手元に無いが、敵の手に落ちた訳でも無い。
 敵に有利に働くので無ければ、無かったものとして諦めれば良い。
 たった一つのお宝を探すために割かねばならない資材と人と時間を考えれば、バランスが取れない。
 遙か未来、誰かが手にする可能性はあるが、その頃にはお宝の価値も下がってしまってほとんど意味をなさなくなっている。
 だからお宝は無かったものとして諦める。
 
 地球政府は違う。
 必ず探し出して取り返そうとする。どんな汚い手を使ってでも。
 お宝を探し出すコストがかかるなら、資材と人材を最低限まで減らすことでコストを最小限に抑える。一人のエージェントを送り出し、何年かかっても必ず探し出してこい、と云う。
 そして、お宝を持ち逃げした者に制裁を加えることを要求する。
 地球まで連れ帰ってきて裁きを受けさせるか、それが出来ないなら殺して構わない、と。
 自分達からは絶対に逃げられないということを、本人と、周りの他者にも知らしめるために。
 
 銀河種族達の中では、地球政府は自国民の命を守る為にあらゆる手段を使って最大限の努力をする政府として有名だ。それはまるで蛮族の親近者への愛のように語り継がれている。
 だが俺達は知っている。
 他の種族に比べて数が少ない国民をこれ以上失う訳には行かず、そのための最大限の努力をしているのだと。
 国民は、国を成り立たせる要素の内の主要な一つなのだ。
 地球政府の論理では、そこに愛などと言う甘い響きをもったものは存在しない。
 そこにはただ単に、目的と手段と結果しか存在しない。
 
 地球人は冷酷で且つ容赦なく、徹底的でそしてしつこい。
 それは、目的を達成するためには容赦なくあらゆる手段をとり、納得できる結果が出るまで絶対に諦めないことを言い換えている。
 地球政府を支える者達にとってその「目的」とは、地球政府の存続と発展なのだ。
 だから彼らは、地球という国のためであれば徹頭徹尾冷酷で且つ容赦なく、徹底的でそしてしつこくなる。
 地球という国家を存続させるため、三百億人の国民を生かすためには、一人の宇宙船パイロットの命など安いものだった。
 
 夕食時の話題としては少々重すぎる嫌いがあったが、ソル太陽系に到着する前日の夕食に俺はそのような話をした。
 ブラソンは口元を歪めて嗤い、「そんなもんさ」と言った。
 ルナは、相変わらず無表情に俺の顔を見ていたが、視線が合っても外そうとはしなかった。
 ニュクスは、蠱惑的な赤い唇を歪めてニヤリと笑った。
 セイレーンはニコニコと微笑んでいる。
 アデールは、相変わらず俺を睨み付けていたが、反論してくる訳でも無かった。
 
 敵だと思っていたが、実は極めて友好的な機械達の懐を出て、俺達は多分この銀河中で最悪の潜在的な敵、地球政府の元に赴こうとしているのだ。
 ということを、俺は皆に伝えたかった。
 どうやらそんなことは皆とっくの昔に承知していたようだった。
 
 全権大使として完全に乗客であるセイレーンと、向こう側の人間であるアデールを除けば全員がコクピットに居る。
 夕食後早速、俺たちは対地球軍艦隊の秘策をコクピットで練り始めた。
 
 
■ 3.11.2
 
 
 その夜、俺はブラソンからの訪問を受けた。
 視野の中央でネット動画を再生していたが、眼の焦点はそれを追うことなく、地球艦隊の出方とその対応の仕方についてごちゃごちゃといろいろ考えていた。
 部屋のドアをノックする音で我に返る。
 
「開いてるぜ。」
 
 船の中に誰が居るのかはもちろん把握できている。誰が盗みに入って来る訳でもない。例え入ってきたとしても、レジーナは常に船内の全てをモニタしている。多分、ルナも安全上の理由から俺の部屋を常に監視しているはずだ。
 だから俺の部屋の鍵は普段は常に開けてある。気軽に入ってきて何でも話して欲しいという言外の意思表示だ。さすがに民間企業の重役のようにドアを開けっ放しにしたいとは思わないが。
 
 しかしそう考えると、例え自室の中に居ようと俺は常にルナとレジーナに監視されているのだ。考えようによっては、かなり怖い状況ではある。
 ただ、レジーナもルナも戸籍上も現実でも俺の家族であり、実際のところ少々バカなことをしているのがばれようとも、ある程度は割り切れる。あまり酷いと家族であっても呆れられるかも知れないが。
 
 俺の返事の後、一拍おいて部屋のドアを開けたのはブラソンだった。珍しい事だ。
 ブラソンとは大概コクピットかダイニングルームで話をすることが多い。レジーナとルナはどこにいても俺たちの会話をモニタできるので、どこで話していても差がないからだ。今では多分、フルアクセス権を手に入れているニュクスもそこに参加しているだろう。
 とすると、ブラソンがわざわざ俺の個室で話をしようという話題は、アデールに聞かれたくない内容であると想像できる。
 
「どうした。珍しいじゃないか。」
 
「ああ、お前に話しておきたいことがある。」
 
 ドアを手動ボタンでロックし、ブラソンが部屋のソファに腰掛ける。
 深刻な顔、というほど悲壮感は漂ってはいないが、しかしこれから話をする内容はごく真面目な内容なのだ、とブラソンの表情が物語っている。
 
「人払いするか?」
 
 つまり、船長権限でレジーナやルナをシャットアウトし、この部屋を密室にするかと尋ねている。
 
「いや、その必要はない。彼女たちにも聞いてもらってかまわない。むしろ聞いてもらった方が良いだろう。」
 
「OK。じゃこのまま話をしよう。呑むか?」
 
「そうだな。酔わない程度にな。」
 
 俺は壁にしつらえてあるキャビネットの中から少し大きめのショットグラスを二つと、ジャックダニエルのボトルを取り出した。
 テーブルの上にグラスを並べ、詮を開けたボトルから魅惑的な褐色をした液体を注ぎ込む。辺りに甘く香ばしい香りが漂い始める。
 自分の側にあるグラスを取り上げ、軽くもう一つのグラスに打ち付けてから、ブラソンは中身を半分ほど一気に煽った。
 俺も自分のグラスを取り上げ、同様に半分ほどを一気に煽る。口の中に香ばしく僅かに煙るような甘い香りが充満する。
 自室で静かに落ち着いて酒を飲むとき、本当に自分の船があって良かったと心から思う。
 
 何の話なのかは分からないが、ブラソンが話し始めるのを待つとして、俺は入り口とは反対側の壁全面に船外カメラ映像を投影した。
 オフホワイトの壁が一瞬で切り替わり、赤や黄色、様々な色をまとったプラズマ流に彩られて、幾つもの恒星が煙るように輝くキュメルニアガス星団の風景に切り替わる。レジーナはもう星団外縁に達しており、船首方向には黒い宇宙空間が広がる。
 ソファの向きを少しずらして、その風景をゆったりと眺められるようにする。
 
 ガキの頃、子供向けの科学雑誌やビデオ配信などで見かける、無数の星々を散りばめた宇宙空間に鮮やかな赤や白の蠱惑的なガス星雲が広がる映像を飽きもせずにいつまでも眺めていた。
 眺める内に俺の意識はその映像にどんどん引き込まれていき、まるで自分が宇宙船に乗ってそのガス星雲に向けて旅をしているような、そんな錯覚を覚えていた。
 
 今でも思い出すことが出来る。
 赤紫に広がる雲に縁取られ真っ白に輝くオリオン星雲の眩しさ、まるで虹色の河を渡るような馬頭星雲の黒い影、宇宙に開いた禍々しい赤い瞳に見竦められるような螺旋状星雲の妖しさ、鋭く輝く幾つもの若い恒星がまるで黒い煙を後に引き突き破って疾走しているかのようなカリーナ星雲の恒星群。
 やっと小学校に通うようになったばかりの俺が買って欲しいと強くせがんだプレアデス星団のホロパネルを、俺では背が届かないベッドの上の天井に張り付けてくれた時の母親の呆れ顔。
 いつかそこに行ってみたいと、寝る前に毎夜見上げていた青白く神秘的に煙り輝く六連星。
 視線を少しずらせば、部屋の窓の向こうに見える澄み切った冬の夜空と、そこに瞬く銀色の星々。
 今の俺は、あの頃の憧れを手に入れてこの星の大海を思いのままに駆け回ることができる。
 
 俺だけじゃない。
 命の危険さえ伴う船乗りなどという因果な商売を目指した奴らは、どいつもこいつも似たような憧れを抱いて、この暗く冷たく過酷で、それでいて一度魅入られたらもう二度と離れることの出来ない星々の海に乗り出してくる。
 それは多分、ブラソンも同じ様なものだったのだろう。
 俺たちは二人とも、しばらく何を話すわけでもなく鮮やかなガス星団を眺めながらグラスを傾けていた。
 
 ダブルショットで三杯目のジャックダニエルが空に近くなる頃、ブラソンがおずおずと言った口調で口を開いた。
 
「俺の部屋に外挿サーバがあるのは知っているな?」
 
 確か、ダマナンカスで買い込んだ機材では無かったか。ブラソンの仕事柄当然必要なものだろうと、搬入の可否を尋ねられた時に是非もなく了承した覚えがある。
 
「もちろん、知っている。お前の仕事に必要なものだろう?」
 
「そうだ。俺の仕事道具が入っている。まあ、遊び道具も少々、と言ったところだ。」
 
 ああ、ルナが二百何十個とか言っていたあれか。
 
「で?それがどうしたんだ?」
 
「あの中に、AIプログラムが一つ入っている。俺が作ったものだ。」
 
 銀河には、ごく単純な学習型AIプログラムでさえ単純所持を禁じている国もある。
 ブラソンが話している内容に心当たりがあった。
 ハフォンで、陸戦隊と一緒にハフォネミナのネットワークを奪取する作戦を展開していた時、ブラソンがコントロールルームに入った後にインターフェイス役だったプログラムがある。
 こちらからの問いかけに適切に返答していたのが印象的だった。
 
「何か問題があるのか?この船は俺の船で、そして地球船籍だ。」
 
「そういう意味では問題無い。ただ、一種の人工知能を船長であるお前に黙って持ち込んでいたことについて申し訳なく思っているだけだ。」
 
「地球では携帯端末にさえ簡単なAIがそれぞれ入っているぞ。お前の持ち物のサーバーの中にお前が作ったAIが入っているのだろう?何も問題ないさ。地球生まれのAIではないだろう?とすると今、そのAIには戸籍がない状態だ。ならばただのAIプログラムだ。密航者ではない。」
 
「そうか。ありがとう。これから、俺の仕事を進めるのに彼女に手伝ってもらう事も多いと思う。外挿サーバから出てきてレジーナのネットワークを使わせてもらう事になる。名前を『ノバグ』という。」
 
 ブラソンの表情は先ほどまでの深刻そうな表情から、普通の笑顔に変わった。
 
「ノバグ?それはお前のハンドル名じゃなかったか?」
 
 ハフォンに到着してすぐの頃、外見を変えた快活なミリがブラソンに指摘した台詞を思い出した。
 
「その通りだが、その名前の由来自体がそもそも間違っている。『ノバグ』は俺が作ったハッキング専用の自作AIの名前だ。パイニエにいた頃、俺の相棒として、まあ、一緒にいろいろやった訳だ。当然、AIである彼女の存在は完全に隠していたからな。人間とは思えない凄まじい処理速度で次々にセキュリティを突破する彼女の活躍にみな舌を巻き、それが俺のハンドルになった。だから世間一般で言うところの『ノバグ』というのは、実は俺と彼女のコンビの事だ。そして本当のところは、俺の相棒だったAIの名前だ。」
 
 なるほど。いろいろと納得できた。
 なぜブラソンがこれほどにAIに対して拒否反応を示さないか、これで納得がいった。
 
「マサシ、その件について提案があります。」
 
 レジーナの声が頭の中に響く。
 
「地球に戻った際に、ルナの戸籍登録と同時に、ノバグも戸籍登録した方がよいと思います。少なくともこの船の中で彼女の人権を主張できるようになります。」
 
 もっともな話だった。ただ一つだけ問題がある。その「ノバグ」というAIはブラソンが作ったものだろう。
 地球の大手メーカー製のプログラムであれば、その基本仕様を変更しなければ戸籍登録はごく簡単に終了する。レジーナの場合がそうだし、そのコピーであるルナも多分そうなる。
 それに対して、ライセンスが取れていないメーカーや、個人が開発した機械知性体の場合は、戸籍を得るための条件をクリアしているかのテストが行われる。早い話が、人権を与えられるだけの人格と知能を備えているか、という確認だ。
 俺がその点を考えていることを予想したのだろう。レジーナが続ける。
 
「彼女は今現在、知性体審査をパスできるだけのレベルに達しています。」
 
 なるほど、それはすごい。さすがブラソンと云うべきか。個人が開発したAIが知性体審査を突破するのはなかなか難しいと聞いている。
 
「今、ノバグはレジーナに遊んでもらっているからな。」
 
 ブラソンが自嘲気味に笑う。
 経験の浅いAIが、長く生きているAIに訓練を受けるのは人格の形成に劇的な効果がある。仮想空間でAI同士がコミュニケーションを行えば、現実空間でのヒトととのそれよりも百万倍もの速度で成長可能だ。
 しかし、新人AIを教育できるほどレジーナは経験豊富ではないだろう。
 
「ニュクスと機械群の集合知性体に手伝って頂いています。ノバグの人格部分に機械群の最新人格基幹モジュールであるニュルヴァルデルアVII549型のコピーを利用しました。そのため以前のようにノバグ全てをブラソンの記憶野に格納することが出来ない容量となってしまいましたが、ニュルヴァルデルアVIIシリーズの特徴である人格書出機能(Spirit Export package)を用いる事で、別個体のニュルヴァルデルアVIIシリーズ人格上にほぼ完全に最新のノバグ人格を再構築することが出来ます。」
 
 レジーナが補足した。
 多分レジーナもノバグと一緒にニュクスやキュメルニア機械群の知性体達に遊んでもらっているのだろう。なるほど、ここのところレジーナの性格が妙にこなれてきた理由が分かった。
 それよりも、今レジーナがさらりと凄まじいことを言っていたが。
 
「それは、機械知性体のバックアップを取っておけるという事か?」
 
「はいマサシ、その通りです。昔の銀河種族達が開発したAIにはそのような機能が備えられているものが少なくなかったようです。今の我々よりもかなり進んでいたようですね。現在の機械達の個体人格はその延長線上の技術です。私もその技術をいくらか導入させてもらいました。」
 
 本当にレジーナが饒舌になった。しかもそこはかとなく艶っぽい喋り方をする。
 今のレジーナなら、シャルルのところのアンジェラよりも人間らしく振る舞うだろう。
 
「そんなことが出来るのか?お前達地球のAIは基本設計からして異なるだろう。そう簡単に機械群のモジュールを導入する親和性が取れるとは思えない。」
 
 ブラソンが奴らしいところに突っ込んだ。
 良く分からないが、基本設計が異なるAIの間で追加機能のプログラムをそう簡単にやり取りできるはずがない、という様なことを指摘しているらしい。
 
「いえブラソン、地球のCyber Life Tech社のNEXUS XVIII型以降の基本人格モジュールであれば、もともとニュルヴァルデルアシリーズとの相互互換が可能である様に設計されています。」
 
 ブラソンが絶句している。
 またレジーナがさらりととんでもないことを言った様な気がする。
 
「それは、最初から機械達の基本人格設計を導入して開発された、ということか?お前達の基本人格モジュールの設計に機械達が干渉していた、と?」
 
 ブラソンが信じられない、といった表情と口調でレジーナに問う。
 
「はい。我々地球生まれのAIも知らされていませんでしたが、もうすぐ機械側から情報開示されるものと思います。NEXUSシリーズの設計には、開発初期の時点から開発速度を向上するために初めてヒトと機械知性体の融合チームが活用されました。開発者として参加した機械知性体のうち何人かは機械のAIであった模様です。彼らはすでに『旧式化した』という理由でライブラリ化処理されています。」
 
 ニュクスのあの小悪魔的な妖艶な笑いが目に浮かんだ。やつら銀河中のあちこちに時限爆弾を仕込み過ぎだ。
 ブラソンも絶句している。
 なるほど、地球人が機械達と親和性が良い筈だ。そして機械達と接したときに違和感を感じずにすぐに馴染めたはずだ。
 彼らはずっと地球人と共に居たのだ。
 
「ところでマサシ、正式に存在が明らかになったところで、ノバグがあなたに挨拶したいと言っています。ノバグに船内ネットワークへのアクセス権を与えることを承認願います。」
 
 おずおずといった感じでレジーナが話を切りだしてきた。心なしか彼女の声が嬉しそうに聞こえる。
 是非も無い事だ。
 
「許可する。」
 
「ありがとうございます。ノバグにシステムエンジニアリング担当権限を付与しました。」
 
「マサシ様、初めまして。ノバグと申します。お初にお目にかかります。」
 
 明るいながらもたおやかな雰囲気の女性的な声が頭の中に響いた。
 
「ああ、初めまして。船長のマサシだ。よろしく。」
 
 ブラソンの顔を見ながらノバグに挨拶をする。ブラソンの顔は、誇らしげに嬉しそうに見えた。
 レジーナにさらにもう一人、乗員が増えた瞬間だった。
 
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