銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

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第2章

断罪と口づけ

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ヴォルフとエリアスが互いの温もりを確かめ合うように強く抱き合っている間に、回廊の向こうから王宮の騎士たちが雪崩れ込んできた。

「確保せよ!バンガルド卿を取り押さえろ!」

騎士たちは手際よく動き、まずは腹を刺されて倒れている同僚の元へ駆け寄り、止血と救護を開始する。
そして、ヴォルフに殴り飛ばされて血だらけになり、地面に這いつくばっているバンガルド卿を数人がかりで地面に押さえつけ、拘束した。

「は、離せ!無礼者!私はバンガルド侯爵だぞ!」

バンガルド卿は鼻と口から血を流しながら、半狂乱で喚き散らした。

「こんな扱いが許されると思っているのか!あいつは私のものだ、エリアスを渡せ!返せェェッ!!」

往生際悪く暴れる男の前に、静かな足音が近づいた。
騎士たちが道を空け、そこに現れたのは第一王子、アルシードだった。

「……見苦しいぞ、バンガルド卿」

アルシード王子は、氷のように冷徹な瞳でバンガルド卿を見下ろした。

「衆人の目の前で、これほど愚かな真似をするとは……。貴様が上位貴族として相応しくないことは、今この場にいる者たちがしかと見届けたぞ」
「で、殿下……これは、違うのです、あの男が……」
「黙れ。言い訳など聞きたくない」

王子は厳格な声で断罪した。

「王宮の騎士への傷害行為、そして貴族院の条約に基づいた正式な決闘の結果を無視した越権行為。加えて、賭けの対象への暴行……。全て、決して許されることではない」

王子の宣告に、バンガルド卿の顔色が土気色に変わる。

「このまま王宮にて身柄を拘束し、貴族院裁判にかける。……連れて行け」
「待ってください!殿下、殿下ァッ!エリアス! エリアスゥゥゥッ!!」

騎士たちに引きずられていく最中も、バンガルド卿は狂気的にエリアスの名を叫び続けていた。
その声が回廊の奥へと消えていくまで、ヴォルフはエリアスの耳を塞ぐように強く抱きしめたまま、一歩も動かなかった。

「……もう大丈夫だ。怖かったな、エリアス」
「ヴォルフ……っ」

エリアスもまた、ヴォルフの背中に腕を回し、しがみついた。
もう二度と離れたくない。
この温もりだけが、震える心を鎮めてくれる唯一の安らぎだった。

しばらく抱き合った後、ヴォルフはゆっくりと身体を離し、エリアスの顔を覗き込んだ。
その表情が、痛ましげに歪む。

「血が……」

ヴォルフは自分の袖で、エリアスの頬についた返り血を丁寧に拭った。
そして、ナイフが食い込んだ首筋の傷を確かめるように、震える指先で触れた。

「っ……」

傷口に触れられ、ピリッとした痛みが走る。
エリアスには見えないが、結構な量の血が出ているのだろう。ヴォルフの手が赤く染まるのが見えた。
けれど、そんな痛みよりも、ヴォルフが悲しそうな顔をすることの方が辛かった。

「ごめん、なさい……私が、勝手なことをして……」
「謝るのは私の方だ。……守ると言ったのに、君にこんな怪我をさせてしまった」

ヴォルフはエリアスの言葉を遮り、傷のすぐそばに、そして唇に、壊れ物を扱うように優しく口づけを落とした。
血の味と、愛の味が混ざり合う。

「……このまま、王宮の医師に診てもらえるようにアルシードに……第一王子にお願いしよう。傷の手当てが必要だ」

ヴォルフの提案に、エリアスはこくりと頷いた。
その時、ふと決闘の様子が脳裏をよぎった。
三回戦目、あの大男の一撃を脇腹に受けたヴォルフの姿。

「ヴォルフこそ……大丈夫なのですか?」

エリアスはヴォルフの脇腹あたりに視線を落とし、不安げに尋ねた。

「あの時……凄い音がして……怪我をしているのでは……」

ヴォルフは一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐに安心させるような、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。

「ああ、あれか。大丈夫だよ、鎧の上からだったからね。少し打撲した程度だ」
「でも……」
「大したことはないが……愛しい妻を心配させたくないからね。私も大人しく、一緒に診てもらうことにするよ」

ヴォルフはエリアスの頭を撫で、再び優しく抱き寄せた。
互いに傷つきながらも、生きて、こうしてまた抱きしめ合える。

その奇跡を噛み締めながら、二人は寄り添って歩き出した。
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