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第3章
独占欲による仕上げ
しおりを挟む叙任式の前日の夜。
夕食を終え、明日の準備のために部屋へ戻ろうとした時だった。
「……エリアス、こっちだ」
不意にヴォルフに手を引かれ、足を止められた。
「ヴォルフ?あの、これから湯浴みをして、アンナに明日のために身体を整えてもらう予定なのですが……」
晴れの舞台に向けて、肌や髪を磨き上げる必要がある。アンナも張り切って準備をして待ってくれているはずだ。
しかしヴォルフは、当然だという顔で首を振った。
「いや。今夜は、君の肌や髪を整えるのも私にさせて欲しい」
「えっ……」
「明日の主役の一人である君を、一番美しく仕上げるのは私の役目だ」
ヴォルフは何でも器用にこなす完璧な男だ。
これまでもヒート期間中や事後など、何度もヴォルフの手で身体を洗われてきたし、その手際はアンナにも劣らない。
洗われること自体に抵抗は全くなかったが、改めて面と向かって「君を磨くのも私にやらせて欲しい」と宣言されると、エリアスに関する全てを管理し、自分の手で行いたいというヴォルフの底知れない独占欲を肌で感じてしまう。
(……そのうち、私の食べるものや飲むものの用意まで、全てヴォルフがすると言い出しかねないな)
そんな想像をして胸の奥が少しだけくすぐったくなりながら、エリアスは大人しくヴォルフに手を引かれ、廊下を歩き出した。
連れて行かれたのは、普段エリアスが一人で使用している浴室ではなく、屋敷にある大きな浴場だった。
ここは二人が一緒に入浴する際に使われる特別な場所だ。
扉を開けると、湯気の中に何人も入れそうなほど大きな湯船と、磨き上げられた大理石の床が広がっている。
「さあ、服を脱ごうか」
ヴォルフはエリアスの前に立つと、シャツのボタンに手をかけた。
一つ、また一つ。
ヴォルフの手つきは、わざとなのかと思うほどゆっくりで、焦らすように服を脱がせていく。
まだ直接肌に触れられているわけではないのに、その視線と指先の気配だけで、エリアスの心臓は早鐘を打っていた。
ようやく全てを脱がされ、一糸纏わぬ姿になると、ヴォルフはようやく満足したように頷き、今度は自分自身の服に手をかけた。
エリアスの時とは違い、何の躊躇いもなく流れるような動作で衣服を脱ぎ捨てていく。
露わになったヴォルフの身体は、いつ見ても惚れ惚れするほど逞しく、立派な筋肉に覆われている。
エリアスの視線は、ヴォルフの引き締まった脇腹へと吸い寄せられた。
(……綺麗に治っている)
あの決闘の時、エリアスを取り戻すために戦い、負った傷。その痕跡はもうほとんど分からないほど綺麗に塞がっていた。
「……君の方も、綺麗だ」
ヴォルフの手が、エリアスの首筋に伸びた。
そこには、かつてバンガルド卿にナイフで傷つけられた痕があった場所だ。
ヒート期間中はまだ赤みが残っていて気になっていたが、今はもう傷跡すら残さず、滑らかな肌に戻っている。
「明るい場所で見ると改めて分かるが……君の肌は本当に陶器みたいだ」
ヴォルフは甘い溜息交じりにそう囁くと、裸の身体を密着させるようにエリアスを抱きしめた。
「っ……」
触れ合う素肌の熱さと、胸板の感触。
ヴォルフの手が、陶器の質感を確かめるようにエリアスの腰をゆっくりと撫で回す。
「ん、ぁ……」
ただ抱きしめられているだけなのに、その妖艶な手つきにエリアスはたまらず甘い声を漏らしてしまった。
「ヴォルフ、だめ……っ、これじゃあ、えっちな気持ちになってしまいます……」
明日のために身体を清めに来たはずなのに、これでは逆効果だ。
エリアスが潤んだ瞳で素直に訴えると、ヴォルフは明らかに欲情した色を瞳に宿し、エリアスの頬をざらりと舐め上げた。
「……すまない。私はもうすでに、そういう気分だよ」
「えっ……」
下腹部に押し当てられる硬い熱が、その言葉の真実味を物語っている。
エリアスが身を強張らせると、ヴォルフはふっと表情を緩め、切り替えるように爽やかに笑った。
「だが……今夜は君を完璧に仕上げるという『責務』があるからね。まずはそちらを優先しよう」
ヴォルフは名残惜しそうに身体を離すと、エリアスの手を取って洗い場へと促した。
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