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第3章
磨かれた宝石
しおりを挟む「まずは指先からだ」
ヴォルフは宣言通り、そこからは一切の邪念を捨て、凄まじい集中力でエリアスの身体を磨き上げ始めた。
アンナから借りてきたのであろう爪やすりを取り出し、手足の爪の形を丁寧に整えていく。
貴族の当主が跪き、妻の足の爪先まで真剣な眼差しで磨いている姿は、側から見れば異様かもしれないが、ヴォルフの手つきは優しく、そしてプロの職人のように手際が良かった。
洗い終わった後も、ケアは終わらない。
「肌が乾燥しないように、しっかりと保湿しよう」
最高級の香油とクリームを手に取り、温めながらエリアスの全身に塗り込んでいく。
リンパを流すようなマッサージとは違い、あくまで肌のキメを整え、潤いを閉じ込めるための繊細なタッチ。
ヴォルフは時間をかけ、髪の一本一本、肌の隅々まで、愛する宝石を研磨するように慈しみながらエリアスを仕上げてくれた。
「……よし。これで完璧だ」
満足げに頷いたヴォルフは、ピカピカに磨き上げられたエリアスを先に湯船へと促した。
「先に浸かっていてくれ。私もすぐに済ませる」
エリアスが広い湯船に身を沈めてぼんやりとしている間に、ヴォルフは驚くべき速さで自身の身体を洗い流した。
先ほどまであんなに時間をかけてエリアスを世話していたのが嘘のような早業だ。
湯気越しにその逞しい背中を見つめながら、エリアスは磨き上げられてポカポカと温まった頭で、ただ見惚れていた。
ザブン、と大きな音がして、ヴォルフが湯船に入ってくる。
「おいで」
ヴォルフはエリアスの腰を引き寄せると、当然のように自身の太ももの上に、向かい合う形で座らせた。
「あっ……」
密着する裸体。ヴォルフの大きな手が、濡れて艶めくエリアスの背中から腰をゆっくりと撫で下ろす。
「……素晴らしいな」
ヴォルフはエリアスの肌の感触を確かめるように、指を滑らせた。
「元々陶器のように綺麗だったが、手入れをしたことでよりスベスベになった。……やはり、君は磨き甲斐があるよ」
ヴォルフは満足そうに笑った。
「アンナの仕事を奪って悪いが、『私の手でやる』と言って正解だったな」
そう言って笑う表情には、先ほどまでの「仕上げる」という義務感を漂わせていた爽やかさは微塵もない。
そこにあるのは、エリアスが「えっちな気分になってしまう」と訴えた時にヴォルフが見せた、あの欲情に濡れた雄の顔だった。
これだけ丁寧に身体中を触られ、愛でられ、そして今、目の前でこんな顔をされて、理性を保てるはずがない。
エリアスはとっくに観念していた。
「……ヴォルフ」
エリアスはヴォルフの首に前から腕を回し、ツルリとした肌を擦り合わせるように、自分から身体を密着させた。
「私も……もう、えっちな気分なので……触ってください」
羞恥心よりも本能が勝り、エリアスは甘えた声でねだると、小さく舌を出して唇を舐め、誘うような仕草を見せた。
その挑発的な合図を見た瞬間、ヴォルフの喉がゴクリと鳴り、口元が獰猛な獣のように歪んだ。
「……ああ、君の望むままに」
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