146 / 251
第3章
王子との密談
しおりを挟む王宮から差し向けられた、王家の紋章が入った重厚な馬車に揺られ、二人は叙任式の会場へと向かっていた。
車内は静寂に包まれている。
ヴォルフは隣に座るエリアスの手をぎゅっと握りしめ、低い声で注意を促した。
「……エリアス。参列する貴族は、アルシードが事前に選別してくれている。現時点でバンガルド卿と明確な繋がりがあるとされる家は招かれていないはずだ」
ヴォルフは一度言葉を切り、真剣な眼差しで続けた。
「だが、全ての繋がりを網羅できているわけではない。隠れて繋がっていた者が紛れ込んでいる可能性はあるから……式が終わるまで、決して気を抜いてはいけないよ」
「はい……」
その言葉に、エリアスの表情が強張る。
煌びやかな儀式の裏で、見えない敵意が渦巻いているかもしれない恐怖。
そんなエリアスの不安を拭うように、ヴォルフは優しくその頭を撫でた。
「大丈夫だ。君のことは、私が必ず守る」
その力強い言葉に、エリアスは頷いた。
けれど、心の内にある想いは、ただ守られるだけだった頃とは違っていた。
(……矢面に立つヴォルフこそ、危険なんだ)
爵位が上がり、注目を浴びるということは、それだけ敵の標的になりやすいということだ。
自分が傷つくことよりも、ヴォルフが少しでも傷つくことのほうが耐えられない。
エリアスは、愛する夫を守りたいと強く願いながら、ヴォルフの決意に満ちた瞳を見つめ返した。
やがて馬車は王宮に到着した。
巨大な城門をくぐり、荘厳な石造りのエントランスへ降り立つと、二人は事前の案内通り、まずはアルシード第一王子の私室へと向かった。
「入れ」
許可を得て部屋に入ると、そこにはすでに支度を整えたアルシードが待っていた。
「……!」
エリアスは思わず目を見張った。
今日のアルシードは、普段のラフな着こなしとは打って変わり、王位継承者に相応しい豪華で厳かな正装を完璧に着こなしていた。
そして腰には、王家に代々伝わる儀式用の剣が帯刀されている。
ヴォルフの剣も立派だったが、王家の剣が放つ威圧感と輝きは、さらに別格のものだった。
「よく来てくれたな。ヴォルフ、エリアス」
アルシードは二人を迎え入れると、ソファへと促した。
「これから叙任式だが、少し時間がある。座ってくれ」
使用人が音もなく紅茶を用意し、湯気が立ち上る。
アルシードは二人が席に着くのを見計らって、一枚の書面をテーブルに提示した。
「これを」
「これは……?」
ヴォルフが書面を手に取り、目を通す。そこには、日付と詳細な予定が記されていた。
「貴族院裁判の日取りだ。今月末から、バンガルド卿の裁判が始まる」
ついに、あの男が裁かれる時が来る。
エリアスが息を呑んで聞き入っていると、アルシードは冷静な口調で説明を続けた。
「王家の方針としては、国の膿である癒着貴族たちの洗い出しと、バンガルド家の取り潰しを決定している。……だが、相手は腐っても上位貴族だ。法的な手続きや根回し、派閥の抵抗もあり、最終的な結論が出るまでには時間がかかるだろう」
即決とはいかない現実に、空気が重くなる。
しかし、アルシードは不敵な笑みを浮かべて見せた。
「まぁ、俺はその期間を、逆に好機と捉えているがな」
「好機、ですか?」
「ああ。裁判が長引けば、それだけバンガルド卿の傘下にいた貴族たちが焦り、ボロを出す。奴らを炙り出し、一網打尽にするための時間が設けられると考えることにするよ」
その言葉に、ヴォルフもエリアスも深く頷いた。
「……そうですね。時間がかかろうとも、全てを明らかにするべきです」
エリアスは、自身の辛い記憶を噛み締めるように言った。
あのような卑劣な犯罪に手を染め、私腹を肥やす貴族たちが捕まれば、ヴォルフの元から理不尽に奪われ、暗い未来を覚悟して震えていた自分のような人間を、一人でも減らすことができる。
そのために、自分たちも戦わなければならない。
紅茶の香りが漂う部屋で、三人は静かに、しかし熱い決意を共有していた。
33
あなたにおすすめの小説
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる
水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」
人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。
ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。
「俺が、貴方の剣となり盾となる」
国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。
シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる