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第3章
未来への祝祭
「奥様。お食事ですが、お身体のこともありますし、お部屋にお運びしましょうか?」
夕食の時間になり、アンナが気遣わしげに尋ねてくれた。
確かに、まだ身体の自由は完全ではない。部屋で安静にしたまま食事を摂るのが一番楽ではあるだろう。
けれど、エリアスは首を横に振った。
「ありがとう、アンナ。でも……せっかくだから、食事の間で食べたいな」
久しぶりの我が家だ。ベッドの上ではなく、ちゃんとした食卓で、ヴォルフと向かい合って温かい食事を囲みたかった。
「分かった。では、行こうか」
エリアスの希望を聞いたヴォルフは、愛おしそうに目を細めると、慣れた手つきでエリアスを横抱きにし、軽々と廊下を運んでくれた。
食事の間に入ると、いつもの硬い背もたれの椅子ではなく、クッション性が高く、身体に負担がかからない形状の上質な椅子が、エリアスの席に用意されていた。
「座り心地はどうだ?」
「ふふ、最高です。ありがとうございます、ヴォルフ」
ヴォルフはエリアスをそこへ座らせ、ナプキンを膝にかけてくれるなど、甲斐甲斐しく世話を焼いてから自分の席に着いた。
テーブルには、久しぶりに味わう屋敷のシェフによる料理が並んでいた。
病院食も栄養バランスは良かったが、やはり食べ慣れた我が家の味は格別だ。
エリアスはスープを口に運び、メインの肉料理を味わった。
嚥下も消化も問題なく、もう食事に関しては普段通りに戻っている。
「美味しい……」
エリアスが幸せそうに食事を進める様子を、ヴォルフは自分の食事もそこそこに、満足そうに見守っていた。
食後の紅茶が運ばれてきた頃、ヴォルフが静かに口を開いた。
「エリアス。君も無事にこの家に戻ってきたことだし……私は仕事の合間になってしまうが、以前話していた『結婚式』について、また話し合おうか」
「結婚式……」
「ああ。君の望む通り、最高の式にしよう。教会で二人きりがいいか、それとも屋敷で祝宴を開くか。……どんな形でも、君の好きなように叶えるよ」
ヴォルフの言葉に、エリアスの胸が高鳴った。
あの叙任式の前、湖で改めてプロポーズされた時の約束だ。
一度目の、最悪だった結婚式の記憶を塗り替える、愛の誓い。
「……はい。形式については、ヴォルフと相談して決めたいです。でも……」
エリアスは少し照れくさそうに、けれど迷いのない瞳でヴォルフを見つめた。
「私が身につけるものに関しては……いつも通り、ヴォルフに選んでいただきたいです。頭の先から、爪の先まで……貴方の好きにしてください」
かつては「自分で選べない」と卑下していたこともあったが、今は違う。
ヴォルフに選んでもらい、ヴォルフ好みに仕立て上げられることこそが、エリアスにとっての至上の喜びであり、愛されている証なのだ。
「……ああ、喜んで」
ヴォルフは嬉しそうに微笑み、深く頷いた。
「君を世界で一番美しく飾ってみせるよ」
エリアスは、目の前の愛する夫を見つめながら、静かに感動を噛み締めていた。
一度は死を覚悟し、生死の境を彷徨った。
二度と会えないかもしれないという絶望の淵から、ヴォルフの呼び声で戻ってきたのだ。
その試練を乗り越え、今こうして生きて、愛する人とテーブルを囲んでいる。
だからこそ、これから迎える結婚式の日は、単なる儀式のやり直しではない。
二人が生きてここにいるという奇跡と、これからの人生を共に歩むという誓いを立てる、何よりも特別な一日になるだろう。
「……はい。とても、楽しみです」
エリアスは心からの笑顔で頷いた。
改めて愛する人と迎えるその日が、楽しみで仕方がない。
温かい紅茶の湯気の向こうで、二人の未来は希望に満ちて輝いていた。
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