銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

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第4章

魂の安堵

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「ガハッ……!?」

鈍い音と共に、エリアスの腕を締め上げていた男の身体が宙を舞い、数メートル先の地面にボロ雑巾のように叩きつけられた。

エリアスが呆然とその光景を見つめていると、ふいに背後から、強い力で抱きしめられた。

「……ッ」

驚きで身体が強張るはずだった。
けれど、エリアスは抵抗しなかった。できなかったのだ。
自分の身体をすっぽりと包み込んだその腕の逞しさ。
背中に伝わる、熱いほどの体温。
そして何より、鼻腔をくすぐる懐かしく、愛おしい香り。

「あ……」

エリアスの目から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。
悲しいのか、嬉しいのか、それとも驚きなのか。自分でもどういう感情の涙なのか分からなかった。ただ、魂が震えていた。

「…………ヴォルフ…………?」

エリアスは、震える唇でその名を呼んだ。
もう二度と呼ぶことはないと思っていた、最愛の人の名前。
すると、耳元で優しく、聞き慣れた低い声が響いた。

「……エリアス」

幻聴ではない。確かな振動を伴った、本物のヴォルフの声だ。
ヴォルフはエリアスを後ろから強く抱きしめたまま、耳元に唇を寄せた。

「間に合ってよかった……。怪我はないか? 怖かっただろう?」

ヴォルフの手が、先ほどまで男に掴まれていたエリアスの手首を、壊れ物を扱うようにそっと撫でた。

「痛くないか?」

エリアスは返事をすることができず、ただ声を上げて泣いてしまった。

「う、あぁ……っ、ううぅ……」

戸惑いよりも、なぜここにいるのかという混乱よりも、先ほどまでの死を覚悟した恐怖や絶望よりも。
何よりも今、エリアスの心を支配しているのは、怖いくらいの「安堵」だった。

ずっと、片時も忘れず、本能が求め続けていた番。
その半身に抱きしめられて、張り詰めていた緊張の糸が完全に切れたのだ。

(ああ、ヴォルフだ……)

エリアスの身体は、抗えないほどの安心感に包まれ、急速に脱力していく。
足の力が抜け、立っていられなくなる。

「エリアス!?」

ヴォルフが慌てて支えてくれるのを感じながら、エリアスの視界は暗く狭まっていった。

「エリアス、しっかりしろ!エリアス!」

ヴォルフが焦ったように名前を呼ぶ声が、水底に沈むように遠く聞こえる。
意識が薄れていく中で、エリアスはただぼんやりと思った。

(……嬉しい)

もう二度と呼ばれることはないと思っていた、あの愛しい声で、自分の名前を呼んでくれている。

これが、もし夢でもいい。
それだけで十分だと、エリアスの本能が幸福に満たされ、彼はそのまま深い闇へと意識を手放した。
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