【完結】銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

文字の大きさ
211 / 251
第4章

夢現の境界で


エリアスが次に目を覚ました時、視界に入ってきたのは見慣れた天井だった。
ジョセヌの家の、エリアスに与えられた小さな部屋だ。

「……あ」

エリアスは、ぼんやりとその天井のシミを見つめ、静かに納得した。

先ほどのヴォルフとの再会は、夢だったのだ。
番を求める本能が限界に達し、毎晩のように繰り返される辛く長い夜の時間に、ついに都合の良い幻覚を見せたのだろう。

「……ふふ」

エリアスは乾いた唇で、力なく笑ってしまった。
夢の中でだけでも、ヴォルフに名前を呼んでもらえて、抱きしめてもらえて、触れてもらえた。
あの体温も、匂いも、本当にそこにあるかのようにリアルで……すごく、嬉しかった。

そう思って笑ったはずなのに、次の瞬間には、エリアスの顔はぐしゃりと歪み、目尻から涙が伝い落ちた。

「……だめじゃないか」

彼のためを想って、身を引いて出てきたのに。
夢の中でさえ、彼に抱きしめられ、名前を呼ばれただけで安堵してしまい、身を委ねてしまった。
本当なら、夢の中でくらい、彼を拒絶してあげなければいけなかったのに。

「……もし」

絶対にそんなことはないだろうが、もし本当に彼がエリアスを追いかけてきてくれて、見つけてくれたとしたら。
その時は、そうしよう。
心を鬼にして、彼を突き放さなければならない。絶対に、そうしないといけない……。

そう固く決意し、天井を見つめ続けていた視線を、ふと横にずらして身体を動かした瞬間だった。

「――えっ!?」

エリアスは短い悲鳴を上げ、ビクリとベッドの上で飛び起きた。
信じられないものが、そこにあったからだ。
ベッドのすぐ横に置かれた粗末な椅子に、大きな身体を窮屈そうに折り畳み、ベッドの縁に伏せるようにして眠っている男。

銀色の髪、広い背中。
ヴォルフ・ハルトマンだった。

「…………」

ヴォルフは深く眠ったままだ。
エリアスは心臓が口から飛び出しそうなほど激しく打つのを感じながら、信じられないという顔で、眠っているヴォルフを見つめた。

幻覚か?まだ夢の続きなのか?
飛び起きてできた距離を、恐る恐る、少しずつ詰める。
震える手を伸ばし、ベッドに散らばる銀色の髪にそっと触れた。

「っ……」

サラサラとした感触。
鼻をくすぐる、愛しい香り。
そして、指先に伝わる確かな体温。
すべてが、残酷なほどに「本物」だった。

手が震えて止まらない。
ジョセヌの家の、この質素で小さな部屋に、伯爵家当主であり大富豪であるヴォルフがいるという強烈な違和感。

何よりも、目覚めたエリアスは先ほどの救出劇を「都合の良い夢」だと思い込み、自分の中で処理してしまっていた。
それなのに、現実が目の前に鎮座している。

何もかも受け入れることができず、思考が追いつかない。
エリアスはただ混乱し、ガタガタと震えながら、すぐそばで安らかな寝息を立てるヴォルフの寝顔を、瞬きも忘れて見つめ続けた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。