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第4章
再生の予兆
しおりを挟むそうして屋敷に戻ってから、エリアスの身体が本当の意味で回復し、自由に動けるようになるまでには丸一日を要した。
その間も、ヴォルフは甲斐甲斐しくエリアスの世話を引き受け、着替えから食事の介助まで全てをやってくれた。
ただ、これだけはとエリアスが頑として譲らず、あのヒート期間にやられたような「下の世話」だけはさせなかった。
(……本当に、シラフであれをまたヴォルフの手でさせられたら、今度こそ羞恥心で死んでしまう……!)
エリアスが必死に抵抗すると、ヴォルフも前夜に理性を失ってエリアスをめちゃくちゃにしてしまった負い目があるのか、今回は素直に引き下がってくれたので、エリアスは心底ほっとした。
そして、無事に屋敷に戻ってから一週間が経った頃。
エリアスの体力は完全に回復し、普段通りの生活が戻ってきた。ヴォルフもエリアスの元気な姿を見て安堵し、山積みになっていた仕事を片付けるために本格的に業務へ復帰していた。
そんなある日、エリアスの身体に奇妙な変化が現れた。
なんだか身体が熱っぽく、芯からとろりとした気怠さが抜けない。
最初は、旅の疲れが出たのか、あるいは風邪でも引いたのかと思った。
けれど、喉の痛みや咳といった症状は全くない。ただ、身体の奥が燻るように熱いのだ。
「……まさか」
ベッドに腰掛け、エリアスはハッとして胸を押さえた。
これは、もしかしたら……ヒートの予兆かもしれない。
もうすぐ、前回「来るはずだったのに来なかった」時期から、さらに三ヶ月が経とうとしている。
あの時は、ヴォルフに「ヒート期間が来なくても、貴方の妻のままでいたい」と宣言し、ヴォルフもそれを受け入れてくれた。
けれど、実際にこうして身体にヒートの予兆らしきものが現れたことに、エリアスの心は大きくざわついた。
失われたと思っていた機能が、再生しようとしているのだろうか。
もしかして、理性を失ったヴォルフに、もう一度愛咬の儀のように頸を思い切り噛まれたことがきっかけになったのだろうか。
生命維持を優先した身体が停止していた生殖機能を、番による刺激が再開させようとしているのかもしれない。
まだ憶測ではあるがそう思い、まだ熱を持っている傷跡を後ろ手にそっと撫でる。
(これが……ただの勘違いでありませんように)
エリアスは祈るような気持ちで、その夜を待った。
ヴォルフが仕事を終えて帰宅し、就寝のために寝室に来たタイミングで、意を決して切り出した。
「……お帰りなさい、ヴォルフ」
「ただいま、エリアス」
いつものように、ヴォルフが近づいてきて優しくキスをしてくれる。
唇が重なり、舌が触れ合う。
その瞬間、ヴォルフの唾液がいつもよりも濃厚で、痺れるほど甘く感じた。
脳がとろけるような感覚に、エリアスは熱に浮かされたようにヴォルフの服を掴んだ。
「ヴォルフ……私、ヒートの予兆が来てる、かもしれません……」
エリアスは潤んだ瞳で見上げた。
「身体が、熱くて……貴方の匂いが、たまらなくて……」
「……!」
ヴォルフはハッとして表情を引き締め、すぐにエリアスの額や首筋に触れた。
「……確かに、熱いな。平熱より明らかに高い」
ヴォルフの声に、緊張と歓喜が滲む。
「大丈夫か?辛くはないか?いつもなら、この予兆が来てからどのくらいでヒート期間に入る?」
エリアスは息を弾ませながら答えた。
「その時の体調にも、よりますが……早くて次の日……遅くても、三日後くらいです……」
「そうか」
ヴォルフはぐったりとしたエリアスの身体を抱き寄せ、愛おしそうに背中を撫でた。
「分かった。では、仕事をそれに合わせて急遽調整するよ。……必ず、そばにいる」
ヴォルフは力強く約束した。
「君の身体が再生しようとしている大事な時だ。何があっても、君を優先する」
そう言い、ヴォルフは優しくエリアスをベッドに寝かせ、掛け布団を肩までかけてくれた。
大きな手が、エリアスの髪を優しく梳く。
「まずは、今夜はゆっくり眠るんだ。……このまま、君が眠るまでそばにいる。離れないよ、可愛いエリアス」
耳元で囁かれる甘い声と、大好きな匂い。
「……はい、ヴォルフ……」
エリアスは愛しい人に見守られている安心感に包まれ、ヒート特有の熱に浮かされたまま、抵抗することなく深い眠りへと落ちていった。
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