68 / 112
第3章
純白の死装束
しおりを挟むそしてついに、結婚式当日の日が来た。
この半月間、毎夜毎夜、ルシエルは同じようにユリウスの身体を貪り続けた。
ヒートが来ず、オメガとしての反応を一切見せない乾いた身体を、無理やりこじ開けられ、貪られ続けた日々。
そこにあったのは、激痛と不快感、そして終わりのない屈辱だけだった。
だが、今日ついにその地獄から「解放」される日が来た。
暴力的なまでの情事によって、服の下の全身は青紫色の痣だらけで、顔色も幽鬼のように蒼白だったが、ユリウスの碧眼だけは、不思議なほど澄み渡っていた。
部屋に針子の女性たちが入って来て、結婚式の支度が始まる。
肌に残る痛々しい痕跡を隠すように、丁寧に下着とシャツを重ね、最後にオーダーメイドの純白のスーツに袖を通す。
鏡の前に立ち、その完成された姿を見た。
「……美しい」
自分の姿を見て、初めてそう思った。
愛する人とは別の男に穢され、番にされて。毎夜暴力的に犯され続けた、薄汚れた愛玩具のオメガ。
鏡に映る中身はそんな醜悪な存在だ。
だが、今ユリウスの目には、この衣装が「婚礼衣装」ではなく、これから愛する人と、彼が守りたいものたちの為に命を捧げるための「死装束」として映っていた。
最期に纏う死装束にしては、あまりにも上等で、美しいと。そう思ったのだ。
「参りましょう、ユリウス様」
使用人に呼ばれ、ユリウスは静かに部屋を出た。
十年もの間、自由を奪われ、心を殺して過ごしたこの鳥籠のような部屋。
もう二度と、ここに戻ることはない。
これから、ユリウスは死ぬのだから。
結婚式の会場となる大聖堂の周りには、一目見ようと多くの国民たちが集まり、会場の中には着飾った貴族たちが列席していた。
晒し者のように視線を集めながら、ユリウスは回廊を歩き、先についている新郎――ルシエルの待つ祭壇へと連れて行かれた。
ユリウス自身は、自分が無様な姿を晒しているという認識だった。
「あれがアルファの皮を被っていたオメガか」「身体で王をたぶらかした売女だ」と、嘲笑と軽蔑の視線を浴びているのだと思い込み、視線を足元に落としていた。
だが、現実は違った。
国民たちも、列席した貴族たちも、純白の衣装に包まれて現れたユリウスを見た瞬間、言葉を失っていたのだ。
透き通るような白い肌、憂いを帯びた伏し目がちな瞳、そして儚くも凛とした佇まい。
そのあまりの美しさと神々しさに、ここ十年間ものあいだユリウスを貶めてきた「淫乱」「裏切り者」といった噂を信じて口汚く罵ろうとしていた者たちさえ、喉の奥で声を詰まらせた。
悪意ある言葉は一つも出ず、ただ圧倒的な「美」の前に、会場は静まり返っていた。
だが、この十年の屈辱によって他人の視線に恐怖心を抱いているユリウスには、その静寂の意味が分からなかった。
自分がどんな目で見られているかを正確に認識することができないまま、ユリウスは連れられるがままに、自身の処刑台となる大きな会場へと足を踏み入れた。
2
あなたにおすすめの小説
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む
中屋沙鳥
BL
フロレル・ド・ショコラ公爵令息は希少なオメガとしてシュクレ王国第一王子でアルファのシャルルの婚約者として望まれる。しかしシャルルは、王立学園の第三学年に転入してきた子爵令息ルネに夢中になってしまう。婚約者が恋に落ちる瞬間を見てしまったフロレル。そしていころには仲の良かった義弟アントワーヌにも素っ気ない態度をされるようになる。沈んでいくフロレルはどうなっていくのか……/誰が一番腹黒い?/テンプレですのでご了承ください/タグは増えるかもしれません/ムーンライト様にも投稿しております/2025.12.7完結しました。番外編をゆるりと投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる