それではまた、どこかでお会いしましょう。

スイ

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 あれから一度も家に帰らず病院にいます。ですが元いた病棟は離れていて、今は治験を行う為にまた違う病棟へと移動してきました。とても広い個室で、応接用のソファーとテーブルまであります。でも、部屋の位置の関係から京都の山々は見えなくなってしまいました。大部屋の方が見えるらしいのでそっちに移動できないか、ちょっと勇気を出して聞いてみましたが、ダメだそうです。

 その間、ずっとこの文章を書いていました。

 読めば五分や十分も掛からない文を書くのに丸一日、下手をすれば二日三日と掛かります。とても上手にかけたと思っても、一晩おいたら文法はめちゃくちゃで誤字脱字だらけで、そんな事の繰り返しです。

 本当は、もっともっと色んな事を書かないといけないのかもしれません。高校時代に仲良くしてくれた香織やユズ、仕事を助けてくれた相原さんや竹本さん、ニューバードのクロワッサンや寺町通りのインドカレー、湊斗と一緒に行った色んな場所、例えば須磨の水族館や天橋立、ルミナリエやてんしばのクリスマスマーケット。他にも数え切れないほどの楽しい思い出、それに、あまり思い出したくない辛かった思い出や、嫌な自分自身とかを。

 きっと、私という人間の心の内まで知り尽くした誰かがこの話を読んだら、綺麗事ばかり並べやがって、なんて思うかもしれません。書き始めた頃は、そういう心の動きを書かないのがとても不誠実に思えて、その時々の感情を書いていました。

 だけどそういうのは、全部では無いですがあっちこっち消してしまいました。自分がどれだけ取るに足らない人間か、だなんて私として生きていれば嫌でも分かりますから。

 書きながら、ずっと考えていました。私の人生をあなたに教えて、一体どうしたいのだろうと。文字を書いている間、私の頭の端っこでずっと地図が作られているような感覚がありました。最初は真っ黒だった地図が、歩いたところに色がつき、やがて一つの大きな世界になる感覚です。今、それを見て、私はようやくこの長ったらしい物語に一つだけ意味を見つけました。長い冒険の最後で、ラスボスを倒した先にあるもう一つの冒険を見つけた気分です。

 私は、あなたの心の支えになりたいのです。

 もう少し砕けて言えば、何でも言える友人に。

 私自身が私の友人、なんてとても寂しいことですね。でもふと冷静に考えれば、私からみたあなたは確かに私ですが、あなたにとって私はあなたでは無いと思うのです。私だった頃の記憶は全部忘れてしまったあなたは、ここに書かれている事は知らない誰かのお話に感じていると思いますから。

 それで構いませんし、それでも、この物語の端々にある気持ちの揺れや、書かずに済ませた幕間の感情を、あなたは感じ取ってくれていると、信じています。

 そういう嫌な自分ととも、私がいることも忘れないでください。何か言いたいことがあれば、私にまず吐き出してから、違う誰かに伝えてみてください。願わくば、私を反面教師に大人になってください。そして、私を形作ってくれた、沢山の人やゲーム、影響を与えてくれた全てを、たまに思い出してください。

 私は今、未来に二人の私自身を思い描いています。この手紙を読んだ私と読まなかった私です。それで、もし近い未来にタイムマシンが発明されたら、と想像します。読まなかった私は、昔の私をどうにか修正しようとドラえもんを送り届けるかもしれません。出来るだけ良い乗り物に乗って、今いる未来に来なさい、と。

 だけど読んだ方の私には、そうしないという選択をして貰いたいのです。私が歩いてきた曲がりくねった道、次々移り変わる車窓、車の中に満ちていたワクワクやドキドキ、時に避けられない悲しみや失望まで全てを、大事に思ってほしいのです。 

 :::

 最後に、一つだけ。

 もし無事に退院出来たら、ゼルダの新作を是非買ってください。私はまだできていません。ネタバレも怖いので、プレイ動画も見ていません。だけどきっと、面白いと思います。 

 それではまた、どこかでお会いしましょう。
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