婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス

文字の大きさ
4 / 6

襲撃

しおりを挟む
 騎士団では団長が一番偉いけれど、国で見るとその上には大臣がいて頂点には国王陛下がいらっしゃる。今の大臣はマルテル伯爵だ。彼は、控えめに言っても無能で出しゃばりだ。残念ながら同年代で彼の代わりに大臣となれるものがおらず彼が大臣をつづけている。

 公女殿下の身代わりを立てる話は公女殿下から出たため、大臣はそれに対抗心を燃やしたらしい。身代わりを乗せた馬車を街道を行かせ、公女殿下は裏道で行くというものだ。道幅も広く馬車の移動もスムースな街道に比べ、裏道は道幅も狭く森の中を抜けるため襲撃者たちが隠れやすい。

 その案には現場サイドから反発があった。しかし、大臣レベルでは明確な反対がでず、結局押し切られてしまった。さらに、騎士団長は目立つから、という理由で囮部隊に随行することになり、公女殿下の護衛は更に弱体化させられた。

 そんな有様だから団長はあちらこちら走り回っていた。なので、圧倒的団長不足。私はモヤモヤしたまま当日を迎えることになってしまった。
 
◆◆◆

 当日、神殿に向かう道は雨だった。それでも往路は特に問題なく、そして神殿での儀式も滞りなく済んだ。神殿の前にはどこから聞きつけたのか少なからぬ人々が集まり、公女(ハッセ)が彼らに向かい手をふると大きな歓声があがった。
 公女殿下ご本人は『悪役令嬢だからね、庶民に人気はないと思うわ』とおっしゃっていた。悪役令嬢がなにかわからないけど、ご自身が人気がないと思われているのだろう。
 実際は、うとまれても王子を支え、魔女に惑わされた王子に糾弾されても国のことを思い一歩も引かなかった聖女、というお話が広まっているのだ。劇も作られようとしているそうだ。まぁこれに顔をしかめる重鎮(おっさん)は少なくなかったが。

 帰路はハッセの乗る馬車が街道を、私達の乗る馬車は裏道を通っていた。森の奥深く、街道から裏道が一番遠い辺りに差し掛かったところに、行きにはなかった丸太が道を塞いでいた。当然馬車も馬も止まる。そこを襲撃された。
 
「降りてはだめです」
 私が公女様ともう一人の侍女を馬車に押しとどめ周りの様子をうかがう。公女側の扉の内側に盾となるように板を立てる。
誰かが救援を求める鳥を数羽解き放ったようだ。笛も吹かれている。大きな雷のような音もしたから花火を打ち上げたのだろう。これで援軍が来てくれると良いのだが。

 離れたところで戦っていた音がだんだん馬車に近寄ってくる。公女様側の扉は内側から閂されているので開けられない。来るとしたら前か後ろか私の方だ。公女殿下側の扉に何かたたきつけるような音が何度かしたがそれ以上のことはなかった。

 今度は私の方だった。扉を開け中に乗り込もうとする男の首に剣を突き立てる。まずは一人。焦げ臭いにおいがするのは馬車に火をつけようとしているのか。先ほどまでの雨はやんでいる様だ。私はもう一人の侍女にとびらを内側から閂するよう指示して、確認のため外に出た。そこを狙われたが、かよわい侍女だと侮っていたのか雑な攻撃は簡単にかわせる。体制を崩した男の首を刈る。襲撃者は護衛の倍は居るか。

 侍女の服装だから目立つ。なので、襲撃者は私に集まってきた。人質にでもしようというのか。それは甘い。何しろこの中で、副団長と同じくらい私は強いんだ。何も考えずに突っ込んできた襲撃者をかわしついでに腰に手をやるとホックを外す。はらりと脱げるスカートを襲撃者にかぶせその視界を奪い後ろから剣を突き立てる。これで二人。それに動きやすくなった。その間に向かってきたもう一人は少し慎重になったようだ。じりじりと距離を詰めてくる。
 しかし、私の他にも護衛の騎士は居るんだがな。私がスカートを脱いだのに気をとられた襲撃者がいたようで、何人かの悲鳴が聞こえた。

 私が思ったより強いからか、悲鳴を聞いたからか集まっていた襲撃者がそちらに向かった。私は馬車を背に周りを見回す。じりじりと時間が過ぎていく。援軍はまだか。来てくれるか。団長なら来てくれるだろう。

 自分ではそんな気はなかったが気を抜いていたのだろう。後ろから羽交い絞めにされ首筋に短剣を向けられた。

「剣を捨てろ。扉を開けるように言え」

 女の声? 聞いたことがあるような。剣を手放したが扉を開けろとは言えない。

「早くしろ、死にたいのか」

 焦ったような彼女が髪を掴むとずるっとかつらが脱げる。

「えっ、マリー?」

 戸惑った声と共に短剣がぶれる。その隙を見逃さずに腕をつかみ短剣を取り上げ地面にたたきつける。そのまま奪った短剣を肩に突き立てた。そのときようやく襲撃者の顔を見た。

「えっ、シンシア?」

 このスキにと襲ってきた男の剣を短剣で受ける。シンシアは襲ってくる気配はない。その時、大きな声が聞こえた。

「マリーゴールド―、無事かぁー」

 いや、団長、そこは公女殿下の心配をすべきでしょう。こちらに向かってくる団長の姿。その姿は鬼神のようで襲撃者を怯えさせるのには十分だった。隙を見せた男に短剣を突き立てると簡単に倒れた。

「現状を報告!」

「公女殿下は無事。こちら側の襲撃者は少なくとも10人撃退。反対側は副団長が指示していると思われます」

「わかったぁ、よく頑張ったあとはまかせろ」

 そう言いながら二人で向かってきた襲撃者の片方を倒して次を相手している。こちらも負けていられない。半ばやけくそになってこちらに向かってくる敵をいなし叩きのめす。団長の方に目をやるとすでに足元に三人倒れている。さすがだ。しかも、自分も敵と対峙しながら他の団員の状況をみて的確に指示を飛ばしている。

 団長には遅れたが次々と支援が集まってくる。形成が不利と見て襲撃者たちは撤退しようとしたが指示役らしい男は既に倒され統率がとれないままなので次々と倒されていく。辛くも逃げだせた者は少数。その少数も団員が追っている。

「シンシア……」
 彼女の元に戻るとまだ息があった。顔色からすると毒が塗ってあったのか。

「マリーさま、ようやく名前を呼んでもらえた」
「こんな時に……、解毒剤はもってないのか」
「左の内ポケットに。大丈夫……ちゃんとした解毒剤ですよ団長さん。早くマリーさまに飲ませて」

 いつの間にか団長がそばにいた。私が彼女の懐から取り出した薬を確認すると無理矢理私にのませた。

「むぐぅ、ヒドイです。それにこれはシンシアに……」
「もう、おそいよ」
 見るとシンシアはもう息をしていなかった。その顔はなぜか穏やかだった。

◆◆◆

 襲撃者の身元は簡単に割れた。側妃の実家の伯爵家だった。伯爵家だけではこれだけの準備ができないはずだがそれ以上はたどれなかった。側妃は毒をあおり病死と発表された。元王太子は廃嫡、断種のうえ幽閉となった。

 なので王位継承の順位が変わる。公女殿下が王太子に。弟君が次の王維継承権を。兄君はもともと王位継承権を返上しているためそのまま公爵家を継ぐことになる。あとは国王陛下のいとこにあたる公爵家の令息が継承権を持つことになった。

 シンシアの両親のエリエール男爵夫妻は殺されて発見された。二人の顔を見るとシンシアとは似ていない。どのような経緯でシンシアが娘になったのかはこれから調査されるだろう。何にせよ、無事に王太子殿下を守りきれたのはよかった。私はようやく休暇をもらえた。

 そして、公女殿下を裏道を通そうとした大臣は失脚した。さすがに擁護する貴族はほとんどいなかった。中でも、今回のことで少しきな臭い動きをしていた侯爵閣下が急先鋒となり糾弾したらしい。元王太子の断種を主張したのも彼だった。そこまですると逆に怪しいのだけど。

 久しぶりで実家に戻ると、そこには妙にニコニコしていて気持ち悪い母上と……マダムアンソニーが居た。
「ただいま戻りました。ところでこちらは?」
「あら、あなたのドレスを作ってもらうからでしょ」

 ドレス?なんの?

「あらら、誰も言っていないの? あなた公女殿下、じゃなくて、王太子殿下をお守りしたから褒賞されるの」
「へーそうなんだ」
「あぁもう、それでドレスを作るのよ」
「えーなにそれ」

 今まで黙っていたマダムアンソニーが後ろから声を掛ける。

「恐れながら申し上げます。陛下の御前に出るため、ちゃんとしたドレスを着る必要があるからと伺っています」
「あーー、そうか、そうだね」

「ほんと張り合いのない娘なんだから、はい、ちゃきちゃきやっちゃって。髪は今のままでいいわ。この間のドレスも素敵だったから今度も期待しているわよ。私の分もお願いね」

 まぁ、母上も私と同じく筋肉がついてるからなぁ。私と違って髪は長いけど。マダムアンソニーの服は似合うかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...