令嬢は狩人を目指す

みけねこ

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探しましょうフラグ回避方法

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 ハッと目を覚ます。目の前に飛び込んできたのはベッドの天蓋だと思われる物。少しだけ身体を起こしてみればあちこちキラキラと輝いた、豪華絢爛の部屋。おかしい、と頭を左右に触ればズキズキと痛みが走った。
 いやおかしくはない。そう、私はベッドに横たわる前に癇癪を起こして暴れた挙句、テーブルの脚で自分の足の小指を強打し痛みのあまりにもんどり打って足を滑らせ、床に頭を強打させた。
 そう、だから……気を失う前、資料やら何やらが積まれたデスクを前にしていた、というわけではないのだ。それは『今』の私ではない。
 鏡の前に移動して自分の姿を映す。気の強そうな顔にストレートな髪の色はレグホーン、瞳はターコイズ。とてもじゃないけれど日本人の見た目ではない。
「……いやこんなことってある?」
 頭を強打したことによって記憶が戻った、所謂『前世の』自分。普通の会社員だった私はひたすら仕事、仕事、仕事の毎日。家に帰るとろくにご飯を食べることもできず短い睡眠だけをとって、目が覚めれば栄養補助食品を食べてまた出社。そんな日々を過ごして、そして大量の仕事を前にして気を失った。それが前世の私の最期だった。死因はきっと『過労死』だ。
 でもなぜそれが前世だとわかるのかというと、今目の前に映る姿がもうそれを説明してくれる。
 今の私の名前はソフィア・エミーリア・フォルネウス。今ならわかるその名前。そう、社畜に変わり果てる前にやっていた恋愛シュミレーションゲームの登場人物とまったくの同姓同名だ。名前だけじゃなく、この容姿だって。
 考えたくはなかったけれど、どうやらゲームの世界に転生してしまったようで。
「だからって、こんなことってある? ソフィアと言ったら……悪役令嬢じゃない!」
 ゲームの登場人物にはヒロインはもちろん、攻略対象にそして……ストーリーを盛り上げるためにつくられた『悪役』が登場してくる。
 ソフィア・エミーリア・フォルネウス。ヒロインを嘲笑い虐めそして貶めようとした令嬢。ヒロインが出てくる前は攻略対象である王子の婚約者になり得た人物。ただしさっき言ったとおり、性格が悪すぎる。最終的には国に対し反乱を企て、それをヒロインたちに止められてしまい主犯格と見なされ――そして処刑された。
 物語を盛り上げるためとはいえ剣なんて持てない非力な女性を悪役に仕立てあげるだなんて。制作会社は一体令嬢になんの恨みがあったのか。
「って、ヤダヤダヤダ私このままじゃ処刑されちゃうの……?! 確かに頭を打つ前の私の性格はクソ悪だったわよ!」
 それこそメイドを虐めたり癇癪を起こして暴れるなんて日常茶飯事。両親は無関心を決め込み私を別棟に追いやる始末。次々とメイドをクビにしたものだから今の私を世話をしてくれる使用人は執事長たったひとりだけ。その執事長も食事を運んでくれるだけで身の回りのことはほとんど自分でするしかない。そんな状況にまで追い込んでしまったのは私自身で自業自得ではあるけれど!
 でも前世を思い出した私はそんなことやろうとは二度と思わないわけで。っていうかそうしないとこのままでは……ゲームの通りに進んでしまえばソフィアにとってはバッドエンドしかない。
「っていうか知ってる! 悪役令嬢に転生するとかそんな漫画見たことある! 社畜になる前に!」
 それこそ前世に不幸にも命を落としたことによって異世界に転生して、令嬢になったかと思えばその令嬢の言葉の前に「悪役」が付いてくるとか。バッドエンドにならないためにあれやこれや手を尽くすとか。でもまさか自分がそうなるだなんて夢にも思わなかった。
 頭を抱えて唸ることしかできないけれど、その頭もたんこぶができてしまっていて手で押さえれば色んな意味でズキズキと痛みが走る。今更「悪役」の部分をどうにかすることなんてできない。片足どころか両足突っ込んでしまっている。この家でいい子ちゃんに変身するには遅すぎたのだ。だからと言ってこのまま何もしなければ処刑が待っている。
「思い出すのよ、読んだ漫画の数々を……主人公たちはどうやって乗り越えた……?」
 前世の記憶とそしてゲームのストーリーを頭の中に入っている主人公たちはそれこそ孤軍奮闘のように頑張っていた。例えば悪役令嬢としての行いを払拭するような働き、例えばある意味ラスボスならではこそのチート級の能力。
「チート……はっ、もしかして魔法が使える……?!」
 この世界では魔法が存在する。私も悪役令嬢として何かしらのチートがあるかもしれないと、ソフィアとしての記憶を辿って昔……それはまだ可愛らしさが残っている遥か昔、読んだ本に書いてあったような気がするとあやふやな内容を思い返そうとした。けれど頭を強打して思い出した前世の記憶のほうが色濃く出てしまう。
「えぇーい物は試しよ! 『ファイアー』!」
 それっぽい言葉を叫んでみる。が、手のひらから火の玉が出ることもなければそもそも魔法が発動した痕跡もない。
「チートなんてないわよ! 普通! ただの性格の悪い女じゃない!」
 チートなんてなかった。ご都合主義なんてこの世界には存在していなかった。
「駄目よこのままじゃ……バッドエンド一直線。折角社畜から解放されたのにこの仕打ちってあんまりじゃない……!」
 どうにかどうにか、とひたすら部屋の中をぐるぐると回る。たったひとりしかいない別棟、関係の修復なんてまったくできないしチートすら使えない。ヒロインに会わなければなんとかなりそうだけれど、けれど十四歳にして既に社交界ではあらゆる噂が立っているそんな状態で本当に何も起こらずに済むのだろうか?
「あ、そうよ」
 ひとつだけ、たったひとつだけ思い立った。
 ドアの近くに置いてある通信機に手をかける。魔法で作られているこれは少し離れた場所にいる執事長へと繋がっている。用があるときこれで呼び出すのだ。淡い光が魔法の発動を示していた。
「お願いセバスチャン! 今から私が言う条件に当てはまる人を探して呼んできてほしいの!」
 今の私はそれにすべてを賭けるしかない。
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