令嬢は狩人を目指す

みけねこ

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エンドロールのその先

彼女は笑う

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 たくさんの野菜に先生がせっせと育てていた香辛料。それらをテーブルに並べてふむと考えてみる。何やら見覚えのある材料というか、これを見てパッと出てくるレシピは前世では誰もが知っている料理だ。
「みんなでカレーを作るっていうのもいいかもしれないわね」
 ポテトキャロットオニオンにその他の材料、そしてお肉。香辛料もあってまさにカレーの材料だ。しかも材料もたくさんあるし私達とシャルルとドミニク、セバスチャンで食べるには丁度いいかもしれない。
「庶民の食べ物ですわね?! わたくし作ってみたいです!」
「そうねぇ……」
 シャルルの包丁さばきはまだ不安が残るけれど、付きっきりで見ていればまだなんとかなるかしら。収穫してきた野菜を手に持って土で汚れながらも満面の笑みでそう告げるそんなシャルルに対し、逆に駄目だと言うのも気が引ける。ドミニクとセバスチャンにも手伝ってもらうかもしれないけれど、たまにはいいかもしれないと先生に提案してみた。
「いいと思いますよ? 外にテーブル並べて作りましょうか。大きいお鍋はケビンさんからお借りしましょう」
「いいわね」
 別にシチューでもよかったのだけれど、なんとこの度……お米が、収穫できたのだ。
 この世界はパンが主流で小麦粉がよく出回っていて、逆に米の存在が薄い。たまに貿易でちょっとの量が出回るだけで主流ではないため買う人もあまりいないのだ。けれどこの間市場に出掛けてその米の苗を発見してしまい、先生と試行錯誤を繰り返して何とか収穫することができた。
 最初に収穫できたときはふたり分のおにぎりを作った。梅干しもあればよかったのだけれど塩漬け文化も薄いし、そもそも梅があまりないからそのまま食べてみたのだけれど。それでも自分たちが育てたということもあって十分美味しかった。そんなお米に自分たちが育てた野菜を入れたカレーを掛ける、うん、考えただけでも美味しそう。
「シャルルが次に来るときに作りましょ」
「わかりましたわ!」
 せっせと畑仕事を手伝ってくれているけれどシャルルも令嬢のひとり。今は徐々に社交界にも顔を出すようになったようで、頻繁に来ることはなくなったけれどそれでもマメに顔を出している。次に来るのも明後日だ。
 明後日までに傷薬をそこそこに作っていたほうがいいかも、と思いながらその日使うためのお肉を狩りに行くことも考えつつ野菜を引っこ抜いた。
「お姉様、来ましたわ!」
「今日もよろしくお願いします」
「いらっしゃい」
 そしてやってきたその日、ふたりはいつものように軽装でやってきた。ただ今回は野菜の収穫より料理のほうがメインのため、ドミニクも自分が野営などで使っているであろう調理器具を持ってきてくれたようだ。あとはセバスチャンが来れば始めてよさそうね、と先生とテーブルを外に運び出していたんだけども。
「やーやーセイファーとエリーちゃん! 美味しいのを作るんだってね!」
 なぜか魔法省のエースがローブ姿ではない身軽な格好で手ぶらでやってきた。一体どこから聞きつけたのか。
「すみません、友人であるウィルも呼びたくなって……」
「あら先生が呼んだの? それなら構わないわ」
 飛び入り参加ならまだしも先生が呼んだのであれば別だ。どうやら魔物討伐から丁度戻ってきた頃で、そしたら息抜きにと先生が声を掛けたらしい。手ぶら、というところが気になるけれど先生が友人を呼びたいという気持ちを優先する。まぁ彼の料理の腕も中々のものだから、ある意味手ぶらで正解なのかもしれないけれど。
 付かなければならない人がひとり増えてしまったけれど仕方がないわ、と早速ウィルに手伝ってもらおうかと思っていたら。
「美味い飯が食えるんだってな!」
 なぜかディランもやってきた。しかも少し後ろに視線を向ければルクハルトの姿まである。
「ディラン様……ルクハルトも……」
「親父に引っ張られて……」
「そこの魔術師が楽しげにスキップしているところを見てな。聞いてみればここで飯食えるっつったから俺らも来たってわけよ」
 いやなぜウィルから聞いたからって自分たちも行こうという発想になったのか。ただオロバス親子はウィルと違って手土産を持ってきたようで。美味しいフルーツやカレーの材料としても使えそうな野菜、ちょっと雑な処理だけれど食べれそうな魔物のお肉。ふと視線を向けてみれば何かの柄のようなものも見えた。
 そしたら力仕事、があるかどうかはわからないけれど。力仕事のときはふたりに手伝ってもらおうかしらと一応迎え入れる。手土産を持ってきた客人を追い返すのも気が引いてしまうし。
 ちょっと多めに野菜を収穫したほうがいいかもしれないとオロバス親子に頼んでいると、またもやドアのベルがカランと鳴った。
「邪魔するぞ」
「こんにちは、エリーさん」
「……ああもう、突っ込むのも疲れたわ」
 目の前にいるのはそれなりの軽装、ではあるけれどやっぱりどこか上質さが伺える服を着ているこの国の王子とそして聖女だ。きっとディランね、という予想は当たっていて「ディランが」と言い始めた王子に笑顔で手を突きつける。皆まで言うな。
 王子の言い分としては聖女として日々精進しているアリスの息抜きにでもなれば、という思いで連れてきたらしい。確かに彼女は元は庶民の出、たまには昔を思い出して心を和らげることがあってもいいのかもしれない。
「……随分な人数になってしまったわね」
「ええ……鍋は大きめだったので大丈夫とは思いますが、保存用のお肉は使ってしまうかもしれませんね」
「また明日も狩りね」
 ふぅと息を吐き出していると丁度セバスチャンもやってきて、賑やかな現状に一度目を丸めてそしてすぐに笑顔を浮かべた。流石はセバスチャン、どんな状況になろうとも決して感情を乱すことはない。
 折角来てくれたけれどタダ飯を食べさせるつもりはない。大切に大切に育てた野菜に米に香辛料なのだ、美味しく食べてくれるのはいいけれど、ただ料理が出てくるのを待っているだけというのも腹が立つ。貴族にとっては普通のことだけれどここは庶民階層、そして私と先生は庶民なのだから庶民の習わしに従ってもらおう。
「さぁみんな、手伝ってもらうわよ?」
 笑顔でにっこりと告げる。王子は目を丸めていたけれど意外にもそれ以外の人達はすんなり私の言葉を受け入れた。騎士たちは持っていた荷物から色々と取り出しせっせと準備を始める。野菜を洗うだけでもよかったんだけれど、そう告げる前に彼らは自然と三人固まって調理をし始めた。
「ず、随分手馴れているのね……」
「野営で慣れていますから」
「野営経験があるからな!」
「野営で」
「ああわかった野営ね野営。そちらはお願いするわ」
 ということは手に持っていたものは野営で使う道具だったのか。思いもよらぬ助っ人にそっちは完全に任せるとして、問題はこっちねと若干顔を引き攣らせる。
「お願いしますわね、聖女様」
「私のことはアリスと呼んでください」
「よろしくねーアリスちゃんとシャルルちゃん」
 問題はこっちだわ。シャルルとウィルの腕前はもうわかっている、けれどアリスはどうなのだろうか。ああでも庶民の出だし母親とふたり暮らしという設定だったからきっと家の手伝いでもしていたのではないかしら。
 先生とセバスチャンは野営部隊とは別に色々と準備をしてくれているし、王子は覚束ない手つきでそんな二人の手伝いをしている。この三人を見るのは私だけねと気合いを入れつつまだ始めてもいないのに和気藹々としている三人の元へ向かう。
「シャルルとウィルさん、私の言う通りに切ってちょうだいね?」
「もちろんですわ、頑張ります!」
「エリーちゃん、魔法使ったら駄目かい?」
「駄目よ。アリスさんは皮を剥くのを手伝ってもらっていいかしら?」
「は、はい!」
 ちょっと返事が不穏げだったけれど、あまり慣れない環境に緊張しているだけかと思いポテトと包丁を手渡す。とてもじゃないけれどこの二人に野菜の皮剥きなんて恐ろしくて任せられない。
 皮を剥き終えるまでシャルルとウィルにはオニオンの皮を剥いてもらって、その間私は早速洗ってもらっていたポテトを手に取ってシュルシュルと剥いていく。ここに来てからもうすっかり慣れてしまった皮剥きに、一個剥き終えてそれを隣にいるシャルルに手渡せば「早いですわ!」って喜ばれたけれどこれは普通なのよ、シャルル。普通なら皮剥き一個に一時間も掛からないんだからねと過去のシャルルを思い出しつつ次に手を伸ばしているところ、事件は起きた。
「アリスー?!」
 随分静かね、と視線を向けてよかったと思う。アリスの包丁を握っている手がプルプルと震えていて剥かれていた皮にはたんまりとポテトがついている。このまま続けてるとポテトは一口サイズになってしまう。
「ま、待ってアリス。アリス、お母様の手伝いとかしなかったの……?」
「ご、ごめんなさいエリーさん……私、料理下手で」
 そういえばヒロインにはドジっ子の設定もあったのを忘れていた。まさかドジっ子がこんなところで発動するだなんて誰が予想できただろうか。
「アリス、怪我はしないでくれ」
「大丈夫ですエリオット。指を切ったら癒やしの力を使いますから!」
 一体どこで聖女の力を無駄遣いしようとしているのか。王子もハラハラとしているけれど一番近くにいる私が王子よりもハラハラする。
「や、焼けばいいんですよね?」
「皮が付いたまま丸ごと焼かないでちょうだい……!」
 火を通せばオッケーの人間だった。全然よくない何もよくない。ということは私は三人の面倒を見なければならないことになってしまう。これはつらい。そう思っている隣で野営部隊が既に火を付けていてオニオンを炒めている。なんて手早いの、こっちはまだ皮を剥いている段階でオニオンを任せた二人はまだ切ってすらいないのにもう目をやられて泣いてしまっているし。
「ドミニク、ドミニク! ちょっとこっちを手伝ってもらえる……?!」
「わかりました」
 向こうはオロバス親子二人っきりになってしまうけれど親子水入らずでなんとかなるだろう。それよりも即戦力としてドミニクを呼んでせめてシャルルの面倒を見てほしい。
 そうして料理下手三人によって私の体力気力共にごっそりと減らされ、炒める頃にはもうクタクタだった。ドミニクも付いてくれていることだし焦がすことはないはず、と思いつつ少しだけ休憩する。すると今度はそこで何かが私の手に触れた。振り向くと見慣れている白いもの。
「あらブラン、匂いにつられてやってきたの?」
 森に住んでいる現金な白狼だ。少し前まで姿を見せないと思っていたら、いつの間にか美しい奥さんに可愛らしい子どもという家庭を築いていた。ブランの後ろには顔の整った美しい白狼に、足元には小さな白狼。一家でやってきたのと苦笑しつつお肉を取りに行く。ブランの元に戻れば白いフサフサの尻尾をブンブンと大きく左右に振っていた。
「独り占めしないでちゃんと奥さんと子どもにも食べさせるのよ?」
 肉を差し出せば器用に口に加えて二匹の元へ戻っていく。最初に子どもが食べてその次に奥さん、最後にブランが食べていた。現金な白狼だけれどこういうところはしっかりするようになったのね、とまるで我が子を見守る親の心境になってしまった。
 そうしていると辺りはいい香りが漂い始めた。シャルルたちのお鍋は少し焦げてしまったようだけれどそこまで気にするほどでもない。ありがとうドミニク、と心の中で合掌して三人の元へ戻る。野営部隊のところには先生が持ってきた香辛料が投入されそれらしい香りが漂ってきた。こっちは辛いのが苦手なお子様ようにとハチミツを入れたり少し甘めに仕上げる。
 それぞれの鍋で作られていたカレーは完成し、人数が多くなって足りなくなったお皿は野営部隊にお借りしてまるでピクニックのように地面に腰を下ろしてみんなで食べる。作っているときも思ったけれどまるでキャンプのようだ。
「ドミニク、そちらを貰ってもいいかしら?」
「あ、シャルル様、これは……」
「っ?! か、辛いですわ!」
「お前とこうして飯食うのも随分久しぶりだなぁ。たまには一緒に野営でもするか!」
「……本っ当に、たまにならな」
「……米ってこんなに美味しいんだな」
「美味しいですね、エリオット。貿易でもっと仕入れてもいいと思いますよ?」
「香辛料上手くできてよかったよ」
「美味しいねー! いやぁセイファーの研究に対する姿勢は相変わらずだ」
 それぞれが思い思いにカレーを食べている。シャルルは水を求めて彷徨っているし、ドミニクはそんなシャルルに平然とお水を渡している。オロバス親子はルクハルトが一方的にギクシャクしていて面白い。貴族でも滅多に食べないお米に王子は感心し、アリスは庶民の味を懐かしんでいた。先生が言う通りしっかりとした香辛料の出来にウィルのように感心するのもわかる。
「大人数で食べるご飯って、とても美味しいわ」
「然様でございますね、ソフィア様」
 屋敷にいた頃いつもひとりで食べていたから、こんな大人数で食べることなんてまずなかった。それぞれが楽しそうに会話をして美味しいと言葉にし口に料理を頬張る。それを見ているだけで幸せな気持ちになるのだから不思議なものだ。
 私の隣でカレーを食べているセバスチャンは、私の口に付いていたであろうカレーをそっとハンカチで拭いて微笑んだ。

 あれだけたくさんあったカレーは完食され、賑やかに片付けを済ませたあと各自それぞれ帰っていった……と言いたいところだけれど。どこに隠し持っていたのかディランが酒を取り出し予想外に盛り上がってしまった。騎士たちは恒例のことなのか普通に飲んでいて、そこまではよかったのだけれど王子や聖女、シャルルさえもお酒を口にしてしまった。王子やシャルルは社交界で多少嗜んではいるものの、少量だけで恐らく大量に飲んだことはない。
「まったく、人の家でよく寝るわね」
 ちらりと横を見てみれば普通に雑魚寝してムニャムニャ寝言を言っているウィルに、壁に凭れかけているドミニク。シャルルは私のベッドを占領した。
 ベロンベロンに出来上がったディランはあまり飲まなかったルクハルトが回収し、フラフラしているアリスはこちらもあまり手を付けなかった王子が無事に連れて帰った。ただシャルルは帰りたくないとごねてしまったため一応プルソン家のほうに連絡を入れ、ここに泊まることになった。ドミニクはお酒に強いのかあまり酔っ払ってはいなかったけれどシャルルの護衛としてここに残っている。セバスチャンもどうやら泊まりたかったようだけれど既にもう定員オーバーで、渋々帰路に着いた。そしてウィルだ、彼は騒ぐだけ騒いでバタンと倒れるように寝てしまい、そしてずっとこのままだ。一番質の悪い酔い方をした。
「エリーさんは大丈夫ですか?」
 テーブルにいるしかなくなった私に先生がお茶を渡してくれて礼を言いつつ受け取る。先生は前にも言っていたよう下戸だったため一滴も飲まなかった。私はと言うと。
「嗜みで多少は飲めるから大丈夫よ」
 そう、貴族の嗜みとして多少は飲める。多少は。例えディランに次々に注がれても酔い潰れるなんて失態は犯さない。ふふ、と口元に手を添えながらそれらしく笑えば彼は「流石です」と向い合せの席に座った。
「手紙ですか?」
「ええ」
 寝る場所がないため送られきた手紙に目を通していた。先日私が送った野菜が美味しくてよければまた送ってほしいと。これなら野菜嫌いも克服できるかもしれないと書かれていて思わず笑みが溢れる。
 もう何度も手紙のやり取りをした。最初はお互い思っていたことを綴ったところから。あの子はいつも私と比べられていてそれがつらくて堪らなかったと記し、私はいつも愛されているあなたが羨ましかったと綴った。
 最初その手紙を受け取ったときは驚いたものだ、まさかそんな気持ちになっていたとは思わなかったからだ。いつも愛されていて欲しいものを手に入れられて、何ひとつ不自由がなかったとばかりに思っていたから。でも誰かと常に比べられるのもつらいものがある。それを前に会いに言ったときに当人に伝えた。わざわざ比べなくても、彼女を認めそれで教え授けることもできたのではないかと。それについては彼女も思うところがあったらしく肩を下げて謝られた。恐らく後日謝罪の手紙は送られたはずだ。
 それから繰り返されるやり取り。野菜が苦手で修道院ではいつも残してしまうこと。試しに私が作った野菜を送れば甘みがあって美味しくてあっという間に完食してしまったこと。そのことについては修道院のほうからも感謝の手紙を貰った。禁術に侵された身体は徐々にだけれど元に戻ってきている。今はまだ身体を動かすのも大変だけれど、もう少しすれば外で走ることもできそうだと文字からその喜びが感じ取れた。
 つい先日魔物から取れる貴重な石を使ってブレスレットを作り、頑張っているあの子へプレゼントとして送った。先生にお願いして解術の魔法を掛けてもらったそれは、今も肌身離さず付けているのだと書いてくれている。それを付けていると身体も軽く感じて、そして右の手首からじんわりと温もりが広がるのだと。
「……不思議ね。今まで一番遠いところにいるのに、今まで一番近くにキャロルを感じるわ」
 お互い最近どうしているか書いて、たまには愚痴のような内容も書いて。普通の姉妹のようなやり取りを手紙を通してできている。もしかしたら私達はずっとこれを望んでいたのかもしれない。
「また今度野菜を送りましょう。流石にお肉は駄目でしょうけれど」
「ふふっ、キャロルだけではなく修道院の人達も驚いてしまうわね」
 そもそもお肉自体が駄目でしょうし更にそれが魔物の肉となると修道院の人達は卒倒してしまうかもしれない。先生とクスクス笑い合ってお返しの手紙でも書こうとレターセットを取り出す。さぁ次は何を書こう。そうだ私の知っている秘密を教えてあげるのもいいかもしれない。
 とある悪役令嬢とされた娘。その娘がそのシナリオから外れるために屋敷から逃げ出し、町の端へと移りそこで田畑を耕し庶民の娘となる――そんなひとりの人間の物語を。
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