目撃者、モブ

みけねこ

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これからの二人

幼馴染に対する証言

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 学生の間は思う存分楽しめと言われたものの、だからと言って何もしないわけにもいかない。卒業後国政に携わる身として本腰を入れる前にやるべきことはやるべきだ。
 そういうことで、学園最後の年となると自然と机に向き合う時間も増える。本当ならば言葉通りに学園生活を思う存分楽しみたいところだが、そこはグッと堪えてひたすら筆を走らせていた。何も我慢しているのは、俺だけではない。
「どうだった?」
 ノックが聞こえ返事をし顔を上げると、ジョナサンが一度一礼して視線を合わせてきた。
「流石は鍛冶職人の息子といったところでしょうか。技は見て盗む、ということに長けているようでマナーは随分と成長致しました」
「そうか」
「一方で……少々、座学のほうは苦手のようでして」
「まぁ本人もそう言っていたしな」
 目に光が宿っていない状態で一点集中している様子でございました、と報告してくれたジョナサンに思わず苦笑を浮かべる。勉強のほうは苦手だと前々から言っていた。
「最低限のことさえ覚えてくれればそれでいい」
「承知致しました」
 専門職にはそれ専門の者に任せればいいと言ったものの、どうしても最低限のマナーは必要になってくる。苦手分野もあくせくと頑張っているアシエを今度労ってあげようと、再び筆を走らせた。

「ぁぇ……」
「大丈夫か、アシエ……」
「だいじょうぶだいじょうぶ……」
 フラフラと部屋にやってきたアシエはそのまま俺の隣に沈んだ。アシエの身体を柔らかく包み込むことができるソファでよかったと思いながら、苦手な座学に励んでいたアシエの頭をよしよしと撫でる。
「なんか……甘いもん……」
「ああ、あるぞ。ほら」
「あーん」
 テーブルの上にあった一口サイズのショコラを手に取ると、ぱかんと開かれた口の中に消えていく。俺にもたれかかった状態でモグモグと口だけを動かしているのがなんというか、可愛い。雛鳥みたいだなと思いつつ次のショコラを口に運んであげる。
「どうだった?」
「つくづく俺には不向きだと思った」
「そうか。それでも頑張ってるアシエは偉いな」
「偉いのはこれをずっと続けてきたウェルスだよ。本っ当にすげぇな」
 俺が労っていたはずなのに、いつの間にか厚みのある手が俺の頭の上に移動してよしよしと髪を撫でていた。恥ずかしいような、嬉しいような、そんな絶妙な気分にさせられる。
「これすっげぇうまい」
「まだまだあるぞ」
「今度レシピ教えてくれね? ジャックにも教えてやりてぇ」
「ああいいぞ。シェフに頼んでレシピを書かせるから」
 ジャックとは確かアシエの友人の一人だったなと顔を思い浮かべる。ちょっとふくよかで優しそうな生徒だった。もう一人は確かオリバーという生徒で、恐らくこちらの生徒に勉強などを教えてもらっていたんだろう。
 今度二人にも挨拶するとしよう、とショコラであっという間に元気を取り戻したアシエとお喋りでもしようかと思ったその時だった。
 ノックが聞こえたものだから返事をしたものの、ドアが開いたのは俺の返事とほぼ同時だった。ということは俺の返事を聞くつもりもなくノックをした当人はドアを開けたということ。そんなことする奴は一人しかいない。
「あっふぁふぁふぁふぁ! まさか本当にいらっしゃるとは!」
「笑い方の癖強ぇ!」
 アシエの第一印象は間違いない。誰がどう見てもあいつの笑い方には癖がある。
「これはこれは。こうしてお目にかかるのは初めてですね。私はケニス・ノレッジ。どうぞお見知りおきを」
「確かウェルスの幼馴染だって」
「そうですそうです。そして今後関わりが増えると思うので、今のうちに親交を深めようと」
「俺は今日やってくると聞いていないが」
「何やら嫉妬深いウェルス王子は恐らくそう簡単に会わせてはくれないようなので、こうして黙って来たわけです。よろしくお願いします、アシエ君」
「あ、どうも」
 胡散臭いにこやかな笑みを浮かべてアシエに手を差し伸べたケニスに、握手を求められているんだろうと思ったアシエは同じように手を伸ばした。
「んぅっ」
 ところがだ。ケニスはアシエと握手を交わすことをしなかった。伸ばした手はアシエの胸に届き、指先でピンッととある箇所を弾く。
「おや、感度がよろしい」
「ケニス!」
「あっふぁふぁふぁふぁ! あふぁ~っ! まさかこんなウェルス様を見れる日が来るとは! 今後とも仲良くしましょうね、アシエ君!」
 急いでケニスの手が届かないようアシエの身体を掻き抱き、カップの下にあったソーサーをケニスに向かってぶん投げる。しかし腹立つことにケニスはそれをひょいと避け、床に落ちそうになったソーサーはケニスの後ろにいたジョナサンが無難にキャッチした。
 笑うだけ笑ったケニスはというと、これ以上俺に追撃されないようにさっさと部屋を退場するではないか。
「……」
「……」
「いや個性つよ」
「それだけか⁈」
 あんなことされて出てきた感想はそれだけか、と思わず頭を抱えて肩を落とした。

 ケニスの襲来、といういらない事件が発生したあとそれだけでは終わらなかった。その日はアシエは寮に戻ったわけだが、問題はその数日後に起こった。
「ウェルス! 俺は今とっても困ってる!」
「な、何がだ?」
 それはベッドの上での出来事で、今まさにアシエの服を脱がそうとしていたところ放たれた一声だった。
 ま、まさか俺とするのが嫌になったのだろうか。それとも、いよいよ上を経験したくなったのか。流石にそっちは俺の心と身体の準備がまだできていない。というかこの行為が嫌になったと言われたら心の準備どころの話でもなくなってくる。
 プンプンと怒ってるところも可愛いな、と思いつつも服を脱がそうとしていた手はすっかり手持ち無沙汰になっていた。
 何かを物申そうとしているアシエに対して何かを言えるわけでもなく、眉を下げて言葉の続きを待っている俺にアシエは相変わらず腰に手を当ててプンプンしている。可愛い。
「あのな! すっごく困ってんの!」
「だ、だから何が……」
「ウェルスがさ、ヤる度に丁寧に丁寧に可愛がってくれるもんだから、普段もう服に擦れていってぇの! これ‼」
 そう言って思い切り服をたくし上げて現れたそれに、思わず目が釘付けになる。
「ア、アシエ……それ、は?」
「応急処置! 服に擦れねぇように!」
 その、筋肉という膨らみがある胸の頂きに、貼ってあるそれは。あの、さっき言っていたように応急処置なんだろう。
 にしてもエロいな。擦れて痛いからってガーゼを貼っているんだろうがそれが逆に扇情的に見える。
「もうチクチクチクチクしてさ。だからって塗り薬塗ったら今度はベタベタするし」
「それは……申し訳ない」
「なので今後は丁寧に可愛がらないでもらおうか!」
 そんな殺生な。俺としてはアシエの全身を可愛がりたいのに、その部分だけ可愛がるなとは。
 しかし実際アシエの生活に支障をきたしているというのであれば、アシエの言う通りそっとするのが一番なんだろう。開口一番に困っていると言ったのだから。
 ……言っては、いたけれど。
「……アシエ。ガーゼを張りっぱなしにしておくと、今度は蒸れるんじゃないのか?」
「え?」
「尚更痛痒くなるんじゃないかな」
「……え⁈ そうなの⁈」
「そう。だから定期的に外したほうがいいと思う」
「マジか……でも、そうだよな。張りっぱなしってわけにもいかねぇよな」
 これはもうひと押し、とにこりと笑みを浮かべる。
「俺が外してあげよう。ゆっくり外せば刺激も少ないかもしれない」
「え、そしたら……お願いしよっかな」
 恐らく自分で外すのが一番いい。が、俺をまったく疑っていないアシエにそのことを告げるのは野暮というものだ。少しだけ首を傾げて申し訳なさそうにしているアシエに対し、内心これでもかというほど笑みを深めその胸の頂きに手を伸ばした。
「ビッ! ってすんのはやめて。絶対痛いから。マジでゆっくりで頼む」
「ああ、ゆっくりな」
 ガーゼを固定しているテープを爪で軽く掻き、僅かに外れたのを指先で挟む。そして言われた通り、言った通り、ゆっくりとガーゼを外していく。
 そうするとガーゼの下に隠れていたものが、外したことによってぷっくりとした姿で現れた。思わず溢れた生唾を飲み込むために喉仏を上下に動かす。確かに思ったより赤く腫れていて、服に擦れて痛かっただろう。
「少し腫れてるな」
「あ、やっぱり? だから擦れて痛かったんひぃっ⁈」
 とてつもなく裏返った声が上がったが、気にすることなく舌先を腫れているそれに伸ばす。くるりと弧を描くとぴくりと身体が跳ねた。
「ウェルスっ!」
「痛そうだから、手当てしてあげようかと」
「そんなことするから腫れっ、て、る……んだってばぁっ!」
 逃げられないようにアシエの腰に腕を回し、ぱくりと咥える。ぢゅっと強く吸い付き舌で転がすと更にビクビクと動いているのがわかった。
 そうだよな。前にケニスが突撃してきた時に、指先で軽く弾かれただけで反応していたのだから。服に擦れるだけで痛いだろうし、こうして可愛がれば更に感じて身体がビクついている。ふと視線を下げると、パンツを押し上げているそれが視界に入った。
「アシエ」
「そこで喋られると困るぅ!」
「気持ちいいんだろう?」
「……気持ちいいです」
「素直でよろしい」
 そのまま今度はもう片方を可愛がってやり、さっきの発言通りアシエは俺の頭を抱きかかえて可愛らしい声を上げていた。正直で、普段想像できない反応をするから丁寧に可愛がってやるのをやめられない。
「んっ、ぅっ……な、なぁ、うぇるす」
「ん、なんだ?」
「……そこばっか、可愛がんなよ。こっちも」
 そう言って自分の腰から俺の片腕を外したアシエは、そのまま腰より下へと俺の手を導く。
「……そうだな。ナカのほうもたんまりと可愛がってあげよう」
「ん、そうして」
 本当に、正直で素直で、それだけでも十分魅力的だというのに煽るのも随分と上手くなった。
 正直ケニスが現れた時は笑い方だけではなく性格も癖が強いため、どうしてやろうかと思ったが。ちょっとしたきっかけを作ってくれたことには感謝しないこともない。
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