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一悶着(おまけ)
惚れたほうが負け
大切な客人のためぞんざいに扱うことなどできるはずもない。が、今の現状が楽しく面白いものかと言われると、まったく! と言っていいほどそうではない。
屋敷にあるガゼボでテーブルを四人で囲む。目の前にいる見目麗しい兄妹は嬉しそうににこにことしている。初対面のあの仮面のような笑みが嘘のようだ。
何より気に入らないのが、その二人の視線の先が俺の隣に座っているアシエに向かっていることだ。視線を浴びているはずのアシエはそちらを気にする素振りをまったく見せず、視線は手元に向かったままだ。
「これが剣舞で使う剣です。ご覧になりますか?」
そう言ってラキ殿下は持ってきた剣を、真っ先にアシエに手渡した。武器となるものを持ち込ませるのも渋ったというのに、それを簡単にアシエに渡すのもどうか。けれど彼がアシエに渡した理由はわかっている。
まず剣を取り出されたところで、アシエの目の色が変わった。最初はキラキラと少年のように好奇心な目を向け、剣を手渡された直後それがすぐに職人のものに変わる。
直ぐ様ハンカチを取り出し、鞘から引き抜くとすぐに刀身に目を向ける。兄妹は剣について軽く説明をした後、アシエの邪魔をするのを控えるように口を噤んだ。他愛のない会話をしてもアシエの気が散らないように小声だ。
「柄は細め、剣も軽い。実践用じゃなくて魅せる用だ」
「おっしゃるとおり。祭事の中では舞う時間が長いときもあるので。それに女性でも扱える仕様になっています」
「装飾が綺麗だ」
「ええ、我が国の職人の手腕でしてよ」
二人が嬉しそうに相槌を返している。これを今この場にいないレオンとマリンが見たらさぞ驚くことだろう。我が子もこの兄妹に対して第一印象は決してよくはなかったから。
刀身を真剣な眼差しで見ているアシエの横顔は、普段の可愛らしい顔とはまた違っていていい。俺もついその横顔をずっと眺めたくなったが、そうするとこの兄妹が何をしでかすのかわからないためそうすることもできない。この兄妹、目を離した途端ちょっかいをかけてきそうだ。
「使っている石も違うのかな。何回ぐらい打ってるんだろ。強度とか他にも」
他国の剣に興味が尽きないのだろう。真剣な眼差しのまま小声で気になる点をいくつも上げていた。
「実践用はこれとはまた違う?」
「ええ、もちろん」
「そうだよな」
角度を変え、刃文を見つめ、装飾を凝視する。俺が公務に携わっている間にアシエも鍛冶師として仕事をしている。だから俺が彼の仕事風景を見るのは結婚する前に数回見ただけだ。
真剣なアシエを見ているとついときめいてしまう。こんなアシエに声をかけることなどできない。だから、余計なことはするなと兄妹にも目で牽制した。
「実は私たちが付けている装飾品も職人が手掛けたものですの。このピアスも、素敵でしょう?」
「鍛冶師がか?」
カノア姫がシャラリと音を立てて耳を彩っているピアスを見せてくれた。どうやら二人の国の職人は大体が『鍛冶師』という括りになっているようだ。ただ鍛冶師の中でも装飾をする者、鉄を打つ者、と他にも色々と担当が分かれているらしい。
こちらにはピアスなどの小物はまた別に職人がいる。けれどそういえばアシエはそういうものも手掛けていたなと思い出す。当人も自分が器用なほうだからやっているのだと言っていた。
「ピアスの他にもネックレスなどもありますよ。あとそうですね、指輪とか」
妹の言葉を引き継ぐように今度はラキ殿下が笑みで説明してきた。本当ならばアシエに言いたいのだろうけれど、アシエは未だ剣に集中していてこちらの言葉が耳に入る様子は見られない。
「指輪か」
「ええ、我が国では結婚した相手にはその証として左手の薬指にはめる指輪を贈るのです」
腹立たしいほどの笑みで放ってきた言葉に、急いでアシエの左手に視線を向ける。ラキ殿下と二人きりになったとき、最後に薬指を噛まれて驚いていたと言っていた。
そういうことか……! と構うことなくラキ殿下に鋭い視線を向けたものの、彼は挑発するように目を弧に描いた。
「今度は本物のお贈りしましょう」
「いいや? 必要ないだろう。不快だった痕もすぐに消えそうだからな」
「おや、そうでしたか。それこそ噛み千切りる勢いで歯を立てればよかったですかね」
「はぁ……美味しいお茶が不味くなりそう」
言葉の応酬を始めた俺たちに呆れたように、カップを手に持っているカノア姫が短く息を吐き出した。そこでようやくアシエの視線が上がり、それを見逃すことなくカノア姫が笑顔を向ける。
「実践用にも興味がおありで?」
「んまぁ、やっぱ鍛冶師としては気になるかな。実際打っているとこも見てみたいし……って、あ。普通に敬語なしで喋ってた。申し訳ないです」
「いいえまったく気にしておりませんのでそのままで結構ですよ。逆に親しくなったようで嬉しいですし」
「そしたら二人とも普通に喋っていいよ。疲れるだろ?」
「まぁ! ではお言葉に甘えて。今後ともよろしくね」
「では私も同様に。今後とも更に親しくなろう」
「くっ……!」
アシエはまたこうやって。頭を抱えたところでアシエは「気にすんなよ」って笑顔を向けてくるだけだ。困る、本当に。これで人をたらしこんでいないと言うのか。アシエのすべてを愛おしく思っているが、こういうところは何度でも頭を抱えてしまう。
「実際打っているところを見たいというのなら、我が国に招待しよう。親睦を深める理由にもなる」
「えっ、いいの?」
「ふふっ、ええ私も大歓迎よ。国の者もきっと喜ぶわ」
三人の会話に昨晩のことを思い出した。もしやアシエ、と鋭く視線を向けるとそれに気付いたアシエが目を丸くしながら首を左右に振る。
「いやいや、別にモテたいわけじゃなくて。本っ当に、向こうの職人が気になるだけで」
「本当か?」
「そこまで疑う~?」
「疑われるような言動を昨日したわけだが」
「……確かにな!」
たはー! と朗らかに言ったところで、そしたら許す。となるわけでもない。確かに鍛冶師として純粋に向こうの職人が気になるというのは本当なのだろうが。
だがホイホイと向こうの餌を撒くようなこともしてくれるなと、表情を歪める。いやアシエが愛しているのは間違いなく俺だが。だが隙に付け入る不埒な輩もいるわけで。
親睦を深めるためにもこちらから向こうの国に招待される、というのも悪い手ではないのだが。実際彼らがこちらの国に来たように。
「……招待されるのはいいが、道中の費用はかなり掛かると思うぞ」
「……はっ!」
「護衛する騎士も連れて行かなければならないし、二人同時に城を抜けるのもどうかと。何かが起こった場合途中で引き返す可能性もある」
「南の国、ちょっと距離あるもんな……そりゃそうなるわな」
事実を口にしたまでだが、あきらかにしょんぼりと肩を下げたアシエについ折れそうになってしまう。だがここで許してしまうと向こうの思う壺――
「ウェルス殿下は跡を継ぐのはまだしばらくあとですわよね? そしたらその前に招待されるのも手だと思うけれど」
「寧ろ城を空けるのは今のうちでは?」
「確かに!」
兄妹は意地でもアシエを国に連れていきたいようだ。だが正直二人の言葉の意味もわかる。恐らく王位に就くと今以上に身軽に動くことは難しくなる。二人に賛同するかのようにアシエもキラキラとした目でこちらを見てきた。思わず言葉が詰まる。
「前向きに検討してみてはどうだろうか?」
「どう? ウェルス。あとレオンとマリンにも聞いてみる? 二人とも興味あるかもしれないし」
アシエには下心がまったく! ないため、強く言い返すこともできない。ああ、今頭の片隅で父上の「惚れたほうが負けだハハハー」という声が響いてきた。そうやってたまに父上が邪魔をしてくるのは流石に頭が痛くなる。
「私、お二人の子とも仲良くしたいわ。パーティーでちゃんとお喋りすることもできなかったし」
「君たちの予想通り、しっかりと警戒しているよ」
「ははは、そうだろうなぁ」
俺とラキ殿下、カノア姫と目を合わせて「ははは」「ふふふ」と笑い声をもらす。三人とも目はまったく笑っていない。アシエ一人だけが状況がよくわからずキョロキョロと顔を動かしているだけだった。可愛い。
「まぁ、お互い国のために今後も仲良くしようじゃないか」
そう言って美しい所作でカップに口を付けたラキ殿下に、お前が言うか。という言葉は飲み込んで同じようにお茶で喉を潤すことにした。
アシエの望みは叶えてあげたいとは思っている。がそれと同時にその身を守ってあげなければならないし、今回相手は同じ王族ということもあってかなり手強い。
薄っすらと残っている薬指の痕を視野に入れつつ、そっと息を吐き出した。
「南の国? 僕は学園があるから無理ですよ。しばらく勉学に励みたいですし」「学生として大正解な答えだな~。でもそうだよなぁ」
「わたし行きたい!」
「え?」
「え?」
「最初お母様に対する態度にものすっごくムカついたし金槌取り出そうと思ったけど。でもカノア姫って綺麗な人だなって思ったし、わたしも仲良くなりたい!」
夕食を家族四人で食べている間、アシエが早速南の国について話題に出したが思わぬ反応をしたのは娘のマリンだった。しかも何やら、カノア姫に対してかなりの好印象のようだ。
「南の国の女性ってみんなカノア姫みたいに美人なのかな? 髪とかすごくサラサラしてて綺麗だったし」
「マ、マリン?」
「あ~、面食いは俺に似ちゃったか~。まぁしょうがねぇよなぁ。くるくるの髪はサラサラに憧れちゃうしな~」
なんだか初めて聞くことばかりで瞠目したままアシエを見つめてしまった。そういえば結婚する前にメイドが言っていた、「綺麗な顔でようございましたね!」と。サムズアップしながら。
あともしかして俺の髪にもアシエは憧れていたりしたんだろうか。ドキドキとしながらアシエを見続けたものの、アシエの視線は娘に向かったままだった。
「お父様! 前向きに考えてください!」
「あ、ああ、考えて、おこう……」
可愛い娘と、そして可愛い伴侶からキラキラな目で見つめられると何も言えなくなる。曖昧な言葉しか出せなかった俺に対し、俺に似た息子のレオンは「その顔に弱いな~」としみじみと言うだけだった。
お前だって二人の可愛い顔に弱いだろう。
屋敷にあるガゼボでテーブルを四人で囲む。目の前にいる見目麗しい兄妹は嬉しそうににこにことしている。初対面のあの仮面のような笑みが嘘のようだ。
何より気に入らないのが、その二人の視線の先が俺の隣に座っているアシエに向かっていることだ。視線を浴びているはずのアシエはそちらを気にする素振りをまったく見せず、視線は手元に向かったままだ。
「これが剣舞で使う剣です。ご覧になりますか?」
そう言ってラキ殿下は持ってきた剣を、真っ先にアシエに手渡した。武器となるものを持ち込ませるのも渋ったというのに、それを簡単にアシエに渡すのもどうか。けれど彼がアシエに渡した理由はわかっている。
まず剣を取り出されたところで、アシエの目の色が変わった。最初はキラキラと少年のように好奇心な目を向け、剣を手渡された直後それがすぐに職人のものに変わる。
直ぐ様ハンカチを取り出し、鞘から引き抜くとすぐに刀身に目を向ける。兄妹は剣について軽く説明をした後、アシエの邪魔をするのを控えるように口を噤んだ。他愛のない会話をしてもアシエの気が散らないように小声だ。
「柄は細め、剣も軽い。実践用じゃなくて魅せる用だ」
「おっしゃるとおり。祭事の中では舞う時間が長いときもあるので。それに女性でも扱える仕様になっています」
「装飾が綺麗だ」
「ええ、我が国の職人の手腕でしてよ」
二人が嬉しそうに相槌を返している。これを今この場にいないレオンとマリンが見たらさぞ驚くことだろう。我が子もこの兄妹に対して第一印象は決してよくはなかったから。
刀身を真剣な眼差しで見ているアシエの横顔は、普段の可愛らしい顔とはまた違っていていい。俺もついその横顔をずっと眺めたくなったが、そうするとこの兄妹が何をしでかすのかわからないためそうすることもできない。この兄妹、目を離した途端ちょっかいをかけてきそうだ。
「使っている石も違うのかな。何回ぐらい打ってるんだろ。強度とか他にも」
他国の剣に興味が尽きないのだろう。真剣な眼差しのまま小声で気になる点をいくつも上げていた。
「実践用はこれとはまた違う?」
「ええ、もちろん」
「そうだよな」
角度を変え、刃文を見つめ、装飾を凝視する。俺が公務に携わっている間にアシエも鍛冶師として仕事をしている。だから俺が彼の仕事風景を見るのは結婚する前に数回見ただけだ。
真剣なアシエを見ているとついときめいてしまう。こんなアシエに声をかけることなどできない。だから、余計なことはするなと兄妹にも目で牽制した。
「実は私たちが付けている装飾品も職人が手掛けたものですの。このピアスも、素敵でしょう?」
「鍛冶師がか?」
カノア姫がシャラリと音を立てて耳を彩っているピアスを見せてくれた。どうやら二人の国の職人は大体が『鍛冶師』という括りになっているようだ。ただ鍛冶師の中でも装飾をする者、鉄を打つ者、と他にも色々と担当が分かれているらしい。
こちらにはピアスなどの小物はまた別に職人がいる。けれどそういえばアシエはそういうものも手掛けていたなと思い出す。当人も自分が器用なほうだからやっているのだと言っていた。
「ピアスの他にもネックレスなどもありますよ。あとそうですね、指輪とか」
妹の言葉を引き継ぐように今度はラキ殿下が笑みで説明してきた。本当ならばアシエに言いたいのだろうけれど、アシエは未だ剣に集中していてこちらの言葉が耳に入る様子は見られない。
「指輪か」
「ええ、我が国では結婚した相手にはその証として左手の薬指にはめる指輪を贈るのです」
腹立たしいほどの笑みで放ってきた言葉に、急いでアシエの左手に視線を向ける。ラキ殿下と二人きりになったとき、最後に薬指を噛まれて驚いていたと言っていた。
そういうことか……! と構うことなくラキ殿下に鋭い視線を向けたものの、彼は挑発するように目を弧に描いた。
「今度は本物のお贈りしましょう」
「いいや? 必要ないだろう。不快だった痕もすぐに消えそうだからな」
「おや、そうでしたか。それこそ噛み千切りる勢いで歯を立てればよかったですかね」
「はぁ……美味しいお茶が不味くなりそう」
言葉の応酬を始めた俺たちに呆れたように、カップを手に持っているカノア姫が短く息を吐き出した。そこでようやくアシエの視線が上がり、それを見逃すことなくカノア姫が笑顔を向ける。
「実践用にも興味がおありで?」
「んまぁ、やっぱ鍛冶師としては気になるかな。実際打っているとこも見てみたいし……って、あ。普通に敬語なしで喋ってた。申し訳ないです」
「いいえまったく気にしておりませんのでそのままで結構ですよ。逆に親しくなったようで嬉しいですし」
「そしたら二人とも普通に喋っていいよ。疲れるだろ?」
「まぁ! ではお言葉に甘えて。今後ともよろしくね」
「では私も同様に。今後とも更に親しくなろう」
「くっ……!」
アシエはまたこうやって。頭を抱えたところでアシエは「気にすんなよ」って笑顔を向けてくるだけだ。困る、本当に。これで人をたらしこんでいないと言うのか。アシエのすべてを愛おしく思っているが、こういうところは何度でも頭を抱えてしまう。
「実際打っているところを見たいというのなら、我が国に招待しよう。親睦を深める理由にもなる」
「えっ、いいの?」
「ふふっ、ええ私も大歓迎よ。国の者もきっと喜ぶわ」
三人の会話に昨晩のことを思い出した。もしやアシエ、と鋭く視線を向けるとそれに気付いたアシエが目を丸くしながら首を左右に振る。
「いやいや、別にモテたいわけじゃなくて。本っ当に、向こうの職人が気になるだけで」
「本当か?」
「そこまで疑う~?」
「疑われるような言動を昨日したわけだが」
「……確かにな!」
たはー! と朗らかに言ったところで、そしたら許す。となるわけでもない。確かに鍛冶師として純粋に向こうの職人が気になるというのは本当なのだろうが。
だがホイホイと向こうの餌を撒くようなこともしてくれるなと、表情を歪める。いやアシエが愛しているのは間違いなく俺だが。だが隙に付け入る不埒な輩もいるわけで。
親睦を深めるためにもこちらから向こうの国に招待される、というのも悪い手ではないのだが。実際彼らがこちらの国に来たように。
「……招待されるのはいいが、道中の費用はかなり掛かると思うぞ」
「……はっ!」
「護衛する騎士も連れて行かなければならないし、二人同時に城を抜けるのもどうかと。何かが起こった場合途中で引き返す可能性もある」
「南の国、ちょっと距離あるもんな……そりゃそうなるわな」
事実を口にしたまでだが、あきらかにしょんぼりと肩を下げたアシエについ折れそうになってしまう。だがここで許してしまうと向こうの思う壺――
「ウェルス殿下は跡を継ぐのはまだしばらくあとですわよね? そしたらその前に招待されるのも手だと思うけれど」
「寧ろ城を空けるのは今のうちでは?」
「確かに!」
兄妹は意地でもアシエを国に連れていきたいようだ。だが正直二人の言葉の意味もわかる。恐らく王位に就くと今以上に身軽に動くことは難しくなる。二人に賛同するかのようにアシエもキラキラとした目でこちらを見てきた。思わず言葉が詰まる。
「前向きに検討してみてはどうだろうか?」
「どう? ウェルス。あとレオンとマリンにも聞いてみる? 二人とも興味あるかもしれないし」
アシエには下心がまったく! ないため、強く言い返すこともできない。ああ、今頭の片隅で父上の「惚れたほうが負けだハハハー」という声が響いてきた。そうやってたまに父上が邪魔をしてくるのは流石に頭が痛くなる。
「私、お二人の子とも仲良くしたいわ。パーティーでちゃんとお喋りすることもできなかったし」
「君たちの予想通り、しっかりと警戒しているよ」
「ははは、そうだろうなぁ」
俺とラキ殿下、カノア姫と目を合わせて「ははは」「ふふふ」と笑い声をもらす。三人とも目はまったく笑っていない。アシエ一人だけが状況がよくわからずキョロキョロと顔を動かしているだけだった。可愛い。
「まぁ、お互い国のために今後も仲良くしようじゃないか」
そう言って美しい所作でカップに口を付けたラキ殿下に、お前が言うか。という言葉は飲み込んで同じようにお茶で喉を潤すことにした。
アシエの望みは叶えてあげたいとは思っている。がそれと同時にその身を守ってあげなければならないし、今回相手は同じ王族ということもあってかなり手強い。
薄っすらと残っている薬指の痕を視野に入れつつ、そっと息を吐き出した。
「南の国? 僕は学園があるから無理ですよ。しばらく勉学に励みたいですし」「学生として大正解な答えだな~。でもそうだよなぁ」
「わたし行きたい!」
「え?」
「え?」
「最初お母様に対する態度にものすっごくムカついたし金槌取り出そうと思ったけど。でもカノア姫って綺麗な人だなって思ったし、わたしも仲良くなりたい!」
夕食を家族四人で食べている間、アシエが早速南の国について話題に出したが思わぬ反応をしたのは娘のマリンだった。しかも何やら、カノア姫に対してかなりの好印象のようだ。
「南の国の女性ってみんなカノア姫みたいに美人なのかな? 髪とかすごくサラサラしてて綺麗だったし」
「マ、マリン?」
「あ~、面食いは俺に似ちゃったか~。まぁしょうがねぇよなぁ。くるくるの髪はサラサラに憧れちゃうしな~」
なんだか初めて聞くことばかりで瞠目したままアシエを見つめてしまった。そういえば結婚する前にメイドが言っていた、「綺麗な顔でようございましたね!」と。サムズアップしながら。
あともしかして俺の髪にもアシエは憧れていたりしたんだろうか。ドキドキとしながらアシエを見続けたものの、アシエの視線は娘に向かったままだった。
「お父様! 前向きに考えてください!」
「あ、ああ、考えて、おこう……」
可愛い娘と、そして可愛い伴侶からキラキラな目で見つめられると何も言えなくなる。曖昧な言葉しか出せなかった俺に対し、俺に似た息子のレオンは「その顔に弱いな~」としみじみと言うだけだった。
お前だって二人の可愛い顔に弱いだろう。
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