『モンスターカード!』で、ゲットしてみたらエロいお姉さんになりました。

ぬこぬっくぬこ

文字の大きさ
143 / 279
第九章

レベル143

しおりを挟む
 曲が始まり、子供達が踊りだす。
 オレ達がダンジョンに行ってる間に練習してた模様。
 楽しそうににクルクル回っている。癒される風景だ。

 しかし、お客さんの一部には、まだ一曲目の伴奏だというのに帰って行こうとする人達もいる。

「おい、もうちょっと見て行けよ」
「もう十分だろ? 俺達にはああいうのは似合わないさ」
「義理は果たした、分かるだろ? 擦り切れた俺達にゃ、あれは毒さ」

 普段から荒んだ生活をしているおじさん連中には、ちょっとばかし不興のようだ。

 まあ仕方ない、せっかく頑張ってくれた冒険者さん達にも悪い事をしたかなあ。
 後でなにかプレゼントでもしようか。
 サヤラの銃とか気に入ってくれないかな?

 酒を煽っていた人がウトウトと船を漕ぐ。
 ごついビルダーな女性が無言で背を向けて去っていこうとする。
 中には微笑ましい表情で子供達を見てくるおじさんも居たりはする。

 前奏が終わり、いよいよエクサリーの歌が始まる。
 エクサリーが一歩前に出て大きく深呼吸をした。
 そして次の瞬間!

 ―――私の歌を聴けぇええーー!!

「えっ!?」
「エクサリー!?」

 突如エクサリーが叫ぶ。
 船を漕いでだおじさんが、背中を向けていた冒険者が、子供達を見ていた男性が、全員がエクサリーの方を向く。
 そんなエクサリーがオレに向かってバチッとウィンクをする。

 なるほど、じゃあいっちょ、やってやりますか!

 静まり返った会場で、エクサリーがパンパンパンと三回の手拍子を打つ。
 オレがギターを思いっきり掻き鳴らす。
 アップテンポの激しい曲調。誰もが目を釘付けせざるを得ない、そんな名曲。

 そして――エクサリーの歌が始まる。

 予定にはなかった激しい音楽が会場を包みこむ。
 子供達も観客達も、唖然とした表情でそれを見てくる。
 だがさすがに我がメンバー。急な変更でも、みな分かっていたかのように合わせてくる。

 カユサルの奴がセレナーデと顔を見合し、やっぱ師匠と一緒なら退屈はしないな。と呟く。
 ラピスの奴はいい笑顔で、観客が楽しめるものを選択するのは当然ですよね。って顔を向けてくる。
 今回カユサルがベースに入る事になって、始めてギターを弾いているユーオリ様はちょっと慌てているけど。

「いい声じゃねえか……」
「なんだこりゃ……なんだが心がざわつくな」
「………………」

 曲に合わせて子供達が踊り始める。
 予定にはない曲なのでみなバラバラだ。
 しかし、この曲にはそんなバラバラこそがよく似合う。

 もう誰も、子供達を微笑ましい顔で見ている人はいない。
 むしろそんなバラバラな子供達を応援している風ですらある。
 去って行こうとしたお客さんも近くの椅子に座り込む。
 誰もがエクサリーの歌を、声を、その姿をジッと見つめている。

 そしてそれは、予定通りのポップな曲に戻っても変わることなく続くのであった。

「こめんね皆、急にあんな事始めちゃって」

 当日のライブが終わった後、夜中の晩餐時にエクサリーが皆にそう謝ってくる。

 本日のライブはお昼から1時間、夕方から2時間、という2回の公演であった。
 夕方からの2時間は、昼の冒険者達が触れ回ってくれたのか、結構な人が集った。
 このペースなら明日も期待できそうではある。

「いや、あれはオレが悪かった。事前に客層に合わせて修正するのも必要なことだった」

 オレ達はただ、音楽を聴かす為に演奏をするのじゃない。

 観客に喜んでもらう為に演奏するのだ。
 お客が望むものを提供する、それこそがエンターテイナーって奴だろ?
 オレはそれを、エクサリーに思い出させてもらった気がする。

「オレは最初、客層が合ってないから今回はダメだなって諦めてしまっていた。今日の演奏が成功したのは、エクサリーのおかげだ!」
「えっ、私、そんなつもりじゃ……ただ、クイーズの演奏を聞こうとしないのが、なんか悔しかったから……」

 でもその悔しさって大切な事なんだと思う。
 ダメだなって、諦める奴は大成しない。だからオレは前世も大成しなかったのだろう。
 だけど、カユサルやエクサリーにはそれが備わっている。

 悔しさをバネに出来る奴は強い。さらに諦めない不屈の闘志が加われば無敵だ!

「いやっ、そんなっ、なんかクイーズに褒められると頭がグルグルしてきちゃう」
「お坊ちゃまは、どっか諦観している様な雰囲気がありますからねえ」

 だれがじじくさいだよ? おい。
 別にそこまでは言ってませんよぉ。とシラをきるラピス。

「よしっ、子供達には急な変更にも付いて来てもらったんでボーナスを上げよう」

『出でよ! お料理セット!』

 オレはお料理セットを取りだす。

 祭りだけあって、様々な食材が売りに出されていた。
 その中で、お菓子になりそうなものを大量に買ってきたのだ。カシュアが。
 コイツほんと、食べ物の事になると、謎の行動力を起こすよなあ。

「うまっ、ウマッ! なんだねこれば! 見たことも無い食べ物だねっ!」
「ガウガウ、ウメエ!」
「お前等ちょっとは遠慮しろよ、子供達に行き渡らないだろ?」
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...